13 / 214
第二章
13
しおりを挟む面接会場は、ギルド本部となる。
複数ギルドの合同クエストや、新規ギルドの立ち上げに新人勧誘の場として貸し出している。
だが『何故だ!? なぜ誰も来ない!』
募集から2日、アドラーの元に加入希望者は現れなかった。
「宣伝が足りないかな……。シャイロックとの話がまとまれば、あちこちに貼ってみるか」
前世は動物好きの雇われ人だったアドラーに、会社を運営した経験はない。
ともあれ、まずは借金を何とかせねば始まらない。
踏み倒す気満々だったアドラーも、多少は心境が変わった。
いざと気合を入れてシャイロックの店に乗り込んだが、意外な結果が待っていた。
「あれ、今日は一人ですか?」
思わずアドラーの口から漏れた。
シャイロックは護衛も付けずにアドラーを迎え入れたのだ。
「あんさん相手に、ずらっと並べても意味ないですしな」
シャイロックは手段を問わぬ悪徳商人だったが、計算は高かった。
金の卵――クォーターエルフの3姉弟――を追いかけて、猛獣を敵に回すのは避けた。
「本部での人員募集は聞きしたで。一応、団長はんも本気のようなんで、わしも勉強させてもらいましたわ」
新人こそ来なかったが意外な効果をがあった。
シャイロックが新たに差し出した書面は次の通り。
一つ、次のギルド戦が終わるまで半年の利子は月に金貨1枚。
一つ、この間は元本の返済は無用。
一つ、その後は月に5%の利子になるが、一度でも滞ればアドラーはシャイロックの手下となる。
『悪くない』がアドラーの本音。
シャイロックの譲歩は、ボッコボコにするのを我慢したのを差し引いても、十分だと思った。
アドラーは半年もあれば何とかなると思っている。
一方のシャイロックは、返済が不可能ならば武力として手駒に加えたいとの判断。
なんと言っても、奴隷にしたとこでアドラーに大して価値はない。
即座に『ならこれで!』と言いたかったが、アドラーはぐっと堪えた。
「手下と言っても、業務内容も期間も書いてないですね?」
「団長はんのことを、ちと調べさせて貰いましたが、この街に現れるまでの一切が謎でしたわ」
シャイロックは質問には答えなかった。
「何処からいらしたかは、まあよろしいです。様々な人々が集まるのが自由都市ライデンですからな。わしの手下と言っても、無給でこき使ったりはしません。しかもきちんと身分ある方として扱わせて頂きます。どうでっしゃろ?」
半ば脅し、3日で調べ上げたカナン人の情報網にアドラーも静かに舌を巻く。
シャイロックの手下となれば暗黒街の武力担当になってしまうが。
『否応もなしか』
半年は好きにさせてやると提案してきたのだ、アドラーは条件を飲んだ。
アドラーが本当にぶん殴ってやりたい奴は別に居る。
帰り道で、アドラーは肩に乗せたバスティに語りかけた。
「やれやれ。商人ってのは恐ろしいなあ」
「にゃおん」
バスティは慰めるかのように、アドラーの頬を一つ舐めた。
ギルド本部へ立ち寄ったアドラーを、テレーザが手招きした。
「なんですか?」
「これ今入った依頼なんだけど、どう思う?」
差し出されたのは二つのクエスト。
・ガラガ村 村人を食殺したコボルトの処刑と報復。腕の立つ者。
・コボルトの村 ガラガの村で理由なく仲間が捕まった。救出の交渉役。
「同じ案件ですねえ」
「だよねー。どっちも安いのだけど、同時に解決出来れば報酬は二倍よ。それにね……」
テレーザの言いたいことを、アドラーは先回りした。
「コボルト族が人を食うはずがない。勘違いか、犯人は別にいる」
「そう、それ! アドラーさん、少数種族にも優しいでしょ。だからお願いできない?」
「よし、このアドラーが請け負いましょう!」
「ありがとうね!」
クエスト受領の合図として、テレーザが机上のベルを二度チンチンと鳴らした。
いよいよ、団長としての初仕事が決まった。
0
お気に入りに追加
655
あなたにおすすめの小説
狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~
乃神レンガ
ファンタジー
謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。
二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。
更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。
それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。
異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。
しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。
国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。
果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。
現在毎日更新中。
※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
アイスさんの転生記 ~貴族になってしまった~
うしのまるやき
ファンタジー
郡元康(こおり、もとやす)は、齢45にしてアマデウス神という創造神の一柱に誘われ、アイスという冒険者に転生した。転生後に猫のマーブル、ウサギのジェミニ、スライムのライムを仲間にして冒険者として活躍していたが、1年もしないうちに再びアマデウス神に迎えられ2度目の転生をすることになった。
今回は、一市民ではなく貴族の息子としての転生となるが、転生の条件としてアイスはマーブル達と一緒に過ごすことを条件に出し、神々にその条件を呑ませることに成功する。
さて、今回のアイスの人生はどのようになっていくのか?
地味にフリーダムな主人公、ちょっとしたモフモフありの転生記。
私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました
あーもんど
恋愛
ずっと腹違いの妹の方を優遇されて、生きてきた公爵令嬢セシリア。
正直不満はあるものの、もうすぐ結婚して家を出るということもあり、耐えていた。
でも、ある日……
「お前の人生を妹に譲ってくれないか?」
と、両親に言われて?
当然セシリアは反発するが、無理やり体を押さえつけられ────妹と中身を入れ替えられてしまった!
この仕打ちには、さすがのセシリアも激怒!
でも、自分の話を信じてくれる者は居らず……何も出来ない。
そして、とうとう……自分に成り代わった妹が結婚準備のため、婚約者の家へ行ってしまった。
────嗚呼、もう終わりだ……。
セシリアは全てに絶望し、希望を失うものの……数日後、婚約者のヴィンセントがこっそり屋敷を訪ねてきて?
「あぁ、やっぱり────君がセシリアなんだね。会いたかったよ」
一瞬で正体を見抜いたヴィンセントに、セシリアは動揺。
でも、凄く嬉しかった。
その後、セシリアは全ての事情を説明し、状況打破の協力を要請。
もちろん、ヴィンセントは快諾。
「僕の全ては君のためにあるんだから、遠慮せず使ってよ」
セシリアのことを誰よりも愛しているヴィンセントは、彼女のため舞台を整える。
────セシリアをこんな目に遭わせた者達は地獄へ落とす、と胸に決めて。
これは姉妹の入れ替わりから始まる、報復と破滅の物語。
■小説家になろう様にて、先行公開中■
■2024/01/30 タイトル変更しました■
→旧タイトル:偽物に騙されないでください。本物は私です
エロフに転生したので異世界を旅するVTuberとして天下を目指します
一色孝太郎
ファンタジー
女神見習いのミスによって三十を目前にして命を落とした茂手内猛夫は、エルフそっくりの外見を持つ淫魔族の一種エロフの女性リリスとして転生させられてしまった。リリスはエロフとして能力をフル活用して異世界で無双しつつも、年の離れた中高生の弟妹に仕送りをするため、異世界系VTuberとしてデビューを果たした。だが弟妹は世間体を気にした金にがめつい親戚に引き取られていた。果たしてリリスの仕送りは弟妹にきちんと届くのか? そしてリリスは異世界でどんな景色を見るのだろうか?
※本作品にはTS要素、百合要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※本作品は他サイトでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる