上 下
108 / 214
第六章

108

しおりを挟む

「えーっと、ここってどの辺りですか?」
「本土の、北西だ」

 アドラーは、村人を質問攻めにしていた。

「本土……アドラクティアと行き来は出来ますか?」
「もうちょっとして春になれば、機会はある」

 アドラーの生まれ故郷は、大陸東岸のヴィエンナ地方。
 かなり遠い。

「大陸の情勢は……聞いていますか?」
 一番気になっていた事を聞いた。

「二年ほど前から落ち着いてるそうだよ。何でも、出てくる魔物の数が急激に減ったとか」

 アドラーは、強く拳を握って突き上げる。
 敵――昆虫型の魔物――の本拠地で補給線を吹き飛ばした。
 いきなり平和にならなくとも、戦況は好転するはず。

 だが、突然に羽を持つように進化するや、別のゲートが開いて大群がやってくるなど、ありがちな状況をアドラーは心配していた。

 喜ぶアドラーの側に、ブランカとバスティもやって来て、よく分かってないが一緒に喜ぶ。

 その様子を見て、逃げ散っていた村人達も集まってくる。

「ね、猫と踊る男……」
「いや、あの子、竜神様じゃね?」

 見ていたリザード族がブランカを見ていった。

 こちらの大陸は、種族が混ざり合って生きている。
 人族はもちろん、ゴブリンやコボルトにリザード族、各種族の混血、獣耳を持つ者と多種多様。

 遠巻きにしていた村人が、アドラーに尋ねた。

「なあ、ここらでどデカイ怪物見なんだか?」
「三つ首の黒いやつですか?」

 村人達がざわめいた。

「そいつだ!」
「ど、何処さ行った?」

「二日ほど前に、退治しました」

 村人達は、驚いた表情で見つめ合い、肩の荷が降りたとばかりに笑いあった。

「よ、良かったー!」
「死なずにすんだ!」
「し、死骸はあるかね!?」
「兄さん、そんな強いのか?」

 今度は、アドラーが質問攻めにされる。

 収拾がつかなくなり、村長にも聞かせたいとせがまれ、アドラーは一時間ほどの距離にある村へ行くことにした。

 道すがら、お互いに色々と話を聞いた。

「二ヶ月ほど前かな、三つ首の化物が現れてな。島に住むタタンカを襲い始めてな」

 タタンカとは、毛の長い野牛のこと。
 この島の住人の貴重なタンパク質だが、暴れ狂うフェンリルにはとても手出し出来ない。

 ここしばらく姿を見なくなったので、意を決して様子を見に出たらアドラー達を見つけたとのこと。

「うーん、こっちは何処まで話すかなあ……」
 アドラーは迷った。

 全て伝えても良いが、信じてくれるかが問題。
 悩むアドラーの前に、ブランカが周り込んで来た。

「だんちょー。あいつ、あたしのお尻ばかり見るんだ」
「な、なんだと!?」

 ブランカが指さしたのは、一人のリザード族。
 うちの子をそんな目で見るなど許せんと、アドラーは激怒しかけた。

「ちが、違うんだ! その尻尾、俺たちの種族のものではない! ひょっとして、伝説の竜族かなって!」

 慌てたリザード族が言い訳した。

「ほう、分かるのか?」
「神話に出てくる、白き竜そっくりだ」

 アドラーの問いに、リザードは素直に答えた。

 ブランカは途端に嬉しそうになった。
 なにしろ、初めて初見で竜族だと分かってもらえたのだから。

 自らの力を示すように、ブランカが高く跳ねた。
 垂直に二十メートルは飛び、白い髪に陽光が反射して煌めく。

「はえー、やっぱりあんた方が倒してくれたのかね。三つ首の魔物は」
 村人達は、牧歌的で素直だった。

 彼らが手に持っているのは、鋤や鍬といった普通の農具。
 着いた村の様子を見ても、魔法の補助を受けた道具など見当たらない。

 魔法技術を元に進歩した南の大陸と、ようやく平和の糸口が見えこれからの北の大陸。

 この二つが万が一にもぶつかれば、どうなるかは明らか。

「人口と軍事技術に差がありすぎる……」
 アドラーの懸念は、現実のものになりかけていた。


 村長は、アドラーの話を丁寧に聞いて、アドラーは包み隠さずに喋った。
 村にあった大陸の地図については、アドラーの方が詳しかった。

「種族連合ヴィエンナ方面軍の特殊遊撃隊。そこの隊長でした。この辺りにあった敵集団が湧き出る塔を破壊して、見知らぬ土地へ飛ばされました」

