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1巻
1-3
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「うわぁ……! すごいです、ミハルさん! これはどうやったんですか!?」
「これは風魔法を使って洗濯しているんですよ」
「風魔法……」
目の前で起こっている現象に目を輝かせながら、俺は食い入るように桶を覗き込む。
くるくる回っていたかと思えば、洗濯機のように途中から回転方向が変わる。
「アンジェロ様もやってみますか? コツを掴めば簡単にできますよ」
ひとつ残った桶を指差してミハルがそう言うが、俺は魔法のことをよくわかっていない。
というか、アンジェロの記憶の中に魔法を使っているシーンがなく、どうすりゃいいのかわからない。
「すみません、ミハルさん。僕は魔法の使い方がわからないんです」
ミハルは驚いた表情を浮かべた。
「そう、なんですね。では、魔力の流れや使う感覚はわかりますか? それがわかれば初級の生活魔法は簡単にできますよ」
「アハハ……それもさっぱりわかりません」
あまりの申し訳なさにすみませんと頭を下げると、ミハルは慌ててフォローしてくれた。
「だ、大丈夫ですよ、アンジェロ様! きっとアンジェロ様ならすぐに魔法が使えるようになりますから!」
根拠のない励ましをいただき、俺は苦笑い。
――もしかしすると、俺はこの世界で一番使えない人間なのかもしれない……
洗濯はミハルひとりの力で無事に終わり、洗い終えた洗濯物を治療小屋裏の物干し場へ持っていく。干すだけなら俺でもできるので、手際よく洗濯物を干していった。
「アンジェロ様、お上手ですね」
「これくらいなら僕にもできますからね」
ミハルに褒められると素直に嬉しくて、へへっと笑った。
洗濯物を干し終えたら、いよいよ治療小屋へ向かうことになる。
ミハルの説明によれば、患者の身の回りの世話や包帯の交換などを行うそうだ。
「アンジェロ様は、まず傭兵たちの飲み水の補充をお願いします。包帯の交換は僕がやりますので」
「あ、あの! それ、僕にもやらせてください!」
「え? 包帯を巻くにはコツがいるので練習してからでないと難しいですよ?」
突然の申し出に驚いた顔をするミハル。
たしかに公爵家の坊ちゃんには難しいだろうが、前世の記憶持ちの俺なら問題ない。
「実は以前から医学に興味があって、本で学んでいたんです。実際に包帯を巻く練習も何度もしていて……ダメでしょうか?」
ミハルは不安そうだったが、俺の言葉を聞くと頷いてくれた。
「では、お願いします。もし、わからないことがあったら声をかけてくださいね」
「はい! ありがとうございます、ミハルさん」
ミハルの許可を得た俺は、ようやく自分の得意分野で力を発揮できると浮かれていた。
中で待つ傭兵たちが俺のことをどう思っているかなど、考えもせずに……
重い木の扉を開けて、ミハルが治療小屋の中へ入っていく。そのうしろについて、俺も中へ入る。
ドアを閉めようとすると、隙間からヌッと手が伸びて再びドアが開いた。
そして、不機嫌顔のノルンと目が合う。
そういえば俺のうしろをチョロチョロしていたなと思い出し、ニコリと笑いかけてみた。しかしノルンはいつも通りの仏頂面でムスッとしたままだ。
――やっぱりコイツ、すげームカつく! 笑顔には笑顔で返すっちゅうことを知らんのか。
心の中で文句を垂れながら、ミハルのあとを追いかける。
療養中の傭兵たちは、ベッドに腰かけて談笑できる程度の者から、いたるところに包帯を巻かれてベッドに横たわり、苦痛に顔をゆがめる者まで様々だ。
ミハルは人懐っこい笑顔で、一人ひとりに声をかけていく。
「おはようございます。水の補充と包帯の交換をしていきますね。今日からアンジェロ様もお手伝いしてくださることになりました」
横になっていた傭兵たちの視線がミハルに集まり、次に俺へ向けられる。
歓迎されていないのを感じて少し緊張しながらも、ミハルから水差しを受け取り、ベッドのサイドテーブルに置かれたコップに注いでいく。
「アンジェロです、よろしくお願いします。お水を補充しますね」
アンジェロスマイルを振り撒きながらコップへ水を注ぐが、傭兵は俺を見るなり視線を逸らす。
そのあとも、声をかけても返事をしてくれる者はいないし、目すら合わせてくれない。
さすがに心が折れそうになるが、俺と傭兵たちとの間には、なんの信頼関係も生まれていない。
ここはよそ者の俺から声をかけていって、少しずつ関係を構築していかないと。
そう思いながら、奥のベッドで休んでいた若い男性傭兵のベッドへ向かう。
同じように声をかけるが、もちろん返事はない。
苦笑いを浮かべてベッドサイドから離れようとしたとき、傭兵の腕に巻かれた包帯が目に入った。
包帯の上層まで血が滲んでいる。
「あの、包帯を取り替えましょうか?」
「…………」
無視されたが、気になってもう一度声をかけてみる。
「すみませんが、腕を見せてもらってもよろしいですか? まだ血が出ているようなので、傷の具合を確認したいのですが……」
「――ッ! 触んな!」
傭兵は鋭い視線で俺のことを睨みつけた。
敵意剥き出しの反応だが、傷の様子を確認して適切な処置をしたほうがいいに決まっている。
嫌悪感を隠そうともしない傭兵に負けじと、俺は処置の必要性を説明することにした。
「このまま放っておけば悪化する恐れもあります。一度状態を確認し、適切な処置をしないと……」
「うるせーな! 触るなって言ってんだろ!」
伸ばした手を払われ、その拍子に持っていた水差しが豪快にひっくり返る。こぼれた水が運悪く頭からかかり、俺の上半身はぐっしょりと濡れていた。
若い傭兵は、びしょ濡れの俺を見て顔を青くしている。
そして背後から「なにをしている!」と怒りのこもった声が聞こえ……ノルンが登場した。
「――ッ! このお方がどなたかわかっているのか! 平民が公爵家を傷つけるなど、許されることではない!」
