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番外編:片想い勇者の恋の行方
勇者と魔王のお留守番 ④
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「ミシェル~~。退屈だぁ~腹が減ったぞ~」
「はいはい。リース様。今食べさせてあげますから少しお待ち下さい」
魔王は毎日毎日、何をする訳でもなく『退屈』『腹が減った』『何か面白い事をしろ』と、ミシェルさんや魔王城にいる魔族に我儘放題……。
しかも、世話をする方も嫌な顔せずむしろ喜んでやっているからこのヘッポコ魔王はさらに図にのる始末……。
僕が不機嫌な顔をしていると、それに気付いたミシェルさんはいつも頭をポンポンと撫でてくれる。
そんな事をされると僕も我儘を言っているような気がして申し訳なく感じてしまう……。
しかし、それで僕の魔王に対する苛立ちを抑える事など出来ず……僕と魔王は些細な事で毎日喧嘩をしていた。
「毎日毎日ろくに仕事もせずに、口を開けば『腹が減った』『早く食わせろ』ばかり……。ミシェルさんにどれだけ負担をかければ気が済むんだ!」
「ふん! ミシェルは好きでやっているのだからいいではないか。私だってミシェルが来るまで70年以上何も食べずに勇者の番を待ち続けたのだから少しぐらいの我儘は許せ」
「はいはい。今日の喧嘩はここまでにしておきましょうねぇ。二人ともいい加減仲良くして下さい」
ミシェルさんは僕と魔王の間に入りいつものように喧嘩を仲裁してくれる。魔王は仲裁に入ったミシェルさんの後ろに隠れると、何故か勝ち誇ったような顔をしてこちらを見てくるので……僕はギッと睨みつける。
「私は仲良くしたいのだぞミシェル。けれどヨルダが頑固だから……」
「僕は頑固なんかじゃない! 魔王がもっとミシェルさんを大切にしてくれれば僕は何も文句なんて言わない……」
僕と魔王がまたギャーギャーと言い合いを始めればミシェルさんは真ん中に挟まれたまま大きなため息を吐く。
「はいはいはいはい。分かりましたから。リース様は食事にするので部屋に戻っていて下さい」
「分かった。ミシェル早く来るんだぞ~」
魔王は食事をもらえると聞くと上機嫌で部屋へと戻って行く。僕はなんだかモヤモヤしてしまい下唇をグッと噛み締めているとミシェルさんにまた頭を撫でられる。
「ヨルダすまないな。リース様はあんな性格だが悪い人ではないんだ」
ミシェルさんが魔王の代わりに申し訳なさそうな表情を見せるので、僕は慌ててミシェルさんは何も悪くないと伝える。
「ミシェルさんは何も悪くありません……。すみません。僕もムキになってしまって……」
「いいんだよ。ヨルダは俺の事を気遣ってくれているんだろ? ありがとうな」
目尻を下げ優しく微笑まれれば魔王への苛立ちなんて吹き飛んでしまい、僕もだらしなく頬を緩ませてしまう。
「あの……ミシェルさん。今日の夜も話を聞いてくれますか?」
「あぁ。いいぞ。また今晩な」
その時の僕はミシェルさんと会う約束をし、ほんの少し浮かれてしまっていた。
夜になりいつものようにミシェルさんが僕の部屋を訪ねてくる。
たわいのない話をしながら少しずつミシェルさんとの距離が近くなれば僕達は自然にキスをする。
ミシェルさんとのキスは勇者の魔力の補充なのかもしれないが……ミシェルさんと唇を重ねると幸せでいっぱいになった。
初めはそういう行為をミシェルさんから求められるだけでよかったのだが、こうやって一緒の日々を過ごしていけば欲張りな僕が顔を出す。
ミシェルさんを僕だけのモノにしたい……。
魔王なんかに渡したくない……。
そうして僕はミシェルさんに言ってはいけない言葉を伝えてしまう。
「……ミシェルさん。僕と一緒に地上へ帰りましょう」
「ヨルダ……。前にも言ったがリース様には俺が必要なんだ……」
「でも……魔王は70年以上何も食べなくても生きていけるんでしょう? 魔王には沢山魔力を食べさせたじゃないですか! もうミシェルさんがこれ以上犠牲にならなくても……」
「ヨルダ……。これは俺が好きでやっていることなんだ……」
ミシェルさんは困った顔で興奮する僕を宥めてくれるが、ミシェルさんを諦められない僕も意地になってしまう。
「ミシェルさんそんな事言わずに……魔王なんて置いて一緒に……」
僕がそう言うとミシェルさんの表情は今まで見たことのないくらいに冷えたものへと変わり、僕を見つめる視線は鋭くなる。
「リース様を置いていく……? そんな事はできない……。リース様は命の恩人だ。口減らしに捨てられた俺を拾ってくれ見捨てなかったのはリース様だけなんだ。ヨルダ……すまないがもうこの話はしないでくれ……」
「はい……。すみま……せん……」
ミシェルさんの酷く不機嫌な声に僕は体を震わせ目頭はカァァと熱くなる。涙を必死に堪えていると、いつもなら『おやすみ』と優しいキスをくれるミシェルさんが無言のまま僕の部屋を出て行く。
バタンッ……と、扉の閉まる音が静かな部屋の中をこだまする。その瞬間に堪えていた涙がツゥ…と頬を伝う。
