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第二章

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  面接会場は、ギルド本部となる。

 複数ギルドの合同クエストや、新規ギルドの立ち上げに新人勧誘の場として貸し出している。

 だが『何故だ!? なぜ誰も来ない!』
 募集から2日、アドラーの元に加入希望者は現れなかった。

「宣伝が足りないかな……。シャイロックとの話がまとまれば、あちこちに貼ってみるか」

 前世は動物好きの雇われ人だったアドラーに、会社を運営した経験はない。

 ともあれ、まずは借金を何とかせねば始まらない。
 踏み倒す気満々だったアドラーも、多少は心境が変わった。

 いざと気合を入れてシャイロックの店に乗り込んだが、意外な結果が待っていた。

「あれ、今日は一人ですか?」
 思わずアドラーの口から漏れた。
 シャイロックは護衛も付けずにアドラーを迎え入れたのだ。

「あんさん相手に、ずらっと並べても意味ないですしな」
 シャイロックは手段を問わぬ悪徳商人だったが、計算は高かった。
 金の卵――クォーターエルフの3姉弟――を追いかけて、猛獣を敵に回すのは避けた。

「本部での人員募集は聞きしたで。一応、団長はんも本気のようなんで、わしも勉強させてもらいましたわ」

 新人こそ来なかったが意外な効果をがあった。

 シャイロックが新たに差し出した書面は次の通り。
 一つ、次のギルド戦が終わるまで半年の利子は月に金貨1枚。
 一つ、この間は元本の返済は無用。
 一つ、その後は月に5%の利子になるが、一度でも滞ればアドラーはシャイロックの手下となる。

『悪くない』がアドラーの本音。
 シャイロックの譲歩は、ボッコボコにするのを我慢したのを差し引いても、十分だと思った。

 アドラーは半年もあれば何とかなると思っている。
 一方のシャイロックは、返済が不可能ならば武力として手駒に加えたいとの判断。
 なんと言っても、奴隷にしたとこでアドラーに大して価値はない。

 即座に『ならこれで!』と言いたかったが、アドラーはぐっと堪えた。

「手下と言っても、業務内容も期間も書いてないですね?」

「団長はんのことを、ちと調べさせて貰いましたが、この街に現れるまでの一切が謎でしたわ」
 シャイロックは質問には答えなかった。

「何処からいらしたかは、まあよろしいです。様々な人々が集まるのが自由都市ライデンですからな。わしの手下と言っても、無給でこき使ったりはしません。しかもきちんと身分ある方として扱わせて頂きます。どうでっしゃろ?」

 半ば脅し、3日で調べ上げたカナン人の情報網にアドラーも静かに舌を巻く。
 シャイロックの手下となれば暗黒街の武力担当になってしまうが。

『否応もなしか』
 半年は好きにさせてやると提案してきたのだ、アドラーは条件を飲んだ。
 アドラーが本当にぶん殴ってやりたい奴は別に居る。


 帰り道で、アドラーは肩に乗せたバスティに語りかけた。
「やれやれ。商人ってのは恐ろしいなあ」
「にゃおん」

 バスティは慰めるかのように、アドラーの頬を一つ舐めた。


 ギルド本部へ立ち寄ったアドラーを、テレーザが手招きした。

「なんですか?」
「これ今入った依頼なんだけど、どう思う?」

 差し出されたのは二つのクエスト。
・ガラガ村 村人を食殺したコボルトの処刑と報復。腕の立つ者。
・コボルトの村 ガラガの村で理由なく仲間が捕まった。救出の交渉役。

「同じ案件ですねえ」
「だよねー。どっちも安いのだけど、同時に解決出来れば報酬は二倍よ。それにね……」

 テレーザの言いたいことを、アドラーは先回りした。
「コボルト族が人を食うはずがない。勘違いか、犯人は別にいる」

「そう、それ! アドラーさん、少数種族にも優しいでしょ。だからお願いできない?」

「よし、このアドラーが請け負いましょう!」
「ありがとうね!」

 クエスト受領の合図として、テレーザが机上のベルを二度チンチンと鳴らした。

 いよいよ、団長としての初仕事が決まった。
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