朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 アドラーの前を大きな川が東西に流れ、対岸でミケドニア帝国とサイアミーズ王国が対峙していた。

 東から来たミケドニアは左翼を川に、西から来たサイアミーズは右翼を川に接して片翼の守りとして使い防備を固めている。

「この距離では下手な動きは無理だね。真正面からぶつかり合いだ」
 アドラーは両軍の戦術を断言した。

 もう小細工は通用しない。
 奇をてらった指揮官がよくやる別働隊など自殺行為。
 本陣の守りを薄くした挙げ句、少数の生贄を差し出すだけになる。
 それほど両軍は拮抗していた。

「兄ちゃん、どっちが勝つ?」
 興味本位でキャルルが聞いた。

「動いた方が不利と言いたいが、ほら少し戻った所に病人だらけの部隊がいるだろ? あれが全快して参戦すればバルハルトが不利だなあ」

「教えてあげないの?」
 今度はリューリアが尋ねた。

「バルハルトなら、もう知ってるよ」と、アドラーは答えた。

 横一列の防衛ラインを引いたサイアミーズ軍に対して、バルハルトは小さな防御拠点を幾つもジグザグに並べていた。
 それを見たサイアミーズ軍も真似をする。

 弓と槍の魔法には慣れた両軍も、小銃に匹敵する魔弾杖を使った会戦は初めてで、互いに手探りだった。

「それで、放っておくの?」

 ミュスレアは睨み合う軍隊に否定的。
 両軍とも二万五千から三万ほどいる、精鋭同士で指揮官は有能、壮絶な殺し合いを始めてくれるだろう。

「北へ……渡りたいな。北方が気になる」
「どうして?」

「ここは、俺が破壊した塔に近いんだ」
 この地域に古代遺跡が集中しているのを、アドラーは不思議に思ってない。

 龍脈や地脈にレイライン、エネルギーの濃いゾーンは存在する。
 大地からマナを吸い上げ原動力にする遺跡は、当然それに沿って作られる。

「ってことはつまり?」
 ミュスレアが顔に疑問符を浮かべて聞き返した。

「両大国の軍隊には、大陸の掃除を手伝ってもらおうと思ってね。生き残ってるナフーヌの群れを、こいつらにぶつけてやる!」

 アドラーは、自分好みの作戦を堂々と披露した。

「凄いわアドラー! あなたってやっぱり天才ね! って言うと思った?」
 ミュスレアが半目で睨む。

「兄ちゃんそれ……」
「成功した試しがないのじゃー」

 キャルルもマレフィカも否定的。

 アドラーは元地球人らしく、漁夫の利作戦が好きである。
 何時も楽することを考えているが、モンスターが思い通りに動いたことはない。

「こ、今度こそ成功するから! もう一回だけ、ね?」
 アドラーも必死だ。

 全員が微妙な顔をする中で、思わぬ援軍が現れた。
「……だんちょーの言う通り、何かいるかも」

 北の空を見つめながらブランカが呟き、これで決まった。
 普段は大きな白い犬といった風情のブランカも、中身は本物のドラゴン。
 この子が言うなら確かめる価値があると、全員で一致した。

「それで……キャルルとリューリアは、バルハルトに預かってもらおうかなーと考えてたのだけど……?」

 そっくりな緑の目がアドラーを睨む。

「兄ちゃんの側が一番安全だし」
「わたし、本気で怒るわよ?」

 アドラーは長女の顔を見たが……ミュスレアは連れていくことに反対しなかった。

「なら、みんなで行こうか?」
 元気よく返事をした六人と一匹を連れて、アドラーは川を渡る。

 1キロ余りの距離をおいて睨み合う両軍の丁度真ん中。
 そしてそのまま戦場予定地の中央を歩く。

 突然現れた子連れの現地民らしき集団に、ミケドニア軍もサイアミーズ軍もざわつく。
 だが、命令無く攻撃するわけにはいかない。
 遊びで撃つほどだらけた軍隊とは違う。

 それにメガラニカ諸国の戦場協定で、民間人の移動を妨げてはならないとの決まりがある。
 地球でも、布陣した軍の周りを民間人が行き交い、時に戦いを見物していた。
 地雷、という兵器の発明で牧歌的な戦争は終わったが。