さながら印籠持った隠居じーさんが繰り広げる時代劇のワンシーンがはじまりそうになり、若い傭兵とノルンの間に挟まれた俺は動揺してしまう。
若い傭兵の俺を見る目は怒りから恐怖に変わり、けれどノルンを見て不服そうに下唇を噛み締める。
最悪のパターンが起きたことを悟り、俺は二人の間に割って入る。
「ノルンさん。落ち着いてください」
「しかし、アンジェロ様に手を出したのですよ」
「僕は大丈夫です。それに、水差しを持ったままだった僕が悪いんです」
ハッキリとノルンに自分の非を伝え、若い傭兵に顔を向ける。
「すみませんでした。貴方は嫌がっていたのに、僕が無理強いしようとしました。包帯の交換はミハルさんに声をかけておきますので、安心してください」
頭を下げて謝ると、若い傭兵はうろたえた様子で俺を見つめた。
けれど、隣にいるノルンが不機嫌そうに口を開く。
「……なぜ、アンジェロ様が謝るのですか?」
「なぜって、僕が一方的に自分の考えを強要し、彼に不快な思いをさせてしまったからです」
俺の答えに、ノルンは納得がいかないというように表情を険しくする。
「アンジェロ様は彼を治療するために手を差し伸べたのですよ。それなのに拒否するなど……」
「ノルンさん。怪我をしたときに、信用できない相手が手を差し伸べてきたとしたら、貴方はその手を取れますか?」
「それは……」
「それと一緒です。信頼関係を築けていない相手からなにかされるのは、怖いものなんですよ。それが治療だとしても……」
ノルンに話をしながら、俺は自分自身にも言い聞かせる。
病棟で働いていたときだって、同じような場面は何度もあった。入院したばかりの患者さんに処置をしようと声をかけ『お前じゃ信用できない』ときっぱり言われたこともある。
わかっていたはずなのに……
転生して初めて自分にできることを見つけて、浮かれて、一番大切なことを忘れていた。
自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
俺とノルンが言い合いをしていると、タオルを持ったミハルが慌ててこちらにやってくる。
「アンジェロ様! だ、大丈夫ですか!?」
「はい。大丈夫ですよ」
ミハルからタオルを受け取るが、拭くくらいではどうにもならないほどに濡れている。
「ミハルさん。一度着替えてきてもいいですか?」
「はい。あとは僕がしますので……。無理をしなくても大丈夫ですよ、アンジェロ様」
「いえ、着替えが終わればまた戻ってきます。あと、彼の包帯が血で汚れてしまっているので、交換を頼んでもいいですか?」
そう言って、動揺する若い傭兵に視線を向け、安心してくださいと小さく微笑む。
ミハルにあとを託し、事のなりゆきをを見ていた傭兵たちの突き刺さるような視線を背に、治療小屋を出た。
自分自身に、そして、当たり前のように俺のうしろをついてくるノルンに苛立ちながら、早足で部屋へ向かう。
部屋に戻る途中、ノルンに何度か名前を呼ばれたが、今、顔を見たら喧嘩になりそうなので無視することにした。
ノルンには、俺が侮辱されたように見えたのかもしれない。
だけど、彼が傭兵に投げつけた言葉のほうが最悪だ。
平民だの公爵家だの、今の俺にとって身分なんて足枷でしかない。
一番役に立たない俺が、地位の高さだけで特別扱いを受けるなんてもってのほかだ。
イライラしたまま手荒くドアを開け、ズカズカと部屋に入る。着替えをあさり、新しいシャツを見つけると急いで着替える。
――さっさと着替えを済ませて仕事に戻らないと。
そう思っていると、背後から手が伸びてきて、ノルンに肩を掴まれる。
「アンジェロ様……この背中の傷はどうなさったのですか?」
「はぁ……?」
――なんなんだよコイツ。背中の傷? いったいなんの冗談だ。
イライラMAXで振り向きノルンの顔を見上げると、彼は珍しく心配そうな表情を浮かべている。
どうやら冗談ではないようだ。
「……僕の背中のどこに傷があるっていうんですか?」
「ここ、ですね……」
ノルンはそう言うと、肩甲骨の間辺りに触れる。
その瞬間。
体が引き裂かれたと錯覚するほどの、焼けるような痛みが俺を襲った。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!」
あまりの痛みで弾けるように体がしなり、それと同時に、封印されていたアンジェロの記憶が頭の中に流れ込んだ。
顔の見えない誰かが、うつ伏せになった幼いアンジェロを押さえつけている。
気味の悪い声が耳元で響き渡り、なにかを囁いた。
アンジェロは小さな体を震わせ、床に爪を立て必死に逃げようとする。だが、自分よりも大きな相手から逃げることはできない。
そして恐怖がピークに達した瞬間、背中を刃物で抉られる。
喉が裂けるほどのアンジェロの絶叫と、何度も何度も許しを乞い、助けを求める声が、頭の中に響いた。
――な……んだよ……これ……
脳が焼き切れるような痛みに襲われて意識など保っていられるはずもなく、プツリと線が切れるように、俺は暗闇の世界に落ちていった。
◇ ◇ ◇
アンジェロ様の背中に触れた瞬間、耳をつんざく悲鳴が響いた。
小さな体をしならせ、彼は床にうずくまる。
突然の出来事に驚きながらも、私はすぐにアンジェロ様のそばへ駆け寄った。
「アンジェロ様っ! どうしたのですか!?」
声をかけるがアンジェロ様の返事はない。ただ、なにかから自分を守るように床にうずくまったままだ。
体に触れると、彼は恐怖に満ちた声を上げる。
「痛い……痛い……嫌だ……嫌、嫌、いや……助けて……フテラ様……助、け……て……」
床に爪を立て、痛みに耐えるアンジェロ様の姿。
ただごとではないと感じた私は、思わずその華奢な体を抱き寄せた。
体は硬直し、顔は青ざめ、涙を流しながら震えている。
今の彼に、私の声は届いてはいない。
「アンジェロ様! アンジェロ様!」
何度も何度も名を呼ぶが返事はなく、彼の瞳からは光が消えていた。
目の前で起こった出来事に、どう対処すればいいのかわからない。
ひたすらアンジェロ様を抱きしめていると、部屋の扉が荒々しく開いた。ガリウス団長が慌てた様子で部屋へ駆けつけてくる。
「おい! なんだ今の叫び声は!」
「ア、アンジェロ様が……」
「どうした……って、おい。なんだよこの傷跡は」
「……わかりません。私がこの傷跡に触れた瞬間、アンジェロ様は泣き叫び意識を失われました」
腕の中のアンジェロ様は焦点の合わない目をしたまま、同じ言葉を呟き続ける。
その様子に、ガリウス団長は眉間に皺を寄せた。
「……とりあえずイーザム爺さんに見せよう」
「わかりました」
アンジェロ様を抱きかかえ、イーザム様の部屋を訪れる。すると間の抜けた返事をしながらイーザム様が気怠そうにやってきた。
「なんじゃい二人そろって……ん? ノルンが抱いてるのはアンジェロか?」
「はい。アンジェロ様の背中に傷があり、それに触れたら意識を失ってしまったのです」
「ほぅ。見せてみろ」
イーザム様は眼光を鋭くして、アンジェロ様を見つめる。
私はアンジェロ様をソファーへうつ伏せに寝かせた。
彼の傷を見たイーザム様は、信じられないものを見たというように目を見開く。
「誰がこんなひどいことを……」
「おい、爺さん。ひどいってどういう意味だ?」
イーザム様は大きなため息を吐き、アンジェロ様の傷を診察する。
倒れたときの状況を詳細に伝えると、イーザム様は納得した顔で口を開いた。
「アンジェロの背中の傷には、呪いがかけられておる」
「――なっ! 呪いだと!?」
ガリウス団長は驚き、私は『呪い』という言葉に、息を呑む。
イーザム様はアンジェロ様の背中の中心にある五センチほどの深い傷を指さした。
「背中の中心……ここには魔力の流れをコントロールする太い管があるのじゃが、そこをめがけて刃物を突き刺したんじゃろう。ここをやられると、魔力の流れが遮られて魔法が使えなくなるんじゃ。まぁ、魔力管の損傷はこの前線でも起こることはあるし、一度傷ついたら治らんというわけではない。だが、呪いが治癒を妨げておる。皮膚が変色しておるじゃろ? 弱い呪いならば、痣くらいの見た目で済む。しかしこれは……黒く、腐敗したような色じゃ。アンジェロにかけられた呪いは、ずいぶんと強力なようじゃな」
イーザム様の言葉を聞き、再度アンジェロ様の背中に目をやる。痛々しい歪な傷跡と、黒く変色し盛り上がった皮膚を見て、私は恐怖を感じた。
「爺さん、アンジェロの傷は治らないってことか?」
「難しいじゃろうな。呪いのせいで体の深部にある魔力管も損傷したままなのじゃろう」
「魔力管を治すことはできないのでしょうか?」
「できないわけではない、が……アンジェロ次第じゃな。背中に触れられただけで気絶するほどの呪いじゃ。深部を治療するには、体に直接触れなければいかん。それも一度や二度で終わることじゃあない。そんなことをして坊主の精神がもつかどうかわからん。まずは呪いを解くことからはじめるのがいいが……聖水では無理じゃろうな。高度な聖魔法でも治るかどうか……」
ガリウス団長とイーザム様は大きなため息を吐き、意識をなくしているアンジェロ様を気の毒そうに見つめる。
私は、イーザム様の言葉や目の前の状況を理解するので精一杯だった。
「イーザム様、高度な聖魔法ということは、教会で治療が可能ということでしょうか?」
「ん~公爵家の坊ちゃんが呪いを受けたとなれば、見栄っ張りな貴族の親は家名に傷がつかぬよう真っ先に教会に頼ったことじゃろうな」
「……つまり、教会でも解呪不可能なほどの強い呪いということですか」
「そう判断するのが自然じゃろう」
ヨキラス教皇からは、アンジェロ様が呪いを受けているという話は聞いていない。
いったい、この傷と呪いはどこで付与されたのだろうか。
苦悶の表情を浮かべ、ベッドに横たわるアンジェロ様。
私はなにもできず、立ち尽くすことしかできなかった。
それからしばらくすると、アンジェロ様の体の震えは徐々に治まり、呼吸も落ち着きだした。
イーザム様とガリウス様は一旦仕事へ戻ることになり、私はアンジェロ様のそばに付き添うことにした。
ぐったりしたアンジェロ様の、涙で濡れた顔を拭こうとするが、触れたらまた先ほどのような発作が起こるのではないかと思い、手が止まる。
――あのような叫び声を上げるほどの呪いを受けるなど、いったいどんな罪を犯したというのだろう。
フテラ教を侮辱し、マイク第一王子の恋人を傷つけた罪を背負い、償うために前線へやってきた、悪名高きアンジェロ・ベルシュタイン。
この青年を監視・護衛しろとヨキラス教皇から勅命を受けたときは、はっきり言って断りたかった。
レギアス国の国教であるフテラ教を侮辱するような人間と、同じ空間にいると考えるだけでも苦痛だ。それに加えて、わがままで意地が悪いと評判の者と過ごすことを想像すると頭が痛かった。
だが、私の予想に反して、アンジェロ様は大人しく、気さくで優しい人だった。
自ら挨拶し、話しかけてきたり、なぜか私を労う姿に、なにを企んでいるのかと訝らずにはいられなかった。
反省したフリをしているだけで、いずれ化けの皮が剥がれるだろう――そう思っていたが、その姿は前線に来ても変わらない。
いや、それどころか違和感は増すばかりだった。
自分よりも身分の低い平民相手に敬語を使い、教えを乞うなど、聞いていたアンジェロ様の姿とかけ離れている。
もはや、別人と言ったほうがいい……
安らかな寝息を立てるアンジェロ様を見守っていると、部屋のドアが開き、イーザム様が顔を出してきた。
「どうじゃ? 変わりないか?」
「はい」
イーザム様はアンジェロ様の様子を見て「まぁ、大丈夫じゃろ」と呟く。
「ノルン。お前さんはアンジェロの護衛じゃろ? この呪いについてなにか知らんのか?」
「いえ、私はなにも聞いていません」
「ほ~ん。アンジェロをよこすときの説明といい、この呪いといい……教会っちゅうところは報告、連絡、相談すらまともにできんのか」
