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6話
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教会を後にし、私は家に帰ることなく呪いを浄化する部屋へと向かった。
呪いの浄化は数日~数週間かかることもあり、浄化の部屋にはベッドにトイレ、それに浴室まで完備されている。
何があってもすぐに対応するために、司祭も数名待機することとなり、皆緊張した面持ちをしていた。
そんな中で一人だけ違った表情を見せる者もいた。
それがエクラだった。
エクラは恐れることもなく、私の部屋へと入ってくる。
「ゲイル兄さん! その子は本当に呪いから生まれてきたの?」
「あぁ。間違いなく国王の呪いから生まれた」
「へぇ~。呪いって本当によく分からない力を持ってるんだね」
エクラは、ベッドで深い眠りにつくを少年に恐れる事もなく近づく。ベッドの端に腰をかければ、じっと見つめ興味深く観察してしている。
「エクラ、近づくと危ないぞ」
「大丈夫だよ兄さん。この子は大丈夫……」
まるで、少年はいい子なんだと言いたげに優しく頭を撫でるエクラ。
そんなエクラを心配していると、頭を撫でられ気がついたのか、少年の瞼がゆっくりと持ち上がる。
「……ここが……地獄?」
生気の宿っていない漆黒の瞳が私を捉え、そう呟く。少年の言葉に、近くにいたエクラは吹き出すように笑い声を上げる。
「ハハ、ここは地獄なんかじゃないよ」
「えっ……?」
エクラの優しい声に反応して、呪いの子が顔を上げればエクラと目が合い小さく口を開く。
「綺麗……」
「うわぁ……。僕、褒められちゃったよ。兄さん、絶対にこの子は悪い子じゃないよ!」
「そうだろうか……」
エクラは少年をえらく気に入ったようで、自分から話しかけ始める。私はまだその子が何者なのか掴めず探るような目をして二人の様子を見た。
呪いの中から生まれた少年は名を『ジン』と言い、国名を聞いたが私達の知らない国の出身だった。
教会で起こった出来事を話し、単刀直入に何故あの場に現れたのか理由を聞けば、ジンもよく理由が分からないと言う。
「気付いた時にはここで眠っいて……その前の記憶は……」
ジンは過去の記憶を思い出すと、俯きまた暗い表情を浮かべる。心配になり声をかけると、ジンは苦笑いを浮かべた。
「どうしたんだ?」
「いえ……俺は村の災いを祓う為に、死の谷に身を投げたんです」
「「———ッ!?」」
「谷に住む災いの神様に食べられるはずだったんだけど、痛みもないし服も綺麗なままだし……本当に助かっちゃったのかな? 俺……どうしたらいいんだろう。生け贄の俺が生きてるって事は……村の災いもそのままだし……」
肩を落とすジンをエクラはそっと抱き寄せる。
「このまま、ここにいたらいいよ」
「………え?」
「というか、ここにいてもらわなくちゃいけないんだけどね」
エクラの言葉にジンは目を瞬かせる。
「君は国王から産まれた呪いの子として認識されている。私が君の監視をすると宣言したので、ここにいてもらわないと困るんだ」
「そう……なんだ……。でも……村に帰らないと……災いが……」
ジンは生け贄としての役割を果たせていない事が気になっているようだった。
「ジン、気にしなくていいんだよ。生け贄を捧げるなんて行為は、気休めだからね」
エクラはそう言うと抱きしめていたジンの頭を優しく撫でる。
「そもそも生け贄なんて風習は口減らしだったりする事が多いんだ。ジンの村は飢餓で苦しんでたんじゃない?」
「うん……」
「そして……ジンは両親や親族がいないんじゃない?」
「うん……」
「村の皆を救う為に頼むって……言われたんでしょ?」
「………うん」
エクラの言葉通りだったのか、ジンは瞳を潤ませ唇を噛み締める。
「じゃあ、ジンは村に戻らなくていいよね! 村の皆も儀式を終えれた事で安心してるし、自ら死を受け入れるなんて辛くて怖い思いをしたジンは、僕達と一緒にここで暮らしていけばいいんだよ!」
エクラの天使のような笑顔を向けられ、ジンはこらえきれず涙をこぼし、エクラの胸に顔を埋める。
エクラはジンの頭をよしよしと撫で私の方へと視線を向ける。
「ゲイル兄さん。ジンを大切にしてあげようね」
