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番外編:魔王と少年編

魔王と少年①

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気が付けばシモン達との最初の出会いから70年が経った。

「あぁ…お腹空いた」

今日も元気に私の腹の虫が鳴いている。
シモンの精をいただいた後は何度もシモンを手に入れようとするが全て勇者テオに阻まれ返り討ちにされてきた。

途中からはシモンを手に入れるのを諦め暇潰しも兼ねてシモン達にちょっかいを出し構ってもらっていたが…

そんなシモン達ももういない

「人間はどーしてこうも短命なのかねぇ…」

腹は減るし暇だし…

「はぁ…」

もうそろそろ新しい勇者が出てきてもいい頃だがなかなか現れない。
ガルパスは姿を変えまた王都で賢者をしている。
あいつは私の為にと言って勇者探しを毎回引き受けているが、あれはただ人間世界が好きなだけだ。

『勇者が現れたらすぐにお知らせしますぞ☆』

おいガルパス。
そう言ってから5年が経っているぞ。

まぁ、いない者の事を考えてもどうしようもないので日課になっている散歩にくりだす。

拠点にしている北の大地の森をいつものように散策していると草むらに何かを見つける。

…?
近寄って見ると小さな子どもが倒れていた。

死んでいるのか?
つんつんと突いてみると「ん…」と声を漏らす。
瘴気を吸いすぎて気絶しているだけか…

んー……
腕組みし少年をどうするか考える…
このまま置いておけば瘴気で死ぬか魔獣に喰われて死ぬか…

「暇だし連れて帰るか」

いい暇つぶしを見つけたと思いながら私は少年を抱きかかえと城へと戻った。

城へ到着し少年を私のベッドへ寝かす。
見たところ10歳くらいか…
着ている服もボロボロで身なりも汚い。
体は痩せて肋骨も浮き出てる。

どこの世界も生きていくのは大変だなと思いながら少年の体を拭いてやり子供用の服へと着替えさせる。

スヤスヤと眠る姿を見ながら少年が起きるまで私は隣で読書でもして時間を潰すことにした。

数時間経つと少年が目を覚ました。
薄らと目を開け私を見つめる。

「ここどこ…」

「やっと目を覚ましたか。ここは魔王の城だ」

「俺…殺されるの…?」

「え?んー……」

暇潰しになればと思い連れてきたが特に何も考えていなかった。
とりあえず少年に水を渡そうとするがベッドからも起き上がれない状態だった。私が支え水の入ったコップを口につけるとゆっくりと飲んでゆく。

「お前はどうして森にいたんだい?」

私の質問に少年の表情は暗くなる。

「…俺捨てられたんだ。村は不作続きで食糧もなくて…両親がいない俺は口減らしに…」

辛っ。
泣きそうな顔の少年の頭を優しく撫でると目からポロポロと涙が落ちてくる。

「何か食べる物持ってくるから待ってるんだぞ」

そう説明し食事を準備しに食堂へと向かう。
番がいつ来てもいいように人間の食べる食料は豊富だ。
食堂の料理人魔族には人間が食べれる胃に優しい食事を作るように命じる。

料理人はすぐにスープと果実を用意してくれたので少年へと運んでいく。

「ほら。ゆっくりお食べ」

食事を前にだされ少年の目がキラキラと輝く。

「あの…いいんですか?」

私が頷くと少年は嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます…いただきます!」

なんとか自分でスプーンを持ち、目に涙を浮かべながら美味しそうに食べる姿はとても可愛いかった。

小さなモノを世話するのって癒される…
人間達が犬や猫を飼ってるのはこんな気持ちなんだな…
…よし!この少年は私のペットにしよう!

こうして私は捨てられた少年を飼うことに決めた。


少年の食事が終わると少し話をした。

「少年名前は?」

「ミシェルです」

「いい名前だな」

そう言うとミシェルは嬉しそうに微笑む

「あの…魔王様のお名前を聞いてもよろしいですか?」

「私の名前かい?リースだよ」

「リース様…お願いがあります。こんな俺を拾ってくれたリース様に恩返しがしたいんです!俺を…仕えさせて下さい。お願いします!」

ミシェルは深々と頭を下げてお願いする。
どうせペットにするつもりだし…仕事を覚えさせれば私が楽できるな!

