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四章
新たなる希望
しおりを挟む相変わらず、サラーシャのユークを見る目はきつい。
そして長いスカートの中から、一対のナイフを取り出す。
「そ、そんな強引な。それに俺はまだ何も……」
していない、とはユークも言えなかった。
寸前まで襲ったことがある。
「ユーク、傷つけたりしないでね」
ミグの中では、兄の評価が下がった分、ユークの評価が戻っていた。
今の所、彼女の中で比較出来るのがこの二人だから仕方がない。
両手に刃物を持った素早いメイド。
戦った事のないタイプで、手加減をしろとも言われる。
ユーク自身はかなりの不安があったが、戦いに置き続けた体はしっかりと反応してくれた。
戦いはあっさり終わった。
ユークは、剣を抜かずにサラーシャの取り出したナイフを鞘で受ける。
「抜きなさい!」と言われ剣を構えると、受けたナイフの刃をそのまま切り落とした。
「熱っ!」と、サラーシャはナイフを取り落とす。
サラーシャにはまだ信じられないが、火神の剣がこの少年に力を貸していた。
「まさか……ですが、仕方ありません。ミルグレッタ様が夢中になるのも無理はないかと」
「ん? ちょっと、ちょっと待って! 違うわよ、別にわたしはユークのことなんて」
騒ぎ出したミグをノンダスが途中で止めた。
「ミグちゃん、良く考えてみて。どうしてあの方達が、ここまでたった十人で来たのか。このまま別れて良いと思う?」
しばらく、ミグは考えた。
それからサラーシャの表情を見て、三人を振り返る。
「ごめん、一度中に戻って良い?」
ミグもようやく気付く。
冒険者ギルドの一室では、四人のお供が五人の老人の介護をしていた。
ミグはその四人、たった四人に声をかける。
「いいわよ、あなた達もそこに居て」
何故にミグを他国へ追いやるか、ミグにも予想が付いた。
もし本気でミグを探してどうこうするなら、この十倍は連れて来て、この先の護衛に付ける。
それが出来ない事情が、本国にはある。
「何が起きたの? 隠さず話してちょうだい」
ミグが忠実な臣下を問い詰める。
執事長がサラーシャを見たが、彼女は首を横に振った『話してない』と。
だがミグはおおよそ察しは付いていて、もう一度問う。
「わたしだけが安全なとこへ行くわけないじゃない、さあ話して」
五人の老人は互いに視線を交え、覚悟したかのように執事長が口を開いた。
「王都メデイアにおいて、異変がございます。五年前から瘴気に飲まれ、魔物がはびこり、近づくこともなりませんでしたが、その中心部に異様な物が育っておりました。それは、探索から戻ったものによれば、脈打つ卵のようであったと」
執事長は顔を上げ、もう一度王女に懇願した。
「国の魔術師、占い師、文献等で総当たりしましたが、答えは得られませぬ。ですが、あと一年ほどで『コルキス』の未来は潰えると、どの占い師も申しております! それが残った国土か王家のことか分かりませぬが、せめて姫様だけでも遠くへ避難していただけますよう、重ねてお願いを!」
老官達は、口々に王女へ嘆願する。
兵も人も財も避けぬが、かつての高官達だけがミグを探す。
嫁ぐ先は何処でも良い、せめて安全な地で血を残して欲しい、ただそれだけの為に。
直立したまま臣下を見下ろしていた王女は、とても優しい声で言った。
「馬鹿ね。貴方たちがいくら隠しても、その噂を聞けばわたしは夫をベッドから蹴り出して駆けつけるわよ。もしも、知らずに残ったみながそれに飲まれたら、一生許さないところよ?」
それでも今度は宰相がすがる。
「ですが、あれは超常の物ではございません。人に太刀打ち出来ぬものに、ミルグレッタ様を捧げるわけにはいきません。ええ、絶対にさせませぬ! ……せめて、王子がいらっしゃれば」
最後は、ふと漏れた老人たちの本音。
アレクシスを失った今、希望はないと確信していた。
「心配しないで、わたしは死なないわ。それに兄様の代わりは居るわ」
ミグは、今でも少年がアレクシスに遠く及ばないと知っている。
しかし、この先はひょっとしたらと僅かに願っていた。
そして、一人では無理でも四人ならばとの希望が、彼女を支えていた。
振り返った時に見た顔で、既に答えを得たが、ミグは声に出して頼んだ。
「ノンダス、ラクレア、ユーク……お願い、助けて」
「当たり前だろ、俺に任せろ」
何の根拠もないが、ユークは絶対の自信で請け負った。
これまで戦った目の前の敵や、遠くに見据えていたものの、具体性のない魔王とも違う目的。
初めて得た一つの大目標だった。
不思議と体に気力がみなぎる、握りしめた剣からも力が溢れ出す。
『一年、いや半年以内に、俺は強くなる』
ユークは今この時に、確固たる信念を得た。
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