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第七章

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「全然足りないぞ……」
 アドラーがぼやいた。

 バルハルトから巻き上げた金貨百枚は、銀貨で一万二千枚。
 大金なのだが、集まった人数は予想を遥かに超えた。

「五十人から百人くらいが手伝ってくれて、七日もあれば見つかるかなーって」
 アドラーは予想していた。

 馴染みの連中に加え、エスネがクエストに出てない五十人ほどを引っ立ててきた。
 ハーモニアの団と、”宮殿に住まう獅子”団も幹部のアスラウが率いて参加した。

 この時点で百人は大きく超え、しかも強力な連中ばかり。

 ライデン市で第二位のギルドは、”陸に上がった魚の目”というふざけた名前。
 団旗も青地に白丸という簡略なものだったが、団長のサバーニ・カツウォヌスは漁師上がりの陽気な男。

「なんだなんだ? 大漁か? 戦争か?」と寄ってきた所、ミュスレアとエスネが「お前らも手伝え」と引き込んだ。

 まだ団長歴一年未満のアドラーよりも、二人の美女は顔が広い。
 ライデンで一位と二位のギルドが参加した後は、なし崩し的に増えた。

「わははは、暇人が多いからなこの季節は。良かったな、アドラー」
 エスネが能天気に笑う。

 目的も聞かずに興味本位で集まった八百人が、ライデン市を見下ろすグラーフ山を見上げる。

 委員長のエスネが、集まった連中を分配してダンジョンへ送る。
 メインである『グラーフの地下迷宮』以外にも、周辺には数百の小ダンジョンや遺跡があり、実数はライデンの冒険者ギルド本部でも把握していない。

 そこへ、優秀な受付嬢テレーザとギルド本部の上役までやってきた。
「この機会を逃す手はない!」と。

 半年ほど前、アドラーは新設ギルドの試験官を務めた。
 その時、死んだはずのダンジョンからスケルトンが湧き出して、大問題となった。

 ギルド本部は、こつこつとダンジョンと遺跡の調査を始めているが、まだ二割も終わってない。

 テレーザは、満面の笑みでアドラーにいった。
「自腹で調査してくれるなんて、流石はアドラーさんですね!」

「えっ、ちょと待って! こんな人数、破産しちゃいます!!」
「冗談ですよ、冗談。まあギルド本部で特別予算を組みます、激安の」

 冗談だと否定したが、テレーザの目はあまり笑っていなかった……。

 ベテランどころかライデン市を代表する冒険者が集まった一団は、まともに雇えば一日で金貨百枚を軽く超える。

 ほぼ収入にならないと分かったが、集まった冒険者はよく動いた。

「えー、ほんとにすいません。目的の魔法陣を見つけた組には金貨五十枚。残りの五十枚は、打ち上げに使って下さい」

 アドラーの思い切った一言が効果的だった。

 二日目は、参加者が更に増えて千人を超えた。
 これはライデン市に登録する冒険者の実に四分の一。

 三日目も三百人ほど増え、昼過ぎに怪しい遺跡を見つけた組が出た。

「アドラー、来てくれ。見たことない魔法陣で、うちの魔法使いも知らない波動だと言ってる。金貨五十枚、忘れるなよ?」

 三千メートルはあるグラーフ山の八合目まで登った一隊が、異常に長い横穴の遺跡を見つけた。

 夕暮れにも関わらず、ブランカを連れて登山したアドラーは、目的の物を見つける。
 転移装置は、まだ稼働していた。

「目当ての物は見つけたのですが……」
 アドラーは、優秀な受付嬢に告げた。

「まだです。このままこき使いますから、黙ってて下さい」
 テレーザは容赦なかった。

 テレーザの企みに反して、賞金の五十枚が出たとの噂は直ぐに広まったが、冒険者達は四日目も働いた。

 グラーフ山は、ライデンの目と鼻の先。
 この一帯のダンジョンを把握してマッピングしておく重要性は、ベテラン冒険者ほどよく理解していた。

 四日間で述べ四千人もの冒険者が潜り、調査したダンジョンと遺跡は、七百を数えた。
 新しく見つかったのも一割ほどあり、これで全体の八割程が調査済みとなる。

 魔物が出た生きてるダンジョンもあったが、死者も重傷もゼロ。
 ギルド単位でなく、実力者をリーダーにして十人ほどを編制した作戦が功を奏した。

 このような均質な部隊を多数作るのは、ミケドニア帝国軍が目指す新しい軍制と偶然ながら一致していた。

「ギルド単位の冒険者も、変革の時が来るのかなあ……」

 アドラーだけが、誰に聞こえるでもなく呟く。
 数人から数十人の仲間でつるむ冒険者ギルドというものを、アドラーはとても気に入っていた。

 そして四日目が終わった夜に、ライデン市に雪が降った。

 冒険者達は街中に繰り出して飲んでいる。
 本格的な冬となれば大きなクエストは組めない、新人の訓練や新しい力を求めて神殿通い、武器と防具の整備に体力作りとやることは山程あるが。

 何度か顔を合わせた程度の、とある冒険者がアドラーに声をかけた。

「詳しくは知らねえが……行くのか?」
「ああ。詳しく言えないが、ちょっと遠くへな」

「そうか、気をつけてな。なかなか楽しいイベントだったぜ。春になったらよろしくな」
「おう、またな」

 冒険者は、クエストに出る仲間に「さようなら」とは言わない。


 麓まで雪化粧を始めたグラーフ山を、アドラー達が登る。
 あと三日もすれば、山は閉鎖されてたかも知れない。

 エスネやタックス、それにアスラウら、馴染みの数人が見送りに来た。

「ついて行ってやりたいが、ロゴス団長が腰に魔女の一撃を食らってなあ。今は私が仕切りなんだ」

 エスネが残念そうに、アドラーとミュスレアに言った。
 ぎっくり腰は、この世界の治癒魔法を使っても全快まで時間がかかり、また再発もする。

「気持ちだけもらうわ、ありがと」
 ミュスレアとエスネが軽く包容して別れの挨拶に代える。

 次は自分の番かとアドラーの胸が高なったが、エスネにはリューリアが飛びついた。
 最近のリューリアは、姉以外の女性が団長に近づくことを許していない。

 空振りしたアドラーには、タックスが肩を回す。

 キャルルとアスラウが、ぽんぽんと腕と手を合わせて二人だけの意思疎通をする。

「と、尊い……!」
 マレフィカは感激の余りに涙しそうになっていた。

「僕も行きたかったけど、爺ちゃんが駄目だってさ」
「土産話、楽しみにしてろよ。またな」

 若い二人も流儀にならい「さよなら」は言わない。

 ハーモニアは見送りに来なかったが、ダルタスは「戻ったら食事の約束を取り付けた」と、自慢そうに語っていた。

「みんなありがとう、またな。さて、行こうか」

「にゃー!」と、毛布にくるまれた団の守り猫が気合を入れる。

 ”太陽を掴む鷲”が古代遺跡に踏み込んだ。
 ドリーさんだけは近所の農家に預けて、七人と一匹がいざ北の大陸へ――。
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