「分かった。しかしここは魔王城だ。人間が一人で安全に過ごせるかは分からない場所だぞ」

「はい。それでも俺はリース様に一生お仕えしたいんです」

さっきまで死にかけていた少年には見えない位に生き生きとした瞳に眩しさを感じる。

「そう。じゃあ私と契約をしよう。お前がこのままここにいても瘴気で弱ってしまうからな」

「契約…?」

「そうだ。嫌かい?」

「いえ!喜んで契約します!」

「そ、そうか。ほら手を出して」

前のめりなミシェルの返事に逆に私が戸惑ってしまった。
ミシェルの右手を取り私の胸へと当てる。私と下僕しもべの契約を行うと手の甲に紋様が浮かび上がる。

「ほら。これでお前は私の下僕だ」

ミシェルは嬉しそうにキラキラした目で手の甲を見ている。

「俺これからリース様の為に沢山働きます!」

「ふふ。よろしく頼むよ。でも、まずはしっかり食べて体を休めるように」

私の前で意気込むミシェルを見ていると仔犬が主人に嬉しそうに尻尾を振っているように見えて可愛い。
人間の子どもをペットにするのは結構楽しいものなのかもしれない。

「あの…俺だけ食べてますがリース様は食事はしないのですか?」

「ん?私の食事は勇者の魔力なんだ。と言っても人間が食べる物も食べれないわけではないが…ミシェルは一人で食べるのが寂しいか?」

「…少し」

「ならば今度からは私も一緒に食べよう」

私の返事に嬉しそうにミシェルが笑う。


私に拾われた時のミシェルはガリガリでヒョロヒョロだったが、ここ魔王城に来てからはしっかりと食事を与えているのですくすくと成長していった。

それから私の従者としての仕事もこなし護衛ができるようにと剣まで習いだした。
魔族の者にも鍛えられ気がつけば魔王城でも5本の指に入る強さになっていた。

薄汚れた褐色の肌も今では艶々としており鍛え抜かれた肉体をより一層美しく見せている。
ボサボサの艶のない銀髪も今ではサラッサラだ。私が短い髪型が好きだと言うと短く切り揃えて見せてきた。
私より小さかった身長もいつの間にか追い越されていた。


時が過ぎるのは早いものでミシェルがやってきて7年が経った。

「リース様!」
ミシェルという名の大型犬が尻尾を振って嬉しそうにやってくる。

「今日も鍛錬していたのか?」

「はい!いつでもリース様を守れるように鍛錬は怠りません!」

最初に出会った貧弱で気弱な可愛いミシェルは何処へやら…
こんなにもデカくなるとは思わなかった。

今年で17になるミシェルはどんどん男らしくなっていく。
そして最近の悩みが…

「リース様。今日も本当にお美しいです」

私の手を取りうっとりとした目線を向けてくるミシェル。
最近のミシェルの私を見る目は崇拝している目ではない…間違いなく欲情している!

最近ボディータッチは凄いし風呂でもやたらと触ってくるし…

可愛くあどけなかったミシェルよカムバック!

そしてミシェルの成長を見ていると思う。
ずっと見た目の変わらぬ寿命の長い魔族と寿命の短い人間。

ずっとミシェルをここで飼っているわけにはいかない。
ここまで立派に育ったんだ…
ミシェルを人間の世界へ返そう。



そう思いその日の晩にミシェルにそう告げると…

壁ドンされた。

「ひぃっ!」

壁ドンされ金色の瞳が私を見下ろす。
ミシェルが怖い…

「リース様なんでそんな酷いことを言うんですか…俺はずっとあなたの側で仕えるって言ったじゃないですか…」

ここで絆されてはダメだ。ミシェルの将来をこんな所で潰してはいけない。
私はいつになく真剣な面持ちでミシェルに話しかける。

「いいか。本来ならばこの城に置いてやるのは食糧である勇者か勇者の番のみ。お前は私に拾われた分際で我儘を言うのか」

私の言葉に傷ついた顔をするミシェル。
あぁ…そんな顔をしないでおくれ…
私は心の中で何度もごめんと謝る。

「分かりました…」

「分かればいい。下僕の契約も終わりだ」

私はそう言うと契約を解除する。
ミシェルは下僕の紋があった右手の甲を見つめ茫然としている。

これはミシェルの為…ミシェルの為だ。
とても酷いことをしている気分になったがそう自分に言い聞かせる。

「リース様…最後にリース様を抱きしめていいですか?」

「あぁ…」

ミシェルは私を正面から抱きしめてくる。

ミシェルこんなに大きくなったんだな…
私もミシェルの成長を確かめるように背中へと手を回す。


「いつか必ず…リース様の元へと帰ってきます」

そう言い残しミシェルは私から離れ城を後にした。

少し寂しいがこれでよかった…よかったんだ。



それから5年後。

「魔王様!ついに勇者が現れたそうです!ガルパス様が勇者と番様を引き連れてこちらに向かっています」

部下から待ちわびた報告が入ってきた。

「ついにか!」

もうずっと腹ペコだった。
待ちに待った勇者の登場に私は胸を踊らせていた。

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