イーザム様の言葉に反論ができず、私はぐっと拳を握りしめる。
「しかし、どうしたもんかのぉ。坊主が魔法を使えんのはこの傷のせいじゃからなぁ」
「魔力管の損傷、ですか」
「うむ。傷ついた魔力管を治すだけでも一苦労なのに、それに加えて触れれば意識を失うほどの呪いとはのぉ。公爵家の坊ちゃんは、なに不自由ない生活をしておると思っていたが、こんな目に遭っておる者もおるんじゃな」
イーザム様は震えるアンジェロ様の頭を撫で、毛布をかける。
「今後のことは、坊主が目を覚ましてから考えるとするかの。今のところ落ち着いているようだし、部屋に戻っても大丈夫じゃぞ」
「わかりました。ありがとうございました」
頭を下げ、私はそっとアンジェロ様の体を抱き上げる。どうやら傷に触れなければ発作は起こらないようなので少し安心する。
部屋へ連れて帰る途中、ミハルさんと出会った。
アンジェロ様のことを心配し、見舞いに行く途中だったようだ。
私の腕の中でぐったりしているアンジェロ様を見て、ミハルさんは眉を下げ、心配そうな表情を浮かべる。
「僕が無理をさせてしまったせいで……」
それは違うと伝えたかったが、傷のことは詳細がわからない以上、軽々しく口外できない。
「ミハルさんのせいではありません。長旅で疲れているアンジェロ様を私が無理に働かせてしまったせいです。貴方は、なにも悪くありません」
そう伝えるが、ミハルさんの表情は浮かない。
私の腕の中で眠るアンジェロ様の寝顔を見つめ「また様子を見に来ますね」とアンジェロ様に声をかけ、彼はまた仕事へ戻っていった。
部屋につき、傷に触れないようゆっくりとベッドへ寝かせる。そばを離れようとすると、アンジェロ様の手が私の服の裾を握りしめた。
どう対処すればいいのかわからず、私はベッドの端に腰を下ろした。
アンジェロ様を起こさないように、彼の小さく細い指先をゆっくり外していくと、今度は私の指を握りしめてきた。
驚き、アンジェロ様を見ると、彼は不安そうに唇を噛み締めていた。
――また、悪夢を見ているのだろうか……
指先から伝わる恐怖を、少しでも和らげようと、そっと握り返す。
すると、アンジェロ様の表情がほぐれる。
それからしばらく時間が経ち、窓の外は紺色へ変わっていた。
アンジェロ様はまだ目を覚ますことなく、寝息を立てて眠っている。握りしめられた指先の力が弱まり、私は彼の細い指をひとつずつ外し、立ち上がる。
もう少しで、ヨキラス教皇への定期報告を行う時間だ。
アンジェロ様の容態が落ち着いていることを確認し、外に出て人気のない場所へ移動した。
通信用の魔道具を取り出し、魔力を流し込むと、魔道具に刻印されたフテラ教のシンボルである三日月の紋様が淡い光を放つ。
「ヨキラス教皇。本日の報告です」
『あぁ、ノルン。よろしくお願いするよ』
「本日のアンジェロ様は……」
アンジェロ様の護衛となってから、欠かさず行っている定期報告。
いつもならば、その日アンジェロ様の身に起こったことを淡々と報告するのだが、今日はなにから話せばいいのか見当がつかなかった。
傭兵に水をかけられ、拒絶されたこと。
背中の傷と呪いのこと。
私は考えを巡らせ口を開く。
「……大きな変わりはなく、奉仕活動を行っておりました」
『そうか。順調そうで安心したよ。ではノルン、引き続きアンジェロ様の監視を頼む』
通信が終わると、私は夜空を見上げ大きくため息を吐いた。
本当ならば、教皇に嘘をつくなど許されることではない。しかし、アンジェロ様の背中の傷と呪いの理由がわからない今、不確かな情報をヨキラス様に報告しても混乱を招くだけだ。
それに、人間があれほどの錯乱状態に陥り、震えるほどの恐怖を抱いていた、ということは、無闇に口外すべきではない。
あんなに嫌っていた人物を守るために教皇を裏切るなど、以前の自分なら考えられない。
だが、自分の心が訴えてくる。
これ以上、アンジェロ様の苦しむ姿を見たくないと……
首にかけた三日月のペンダントを両手で握りしめ、両膝をつき懺悔のポーズをとる。
私の愚かな行いを見ているであろうフテラ様に謝罪し、私は祈りを捧げた。
◇ ◇ ◇
ひどい頭痛で目が覚めると、俺は自分のベッドに寝かされていた。
なぜベッドに寝ているのかわからず、痛む頭の中から記憶を呼び起こす。
治療小屋での出来事。そしてノルンに背中に触れられた瞬間、強烈な痛みに襲われて意識を失ったこと。
意識すると背中の真ん中が疼いたが、もう痛みは落ち着いている。
窓から差し込む日の光。太陽の高さからすると、倒れてから、そう時間は経っていないようだ。
――早く仕事に戻らないと。
体を起こすと少しふらつくが、なんとか大丈夫そうだった。
頭痛は続いているが、耐えられないほどじゃない。
「よし……」
ベッドから降りようと足を下ろすと、部屋のドアが開きノルンが入ってくる。俺を見ると、彼はいつもの真顔のまま寄ってきた。
「なにをしているのですか?」
「……仕事に戻ろうと思います」
「その体でですか?」
圧の強い口調と視線に思わずたじろぐ。
頭は痛むけれど、他はどこも悪くない。
体がどうだの言われるようなことはなにもないのだが。
「体調は特に悪くありません。それに、早く仕事に戻らないと。ミハルさんには着替えを済ませたら戻ると言っていたので」
俺の言葉にノルンは呆れたように小さなため息を吐く。
「アンジェロ様が倒れてから、丸二日が経っているんですよ。奉仕活動に戻りたいと言うのなら、イーザム様の許可を得てください」
「……え? 二日?」
その言葉に目をぱちくりさせていると、ノルンは俺が目覚めるまでの経緯を説明してくれた。
それによってアンジェロの幼い頃の記憶がフラッシュバックし、ヒュッと息を呑む。
謎の人物によって傷つけられた背中は今までなんともなかったのに、意識するとズキズキ痛みだす。しまいには体まで震えてきた。
「アンジェロ様、そのような体では奉仕活動などできません。今はお休みください」
心配してくれているのか、それとも自分に迷惑をかけるなということなのか。ノルンは表情を変えずに言ってくるので判断できない。
