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5話:幼馴染みの説得
しおりを挟む「シモン…久しぶりだね」
夕食を済ませ自室に戻るとテオが部屋にいた。
1ヶ月ぶりに会うテオは少し雰囲気が変わっていた。
身につけている服も今までの安っぽい支給された隊員の服ではなく王室側近の近衛騎士が着ている紺色の軍服を身に纏っていた。
「手紙読んでくれた?返事がなかったから心配してたんだよ…」
「あんな一言だけの手紙になんて返せばいいんだよ」
久しぶりの再会にどんな言葉をかけたらいいのか分からず素っ気ない態度をとってしまう。
テオは「そうだよね」といつもの笑顔を見せた。
「シモン…僕ね魔王を倒しに北へ向かうことになったんだ」
「あぁ噂で聞いたよ…しっかり勇者の役目果たしてこいよ」
テオはこれから俺とは違う道を進んで行く…
最後くらいちゃんと友人らしく送り出してやらないと…
テオが勇者に選ばれた時には嫉妬もしたが今考えると仕方がない事だと分かっている。
もし俺が勇者を選ぶ立場なら間違いなくテオを選ぶ。体格、パワー、魔法も俺なんかとは比べものにならない…
俺が最後の別れを覚悟しているとテオがギュッと俺を抱きしめてくる。
「お、おいっ。苦しいって」
「あのねシモン…お願い聞いてほしいんだ。魔王討伐の旅にシモンも付いてきて欲しい」
テオのとんでもないお願いに俺はフリーズしてしまう。
俺が…魔王を倒す旅に付いていく…?
「いやいやいやいや俺なんていたら足手まといになるだけだって!」
「そんなことないよ!シモンは僕なんかよりずっと強いよ…僕シモンがいないとダメなんだ…」
「お前なぁ…いい加減俺から離れろよ」
「それは無理だよぉ…」
テオは離さないと言わんばかりに俺をさらにギュッと抱きしめてくる。
この時ばかりはテオを今まで甘やかしてきた事を後悔した。
てか、何でそんなにも俺に依存してるんだよコイツ…。
俺がため息をついて呆れているとテオは半ベソかいた顔をして見つめてくる。
「あのね…シモンに『勇者の番』になって欲しいんだ…」
「なんだよ『勇者の番』って?」
初めて聞く言葉だが…『番』って夫婦になるって事だよな?
それは…嫌だ…。
俺が露骨に嫌な顔をするとテオは慌てて釈明しだす。
「へ、変な意味じゃないよ!賢者のお爺さんが教えてくれたんどけどね、勇者の力を使うのは精神的な負担が大きいんだ。そこで『勇者の番』になった人と『精神共有』する事で、その負担を軽減してもらうんだって」
「精神を共有する…?」
「うん。魔王討伐の旅は過酷だと思うけど…僕はこの世界を救う為に勇者として頑張りたいんだ。でも、辛くて心が折れてしまう時が必ず来る。そんな時に番になった人と一緒に乗り越えていける力なんだ。そして…こんな事を頼めるのはシモンしかいないんだ」
テオは真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
確かにそんな大変な事を知らない人には頼めないよな…
世界を救う為か…
「これは俺にしかできない事か…」
「うん。テオじゃないと無理だよ」
「んんーーーー…」と唸りながらテオの腕の中で色々と考える。
コイツの精神面のフォローなら一番上手く出来るのは俺だろうな…
戦いの中で勝敗が精神面に左右される場面もある。
テオは勇者として自分を犠牲にしながら世界を救おうとしている。
そんな親友の願いを俺は断ることなんて…
できないな…。
そして俺は覚悟を決めた。
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