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第三章
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しおりを挟む魔法はとても便利だ。
だがその道に進むのは難しい。
魔法の商品も素晴らしいが、生産性には難があって高級品。
「やはり武器、それも魔法が付加されたものが欲しいなあ」
先日、長剣を駄目にしたアドラーは、独り言を大きな声で言ったが、机の反対側に座ったリューリアが一刀両断する。
「駄目です。うちにそんな余裕はありません」
「けどさリューリア、グレーシャが連れてた新人ども、結構良いやつを持ってたんだよ?」
「他所は他所、うちはうちです」
次女はとてもしっかり者だった。
アドラーは自分の仲間を大きく強化できる。
しかしもっと簡単に、人は攻撃力を倍増させることが出来る。
武器を使えば良い。
冒険者ギルドも、まずはこの法則に従う。
魔法で強化された武器を手に入れるのは、他人を強化できる術者を探すよりずっと簡単だ。
「レオ・パレスくらいの規模なら、自前で作ったりしてるかもなあ」
アドラーも簡単な魔法の付加なら出来るが、武器に使えるほどの信頼性はない。
「うちに魔術師を雇うようなお金もありませんからね」
リューリアが止めの釘を刺した。
「はいはい、分かってますよ」
さすがのアドラーも、武具を強化できる程の術者がこんなギルドに入るとは思ってない。
席を立ったアドラーに、ブランカが寄ってくる。
「行くのか?」
「うん、そろそろ行こうか」
アドラーとブランカ、それにミュスレアを加えた三人は、ギルド本部からダンジョンの調査を頼まれた。
先日の試験に使ったものとは別で、生きたダンジョンになってないか確かめてくれとの依頼。
「テレーザさんには頭があがらないな」
ライデン支部に根こそぎクエストを持っていかれたアドラーに、わざわざ用意してくれた。
テレーザは、もう一つ気になった情報もくれた。
「ギムレットさんや主力の方々、”宮殿に住まう獅子”の訓練施設で特訓してるらしいですよ」と。
アドラー達とのギルド会戦に備えて。
「良いの、そんな事まで教えてくれて? ひょっとして俺のこと……」
美人の受付嬢テレーザの過ぎた好意に、アドラーは期待を込めて尋ねた。
「なに言ってるんですか? ”宮殿に住まう獅子”の本拠は帝都ですからね! 幾ら稼いでも税金はライデン市を素通りですよ。だからアドラーさんには頑張ってもらわないと!」
とても現実的な理由での贔屓だった。
「なるほどね。グレーシャが新人の面倒を見て、ギムレットや腕の立つ奴らが居なかったのはそういう事か」
アドラーは落胆を隠して解説してみせた。
三人は、死んでるはずのダンジョン――新しく道や部屋が出来たり魔物を生み出したりもしない――を、丁寧に調べる。
「特に問題なさそうだな。ミュスレア、ブランカ、どうだった?」
二人も首を横に振る。
ダンジョン探索の基礎をブランカには教えるつもりだったが、この竜は勘も目も耳も素晴らしく良い。
もちろん、クォーターエルフのミュスレアも感覚は鋭い。
二人がそういうなら大丈夫だと、アドラーは調査を終わることにした。
家に帰ったアドラーは、扉に妙なものを見つけた。
一枚の紙切れが貼り付けてある。
ちょうどアドラーの胸高さで、なんだろうと覗き込んだとき、内側から勢いよく扉が開いた。
「あぶねっ!」
今度はアドラーも扉を避け、それと同時に思い出した。
紙を扉から剥がして読むと『人数増えてないか?』と書いてある。
「キャル、今日は誰か来た?」
出迎えに出てきたキャルルに、アドラーは聞く。
「今日は誰も来てないよ」
この森の家に来るのは、リューリアやキャルルの友達の子供ばかり。
大人には不気味に感じる場所だが、それでいて森で遊ぶ子供が危険な目に遭ったこともない。
古くから、”魔女の籠もる森”と呼ばれ大事にされている。
ミュスレア一家がその端に住みつくことが出来たのも、そういった事情があるからだと、アドラーは思っていた。
「以前も貼られてたんだが、この紙に見覚えないか?」
アドラーは、ミュスレアとキャルルに紙を見せた。
「あれ? これ、なんだっけ?」
ミュスレアは何かを思い出そうとする顔をした。
「ボクは知らないよ!」
嘘の下手なキャルルが逃げた。
『ひょっとして、キャルルに会いに来た女の子からか?』
アドラーは予想を立てる。
12歳くらいに見えるキャルルは、その年代の女子にも、少し上の女の子にも、さらに上のお姉様にも恐ろしくモテた。
シャイロックが身柄を押さえようとしたのも良く分かる。
だが本人は、同世代の男子に嫌われるのが怖くて女性を避ける。
以前、男同士の悩み事だと、アドラーは相談されたことがあった。
『ならば、ここは黙っておこう』
ろくな答えも出せなかった代わりに、アドラーは紙片を握り潰そうとした。
「あれ、これ変わった匂いがするぞ?」
いつの間にか、ブランカが紙に鼻を近づけていた。
「どれどれにゃ」
バスティもやってきて、くんくんと鼻を鳴らす。
「この森と……」
「薬の匂いもするにゃ」
「それと人の匂い」
「魔法混じりだにゃ」
女神と祖竜が、匂いだけで犯人をあぶり出そうとしていた。
「こっち!」
「こっちだにゃ!」
二匹は森の奥に向けて走り出した。
慌ててアドラーも後を追う。
「えっ、待って! ボクも行くよ!」
キャルルまで付いて来た。
人口十五万を誇る大都市ライデン。
その近所にしては静かで穏やかな森の中を、二人と二匹が駆け出した。
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