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4話:勇者の葛藤 Sideテオ
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~Side:テオ~
王宮に呼ばれ『勇者の紋』を調べられてから2日も経った。
シモンに2日も会えていない…
もう勝手に帰っていいだろうか?
そう思っていると王への謁見があると言われて呼び出された。
僕の他に若い男女と老人が呼び出されていた。
周りにはお偉いさんだろうか皆僕達を見ながらヒソヒソと話をしている。
王が部屋へと到着すると皆頭を下げる。
「顔をあげよ」
そう言われ頭を起こすと姿絵で何度か見たことがある王が玉座に座って僕達を見下ろしている。
「勇者…そして剣士・聖女・賢者よ。お前達には北の果てにいる魔王を討伐してきてもらいたい。これはお前達にしか頼めない事だ」
そう王が告げると僕以外の隣にいる剣士・聖女・賢者は納得した様子で軽く頭をさげている。
しかし僕はまったく納得がいかない。
勇者になるなんて一言も言っていない。
「陛下すみませんが僕は…勇者になんてなれません。ですので魔王の討伐も辞退させていただきます」
王の目の前でそう言いきると周りの空気が凍りつく。
「お、お、お前なんて事を言うんだ!王から直々に命じられたというのに…」
近くにいた偉そうな貴族がワーワーと喚き立てるが僕には魔王に割く時間など無い。
シモンとの思い出作りができないなんて御免だ。
僕の反抗的な態度を見て王が眉間に皺を寄せていると、隣にいた賢者と呼ばれたお爺さんが話しかけてくる。
「何か行きたくない理由があるのか?」
「…大切な人から離れたくないだけです」
「そんな理由で魔王討伐に行かないというのか!!」
お爺さんの質問に答えているのにさっきの偉そうな貴族がまた怒りだす。
『そんな理由』とは失礼な。
僕にとっては死活問題だというのに…
「そうか…。王よ少し進言してもよろしくですか?」
「許そう」
「勇者は一人だけ『勇者の番』を選ぶことができます。その大切な方を『番』に選び旅に同行させてはいかがでしょうか?」
「ちょっと!『勇者の番』は私がなるんじゃなかったの!?」
今度は僕と一緒に呼び出されていた聖女が大声で賢者に詰め寄ると聖女の隣にいた剣士が「お嬢様落ち着いて下さい」と聖女を宥めていた。
僕はそんな二人をシカトして賢者に話しかける。
「賢者様。その『勇者の番』ってなんですか?」
「ほほ。ワシの事はガルパスと呼んでくれ。『勇者の番』とは勇者だけが使える契約魔法じゃ。契約できるのは一人だけで一度しか使えない。番に選ばれた者は勇者の加護が得られどんな攻撃も防げる結界に守られる。その代わりに勇者の精神的負担を減らす為の『精神共有』も付属品として付いてくるんじゃがな」
「精神共有…?」
「勇者の力を使うと精神的負担が強くでるのじゃ。大きな力を得る対価といった感じかのぉ。しかし、番がいる事でその精神的負担を減らすことができる。お前さんのオーバーした感情を番が受け止めると言うことじゃな」
辛さを共有するなんて、それはシモンにとって酷な事ではないのか…
僕が渋い顔をしているとガルパスは僕の考えていることが分かっているのか話を続けていく。
「何も辛い事ばかりではない。嬉しい事も共有できるぞ。共有するかどうかは勇者が決められる。心が折れそうになった時に少し負担してもらえばいい」
そして笑顔のガルパスは僕の耳元で囁く。
「お前の大切な者と心を繋ぐことができるんじゃぞ。決して切れることのない絆じゃ。あとな…快楽を共有して流し込むと凄いらしいぞ」
シモンと心を繋ぐ…
とても魅力的なフレーズに心が揺らぐ。
そして快楽の共有…僕のを流し込みシモンをドロドロに…
いけない。下心全開で妄想してしまっていた…
僕が答えを出さずに心の中で葛藤していると誰かがポツリと呟いた言葉が耳に入る。
「勇者の大切な奴など排除してさっさと魔王退治に行かせればいいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で今まで感じた事がないくらいの怒りがブワッと込み上げてくる。
シモンを…排除…?殺すって言ってるのか?
「今…僕の大切な人を排除するって言った人は誰ですか?」
怒りに震える声でそう言い辺りを見渡すとさっきまで立っていた貴族達が皆座り込み数名失禁している。
そして僕の事を恐れ化け物を見るような目をしていた。
状況が分からず狼狽えていると唯一立っていたガルパスが声をかける。
「凄いの…もう勇者の力をこんなにも引き出せているのか。お前の威圧に耐えられず皆が怯えておるぞ」
自分の意思とは関係なしに出てしまった力に戸惑ってしまう。
こんな力はシモンを傷つけてしまう…
「やはり僕に勇者なんて…勇者を辞める事はできないんです?」
ガルパスに尋ねるが首を横に振られる。
「勇者は一度選ばれたら魔王を倒すまで続く。しかし、勇者の力はコントロールすれば今のような事は起きない。あと大切な人を守る為にもワシは番にして旅に連れて行く事が一番だと思うがのぉ」
ガルパスの言葉を聞き僕はシモンを番にする事を決心する。
決して下心で番にするわけじゃない。
シモンの為…シモンの安全の為だ…うん。
そう自分に言い聞かせるが、その決意はシモンを番にした瞬間に崩れ去る事を僕はまだ知らない。
王宮に呼ばれ『勇者の紋』を調べられてから2日も経った。
シモンに2日も会えていない…
もう勝手に帰っていいだろうか?
