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第二章
永遠の記憶
しおりを挟む「ただの依代が意思を取り戻したところで!」
ティルが絶叫のままに攻撃を続ける。
だが、全て半分も届かずに消える。
女神さまは周囲を一度見渡してから、裸のままペタペタと歩き出した。
「なんだきさま!?」
ティルの顔に怯えが浮かぶが、お前も知ってるだろう”女神”だよ。
ただし神の力を借りた人間でなく本物だけどな。
ティルは、まだ抵抗した。
自身の武器、弓矢に力を乗せて全力で撃ち出したが、それは1メートルも飛ばずに地面に落ちた。
「う~ん、まずはわたしの分を返してもらおう」
眼の前まで歩いていった女神さまは、そう宣言するだけでティルから力を取り上げた。
次に、ヴィルクォムの石を起動させるのに使われた魂を解き放つ。
暴れ狂っていた彼女の身体から、何十条もの光の帯が立ち上る。
「お主の弟妹、それに両親や一族ともに正しく輪回の道に入ったぞ。安心するが良い」
女神さまは、とても優しい笑顔をティルに向けた。
多くの力を吸い込んだ彼女には、宇宙も生み出せる神の勢威と、その言葉が心からのものと分かるだろう。
若いエルフは、がくりと膝を折り泣き出した。
絶望からなのか、支配から解き放たれた安堵か、それとも後悔か――俺に知るよしもない。
「……私の身にこれが宿った時、最初に弟を殺しました。これまで殺めた人数は百を超えます。どうか……あなた様の手で……我が身ごと消し去ってください」
ティルは女神さまの足に口づけにするようにして頼んだ。
「えー、うん。ゆうた、ちょっと来い」
珍しく女神さまが困っている、そういうお願いは初めてなのか。
「どうすれば良いと思う?」
あっさり消滅させてめでたし、なんてやる気がないのは俺にも分かる。
「とりあえず、ヴィルクォムの欠片を取り出してやるのはどうです? そうすりゃ元に戻って静かに生きるでしょう」
座り込んだまま、幼子のように泣き続けるティルが顔をあげて俺を見る。
嗚咽混じりの声のまま、俺に尋ねた。
「ユウタ……いえ……あなた達は、いったい何なの……?」
旅の女神とその下僕だよ、と言って良いのか分からないので隣を見た。
するとご主人様は何を勘違いしたのか、代わって自己紹介を始めた。
「わたしの名前は<<○△&#%>>だ。最近はめがみんとも呼ばれているぞ」
だから理解できませんってば!
「それでこっちは、わたしのしもべ……いや、今回に限ってはわたしの代理だ!」
やった昇進してた! 素直に嬉しい。
「神の代理人……? ただの打たれ強いオスではなかったのですね……」
口調は丁寧になっても、この雌エルフの口が悪いのはデフォだった。
「まあよい、ちょっと石とやらを見せてみろ」
女神さまが命じると、ティルは胸元を大きくはだけさせた。
これはでかい……!
深い谷間の上部には、こぶし程の大きさの石とも金属とも言えぬ物体が埋め込まれている。
「これではお情けを頂いて生き恥を晒そうとも、同衾することも叶いません。孤独に死ぬなら今ここでいっそ……」
いやーそれくらいなら、我慢する男は大勢居ると思うぞ。
それ以外は一級品だし。
「ふーむ、中の臓器と繋がっておるなあ。取ると死んじゃうね」
女神さまの見立ては割と絶望的だったが。
「ゆうた、それに手を当てろ。わたしは触りたくない」
「え、良いんですか?」
思わず、座って見上げるエルフの胸元を凝視してしまった。
恥辱からか、長い耳が赤く染まる。
「放って置くわけにもいかんだろ、さっさとせい」
「女神さまの命令だからね? いやらしい気持ちじゃないよ?」
しっかりと言い訳をして、抵抗しないのを確認してから胸の間に手を突っ込んだ。
「動くなよ」と言ってから、女神さまが俺の背中に手をあてた。
俺はクッションですか。
施術はすぐに終わった。
「それはあと五千年は目覚めることはない。そなたが土に還った頃、また取りに来よう」
要するにこの世界で死ぬまで生きろってことだな、これにて一件落着だ!
と思ったのだが、ティルが意外なことを言いだした。
「わたくしめを、お連れ下さい」と、俺を押しのけて女神さまの足にすがって懇願する。
この世界で生きるのはつろうございますと言ってるが、それは本音でも涙の半分くらいは嘘泣きだな。
だが『お側でわたしが死ねば石を取り出して下さい。もうお手数はおかけしたくありません』
この一言が効果的だった。
「まあ良いよ。3人も4人も一緒だし」
許可が出る、ご主人様が決めたなら仕方ないなあ……。
しかしこれで、俺に女神さま、馬とエルフとミニゴブリンと、定番っぽい一組になったわけだ。
最後、倉庫を出る時に、女神さまが近くへきて話してくれた。
「お前たちの一生は、わたしからすれば瞬きみたいなもの。だから幾ら増えても構わない。だがゆうた、お前のことは永遠に覚えててやるぞ」と。
俺は、良いご主人様に巡り会えたようだ。
一気に二人も増えたが、張り切って次の世界に向かう。
なんといっても、一番の下僕は俺だから。
二章 完
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