上 下
42 / 214
第三章

冒険と経営、両方やるのが団長

しおりを挟む

 マレフィカとの出会いと再会から二日たった。

 ”太陽を掴む鷲”団に魔術顧問が加わった。

「顧問って……なにをすれば……?」
 マレフィカは自信なさ気に尋ねた。

 友達――ミュスレア――が困ってるなら力になると言ったところ、アドラーはさっそく彼女を団に取り込んだ。

「俺たち素材集める。顧問、魔法の武器作る。俺たちそれで戦う」
「何故カタコトに……。まあいいや、それくらやるよー」

 冒険者ギルドの使う魔法の武器や道具。
 全てを買っていたのでは、お金が幾らあっても足りない。

 適当な魔術師――だいたいは駆け出しの若手――と契約を結び、冒険で手に入れた素材を渡して色々と作ってもらう。
 時には頼みを聞いて魔法に必要とする物を集めたりする。

 宮廷の顧問魔術師などとは違う、実利に基づいた関係である。

『もし戦えるなら、いずれは団員にしてしまおう』
 アドラーは密かに企んでいたが、まだマレフィカは人里に出るのは怖がっていた。

 そんなこんなで、暫定的にだが”太陽を掴む鷲”は五人になった。

 ギムレットと戦う、ギルド会戦は百十七日後。
 グラーフ山のギルド戦まではさらに一ヶ月。
 その翌月からは、利子が跳ね上がり事実上の破産。


 団員集めに加えて、団の経営までやるアドラー団長は今日も忙しい。
 冒険者の酒場で一杯やっていると、声をかけられた。

「傭兵をやらないか?」

 傭兵――戦場で戦う職業。または手伝いの別称。
 『メガラニカ大辞典』

「俺は人同士の戦争に参加する気はないが……」
「違うって、俺のとこ手伝わないか?」

 声の主は、”銀色水晶”団のタックス。
 以前、ギムレットと喧嘩になった時に、真っ先にアドラーに味方した冒険者。

「マスター、一杯くれ。アドラーのツケで」
 タックスは勝手に注文した。

「今日は奢らんぞ?」
「良い話を持ってきたのにか?」

「マスター、こいつのは別会計で。話を聞いてからだ」
「なら良かった、もう一杯奢りたくなるぞ?」

 ジョッキが届いてから、タックスは話し始めた。

「うちの団長はサーレマーレ島の出身なんだが、その縁でクエストを受けた。だが少し人数が足らなくてな」

 サーレマーレ島はアドラーも知っている。
 ライデンから船で一日もかからない大きな島。
 島がまとめてリヴォニア伯国で、ライデン市も属するミケドニア帝国の一部だ。

「クラーケンでも出たのか?」
「いや、廃城の探検だ。まあ何か住み着いたようだから、うちに依頼に来たのだがね。うちの団には十一人居る、何人か加えて三隊で探索したいんだ」

 パーティは最低でも四人から五人は欲しい、何処の団長も考えることは同じ。

「条件は?」
「聞いて驚け。船賃もあちら持ちで食事付き。探索が二日の予定、一人あたり四日で銀貨百枚だ」

「……もう一杯奢るよ」

 良い条件だった。
 冒険者一人の相場は下が十枚に上は天井知らずだが、移動にかかる日数が考慮されない。

 目的地に行くまで十日もかかると、かなりの好条件でも儲からない。
 なので近場のグラーフ山のダンジョンが繁盛するのだが。

「何人出せる?」
 さっそく二杯目を飲み始めたタックスが聞いた。

「三人、いや四人かな」
「使えないのは困るぞ?」

「俺とミュスレアと、次の一人は新人だがミュスレア級だ。最後の一人は、なんとヒーラーだ」

「ほう、そりゃ凄いな」
 口では褒めたが、タックスが信用した様子はない。

 戦鬼や鬼姫とまであだ名されるミュスレアと、同等の戦士など滅多にいるものではない。

『しかしだ……あの見た目でも鬼が離れず”戦姫”とも呼ばれないとは、ミュスレアさん、なにやったんだ?』

 アドラーには心の底から疑問だった。
 ただ単に、ガキ大将時代に近隣の男子に恐怖を植え付けただけであるが。

「受けてくれてありがとよ、団長には俺から話しておく。お前とミュスレアが加わるなら心強い。竜の姿、見たんだろ?」
「もちろん見たさ。誰も信じてくれないけどな」

 アドラーが持ち帰った竜の羽の真偽は、いまだこの街の冒険者の間でも定まっていない。

 だが、あの総団長バルハルトが認めて一目置いている。
 この事実で『太陽と鷲の新しい団長はやり手』だとの噂が広がっていた。
 
「急で悪いが、出港は明後日だ。大丈夫か?」
「ああ、問題ない。気楽な船旅だ。こちらこそありがとよ」

 飲み続けるタックスを置いて、アドラーは席を立った。
 家へ戻る前に、顔から赤みを消す薬を飲む。

 魔法の薬だが、これだけは何故か安い。
 昼間から飲んで帰っては、団の貴重なヒーラーに叱られてしまう。


「えっ、海!? いーなーボクも連れってよ!」
「遊びに行くわけじゃないぞ」

 キャルルはまだ団に入るのを諦めてなかった。

「リューねえも行くんでしょ? あれよりは強いよ、ボク」

 ”あれ”呼ばわりされた姉は、弟を無視する。
 初の遠征の準備で忙しい。

「ねえ兄ちゃん。前に入団希望の人にやった、ブランカに勝ったら入団ってのボクにもやってよ?」

『何を無茶な』とアドラーは思った。
 ブランカの身体能力が人並みはずれているのは、キャルルも知っているはずだ。

「うーん、まあ良いぞ」
 しかしアドラーは許可した。
 男としては諦める理由が欲しいのだろう、との優しさだったが。

 木剣を持って外に出るキャルルとブランカの背に、リューリアが一声かけた。

「ブランカ、わざと負けたら夕ご飯半分よ」

 びくっと反応したブランカは姉と弟を見比べると……キャルルを一瞬で片付けた。

「ブランカ! 昼に卵焼きやったろ!?」
「ごめん……夕ご飯のが大事だ!」

「裏切り者!」

 買収に失敗したキャルルは、近所の友人の家に四日程お邪魔することになった。

 アドラーはこちらの大陸に来て、初めて海の船に乗る。
 一日の距離とはいえ、海を超えた冒険にわくわくしていた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...