【完結】 禍の子

赤牙

文字の大きさ
上 下
7 / 31

7話

しおりを挟む
 エクラは何故かジンの事を気に入っているようだったが、私は呪いの中から出てきたジンの事を信用できずにいた。
 本当は大きな災いをもたらす悪魔のような存在で、エクラも魅了したのではないか……。
 そんな事を考えながら、まずはジンを綺麗にしなくてはと思い風呂へと連れていく。

 ジンの体はお世辞にも綺麗とは言えず、少し匂いもした。呪いとはいえ、近くに置いておくのならば綺麗にしておきたい……。
 そう思い着替えを持って風呂場へと向かう。
 着替えは身長さがある私の服では大きすぎる為、同じ背丈のエクラが服を用意してくれた。
 ジンの身に纏っていた服はとても特殊で、大きな一枚の布でできた羽織ものと細長い布を腰で巻いたものだった。着ていた服は何度も修繕した後が見え、ジンはあまり裕福な生活を送っていなかったのではないかと感じた。

 ジンが着ていた服と同じようなものはなく、エクラの服を見せれば少し戸惑っていた。着方を教えると伝えれば、ジンはありがとうございますと頭を下げる。
 悪魔も感謝するのか……。と、思いながらジンの服を脱がせ……私は絶句した。

 服の下に隠された体は想像していたよりも痩せ細り、骨と皮のみだった。そして……体には至る所に傷跡が残っていた。
 見るからに幼い少年は一体どんな罪を背負って、こんな傷をつけられたのだろうか……。
 理由を知らずにはいられなくなった私はジンに問いかける。

「……この傷はどうしたんだ?」
「仕事が上手く出来なかった時に打たれる時があるんです。俺が要領悪いから……」

 固まる私を見て、ジンは「汚い体ですみません」と、何故か謝ってくる。
 村の為に死ねと言われ、仕事ができないからと鞭を打たれ体を傷つけられる。
 その話が本当ならば、ジンの住む世界の住人は悪魔そのものなのかもしれないと感じた。

 浴室に入ったジンは、風呂を見るなり驚き目を輝かせる。シャワーを使った時には「なぜお湯がこんなところから……」と、目を白黒させていた。
 シャンプーを使ったこともなく、洗い方を教えながらジンのきしんだ黒髪を洗ってやる。シャンプーや石鹸の香りにジンは頬を緩め「いい香りですね」と笑みを浮かべていた。

 風呂が終わり、エクラの服を着せればいくらかマシになる。そして、風呂から上がったタイミングで、エクラが食事を手に部屋へと入ってきた。

「兄さん、ジン、食事をもってきたよ」
「ありがとう、エクラ」
「あ、ありがとうございます……エクラ様」

 ジンが頭を下げれば、エクラは目尻を下げる。
 
「頭を下げられることなんてしてないから気にしないで。さぁ、ご飯を食べよう!」

 今日の食事はスープとパンにサラダ。そして、牛肉のステーキだった。エクラがテーブルに食事を並べている間、ジンは瞳をまん丸にして食事を見つめいた。

「さぁ、食べよう」
「は、はい!」

 皆で食事をはじめるが、ジンは座ったまま食事に手をつけず私たちのことをじっと見つめる。

「ジン、どうしたの?」
「あの……すみません。俺……こんな食事初めてで……どうやって食べればいいのか分からなくて….」
「どうやってって……。いつものように食べればいいんだよ?」
「いつものように……」

 ジンはそういわれ、スープの碗を手にとると、そのまま口にする。マナーなど気にせず、スープを飲み干したジンは満面の笑みを浮かべる。

「とても……とても美味しいです」

 瞳を輝かせる微笑むジンに対して、エクラはニッコリと顔を綻ばせる。

「ジンの口にあってよかった。さぁ、他のご飯も食べて食べて」
「他のご飯も……」

 ジンはエクラの言葉に苦笑いを浮かべる。
 あんなに美味しそうに食べていたので、喜んで他の食事も口にすると思っていたが……本当は口にあわなかったのだろうか?

「……無理して食べなくてもいいが、ここの食事が口にあわないのならばそう言ってもらいたい。ジンの好みの食事を用意してもらうから」
「まずいとか、そんなんじゃないんです……。もう、腹いっぱいで食べきれなくて……」

 申し訳なさそうに、腹をさすりながら苦笑いを浮かべるジン。
 何故ジンがあんなにも痩せ細っていた理由を知った私は、悪魔だと思っていたジンに対して同情の気持ちが湧いてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

男前生徒会長は非処女になりたい。

瀬野みなみ
BL
王道全寮制男子校に、季節外れの転校生がやってきた。 俺様で男前な生徒会長は、周りの生徒会役員にボイコットされ、精神的にも体力的にもボロボロ…… そんな彼には、好きな人がいて…… R18/平凡攻め/結腸責め/メスイキ ※がついてる話はエロシーン含みます。 自サイト→http://nanos.jp/color04/ twitter→@seno_1998(裏話や細かい設定をボソボソ) 表紙は ソラ様(https://www.pixiv.net/member.php?id=454210)よりお借りしました。

彼氏持ち大学生がストーカー犯に遭遇して人生終わる話

むぎ
BL
ストーカー被害にあってるけどまあいっか〜心配させたくないから彼氏にも黙っとこ〜とナメかかってた少年がストーカー犯に押しかけられてぶち犯されて果てには誘拐される話です。

僕の知ってるお兄ちゃんはこんなえっちな事しない!

沼田桃弥
BL
【ざっくり内容紹介】 終始えっち、イケメンリーマン兄×お兄ちゃん大好きな弟、溺愛、らぶえっち、ブラコン、ネクタイ拘束 【詳細なあらすじ】  お母さんが再婚して、僕に出来た初めてのお兄ちゃん。二十八歳で僕と十歳違い。僕よりも背が高くて、何でも出来て、スーツがとっても似合う男女問わず、モテモテな自慢のお兄ちゃん。すらっとした体型に茶髪で、いつもギュッとすると甘いムスクの香水の香りがした。  今日は、僕が遅くに帰ってくると、玄関で大好きなお兄ちゃんが待っていた。今日はお母さんが帰って来ないんだって! まさか、二人きり!?  でも、なんだかお兄ちゃんの元気が無さそう……だから、僕は膝枕をしてあげた!お兄ちゃんの柔らかい髪、綺麗な顔……見ているだけでドキドキする! え? お兄ちゃん、なんだか様子がおかしい? え、嘘でしょ? 今、お兄ちゃんのお仕置きが始める――。 ◆この作品は「小説家になろう」にも同タイトルで掲載しています

真夜中の秘め事

弥生
BL
夜の9時には眠くなってしまい、朝まで起きることがない少年。 眠った後に何が起きているかは、部屋の隅の姿見の鏡だけが知っていて……? 透明な何かに犯されるだけのどすけべなお話です。倫理観はありません。ご注意ください。 R18です。

屈強冒険者のおっさんが自分に執着する美形名門貴族との結婚を反対してもらうために直訴する話

信号六
BL
屈強な冒険者が一夜の遊びのつもりでひっかけた美形青年に執着され追い回されます。どうしても逃げ切りたい屈強冒険者が助けを求めたのは……? 美形名門貴族青年×屈強男性受け。 以前Twitterで呟いた話の短編小説版です。 (ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

おっさん受けの異世界にようこそ

月歌(ツキウタ)
BL
おっさん受けの異世界に来てしまった。攻めは美しい男達ばかり。だが、彼らは、おっさんにしか勃起しない体らしい。しかも、おっさんは妊娠するらしい。 元の世界に帰りたい。

処理中です...