けれど、このままトラウマから逃げても俺の人生はなにも変わらない。
いや、むしろ時間が経てば経つほど事態は悪化する。
仕事もせずに寝ているだけの公爵家の坊ちゃんだとか、少しいびられただけで逃げ出す軟弱者だとか、早めに対策を取らなければ噂話は誇張され広がってしまう。
想像するだけで頭痛がひどくなりそうだ。
――なにがなんでも今日は仕事に出てやる。
「イーザム様に許可を得られればいいんですよね?」
「まぁ……そうですね」
「では、イーザム様に診察してもらってから仕事に戻ります」
ノルンにそう伝えると、彼は眉間の皺を深くするが止めることはなく、「わかりました」と了承してくれた。
背中の謎の傷。アンジェロの過去。そしてなにもできない自分。
解決すべき問題が多すぎて吐き気がするが、とりあえず今はやれることをやるっきゃない。
大きく息を吐き、震える体に気合いを入れ、俺はノルンとともにイーザム爺さんのもとへ向かった。
「これは風魔法を使って洗濯しているんですよ」
「風魔法……」
目の前で起こっている現象に目を輝かせながら、俺は食い入るように桶を覗き込む。
くるくる回っていたかと思えば、洗濯機のように途中から回転方向が変わる。
「アンジェロ様もやってみますか? コツを掴めば簡単にできますよ」
ひとつ残った桶を指差してミハルがそう言うが、俺は魔法のことをよくわかっていない。
というか、アンジェロの記憶の中に魔法を使っているシーンがなく、どうすりゃいいのかわからない。
「すみません、ミハルさん。僕は魔法の使い方がわからないんです」
ミハルは驚いた表情を浮かべた。
「そう、なんですね。では、魔力の流れや使う感覚はわかりますか? それがわかれば初級の生活魔法は簡単にできますよ」
「アハハ……それもさっぱりわかりません」
あまりの申し訳なさにすみませんと頭を下げると、ミハルは慌ててフォローしてくれた。
「だ、大丈夫ですよ、アンジェロ様! きっとアンジェロ様ならすぐに魔法が使えるようになりますから!」
根拠のない励ましをいただき、俺は苦笑い。
――もしかしすると、俺はこの世界で一番使えない人間なのかもしれない……
洗濯はミハルひとりの力で無事に終わり、洗い終えた洗濯物を治療小屋裏の物干し場へ持っていく。干すだけなら俺でもできるので、手際よく洗濯物を干していった。
「アンジェロ様、お上手ですね」
「これくらいなら僕にもできますからね」
ミハルに褒められると素直に嬉しくて、へへっと笑った。
洗濯物を干し終えたら、いよいよ治療小屋へ向かうことになる。
ミハルの説明によれば、患者の身の回りの世話や包帯の交換などを行うそうだ。
「アンジェロ様は、まず傭兵たちの飲み水の補充をお願いします。包帯の交換は僕がやりますので」
「あ、あの! それ、僕にもやらせてください!」
「え? 包帯を巻くにはコツがいるので練習してからでないと難しいですよ?」
突然の申し出に驚いた顔をするミハル。
たしかに公爵家の坊ちゃんには難しいだろうが、前世の記憶持ちの俺なら問題ない。
「実は以前から医学に興味があって、本で学んでいたんです。実際に包帯を巻く練習も何度もしていて……ダメでしょうか?」
ミハルは不安そうだったが、俺の言葉を聞くと頷いてくれた。
「では、お願いします。もし、わからないことがあったら声をかけてくださいね」
「はい! ありがとうございます、ミハルさん」
ミハルの許可を得た俺は、ようやく自分の得意分野で力を発揮できると浮かれていた。
中で待つ傭兵たちが俺のことをどう思っているかなど、考えもせずに……
重い木の扉を開けて、ミハルが治療小屋の中へ入っていく。そのうしろについて、俺も中へ入る。
ドアを閉めようとすると、隙間からヌッと手が伸びて再びドアが開いた。
そして、不機嫌顔のノルンと目が合う。
そういえば俺のうしろをチョロチョロしていたなと思い出し、ニコリと笑いかけてみた。しかしノルンはいつも通りの仏頂面でムスッとしたままだ。
――やっぱりコイツ、すげームカつく! 笑顔には笑顔で返すっちゅうことを知らんのか。
心の中で文句を垂れながら、ミハルのあとを追いかける。
療養中の傭兵たちは、ベッドに腰かけて談笑できる程度の者から、いたるところに包帯を巻かれてベッドに横たわり、苦痛に顔をゆがめる者まで様々だ。
ミハルは人懐っこい笑顔で、一人ひとりに声をかけていく。
「おはようございます。水の補充と包帯の交換をしていきますね。今日からアンジェロ様もお手伝いしてくださることになりました」
横になっていた傭兵たちの視線がミハルに集まり、次に俺へ向けられる。
歓迎されていないのを感じて少し緊張しながらも、ミハルから水差しを受け取り、ベッドのサイドテーブルに置かれたコップに注いでいく。
「アンジェロです、よろしくお願いします。お水を補充しますね」
アンジェロスマイルを振り撒きながらコップへ水を注ぐが、傭兵は俺を見るなり視線を逸らす。
そのあとも、声をかけても返事をしてくれる者はいないし、目すら合わせてくれない。
さすがに心が折れそうになるが、俺と傭兵たちとの間には、なんの信頼関係も生まれていない。
ここはよそ者の俺から声をかけていって、少しずつ関係を構築していかないと。
そう思いながら、奥のベッドで休んでいた若い男性傭兵のベッドへ向かう。
同じように声をかけるが、もちろん返事はない。
苦笑いを浮かべてベッドサイドから離れようとしたとき、傭兵の腕に巻かれた包帯が目に入った。
包帯の上層まで血が滲んでいる。
「あの、包帯を取り替えましょうか?」
「…………」
無視されたが、気になってもう一度声をかけてみる。
「すみませんが、腕を見せてもらってもよろしいですか? まだ血が出ているようなので、傷の具合を確認したいのですが……」
「――ッ! 触んな!」
傭兵は鋭い視線で俺のことを睨みつけた。
敵意剥き出しの反応だが、傷の様子を確認して適切な処置をしたほうがいいに決まっている。
