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第三章
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しおりを挟む「神と言ったな。証拠はなんだ?」
猫を挟んで、魔女とアドラーが向き合った。
「バスティ、喋ってくれ」
「お菓子美味しかった。だにゃ」
「珍しいけど……魔女の使い魔も話すことが出来る」
「ならば、人型になったら?」
マレフィカは窓から外を見て言った。
「今夜は満月だ」
「ワーキャットではないのだが……。バスティ、お前他に何か出来ないのか?」
バスティは面倒臭そうに手の中でもがく。
「うちは、ただのかわいい猫だにゃ。女神っぽい事をする力はまだ、ない」
「……と、言ってるが?」
「次! ブランカ、おいで!」
菓子ばかり食べていたブランカがやってくる。
「この子は竜です」
「……リザード族とのハーフ? それにしては、かわいいなー」
腹一杯にお菓子を食べたブランカは、マレフィカに笑顔を返す。
これでは何の迫力もない。
「この尻尾を見て下さい」
「白くて綺麗ね。将来は美人になるわ」
ドラゴンを見たことなければ、竜の尾だと気付かない。
アドラーの二枚の切り札は、何の役にも立たなかった。
マレフィカは愉快そうに眼鏡を揺らして笑う。
「ほうほう、もう終わりか?」
「くぅ……! ならば、俺の前世は異世界人だ!」
アドラーは最大の秘密をバラした。
「それはちょっと驚いた……。で、証明出来るのか?」
「色んな事を知ってる……」
「お前さん、別の大陸の出身だろ? 魔女の記録にもおぼろげに残る。かつてホウキで世界を一周したという、伝説の魔法使いイルル・バツータの話が」
「いやいや、そんなもんじゃねえっすよ! 科学とか物理とか料理とか! あれこれあるんですってば!」
アドラーは、マレフィカに自分たちの一味に興味を持って欲しかった。
魔術師と言うのは、とかく好奇心の塊だ。
だが知識層である魔術師は、当然ながら賢い。
「で、アドラーとやら。お前たち三人を賭けの机に乗せるのか。私は人体実験はやらんぞ? やる魔女に売っても良いけどな」
バスティとブランカが抱き合って怯えた。
「そこまでのつもりは無いですがけど……。神猫の髭や竜の爪や牙、異世界の知識を対価に、ちょっとうちのギルドに協力してもらおうかと……」
マレフィカの紅い瞳は、眼鏡の奥で怪しく笑う。
「素直なものだなー。素直ついでに、もう一つ教えろ。ミュスレアは、私を覚えているのか……?」
魔女ともなれば、安い挑発には乗らないようだ。
「一団の頭脳であり、後ろから戦局を眺める魔法使いが、ほいほいと賭けに乗ったり罠に嵌ったりしたら、たまったものではないだろー?」
森に籠もる魔女は、用心深さも兼ね備えた魔女だった。
「分かりましたよ。実はですね……」
ミュスレアがマレフィカの貼り紙を見た時に反応したこと。
二、三年前のミュスレアは、既に二十二歳になること。
人族より高い魔法抵抗を持つエルフ族なら、覚えてる可能性もある。
「それと、このお菓子ですね。味覚を司る分野と記憶を司る分野は、隣接してるんです。口に放り込めば、ミュスレアなら思い出すかなと」
アドラーは自分の頭を指で叩きながら説明した。
「あながち……異世界人というのも嘘ではなさそうだな」
マレフィカは少し納得してくれたようだった。
「兄ちゃん……」
キャルルは少しショックを受けたようだった。
「兄ちゃんの前世はどうでも良いけど、姉ちゃんがそんな単純だと思われてる方がショックだよ……。言いたいことは分かるけど」
「違う! 違うぞ、キャルル! ミュスレアは本能的に動くから、そっちの感覚が発展してるってだけだぞ!?」
キャルルも、本気で怒ったわけではない。
「まあ良いけどね、確かに姉ちゃんは単純だからさ。ちゃんと責任とってよ?」
「お、おう? うん、ギルドを建て直してまたちゃんと暮らせるようにするからな!」
兄弟のようなやりとりを、しばらく眺めていたマレフィカが口を開いた。
「せっかくだ。会ってみようか」と。
「覚えててくれたら、お主の頼みを聞いても良い。忘れていたら……辛いなあ。しばらくは窓から子供たちを見ながら癒やされるか……」
本当は他人になんか会いたくない、ずっとこのままで良いけど、もしきっかけになるならと、マレフィカは決断した。
迷ったミュスレアの為に森に道を開き、四人と一匹は家の前で待つ。
「だ、ダメだ。やっぱり吐きそう、なかったことにして!」
マレフィカはさっそく弱音を吐いた。
「待って待って! ここで逃げたら駄目ですって、ずっと森の中で一人ですよ!? 頑張れ、ほら勇気を出して!」
「お前、言ってはならん言い方してるだろ!? 心が潰れるわ!」
引っ張り合いをしながら、アドラーはずっと気になってた疑問を聞いた。
「そういえば、マレフィカって眼鏡かけてるよね。直ぐに治るのになぜ?」
「そりゃあ……人に会うのが嫌だからだよ。髪も梳かしてないし目も狂う、服なんて同じのをローテだし、肌はボロボロ。やっぱり私なんて家の中がお似合いなんだ……」
再び逃げようとしたマレフィカを捕まえたところで、キャルルが声をあげた。
「来たよ、姉ちゃんだ」
並ぶ一同を見つけたミュスレカが、心底ほっとした顔をした後に、表情を作り直してから怒った声を出した。
「こらっ、キャルル! こんな時間まで遊び歩いて。ブランカも! アドラーも、あなたが付いていながら……あら、そちらはどなた……?」
生まれた数年後から二十歳を過ぎるまで、この家を見つけた歴代の子供たちの中でも、一番長く通ったクォーターエルフの娘がゆっくりと近づいて来た。
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