上 下
11 / 56

11話:幼馴染みはお留守番

しおりを挟む
王都を出発してから5日目の朝。予定ならばとっくに町に到着していたはずだが、町まであと1日位かかる距離を残していた。

遅れた原因は『俺』。


ベヌエット様は馬車の旅に慣れず体調が悪く青い顔をしていても文句も言わずに一人我慢している事が多く俺が休憩を頻回にいれた為だ。

幸いな事に予定が遅れても誰も文句は言わない。
いや文句なんて言わせない!

こんな小さな女の子に魔王の討伐を言い渡す王や大人達もどうかしてる…


そして今日の移動も頻回に休憩を挟みながら進んでいく。

「今日はこの辺でテントを張ろうか」

陽が沈む前にアレンさんが少し開けた場所に馬車を止め皆はいつものように野営の準備に取り掛かっていく。

「んーむ。薪が少なくなってきておるのぉ」

ガルパス様が馬車の荷台に積んでいた薪を見て呟いた独り言が耳に入る。
予定よりも数日遅れてきているので足りない備品も出てきている。

「ガルパス様!俺が薪拾ってきます!」

テントの設営も終えて俺は薪拾いに向かおうとすると

「わ、私も薪拾いに行く」

ベヌエット様が恥ずかしそうに手を上げて手伝いを申し出てくれた。

「ありがとうございます。じゃあ一緒に行きましょう」

「あっ!はい!はいはい!僕も!僕も行く!」


ベヌエット様に薪拾い用の袋を渡しているとテオも手を上げてアピールしてくる…


「お前は馬車の点検整備が終わってないだろ…」

「終わってないけど…でもぉ…」

「終わるまで来たらダメだからな!」


テオは「酷いよぉー」と半泣きで馬車の整備点検へと戻り俺達は森へと向かった。

街道沿いには森が広がっており奥に入り込まなければ魔獣との遭遇率も少ない。
それでも俺は細心の注意を払いながら進み薪を拾っていく。

「ベヌエット様はこのような乾いた細い木を拾って下さい」

「細いのね…分かった」

ベヌエット様は俺から言われた通りに小枝を夢中で拾っている。
最初の頃は手伝いなど出来ずにただ見ている事が多かったベヌエット様が最近は少しずつ手伝える事がないか声をかけてくれる。


「ねぇシモン」

「どうしましたベヌエット様?」

「私…あなたに謝まりたいの…」

薪を拾う手を止めベヌエット様の方へと振り向くと下を向き今にも泣き出しそうな顔が目に入る。


「え?え?ど、どうしたんですか?」

「ごめんなさい…私…あなたに酷い態度をとってしまっていたわ…」


ぐすぐすと泣き出してしまったベヌエット様に俺は慌ててしまう。

「謝る事なんて何もないですよ!だからもう泣かないで下さい…」

「でも、私は自分の不安を全部シモンのせいにして睨んだりキツイ態度をとってしまった…」

「ベヌエット様…」

「父から聖女は『勇者の番』になれるから勇者の加護が得られ危険なことはないと聞いていたの。でもシモンを番にすると聞いて私は怖くなって…魔獣だけでも恐ろしいのに魔王になんて立ち向かえない…」


ポロポロと涙を流すベヌエット様を俺は思わず抱きしめてしまう。

「ずっと不安を抱えて辛かったですよね…でも俺達が全力でベヌエット様を守りますから安心して下さい」


ベヌエット様も俺をギュッと抱きしめ返し胸の中で今までの不安を吐き出す。
俺はベヌエット様の話をうんうんと聞き頭を撫でてあげた。


そういえばベヌエット様が言っていた『勇者の加護』って何だ?と思っていると背後からバキっと枝の折れる音がした。


…テオが来たんだな。
今の状況を見たらギャーギャー喚き出すんだろうな…


そう思い背後へ振り向くと


そこには興奮した巨大な熊の魔獣が仁王立ちしたままこちらを見ていた。

しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...