嫌悪感を隠そうともしない傭兵に負けじと、俺は処置の必要性を説明することにした。
「このまま放っておけば悪化する恐れもあります。一度状態を確認し、適切な処置をしないと……」
「うるせーな! 触るなって言ってんだろ!」
伸ばした手を払われ、その拍子に持っていた水差しが豪快にひっくり返る。こぼれた水が運悪く頭からかかり、俺の上半身はぐっしょりと濡れていた。
若い傭兵は、びしょ濡れの俺を見て顔を青くしている。
そして背後から「なにをしている!」と怒りのこもった声が聞こえ……ノルンが登場した。
「――ッ! このお方がどなたかわかっているのか! 平民が公爵家を傷つけるなど、許されることではない!」
さながら印籠持った隠居じーさんが繰り広げる時代劇のワンシーンがはじまりそうになり、若い傭兵とノルンの間に挟まれた俺は動揺してしまう。
若い傭兵の俺を見る目は怒りから恐怖に変わり、けれどノルンを見て不服そうに下唇を噛み締める。
最悪のパターンが起きたことを悟り、俺は二人の間に割って入る。
「ノルンさん。落ち着いてください」
「しかし、アンジェロ様に手を出したのですよ」
「僕は大丈夫です。それに、水差しを持ったままだった僕が悪いんです」
ハッキリとノルンに自分の非を伝え、若い傭兵に顔を向ける。
「すみませんでした。貴方は嫌がっていたのに、僕が無理強いしようとしました。包帯の交換はミハルさんに声をかけておきますので、安心してください」
頭を下げて謝ると、若い傭兵はうろたえた様子で俺を見つめた。
けれど、隣にいるノルンが不機嫌そうに口を開く。
「……なぜ、アンジェロ様が謝るのですか?」
「なぜって、僕が一方的に自分の考えを強要し、彼に不快な思いをさせてしまったからです」
俺の答えに、ノルンは納得がいかないというように表情を険しくする。
「アンジェロ様は彼を治療するために手を差し伸べたのですよ。それなのに拒否するなど……」
「ノルンさん。怪我をしたときに、信用できない相手が手を差し伸べてきたとしたら、貴方はその手を取れますか?」
「それは……」
「それと一緒です。信頼関係を築けていない相手からなにかされるのは、怖いものなんですよ。それが治療だとしても……」
ノルンに話をしながら、俺は自分自身にも言い聞かせる。
病棟で働いていたときだって、同じような場面は何度もあった。入院したばかりの患者さんに処置をしようと声をかけ『お前じゃ信用できない』ときっぱり言われたこともある。
わかっていたはずなのに……
転生して初めて自分にできることを見つけて、浮かれて、一番大切なことを忘れていた。
自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
俺とノルンが言い合いをしていると、タオルを持ったミハルが慌ててこちらにやってくる。
「アンジェロ様! だ、大丈夫ですか!?」
「はい。大丈夫ですよ」
ミハルからタオルを受け取るが、拭くくらいではどうにもならないほどに濡れている。
「ミハルさん。一度着替えてきてもいいですか?」
「はい。あとは僕がしますので……。無理をしなくても大丈夫ですよ、アンジェロ様」
「いえ、着替えが終わればまた戻ってきます。あと、彼の包帯が血で汚れてしまっているので、交換を頼んでもいいですか?」
そう言って、動揺する若い傭兵に視線を向け、安心してくださいと小さく微笑む。
ミハルにあとを託し、事のなりゆきをを見ていた傭兵たちの突き刺さるような視線を背に、治療小屋を出た。
自分自身に、そして、当たり前のように俺のうしろをついてくるノルンに苛立ちながら、早足で部屋へ向かう。
部屋に戻る途中、ノルンに何度か名前を呼ばれたが、今、顔を見たら喧嘩になりそうなので無視することにした。
ノルンには、俺が侮辱されたように見えたのかもしれない。
だけど、彼が傭兵に投げつけた言葉のほうが最悪だ。
平民だの公爵家だの、今の俺にとって身分なんて足枷でしかない。
一番役に立たない俺が、地位の高さだけで特別扱いを受けるなんてもってのほかだ。
イライラしたまま手荒くドアを開け、ズカズカと部屋に入る。着替えをあさり、新しいシャツを見つけると急いで着替える。
――さっさと着替えを済ませて仕事に戻らないと。
そう思っていると、背後から手が伸びてきて、ノルンに肩を掴まれる。
「アンジェロ様……この背中の傷はどうなさったのですか?」
「はぁ……?」
――なんなんだよコイツ。背中の傷? いったいなんの冗談だ。
イライラMAXで振り向きノルンの顔を見上げると、彼は珍しく心配そうな表情を浮かべている。
どうやら冗談ではないようだ。
「……僕の背中のどこに傷があるっていうんですか?」
「ここ、ですね……」
ノルンはそう言うと、肩甲骨の間辺りに触れる。
その瞬間。
体が引き裂かれたと錯覚するほどの、焼けるような痛みが俺を襲った。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!」
あまりの痛みで弾けるように体がしなり、それと同時に、封印されていたアンジェロの記憶が頭の中に流れ込んだ。
顔の見えない誰かが、うつ伏せになった幼いアンジェロを押さえつけている。
気味の悪い声が耳元で響き渡り、なにかを囁いた。
アンジェロは小さな体を震わせ、床に爪を立て必死に逃げようとする。だが、自分よりも大きな相手から逃げることはできない。
そして恐怖がピークに達した瞬間、背中を刃物で抉られる。
喉が裂けるほどのアンジェロの絶叫と、何度も何度も許しを乞い、助けを求める声が、頭の中に響いた。
――な……んだよ……これ……
脳が焼き切れるような痛みに襲われて意識など保っていられるはずもなく、プツリと線が切れるように、俺は暗闇の世界に落ちていった。
◇ ◇ ◇
アンジェロ様の背中に触れた瞬間、耳をつんざく悲鳴が響いた。
小さな体をしならせ、彼は床にうずくまる。
突然の出来事に驚きながらも、私はすぐにアンジェロ様のそばへ駆け寄った。