「……そう……だな」
こうして、呪いの子ジンと私達の奇妙な生活が始まった。
呪いの浄化は数日~数週間かかることもあり、浄化の部屋にはベッドにトイレ、それに浴室まで完備されている。
何があってもすぐに対応するために、司祭も数名待機することとなり、皆緊張した面持ちをしていた。
そんな中で一人だけ違った表情を見せる者もいた。
それがエクラだった。
エクラは恐れることもなく、私の部屋へと入ってくる。
「ゲイル兄さん! その子は本当に呪いから生まれてきたの?」
「あぁ。間違いなく国王の呪いから生まれた」
「へぇ~。呪いって本当によく分からない力を持ってるんだね」
エクラは、ベッドで深い眠りにつくを少年に恐れる事もなく近づく。ベッドの端に腰をかければ、じっと見つめ興味深く観察してしている。
「エクラ、近づくと危ないぞ」
「大丈夫だよ兄さん。この子は大丈夫……」
まるで、少年はいい子なんだと言いたげに優しく頭を撫でるエクラ。
そんなエクラを心配していると、頭を撫でられ気がついたのか、少年の瞼がゆっくりと持ち上がる。
「……ここが……地獄?」
生気の宿っていない漆黒の瞳が私を捉え、そう呟く。少年の言葉に、近くにいたエクラは吹き出すように笑い声を上げる。
「ハハ、ここは地獄なんかじゃないよ」
「えっ……?」
エクラの優しい声に反応して、呪いの子が顔を上げればエクラと目が合い小さく口を開く。
「綺麗……」
「うわぁ……。僕、褒められちゃったよ。兄さん、絶対にこの子は悪い子じゃないよ!」
「そうだろうか……」
エクラは少年をえらく気に入ったようで、自分から話しかけ始める。私はまだその子が何者なのか掴めず探るような目をして二人の様子を見た。
呪いの中から生まれた少年は名を『ジン』と言い、国名を聞いたが私達の知らない国の出身だった。
教会で起こった出来事を話し、単刀直入に何故あの場に現れたのか理由を聞けば、ジンもよく理由が分からないと言う。
「気付いた時にはここで眠っいて……その前の記憶は……」
ジンは過去の記憶を思い出すと、俯きまた暗い表情を浮かべる。心配になり声をかけると、ジンは苦笑いを浮かべた。
「どうしたんだ?」
「いえ……俺は村の災いを祓う為に、死の谷に身を投げたんです」
「「———ッ!?」」
「谷に住む災いの神様に食べられるはずだったんだけど、痛みもないし服も綺麗なままだし……本当に助かっちゃったのかな? 俺……どうしたらいいんだろう。生け贄の俺が生きてるって事は……村の災いもそのままだし……」
肩を落とすジンをエクラはそっと抱き寄せる。
「このまま、ここにいたらいいよ」
「………え?」
「というか、ここにいてもらわなくちゃいけないんだけどね」
エクラの言葉にジンは目を瞬かせる。
「君は国王から産まれた呪いの子として認識されている。私が君の監視をすると宣言したので、ここにいてもらわないと困るんだ」
「そう……なんだ……。でも……村に帰らないと……災いが……」
ジンは生け贄としての役割を果たせていない事が気になっているようだった。
「ジン、気にしなくていいんだよ。生け贄を捧げるなんて行為は、気休めだからね」
エクラはそう言うと抱きしめていたジンの頭を優しく撫でる。
「そもそも生け贄なんて風習は口減らしだったりする事が多いんだ。ジンの村は飢餓で苦しんでたんじゃない?」
「うん……」
「そして……ジンは両親や親族がいないんじゃない?」
「うん……」
「村の皆を救う為に頼むって……言われたんでしょ?」
「………うん」
エクラの言葉通りだったのか、ジンは瞳を潤ませ唇を噛み締める。
「じゃあ、ジンは村に戻らなくていいよね! 村の皆も儀式を終えれた事で安心してるし、自ら死を受け入れるなんて辛くて怖い思いをしたジンは、僕達と一緒にここで暮らしていけばいいんだよ!」
エクラの天使のような笑顔を向けられ、ジンはこらえきれず涙をこぼし、エクラの胸に顔を埋める。
エクラはジンの頭をよしよしと撫で私の方へと視線を向ける。
「ゲイル兄さん。ジンを大切にしてあげようね」
「……そう……だな」
こうして、呪いの子ジンと私達の奇妙な生活が始まった。
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