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第三章
名前
しおりを挟む19層には冒険者のキャンプがある。
24層にもあるらしい、つまりボスの一つ手前の階だ。
子連れの冒険者は目立ったが、隅の方でかまどを借りた。
「ほら、ご飯だぞ」と椀を差し出すと、シースがかぶりつく。
どうやら、一日で十二層も降りてだいぶ疲れたようだ。
「美味しいか?」
「うん、美味しい!」
育ち盛りだどんどん食べろ。
「ユウタ、あのね……ごめんなさい。ボク、すぐに疲れちゃって……」
実のところ、そんなことはない。
むしろシースはかなりタフで、身軽でよく走った。
女神の加護がなければ、俺なんて十層あたりでバテてるだろう。
「道を教えてくれて助かったよ、ありがとうな」
本心からお礼を言うと、シースは嬉しそうに頭を寄せた。
短く尖った髪を丁寧に撫でてやると、子猫のように笑う。
『力を別けてやれれば良いのだが……』
たぶん俺が人に授与するのは無理だろう、女神さまだから出来ることだ。
「シースのお陰で、明日には20層は突破する。それから2日もあれば30層まで行ける。その先はちょっと危ないかも知れないから、隠れててね」
シースは小さく頷くと、一気にメシをかきこんでからいった。
「おかわり!」
お腹いっぱいになった俺達は、焚き火を小さくして眠りにかかる。
毛布にくるまれたシースが、もぞもぞと近寄ってきた。
「一緒に寝ていい?」
「シースは甘えん坊だなあ」と言ったが、これも失言だった。
「……甘えたことないから、よくわかんない」
目を伏せてしまったシースを引っ張り寄せて枕になってやると、俺の毛布に顔をうずめる。
もう寝なさいと軽く背中をぽんぽん叩く、明日も沢山走ってもらうからな……。
が、シースは寝る前に大きな目をくるりとこちらに向けた。
「ねえ、シースってのやめてくれない? ユウタに『お姉ちゃん』に言われるとおかしな気分になる」
それは悪いなあと思うが、名無しなんだよなあ、シースは。
「小さい頃はなんて呼ばれてたの。ほら、みんなのお姉さんになる前」
「仲間にはトラドって呼ばれてた。ボクの髪色から」
シースはつんつんと自分の前髪を引っ張る。
髪の色は落ち着いた茶色、亜麻色よりは少し濃い。
「胡桃(くるみ)色かな? とても綺麗だよ」
それを聞いた彼女の顔がぱっと明るくなる。
「くるみ? くるみって食べ物?」
「食べれるし、大きな木だ」
「あのね、わたしね、名前が欲しいの」
いきなりなお願いだった。
突然、女言葉に変わってそんなことを言われたので心臓が止まるかと思った。
「くるみって貰ったらダメ?」
彼女はおずおずとした態度で聞いてきた。
俺の世界では”名前”は大事なものだし、この世界でも……。
ひょっとしたら、彼女を産んだ母親は名付けたかも知れないが、それを知る術がない。
「くるみは俺の世界でも名前に付けたりするけど、自分で選んでも良いんだよ?」
「ユウタの国の言葉がいい。ユウタだって変な名前だよ? けど変わった響きだから」
しばし、顔と髪を交互に見ながら考えた。
凄く期待されているのが分かる。
他の名前は……やめておこう、なんたって俺はネトゲに本名登録するほどセンスがないのだ。
「よし、クルミ。今日からお前はクルミだ。その髪とそっくりな色をした、大きな立派な木から貰った名前だ」
ごろんと転がったシース改めクルミは、毛布を被って何度も自分の名前を呟いていた。
異世界人の俺には”シース”って響きは良く聞こえたが、”姉”のままではかわいそうだ。
祖国では平凡な名前でも、この子が気に入ってくれたならそれで良い。
何時の間にやら寝付いたクルミを眺めていると、女神さまにもらったスキルの一つが発動した。
何事かと情報を読み取ると――<<名付け>>――と出た。
『なんだこりゃ?』と思ったが、女神さまクラスになると名前を授けるのは力を与えると同義らしい。
ひょっとしてと思い、俺の預かってる力の一部を”クルミ”へ……簡単に移す事ができた!
俺が預かる力は、通常モードの女神さまの極々一部。
さらにその数%を与えたところで、大目に見てもらえるだろう。
攻撃的になっても困るし、防御系や身体強化を少しだけ”名付け子”に与えることにした。
朝になると、クルミが飛び跳ねていた。
「ユウタ、体が軽い! 凄いやなんで!?」
「ちょっとだけ強化の魔法をかけた。たぶん短い期間だぞ」
「それでも良いよ。これで遅れずについて行けるもん!」
体力十倍といった感じで、クルミが先に立って走り出す。
さすが子供だ体が軽い、下手すると俺が置いていかれそうだ。
あっという間に、第二十層も第二十五層のボスも突破する。
かなりの人数が集まって戦い、危うい場面もなかった。
三十層の手前のキャンプでは、そこから先へ進む冒険者は居なかった。
全部で33階だから仕方ない。
さてと、最後の門番を倒して、裏ボスへ挑みますか。
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