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第二章
女神の弱点
しおりを挟むもう動けない。
生身なら軽く五十回は死んでた。
つまり五十戦分の経験を、俺は一晩で積んでしまった……だといいなあ。
まあ、猫に弄ばれたネズミが強くなるかと言えばそんな事はないが。
女神さまとユニコがやってきて、水をくれた。
喉がカラカラだったことに気付き、脇目もふらずに飲み干した。
「よく頑張ったな、偉いぞ!」
満点の笑顔で女神さまが褒めてくれる。
褒めて伸ばす上司に当たるのは初めてなので、素直に嬉しい。
俺もユニコを褒めてやる。
「女神さまを守り通したな、偉いぞ!」
しかし、この馬は当然だろといった目で見下しやがった。
お前、分かってんのか?
女神さまの一番の下僕は俺で、二番目がお前だぞと。
一息付いたところで、助けてくれたエルフがやってくるのを待つ……待つのだが、近くの丘まで来て目を伏せてしまった。
「えーっと、怪しい者じゃないですよー? さっきはありがとうございましたー!」
大声で呼びかけても、寄ってこない。
なんだろ、俺の方を指さしてるな……。
『ぶひひん』と笑いながら、ユニコが体を擦り付けてくる。
やめろ! 素肌に馬肌がこすれる感覚が……!
んん……? やっと気付いた。
重量級のモンスターに蹂躙された俺は、服なんて微塵も残ってない。
ズタボロになっても股間部だけが無事ってのは、漫画的な嘘だと知った。
服を着ると、ようやくエルフが近づいてくる。
女神さまは、俺が全裸でもまったく気にしない。
たぶん自分が全裸でも気にしないと思う……今度、試してみよう。
やっと会話に入れた。
「ほんとに、すいません。わざとじゃないんです……」
「あ、いえ。仕方ないですよね、あの状況では……」
「あの、先程は助かりました」
「わたしは特になにも。それにしても凄いですね、ドゥジャルダ相手に無事だなんて」
さっきの怪物は、ドゥジャルダというそうだ。
この辺りでは最強のモンスターで、昼間は水辺でごろごろしてるのだとか。
それにしても、噂に違わずエルフってのは美人だな。
目鼻立ちはくっきりしてるのにキツすぎない。
ピンクブロンドが自然に似合うってあり得ないな、胸も大きいし。
「そりゃ人気にもなるわ……」
「え?」
いやいや、何でもないです!
つい前世の記憶が邪魔をして!
「そなた、名前は? わたしはめがみん、そう呼んでいいぞ!」
女神さまも会話に混ざる。
「こっちがゆうたで、こっちがユニコ。どっちも役に立つぞ!」
感無量。
わたくしめ如きが役立つなどと……それにユニコよりも先に紹介されたし。
「あ、すいません。申し遅れました、わたしはティル・クゥといいます。訳あって旅をしてまして」
エルフのティル、そう名乗った。
『女の一人旅は危険でしょう、一緒に行きませんか?』と、言いたい。
心の底から言いたいのだが、先ほど丸出しを見せた男に誘われて、付いてくるわけがない。
迷う下僕に、ご主人様が助け舟を出してくれる。
「なあ、この辺はさっぱりなんだ。案内してくれないか?」
「ええ、構いませんよ。わたしもそろそろ、街へ行こうと思ってたんです」
トントン拍子に話は進み、ティルが同道してくれることになった。
本当に助かる。
「ところで、あんなところで何をしてたのですか?」
いやーそれは答え辛いなあ……。
何と言うのが正解なんだろうか。
悩んでいると、女神さまが馬上から俺の髪を引っ張る。
「ゆーたゆーた、かゆいのだけど、これなんだ?」
見ると、女神さまの腕に赤いポチが。
「あーこれは虫さされですね。野営したから仕方ありません」
まあ今の俺の体は、虫の針なんて通さない強度だけど。
「どうすれば良いのだ?」
虫に刺されるなんて、女神さまにとっては初体験か。
「こう爪でですね……そう、ばってんを付けておくんです」
「うーん、余り効かぬぞ?」
「その内にかゆみも引きますから」
かきむしると、女神さまの珠のお肌に傷がついてしまう。
虫さされの薬は、流石に持ってない。
すると、女神さまはぺろりと刺され跡を舐めた。
「こっちの方が効くな」と。
「だ、駄目ですよ! 子供じゃないんですから!」
「だって、かゆいもん」
絶対無敵で全能に近いご主人様が、虫さされなどに翻弄されるとは……。
知らないぞ、世界中から虫が消えても。
「ゆーた!」
「はい、なんでしょうか」
「足も刺されてる」
「足?」
『ここ』と女神さまが見せたのは、太ももの内側だった。
お、お、御御足を広げて見せるなんて、なんてことを!?
これには、俺も絶句してしまう。
「届かない。舐めてくれ」
「な、な、何をおっしゃるのですか!?」
お父さん、怒りますよ?
「くすくす」と、ティルの笑い声が聞こえた。
「仲が良いですね。ご兄妹ですか?」
いえ、全然違いますけど。
「わたしにも弟妹が居たんですけど……」
返事は待たずに、ティルは悲しい目になった。
女神さまがこの世界に呼ばれた理由に、関係ありそうだと俺は思った。
遥か地平に、ようやく人の作った建物が見える。
今夜の野宿は避けられそうだ。
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