そう思っていると王への謁見があると言われて呼び出された。
僕の他に若い男女と老人が呼び出されていた。
周りにはお偉いさんだろうか皆僕達を見ながらヒソヒソと話をしている。
王が部屋へと到着すると皆頭を下げる。
「顔をあげよ」
そう言われ頭を起こすと姿絵で何度か見たことがある王が玉座に座って僕達を見下ろしている。
「勇者…そして剣士・聖女・賢者よ。お前達には北の果てにいる魔王を討伐してきてもらいたい。これはお前達にしか頼めない事だ」
そう王が告げると僕以外の隣にいる剣士・聖女・賢者は納得した様子で軽く頭をさげている。
しかし僕はまったく納得がいかない。
勇者になるなんて一言も言っていない。
「陛下すみませんが僕は…勇者になんてなれません。ですので魔王の討伐も辞退させていただきます」
王の目の前でそう言いきると周りの空気が凍りつく。
「お、お、お前なんて事を言うんだ!王から直々に命じられたというのに…」
近くにいた偉そうな貴族がワーワーと喚き立てるが僕には魔王に割く時間など無い。
シモンとの思い出作りができないなんて御免だ。
僕の反抗的な態度を見て王が眉間に皺を寄せていると、隣にいた賢者と呼ばれたお爺さんが話しかけてくる。
「何か行きたくない理由があるのか?」
「…大切な人から離れたくないだけです」
「そんな理由で魔王討伐に行かないというのか!!」
お爺さんの質問に答えているのにさっきの偉そうな貴族がまた怒りだす。
『そんな理由』とは失礼な。
僕にとっては死活問題だというのに…
「そうか…。王よ少し進言してもよろしくですか?」
「許そう」
「勇者は一人だけ『勇者の番』を選ぶことができます。その大切な方を『番』に選び旅に同行させてはいかがでしょうか?」
「ちょっと!『勇者の番』は私がなるんじゃなかったの!?」
今度は僕と一緒に呼び出されていた聖女が大声で賢者に詰め寄ると聖女の隣にいた剣士が「お嬢様落ち着いて下さい」と聖女を宥めていた。
僕はそんな二人をシカトして賢者に話しかける。
「賢者様。その『勇者の番』ってなんですか?」
「ほほ。ワシの事はガルパスと呼んでくれ。『勇者の番』とは勇者だけが使える契約魔法じゃ。契約できるのは一人だけで一度しか使えない。番に選ばれた者は勇者の加護が得られどんな攻撃も防げる結界に守られる。その代わりに勇者の精神的負担を減らす為の『精神共有』も付属品として付いてくるんじゃがな」
「精神共有…?」
「勇者の力を使うと精神的負担が強くでるのじゃ。大きな力を得る対価といった感じかのぉ。しかし、番がいる事でその精神的負担を減らすことができる。お前さんのオーバーした感情を番が受け止めると言うことじゃな」
辛さを共有するなんて、それはシモンにとって酷な事ではないのか…
僕が渋い顔をしているとガルパスは僕の考えていることが分かっているのか話を続けていく。
「何も辛い事ばかりではない。嬉しい事も共有できるぞ。共有するかどうかは勇者が決められる。心が折れそうになった時に少し負担してもらえばいい」
そして笑顔のガルパスは僕の耳元で囁く。
「お前の大切な者と心を繋ぐことができるんじゃぞ。決して切れることのない絆じゃ。あとな…快楽を共有して流し込むと凄いらしいぞ」
シモンと心を繋ぐ…
とても魅力的なフレーズに心が揺らぐ。
そして快楽の共有…僕のを流し込みシモンをドロドロに…
いけない。下心全開で妄想してしまっていた…
僕が答えを出さずに心の中で葛藤していると誰かがポツリと呟いた言葉が耳に入る。
「勇者の大切な奴など排除してさっさと魔王退治に行かせればいいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で今まで感じた事がないくらいの怒りがブワッと込み上げてくる。
シモンを…排除…?殺すって言ってるのか?
「今…僕の大切な人を排除するって言った人は誰ですか?」
怒りに震える声でそう言い辺りを見渡すとさっきまで立っていた貴族達が皆座り込み数名失禁している。
そして僕の事を恐れ化け物を見るような目をしていた。
状況が分からず狼狽えていると唯一立っていたガルパスが声をかける。
「凄いの…もう勇者の力をこんなにも引き出せているのか。お前の威圧に耐えられず皆が怯えておるぞ」
自分の意思とは関係なしに出てしまった力に戸惑ってしまう。
こんな力はシモンを傷つけてしまう…
「やはり僕に勇者なんて…勇者を辞める事はできないんです?」
ガルパスに尋ねるが首を横に振られる。
「勇者は一度選ばれたら魔王を倒すまで続く。しかし、勇者の力はコントロールすれば今のような事は起きない。あと大切な人を守る為にもワシは番にして旅に連れて行く事が一番だと思うがのぉ」
ガルパスの言葉を聞き僕はシモンを番にする事を決心する。
決して下心で番にするわけじゃない。
シモンの為…シモンの安全の為だ…うん。
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