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四章
悪魔の会議
しおりを挟むジヤヴォール――魔王の軍団長――は、軍勢を集めた。
混沌の時代を予感してか、多数のノートリアスデモンが呼びかけに応えた。
悪魔にも、様々な者がいる。
ジヤヴォールの知り合いは、いささか世俗的な者が多かった。
「わしは大元帥と名乗ろうか」
「ならば、わしは大神官じゃ」
「おい、四天王は決めぬのか?」
悪魔の同窓会は、盛り上がっていた。
だが中には、その空気に不満な者もいる。
古き神々が直接地上に恩恵をもたらし、人族が繁栄したせいで、出番のない新興の神々の眷属。
この者どもは、これを機会に人族を全滅寸前まで追い込みたかった。
「おいジヤヴォール、貴様の話には乗る。我らが好きに天罰を下して良いのだな?」
過激派の一柱がジヤヴォールに問うた。
「やってくれるなら構わんが、良いのか?」
悪魔にとって直接手を下すのは最後の手段。
地上の者、魔物を上手く使うことこそ悪魔の美学。
「もちろんだ。我が神を崇めぬ者など死ぬが良い」
セラフのガブリエルは言い切った。
古い神を信じる人族が減れば、天界での勢力図も動く。
ジヤヴォールの育てる魔王がもたらす混乱は、ガブリエルにとって願ったりだった。
『神と呼ばれたい欲望が強いのか。青いな』と、ジヤヴォールは思ったが、ガブリエルの攻撃性の強さは好ましい。
「ここらへんを頼む」
ジヤヴォールは地図の西の端を示した。
「引き受けよう」
即答したガブリエルは、六枚の翼を広げ魔王城を出ていった。
若者は行ったが、古い悪魔どもは何ら動く様子がない。
「お前らも働けよ」とのジヤヴォールの呼びかけも、長い耳を折って聞こえぬふり。
「ジヤヴォール、魔王とやらを見せてくれ」
一人の悪魔が頼んだが、ジヤヴォールは魔王を独占したかった。
「代わりに良いものを見せてやろう」と誤魔化して、魔王の産んだ卵を見せた。
「二つある。これを人の多いところへ運ぶ。何が起きるか見たいだろう? だから人を減らすのを少し手伝ってくれ」
「ほう、これはなかなか……」
「身分けしてこれとは、期待の持てる」
「よかろう。乗ったぞ」
更に数体の悪魔が城を出た。
各地に住み着く魔物を使い、新しい血を流すために。
『ようやく面白くなってきた』
ジヤヴォールも満足する。
悪魔の悦びは、地上に住む者の不幸に繋がる。
今回の標的は、生存圏を広げすぎた人族と、それに加担する種族。
百年に及ぶ混乱と戦乱の時代が、この時から始まった。
文明圏に襲い来る危機を、ユークはまだ知らない。
いや、既に知っていたのがユーク達、東方の部族や国家。
これからは、中央と西方が惨禍の舞台になる。
ユークは、コルキスに行く準備にかかった。
資金さえあれば、あと五ヶ月ほど自由に動ける。
これまでの様に、行く先々で盗賊を狩ったり、依頼を受けることもなくなる。
「ねえ、幾らある?」
ミグが右手を差し出す。
その仕草が”はしたない”と思いつつも、宰相はその手に革袋を乗せる。
「ユーク、これ」と、そのまま投げて渡した。
流石に、家臣の前で金貨を数えるのは、世俗に染まったミグにも恥ずかしかった。
「うーんと、ニ百枚はある……大金だ」
ざっと数えたユークがこたえる。
一般兵士の年俸が金貨で6枚程度、腕の良い職人で年に20~30枚だから、通常の路銀としては申し分なかった。
「ドワーフから武具を買って、船や馬も借りてとなると厳しいかな」
金貨ニ百枚を、全部持ってくわけにはいかない。
老人たちの帰国用もあるし、ユーク達の手持ちと合わせても足りるとも言えない。
「ふーん。じゃ、他にもあるでしょ? 出しなさい」
王女の無心に、宰相は常に抱えていた鞄をさらに抱きしめる。
ミグは当然それに目を付けていた。
「姫様! こればかりは! 陛下と王妃様が残した形見とも呼べるものですぞ」
「いいから。まあまあ、とりあえずここに出してみて?」
渋々といった感じで宰相が取り出したのは、王女の宝冠。
それも儀式の為――結婚式用――に造られた豪華な逸品。
「これ、幾らで売れるかしら?」
周りに値段を尋ねるミグに対して、老人達は必死で首を振る。
王族が宝冠を売るなど前代未聞、それも式用にあつらえた姫の象徴とも言えるティアラを未使用で。
『自らが死ねば姫様が思いとどまるなら、喜んで死ぬ』
全員が共通した思いだった。
老臣の心情を察したミグが短く諭す。
「ばかねぇ、宝石は食えないじゃないの。これなら数千人分か、それ以上の冬越しの食料になるわ」
姫様の変わらぬ優しさと覚悟を耳にして、老臣達は泣いた。
それを放置して、ミグはユークとノンダスと作戦会議を始めた。
「せっかく売るんだから、高く売らないとな」と、ユークも知恵を絞る。
おおよそはノンダスの提案通りになったが、作戦が決まる。
「ちょっと。これでこの街で一番良い宿の一番良い部屋を取ってきて。それから、今から宰相の書く文を、この街の宝石商や商人に回してちょうだい」
お供の一人に、金貨の詰まった革袋を投げながらミグが命令した。
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