「アンジェロ様っ! どうしたのですか!?」
声をかけるがアンジェロ様の返事はない。ただ、なにかから自分を守るように床にうずくまったままだ。
体に触れると、彼は恐怖に満ちた声を上げる。
「痛い……痛い……嫌だ……嫌、嫌、いや……助けて……フテラ様……助、け……て……」
床に爪を立て、痛みに耐えるアンジェロ様の姿。
ただごとではないと感じた私は、思わずその華奢な体を抱き寄せた。
体は硬直し、顔は青ざめ、涙を流しながら震えている。
今の彼に、私の声は届いてはいない。
「アンジェロ様! アンジェロ様!」
何度も何度も名を呼ぶが返事はなく、彼の瞳からは光が消えていた。
目の前で起こった出来事に、どう対処すればいいのかわからない。
ひたすらアンジェロ様を抱きしめていると、部屋の扉が荒々しく開いた。ガリウス団長が慌てた様子で部屋へ駆けつけてくる。
「おい! なんだ今の叫び声は!」
「ア、アンジェロ様が……」
「どうした……って、おい。なんだよこの傷跡は」
「……わかりません。私がこの傷跡に触れた瞬間、アンジェロ様は泣き叫び意識を失われました」
腕の中のアンジェロ様は焦点の合わない目をしたまま、同じ言葉を呟き続ける。
その様子に、ガリウス団長は眉間に皺を寄せた。
「……とりあえずイーザム爺さんに見せよう」
「わかりました」
アンジェロ様を抱きかかえ、イーザム様の部屋を訪れる。すると間の抜けた返事をしながらイーザム様が気怠そうにやってきた。
「なんじゃい二人そろって……ん? ノルンが抱いてるのはアンジェロか?」
「はい。アンジェロ様の背中に傷があり、それに触れたら意識を失ってしまったのです」
「ほぅ。見せてみろ」
イーザム様は眼光を鋭くして、アンジェロ様を見つめる。
私はアンジェロ様をソファーへうつ伏せに寝かせた。
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「誰がこんなひどいことを……」
「おい、爺さん。ひどいってどういう意味だ?」
イーザム様は大きなため息を吐き、アンジェロ様の傷を診察する。
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イーザム様の言葉を聞き、再度アンジェロ様の背中に目をやる。痛々しい歪な傷跡と、黒く変色し盛り上がった皮膚を見て、私は恐怖を感じた。
「爺さん、アンジェロの傷は治らないってことか?」
「難しいじゃろうな。呪いのせいで体の深部にある魔力管も損傷したままなのじゃろう」
「魔力管を治すことはできないのでしょうか?」
「できないわけではない、が……アンジェロ次第じゃな。背中に触れられただけで気絶するほどの呪いじゃ。深部を治療するには、体に直接触れなければいかん。それも一度や二度で終わることじゃあない。そんなことをして坊主の精神がもつかどうかわからん。まずは呪いを解くことからはじめるのがいいが……聖水では無理じゃろうな。高度な聖魔法でも治るかどうか……」
ガリウス団長とイーザム様は大きなため息を吐き、意識をなくしているアンジェロ様を気の毒そうに見つめる。
私は、イーザム様の言葉や目の前の状況を理解するので精一杯だった。
「イーザム様、高度な聖魔法ということは、教会で治療が可能ということでしょうか?」
「ん~公爵家の坊ちゃんが呪いを受けたとなれば、見栄っ張りな貴族の親は家名に傷がつかぬよう真っ先に教会に頼ったことじゃろうな」
「……つまり、教会でも解呪不可能なほどの強い呪いということですか」
「そう判断するのが自然じゃろう」
ヨキラス教皇からは、アンジェロ様が呪いを受けているという話は聞いていない。
いったい、この傷と呪いはどこで付与されたのだろうか。
苦悶の表情を浮かべ、ベッドに横たわるアンジェロ様。
私はなにもできず、立ち尽くすことしかできなかった。
それからしばらくすると、アンジェロ様の体の震えは徐々に治まり、呼吸も落ち着きだした。
イーザム様とガリウス様は一旦仕事へ戻ることになり、私はアンジェロ様のそばに付き添うことにした。
ぐったりしたアンジェロ様の、涙で濡れた顔を拭こうとするが、触れたらまた先ほどのような発作が起こるのではないかと思い、手が止まる。
――あのような叫び声を上げるほどの呪いを受けるなど、いったいどんな罪を犯したというのだろう。
フテラ教を侮辱し、マイク第一王子の恋人を傷つけた罪を背負い、償うために前線へやってきた、悪名高きアンジェロ・ベルシュタイン。
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「いえ、私はなにも聞いていません」
「ほ~ん。アンジェロをよこすときの説明といい、この呪いといい……教会っちゅうところは報告、連絡、相談すらまともにできんのか」
イーザム様の言葉に反論ができず、私はぐっと拳を握りしめる。
「しかし、どうしたもんかのぉ。坊主が魔法を使えんのはこの傷のせいじゃからなぁ」
「魔力管の損傷、ですか」
「うむ。傷ついた魔力管を治すだけでも一苦労なのに、それに加えて触れれば意識を失うほどの呪いとはのぉ。公爵家の坊ちゃんは、なに不自由ない生活をしておると思っていたが、こんな目に遭っておる者もおるんじゃな」
イーザム様は震えるアンジェロ様の頭を撫で、毛布をかける。
「今後のことは、坊主が目を覚ましてから考えるとするかの。今のところ落ち着いているようだし、部屋に戻っても大丈夫じゃぞ」
「わかりました。ありがとうございました」
頭を下げ、私はそっとアンジェロ様の体を抱き上げる。どうやら傷に触れなければ発作は起こらないようなので少し安心する。
部屋へ連れて帰る途中、ミハルさんと出会った。
アンジェロ様のことを心配し、見舞いに行く途中だったようだ。
私の腕の中でぐったりしているアンジェロ様を見て、ミハルさんは眉を下げ、心配そうな表情を浮かべる。
「僕が無理をさせてしまったせいで……」
