神の血を引く姫を拾ったので子供に世界を救ってもらいます~戦闘力『5』から始める魔王退治

六倍酢

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四章

悪魔の会議

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 ジヤヴォール――魔王の軍団長――は、軍勢を集めた。
 混沌の時代を予感してか、多数のノートリアスデモンが呼びかけに応えた。

 悪魔にも、様々な者がいる。
 ジヤヴォールの知り合いは、いささか世俗的な者が多かった。

「わしは大元帥と名乗ろうか」
「ならば、わしは大神官じゃ」
「おい、四天王は決めぬのか?」
 悪魔の同窓会は、盛り上がっていた。

 だが中には、その空気に不満な者もいる。
 古き神々が直接地上に恩恵をもたらし、人族が繁栄したせいで、出番のない新興の神々の眷属。
 この者どもは、これを機会に人族を全滅寸前まで追い込みたかった。

「おいジヤヴォール、貴様の話には乗る。我らが好きに天罰を下して良いのだな?」
 過激派の一柱がジヤヴォールに問うた。

「やってくれるなら構わんが、良いのか?」
 悪魔にとって直接手を下すのは最後の手段。
 地上の者、魔物を上手く使うことこそ悪魔の美学。

「もちろんだ。我が神を崇めぬ者など死ぬが良い」
 セラフのガブリエルは言い切った。

 古い神を信じる人族が減れば、天界での勢力図も動く。
 ジヤヴォールの育てる魔王がもたらす混乱は、ガブリエルにとって願ったりだった。

『神と呼ばれたい欲望が強いのか。青いな』と、ジヤヴォールは思ったが、ガブリエルの攻撃性の強さは好ましい。

「ここらへんを頼む」
 ジヤヴォールは地図の西の端を示した。

「引き受けよう」
 即答したガブリエルは、六枚の翼を広げ魔王城を出ていった。

 若者は行ったが、古い悪魔どもは何ら動く様子がない。
「お前らも働けよ」とのジヤヴォールの呼びかけも、長い耳を折って聞こえぬふり。

「ジヤヴォール、魔王とやらを見せてくれ」
 一人の悪魔が頼んだが、ジヤヴォールは魔王を独占したかった。

「代わりに良いものを見せてやろう」と誤魔化して、魔王の産んだ卵を見せた。

「二つある。これを人の多いところへ運ぶ。何が起きるか見たいだろう? だから人を減らすのを少し手伝ってくれ」

「ほう、これはなかなか……」
「身分けしてこれとは、期待の持てる」
「よかろう。乗ったぞ」
 更に数体の悪魔が城を出た。
 各地に住み着く魔物を使い、新しい血を流すために。

『ようやく面白くなってきた』
 ジヤヴォールも満足する。
 悪魔の悦びは、地上に住む者の不幸に繋がる。
 今回の標的は、生存圏を広げすぎた人族と、それに加担する種族。

 百年に及ぶ混乱と戦乱の時代が、この時から始まった。

 文明圏に襲い来る危機を、ユークはまだ知らない。
 いや、既に知っていたのがユーク達、東方の部族や国家。
 これからは、中央と西方が惨禍の舞台になる。


 ユークは、コルキスに行く準備にかかった。
 資金さえあれば、あと五ヶ月ほど自由に動ける。
 これまでの様に、行く先々で盗賊を狩ったり、依頼を受けることもなくなる。

「ねえ、幾らある?」
 ミグが右手を差し出す。
 その仕草が”はしたない”と思いつつも、宰相はその手に革袋を乗せる。

「ユーク、これ」と、そのまま投げて渡した。
 流石に、家臣の前で金貨を数えるのは、世俗に染まったミグにも恥ずかしかった。

「うーんと、ニ百枚はある……大金だ」
 ざっと数えたユークがこたえる。
 一般兵士の年俸が金貨で6枚程度、腕の良い職人で年に20~30枚だから、通常の路銀としては申し分なかった。

「ドワーフから武具を買って、船や馬も借りてとなると厳しいかな」
 金貨ニ百枚を、全部持ってくわけにはいかない。
 老人たちの帰国用もあるし、ユーク達の手持ちと合わせても足りるとも言えない。

「ふーん。じゃ、他にもあるでしょ? 出しなさい」
 王女の無心に、宰相は常に抱えていた鞄をさらに抱きしめる。
 ミグは当然それに目を付けていた。 

「姫様! こればかりは! 陛下と王妃様が残した形見とも呼べるものですぞ」
「いいから。まあまあ、とりあえずここに出してみて?」

 渋々といった感じで宰相が取り出したのは、王女の宝冠ティアラ
 それも儀式の為――結婚式用――に造られた豪華な逸品。

「これ、幾らで売れるかしら?」
 周りに値段を尋ねるミグに対して、老人達は必死で首を振る。
 王族が宝冠を売るなど前代未聞、それも式用にあつらえた姫の象徴とも言えるティアラを未使用で。

『自らが死ねば姫様が思いとどまるなら、喜んで死ぬ』
 全員が共通した思いだった。

 老臣の心情を察したミグが短く諭す。
「ばかねぇ、宝石は食えないじゃないの。これなら数千人分か、それ以上の冬越しの食料になるわ」

 姫様の変わらぬ優しさと覚悟を耳にして、老臣達は泣いた。
 それを放置して、ミグはユークとノンダスと作戦会議を始めた。

「せっかく売るんだから、高く売らないとな」と、ユークも知恵を絞る。
 おおよそはノンダスの提案通りになったが、作戦が決まる。

「ちょっと。これでこの街で一番良い宿の一番良い部屋を取ってきて。それから、今から宰相の書く文を、この街の宝石商や商人に回してちょうだい」
 お供の一人に、金貨の詰まった革袋を投げながらミグが命令した。
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