嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

【番外編】ジェイドとリエンのやり直し

ジェイドとリエンのやり直しの人生 学園編 ②

イザークの私を見下す視線は一度目の時と変わらずだった。

イザーク・エスタリア。
侯爵家の次男でプライドの高い男だ。エスタリア家は元々選民意識が高く、爵位の低い者を蔑む傾向にある。
爵位のない領民達に対する態度はさらに酷いものだった。
そのせいで、数十年後領民から愛想をつかれ領地経営が困難となるのだが……まぁ、自業自得だな。

一度目の人生の時は……

『イザーク！　俺の大切な弟のジェイドだ。仲良くしてやってくれよ』

と、天使のような笑顔でシャルル兄さんからの愛情たっぷりな紹介を受けたイザークは表立った嫌がらせはしてこなかったが……さて、今回はどうなることやら……。


「義弟のジェイドだ。ジェイド、俺の友達のイザークだ」
「イザークさん、ジェイド・ウォールマンです。どうぞよろしくお願いします」

私が大人に挨拶をすればイザークは気に食わない表情を浮かべる。

「まぁ、元子爵でも挨拶くらいはできるんだな。だが、形式上ウォールマン家に入り込んだとしても、お前には侯爵家の血が流れていない事をきちんと自覚して……」
「イザーク……。もういいだろ。早く教室に行こう。ほら、ジェイドも先生に挨拶してくるんだ」

シャルル兄さんはイザークの言葉を遮ると、私の背中を押して早く行けと助けてくれる。
イザークはムッとした顔で私を睨みつけると兄さんの手を取り教室へと連れ去って行く……。

イザークの言葉は、まぁ……我慢できたがシャルル兄さんにベタベタと触れるのは気に食わない。
それに……シャルル兄さんはイザークの言葉を遮りはしたものの否定はしなかった……。
シャルル兄さんも最初の頃は『卑しい子爵出身の奴』なんて言っていたから、まだその考えは根深く残っているのだろうか……。

はぁ……どうしたものか……。

先生に挨拶をし、教室へと向かう時も頭の中はシャルル兄さんの事でいっぱいだった。
そして、気付いた時にはクラスメイトの前で自己紹介をする場面になっていた……。

「ジェイドくん。じゃあ、クラスのみんなに挨拶をしてくれる？」
「あ……はい。みなさん初めまして。ジェイド・ウォールマンと申します。転校してきたばかりで分からない事も多くご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

シャルル兄さんの事を考えすぎていたせいか、8歳児らしからぬ挨拶にクラスは一瞬どよめき、先生も「まぁ……とても立派な挨拶ね」と、目を瞬かせていた。

一度目の時と変わらぬように過ごそうと思っていたが……どうやらそれはなかなか難しいようだった。


先生に案内され席に着けば旧友が声をかけてくる。

「なぁなぁ！　さっきの挨拶よく噛めずに言えたな！　親から挨拶はそう言えって言われたんだろ？　俺もよく父さんから言われるんだよな～。『カシム！　侯爵家たる者、挨拶は凛々しく涼やかにするんだ』ってさぁ～。そんなの俺には無理だって言ってんのにさぁ～」
「おい……カシム……。転校初日の初対面のクラスメイトに、ベラベラと一方的に話すなよ……。自己紹介もしてないのに……困っているだろ」
「あ、ごめんなぁ～。俺はカシム。カシム・メンデギルスだ。よろしくな！」
「私はキール・メンリッヒだ。よろしく、ジェイドくん」
「あぁ……どうぞよろしく」

一度目と同じようにカシムは天真爛漫な笑顔を私に向け、キールは大人な態度で私に接してくれる。

二人は私にとってかけがえのない友人で、学園時代はずっと三人で過ごしていた。
カシムは、その明るく人見知りのない性格でキールは知的で物静かな性格だ。
二人は幼なじみでとても仲が良く、こうやってカシムが暴走し始めるとキールが必ず止めに入る。


懐かしい旧友との再会に私は少しホッとしてしまう。

シャルル兄さんの事も気にはなるが、まずは学園での私の立ち位置をしっかりと固めておかなくてはいけないな……。