それは違うと伝えたかったが、傷のことは詳細がわからない以上、軽々しく口外できない。
「ミハルさんのせいではありません。長旅で疲れているアンジェロ様を私が無理に働かせてしまったせいです。貴方は、なにも悪くありません」
そう伝えるが、ミハルさんの表情は浮かない。
私の腕の中で眠るアンジェロ様の寝顔を見つめ「また様子を見に来ますね」とアンジェロ様に声をかけ、彼はまた仕事へ戻っていった。
部屋につき、傷に触れないようゆっくりとベッドへ寝かせる。そばを離れようとすると、アンジェロ様の手が私の服の裾を握りしめた。
どう対処すればいいのかわからず、私はベッドの端に腰を下ろした。
アンジェロ様を起こさないように、彼の小さく細い指先をゆっくり外していくと、今度は私の指を握りしめてきた。
驚き、アンジェロ様を見ると、彼は不安そうに唇を噛み締めていた。
――また、悪夢を見ているのだろうか……
指先から伝わる恐怖を、少しでも和らげようと、そっと握り返す。
すると、アンジェロ様の表情がほぐれる。
それからしばらく時間が経ち、窓の外は紺色へ変わっていた。
アンジェロ様はまだ目を覚ますことなく、寝息を立てて眠っている。握りしめられた指先の力が弱まり、私は彼の細い指をひとつずつ外し、立ち上がる。
もう少しで、ヨキラス教皇への定期報告を行う時間だ。
アンジェロ様の容態が落ち着いていることを確認し、外に出て人気のない場所へ移動した。
通信用の魔道具を取り出し、魔力を流し込むと、魔道具に刻印されたフテラ教のシンボルである三日月の紋様が淡い光を放つ。
「ヨキラス教皇。本日の報告です」
『あぁ、ノルン。よろしくお願いするよ』
「本日のアンジェロ様は……」
アンジェロ様の護衛となってから、欠かさず行っている定期報告。
いつもならば、その日アンジェロ様の身に起こったことを淡々と報告するのだが、今日はなにから話せばいいのか見当がつかなかった。
傭兵に水をかけられ、拒絶されたこと。
背中の傷と呪いのこと。
私は考えを巡らせ口を開く。
「……大きな変わりはなく、奉仕活動を行っておりました」
『そうか。順調そうで安心したよ。ではノルン、引き続きアンジェロ様の監視を頼む』
通信が終わると、私は夜空を見上げ大きくため息を吐いた。
本当ならば、教皇に嘘をつくなど許されることではない。しかし、アンジェロ様の背中の傷と呪いの理由がわからない今、不確かな情報をヨキラス様に報告しても混乱を招くだけだ。
それに、人間があれほどの錯乱状態に陥り、震えるほどの恐怖を抱いていた、ということは、無闇に口外すべきではない。
あんなに嫌っていた人物を守るために教皇を裏切るなど、以前の自分なら考えられない。
だが、自分の心が訴えてくる。
これ以上、アンジェロ様の苦しむ姿を見たくないと……
首にかけた三日月のペンダントを両手で握りしめ、両膝をつき懺悔のポーズをとる。
私の愚かな行いを見ているであろうフテラ様に謝罪し、私は祈りを捧げた。
◇ ◇ ◇
ひどい頭痛で目が覚めると、俺は自分のベッドに寝かされていた。
なぜベッドに寝ているのかわからず、痛む頭の中から記憶を呼び起こす。
治療小屋での出来事。そしてノルンに背中に触れられた瞬間、強烈な痛みに襲われて意識を失ったこと。
意識すると背中の真ん中が疼いたが、もう痛みは落ち着いている。
窓から差し込む日の光。太陽の高さからすると、倒れてから、そう時間は経っていないようだ。
――早く仕事に戻らないと。
体を起こすと少しふらつくが、なんとか大丈夫そうだった。
頭痛は続いているが、耐えられないほどじゃない。
「よし……」
ベッドから降りようと足を下ろすと、部屋のドアが開きノルンが入ってくる。俺を見ると、彼はいつもの真顔のまま寄ってきた。
「なにをしているのですか?」
「……仕事に戻ろうと思います」
「その体でですか?」
圧の強い口調と視線に思わずたじろぐ。
頭は痛むけれど、他はどこも悪くない。
体がどうだの言われるようなことはなにもないのだが。
「体調は特に悪くありません。それに、早く仕事に戻らないと。ミハルさんには着替えを済ませたら戻ると言っていたので」
俺の言葉にノルンは呆れたように小さなため息を吐く。
「アンジェロ様が倒れてから、丸二日が経っているんですよ。奉仕活動に戻りたいと言うのなら、イーザム様の許可を得てください」
「……え? 二日?」
その言葉に目をぱちくりさせていると、ノルンは俺が目覚めるまでの経緯を説明してくれた。
それによってアンジェロの幼い頃の記憶がフラッシュバックし、ヒュッと息を呑む。
謎の人物によって傷つけられた背中は今までなんともなかったのに、意識するとズキズキ痛みだす。しまいには体まで震えてきた。
「アンジェロ様、そのような体では奉仕活動などできません。今はお休みください」
心配してくれているのか、それとも自分に迷惑をかけるなということなのか。ノルンは表情を変えずに言ってくるので判断できない。
けれど、このままトラウマから逃げても俺の人生はなにも変わらない。
いや、むしろ時間が経てば経つほど事態は悪化する。
仕事もせずに寝ているだけの公爵家の坊ちゃんだとか、少しいびられただけで逃げ出す軟弱者だとか、早めに対策を取らなければ噂話は誇張され広がってしまう。
想像するだけで頭痛がひどくなりそうだ。
――なにがなんでも今日は仕事に出てやる。
「イーザム様に許可を得られればいいんですよね?」
「まぁ……そうですね」
「では、イーザム様に診察してもらってから仕事に戻ります」
ノルンにそう伝えると、彼は眉間の皺を深くするが止めることはなく、「わかりました」と了承してくれた。
背中の謎の傷。アンジェロの過去。そしてなにもできない自分。
解決すべき問題が多すぎて吐き気がするが、とりあえず今はやれることをやるっきゃない。
大きく息を吐き、震える体に気合いを入れ、俺はノルンとともにイーザム爺さんのもとへ向かった。
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