 アドラーの話は荒唐無稽でも、行動は全て事実。
 淀みのない説明に、村長達も信じざるを得ない。

 巨大な大陸の北西にこの島。
 アドラーは大陸東岸の生まれで、中央に向けて戦った。

 村長が尋ねた。
「それで、船が来るまで村におられますかな? もちろん歓迎しますぞ」

 有り難い申し出だったが、アドラーは断る。

「いえ……ここは、私の故郷には遠い。大陸の横断は避けたいので。それに、まだイベントの最中なんです」

「い、いべんと?」
 村長達は、何のことやらといった顔になる。

 みんなの所へ戻ると決めたアドラーは、何通かの手紙を書いた。

「届くか分かりませんが、これを船に託して貰えますか? これでお願いします」

 アドラーは、手持ちの金貨を取り出して渡す。

「み、見たことがない金貨ですな。それに質も恐ろしく良い……」
 村長達は、アドラーの話を確信した。

「重要な事が書いてあります。それと、私が帰った後、あの魔法陣は隠して下さい。壊したら駄目ですよ、何処に飛ばされるか分かりません」

 アドラーは自分の経験を参考にしてアドバイスした。


「戻っていいのかにゃ?」とバスティが聞いた。

「だって、対抗戦の最中に団長が消えたら困るだろ?」
 アドラーは半分本気で答えた。

「みんなと、お別れもないなんて嫌だ!」
 ブランカも賛同した。

「うちは嬉しいけどにゃ」

「今は、帰れると分かっただけでいいよ。この遺跡は、グラーフ山の何処かにある。また見つけても良いし、別の遺跡を探しても良い。出来れば、アドラクティア大陸の東へ繋がるとこが良いなあ」

 アドラーは、自分が消えてしまうことで、南の大陸の人々が転移装置に気づくのを恐れた。

 二つの大陸は、もっと準備を整えて平和的に出会うべきなのだ。
 突然の出会いは、不幸を呼ぶ可能性が高い。

 戻ってきたアドラーは、転移装置のある遺跡へ続く通路を崩落させた。
 そして、グラーフ山の大迷宮へと戻る。

 大穴から顔を出すと、リューリアの歌声が聞こえる。
 どうやら怪我人が出たようで、歌に乗せて治癒魔法を広めていた。

「おう、遅かったな」と、冒険者の一人が声をかけた。

 もう五時間ほど経ったが、みんな穴の前で頑張っていた。

「先程、大群がやってきてな。入れ食いだぜぇ?」
 冒険者が楽しそうに教えてくれる。

「よし、ブランカ。俺らもいこうか」

 アドラーは全隊を見回す。

 ミュスレアは、魔物が一番分厚いところで暴れている。
 キャルルも姉の隣にいて、マレフィカは後ろから援護。

 ダルタスは、ハーモニアの横で戦おうとして追い払われる所だった。

「なんだ、余裕あるな。ちょっとひと暴れしますかね」
 アドラーとブランカが参戦し、魔物は急激に数を減らす。

 ”太陽を掴む鷲”は、かなりのハイペースで稼ぎ続けたが、同じ場所で三十人が戦い続けた”偉大なる調和”団の方が、少しだけポイントが多かった。

「くっそー、負けたか」
「悪いな、あたしらの勝ちだ!」
 ハーモニアは意気揚々。

 対抗戦の三日目を終えて、アドラー達は1勝2敗。
 しかし総合ポイントでは、遂に60位とシード圏内に食い込んだ。

 本戦はあと二日。
 この二日で次回のシード権が取れるかが決まる。

 それと、アドラーは報告書を一つ書いた。
 運営本部に出すもので、繋がっていた遺跡の詳細だが、適当に誤魔化す。

「バレるはずがない」と、アドラーは思っていた。
 だが、アドラーの行動に特別な注目を払う人物がいた。

 この報告書を呼び水に、対抗戦の最終日はとんでもないことになるのだ。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。  沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。  異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。  新たな人生は、人生ではなく神生!?  チートな能力で愛が満ち溢れた生活!  新たな神生は素敵な物語の始まり。 小説家になろう。にも掲載しております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...