悪役令息に転生したビッチは戦場の天使と呼ばれています。

赤牙

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【番外編】ダンジョン ②

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 ダンジョンの攻略に向けて、今回の参加メンバーは豪華だ。
 ガリウスさんを筆頭に、ノルン・アドリスさん・ランドル・キアルに前線の戦力の半数が参加。
 そして、後方支援で戦える調理師ダッチ。医療班は俺とミハルが参加する。

 魔獣たちの縄張りをキアルの索敵魔法で潜り抜け、ダンジョンへとたどり着く。
 入り口から見える洞窟内は深い闇が広がり、何かいそうな雰囲気を醸し出している。
 キアルが洞窟の入り口に立つと、再度洞窟内を調べていく。

「洞窟内の構造は変わりありません。魔物の数も、以前調べた数と変わりないようです。洞窟の地下深くに、一体魔物がいます。きっとコイツがダンジョンのコアを守っているんだと思います」

 皆、キアルが事前に作った洞窟内の地図に目を通し道筋を再確認していく。
 
「じゃあ、進んでいくぞ」

 ガリウスさんの言葉に頷き、洞窟内に足を踏み入れる。
 入った瞬間に、空気が変わる。湿ったひやりとした風が頬を撫で、ゾクリと背筋が震える。
 足元もぬかるんでおり、気を抜くと転んでしまいそうだ。
 薬や医療用具を入れ込んだリュックの紐をぎゅっと握りしめて、一歩一歩踏みしめながら歩いていく。
 松明とランタンだけが照らす洞窟内。皆の影がゆらゆらと不気味に揺れる。
 後ろを振り返れば、洞窟の入り口の光が点で見える。
 か細い光が心の中の不安を大きくする。

「アンジェロ様、大丈夫ですか?」

 足を止めてしまい、医療班の護衛についていたノルンが声をかけてくれる。

「すみません。前に進みますね」
「いえ。無理なさらず何かあればすぐに教えてください」
「ありがとうございます、ノルンさん」

 ノルンが近くにいると思うと、不安な心が少し落ち着く。
 気を引き締め直して、俺たちは洞窟の奥へと進んでいった。


 緩やかな下り坂を降りていくと、分岐がありキアルが慎重に確認しながら前に進んでいく。
 キアルは常に索敵魔法を使い、魔物が現れないか神経を尖らせていた。
 半日ほど歩いたところで、少し開けた場所につくとようやく休憩をとる。
 今のペースでいくとなると、洞窟の最奥に到着するのは早くて一日はかかりそうだ。
 このダンジョンの地下はあまり深くはない。
 ただ、アリの巣のように分岐が多く部屋が多い。
 その部屋には様々な魔物が住み着いており、ダンジョンが魔物の住む家となっているようだ。
 もし、キアルがいなかったらこのダンジョンを攻略するのに膨大な時間と人手がいっただろう。

 地図を見ながらガリウスさんとノルンが今後の計画を立てていく。
 俺たち支援班は、その間に皆の状態の確認と食事の配給にまわる。
 一番疲れているであろうキアルに、ダッチ特性スタミナサンドイッチを持っていく。

「ありがとうございます、アンジェロ様」
「キアルさんこそ。ずっと魔法を使い続けて疲れているでしょ? 温かいお茶もありますから、少しでも疲れを癒して下さいね」

 キアルの全身状態を確認しながら、声をかけると疲れた顔に笑顔が戻った。
 それから、他の傭兵たちの状態もミハルと手分けして確認していく。
 戦闘は少なかったが、常に警戒した状態で進んでいたため皆の疲労感が色濃く見える。
 労いの言葉をかけながら、ケアをしていくと、ノルンたちの話し合いも終わり、今日はここで休息を取ることなった。
 
 ランドルやアドリスさんが、魔物がきてもすぐに分かるよう周囲にトラップを仕掛けていく。
 ダッチとミハルとともに、食料の確認と薬草や医療用具の残数を確認し終えると、少し気が緩みハァと息がもれる。
 すると、ダッチがポンと俺の頭の上に何か置く。

「アンジェロ、お前も少し休め。他人のことばかり気にしていたら身がもたないぞ」

 頭の上に置かれた物を手に取る。
 麻袋に包まれていたのは、俺の大好きなダッチの甘い焼き菓子だ。

「ダッチさん、お気遣いありがとうございます」
「礼を言われるほどのもんじゃねーよ。ほれ、ミハルも食える時に食っておけ。糖分が切れると、まともな判断ができなくなるからな」

 そう言ってダッチは、ミハルにも焼き菓子を手渡す。それから、三人で交代で休憩をとり体を休めていった。
 数時間の休憩で、皆の顔色も少しは良くなる。
 再度気合を入れ直し、前に進んでいくと先頭にいたキアルが足を止めた。
 キアルのそばにいるガリウスさんが、緊張した声で問いかける。

「どうしたキアル?」
「俺たちの近くに何か迫ってきています」
「どこの方角だ」
「分かりません。でも、近くに……」

 キアルの言葉に緊張が走り、臨戦体勢にはいる。
 俺とミハルはノルンとダッチに守られるように挟まれる。
 キアルは必死に索敵の範囲を広げ、どこに敵がいるのか探る。
 すると、静かな洞窟内にゴゴゴ……と低い音が聞こえてくる。そして、その音は足元に……

「敵は下からきます!」

 キアルの叫び声とともに、足元の土が盛り上がり何かが飛び出してくる。
 その何かは、俺の隣にいたミハルの足に絡みつくと一気にミハルを土の中へ引き込んでいく。

「ミハルさんっ!」

 咄嗟にミハルの手を取り、連れていかせるものかと引っ張る。
 ミハルは体は下半身あたりまで土の中へ引き込まれ、さらに沈んでいく。

「ミハルさん、絶対に手を離しちゃダメですよ!」
「は、はい!」

 恐怖でいっぱいのミハルの手を両手で引っ張るが、俺の力じゃどうにもならない。
 体がみぞおち辺りまで引き込まれ、ヤバいと思った時、ダッチがミハルに駆け寄る。

「ミハル! 今、助けるからな!」

 ダッチはそう言って、ミハルの両脇に手を入れ、腰を落とし力いっぱいにミハルの体を引きあげる。
 体が引き上げられたと同時に、ミハルの足に絡みついた何かが正体をあらわす。
 そいつの正体は、半透明の触手のような形をしていた。
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