「流石に肝が冷えるなー」
 五万を超える軍隊の真ん中を歩き、マレフィカはびくびくしている。

 アドラーとダルタス以外は、しっかりと顔を隠す。
 美女と美少女連れだと分かると、別の問題が起きかねない。

 ふと、アドラーはミケドニアの陣営を見た。
 バルハルトが前線まで出てきていて、視線に気付いたが素知らぬふりで何やら怒鳴っている。

「絶対に手を出すな」とでも言ってるのだろうと、アドラーは予測した。

 次にサイアミーズ軍を見た。
 こちらも偉そうな髭をした指揮官が、魔弾杖をアドラー達に向けた兵士を怒鳴っていた。

 名前も分からぬが、サイアミーズを代表する将軍には違いない。
 両将軍は、これから始まる戦争の方を楽しみにしていた。

 アドラー達はさっさと歩いて戦場予定地を通過する。
 追ってくるものは見当たらず、北へ北へと急ぐが……子供達がバテてきた。

「リュー、キャル、背負うからおいで」
「平気!」
「平気よ!」

 二人とも絶対に音を上げたりしない。

「ほうきに乗ってすまん……」
 一番体力のないマレフィカが申し訳無さそうに謝る。

 魔力の強い部族は――リッチになったゲルテンバルグや、キャルルの友達のアスラウなど――そこそこの数は居るのだが、飛べるのはごく一部の魔女だけ。
 むしろ飛べるから魔女と呼ばれている。

 一段高いとこを飛ぶマレフィカが、魔物を見つけた。
「アドラー団長、馬がいる。草を食ってる」

 野生馬なら、捕まえても直ぐに乗れるようなものではない。
 アドラーも通り過ぎようと思ったが、馬の方が角をこちらに向けて見つめ始めた。

「……ユニコーンじゃないか。この大陸に千頭も居ないと言われる幻の!」
 動物好きのアドラーは興奮気味。

「リュー姉を囮にして捕まえたら?」
 キャルルが遠慮ない一言を放ち、次女に殴られた。

「待て待て、ユニコーンはそのなんだ、清らかな乙女を好むって言われるが、単に女性が好きなだけだ。まあ若い女を好むって言われるが……言葉まで分かるらしいぞ?」

 アドラーは、慎重に単語を選ぶ。
 若い女、と聞いてミュスレアとマレフィカがぴくりと反応した。

 そして。
「いやじゃー! 現実を突きつけられるのはいやじゃー!」
「マレちゃん、大人しくして。わたしたちは一蓮托生よ!」

 アドラーとダルタス以外が、ユニコーンの捕獲に向かった。
 賢い魔物、神獣と呼ばれることもある一角馬なら頼めば乗せてくれることがある。

「なんでボクまで……男なのに……」
 苦情を言ったキャルルだったが、数頭のユニコーンが寄ってきた。

「あの、疲れてるの。乗せてくれない?」
 リューリアが代表して尋ねると、ユニコーンは頭を下げて乗れと合図した。

「よ、良かった! 一人だけ拒否されたら泣いてたぞ!?」
 マレフィカにも一頭寄ってきてくれた。

「なんでボクにまで……」
 半泣きのキャルルも騎乗を許される。

 そしてブランカには、一際大きく白い一頭が寄ってきて前足を折り曲げて挨拶する。

「うん、頼むぞ。あたしはまだ飛べないんだ」
 見た目の倍の重さがある竜の子が飛び乗っても、ユニコーンのボスは涼しい顔。

「俺達は……走るか」
「承知」

 アドラーとダルタスは乗馬拒否された。
 そもそもオーク族が乗れる馬などないが。


 荷物とバスティもユニコーンに乗せ、アドラーとダルタスは強化魔法をかけて走る。
 並の魔物では追いつけない速度と持久力。

 騒がしい移動になったが、アドラーも後方には何の心配もしていなかった。
 だが、ユニコーンの足跡を静かに追ってくるがあった。

 サイアミーズ軍は、僅かながら騎兵を持ち込んでいる。
 品種改良を重ね、大きさと強さとタフさを兼ね備えた軍馬の一団が、隠蔽の魔法を使いながら密かに追撃していた。

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