ミシェルさんに嫌われてしまった……。
その事実が僕の胸をぎゅうぎゅうに締め付け、その晩は一睡も出来ずに朝を迎えた……。
「はいはい。リース様。今食べさせてあげますから少しお待ち下さい」
魔王は毎日毎日、何をする訳でもなく『退屈』『腹が減った』『何か面白い事をしろ』と、ミシェルさんや魔王城にいる魔族に我儘放題……。
しかも、世話をする方も嫌な顔せずむしろ喜んでやっているからこのヘッポコ魔王はさらに図にのる始末……。
僕が不機嫌な顔をしていると、それに気付いたミシェルさんはいつも頭をポンポンと撫でてくれる。
そんな事をされると僕も我儘を言っているような気がして申し訳なく感じてしまう……。
しかし、それで僕の魔王に対する苛立ちを抑える事など出来ず……僕と魔王は些細な事で毎日喧嘩をしていた。
「毎日毎日ろくに仕事もせずに、口を開けば『腹が減った』『早く食わせろ』ばかり……。ミシェルさんにどれだけ負担をかければ気が済むんだ!」
「ふん! ミシェルは好きでやっているのだからいいではないか。私だってミシェルが来るまで70年以上何も食べずに勇者の番を待ち続けたのだから少しぐらいの我儘は許せ」
「はいはい。今日の喧嘩はここまでにしておきましょうねぇ。二人ともいい加減仲良くして下さい」
ミシェルさんは僕と魔王の間に入りいつものように喧嘩を仲裁してくれる。魔王は仲裁に入ったミシェルさんの後ろに隠れると、何故か勝ち誇ったような顔をしてこちらを見てくるので……僕はギッと睨みつける。
「私は仲良くしたいのだぞミシェル。けれどヨルダが頑固だから……」
「僕は頑固なんかじゃない! 魔王がもっとミシェルさんを大切にしてくれれば僕は何も文句なんて言わない……」
僕と魔王がまたギャーギャーと言い合いを始めればミシェルさんは真ん中に挟まれたまま大きなため息を吐く。
「はいはいはいはい。分かりましたから。リース様は食事にするので部屋に戻っていて下さい」
「分かった。ミシェル早く来るんだぞ~」
魔王は食事をもらえると聞くと上機嫌で部屋へと戻って行く。僕はなんだかモヤモヤしてしまい下唇をグッと噛み締めているとミシェルさんにまた頭を撫でられる。
「ヨルダすまないな。リース様はあんな性格だが悪い人ではないんだ」
ミシェルさんが魔王の代わりに申し訳なさそうな表情を見せるので、僕は慌ててミシェルさんは何も悪くないと伝える。
「ミシェルさんは何も悪くありません……。すみません。僕もムキになってしまって……」
「いいんだよ。ヨルダは俺の事を気遣ってくれているんだろ? ありがとうな」
目尻を下げ優しく微笑まれれば魔王への苛立ちなんて吹き飛んでしまい、僕もだらしなく頬を緩ませてしまう。
「あの……ミシェルさん。今日の夜も話を聞いてくれますか?」
「あぁ。いいぞ。また今晩な」
その時の僕はミシェルさんと会う約束をし、ほんの少し浮かれてしまっていた。
夜になりいつものようにミシェルさんが僕の部屋を訪ねてくる。
たわいのない話をしながら少しずつミシェルさんとの距離が近くなれば僕達は自然にキスをする。
ミシェルさんとのキスは勇者の魔力の補充なのかもしれないが……ミシェルさんと唇を重ねると幸せでいっぱいになった。
初めはそういう行為をミシェルさんから求められるだけでよかったのだが、こうやって一緒の日々を過ごしていけば欲張りな僕が顔を出す。
ミシェルさんを僕だけのモノにしたい……。
魔王なんかに渡したくない……。
そうして僕はミシェルさんに言ってはいけない言葉を伝えてしまう。
「……ミシェルさん。僕と一緒に地上へ帰りましょう」
「ヨルダ……。前にも言ったがリース様には俺が必要なんだ……」
「でも……魔王は70年以上何も食べなくても生きていけるんでしょう? 魔王には沢山魔力を食べさせたじゃないですか! もうミシェルさんがこれ以上犠牲にならなくても……」
「ヨルダ……。これは俺が好きでやっていることなんだ……」
ミシェルさんは困った顔で興奮する僕を宥めてくれるが、ミシェルさんを諦められない僕も意地になってしまう。
「ミシェルさんそんな事言わずに……魔王なんて置いて一緒に……」
僕がそう言うとミシェルさんの表情は今まで見たことのないくらいに冷えたものへと変わり、僕を見つめる視線は鋭くなる。
「リース様を置いていく……? そんな事はできない……。リース様は命の恩人だ。口減らしに捨てられた俺を拾ってくれ見捨てなかったのはリース様だけなんだ。ヨルダ……すまないがもうこの話はしないでくれ……」
「はい……。すみま……せん……」
ミシェルさんの酷く不機嫌な声に僕は体を震わせ目頭はカァァと熱くなる。涙を必死に堪えていると、いつもなら『おやすみ』と優しいキスをくれるミシェルさんが無言のまま僕の部屋を出て行く。
バタンッ……と、扉の閉まる音が静かな部屋の中をこだまする。その瞬間に堪えていた涙がツゥ…と頬を伝う。
ミシェルさんに嫌われてしまった……。
その事実が僕の胸をぎゅうぎゅうに締め付け、その晩は一睡も出来ずに朝を迎えた……。
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