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三章
隣の新大陸
しおりを挟む「駄目ね、あの剣に頼りすぎ。相手の武器を狙うクセが付いてるわ」
洋上での特訓は続く。
木剣を使った対戦となると、ユークはまだまだノンダスに敵わない。
剣を受ける位置と、足運びだけで次の一手が苦しくなる。
「36戦36敗ね」
「けど最近は、ノンダスさんからも仕掛けるようになりましたよ。ユークさま、がんばです!」
豪華客船よろしく寛ぐミグとラクレアが、適当に応援する。
大きく膨らみかけたユークの自信が、また萎みかけた。
「ちょっと、そこのあんた。こっちきて相手しなさい」
「へっ? 俺が兄貴とですか?」
船に飛び乗って来た冒険者、ノンダスは彼らに声をかけた。
木剣での戦いでも、瞬殺とはいかぬもユークが押せる。
ノンダスにやられた事を、そのまま冒険者にやり返す。
何のことはない、相手が攻撃し難い場所、こちらが攻撃し易い場所へと、剣を受け流しながら移動するだけ。
「そうよ、それよ。主導権を握るってのは、そういうことよ。まず相手を良く観察する。一対一でも、多数での戦いでも、それが基本よ」
並の冒険者なら完勝するところまで来た愛弟子に、ノンダスも満足気だった。
「いやー兄貴も強いっすけど、旦那は相当なもんっすね。やっぱあちらのお嬢様方も、滅茶苦茶なんですかい?」
冒険者の一人が、気さくに話しかける。
一戦交えたとはいえ、冒険者同士の気楽さがあった。
「そうだなあ、あっちの二人は……化け物だよ」
ユークは言葉を選ばなかった。
寝椅子に日傘、そこで椰子の果汁を飲んでいたいたミグが、右手に持っていた固い実を投げつける。
ユークは、怒りの一投を簡単に受け止めた。
航海は、順調だった。
南方の水平線に、メガラニカ大陸が見えた。
ユークの故郷、北の大地は東西に長いが、こちらは南北に長い。
クルガンとは違う文化圏とも、同じ祖先だとも言われている。
比較的温暖な北岸を埋めるように、国と都市が並ぶ。
メガラニカ諸国の一つ、イリフーキア国の外港、パドルメにユークの船は近づいた。
港の街並みが見える辺りまで寄ると、一艘の船がやってくる。
細身のガレーを、船長が判別した。
「ありゃ軍船だな……」
奴隷推進の戦闘艦は、一直線に漕ぎ寄せると、”乗船を許されよ”との合図を出した。
船長も仕方なく応じる。
切り込み用のはしごを伝い、見るからに軍人といった一団が乗り込んできた。
指揮官らしき男が、緊張を和らげるように兜を取った。
メガラニカ大陸の出身らしく、よく日に焼けて濃いヒゲを生やしていた。
「やーやー、すまないな。非常時なんだよ」
指揮官は、言葉とは裏腹に白い歯を見せて笑った。
ユークは、冒険者達からこの大陸に魔物が出たと知っていた。
冒険者ギルドなどは、対になる水晶を使い情報を共有する。
片方の水晶に書いた文字が、一方にも表示される魔道具。
一回で百文字程度、三十件ほど保存出来る。
大手の商人や国家もこの便利な道具を使うが、個人が使うには余りに高価で、急がないなら手紙でよい。
指揮官は、用件を伝える。
「荷はなんだい? いや、何にせよパドルメに下ろして欲しい。人もだ。戦えるなら誰だって歓迎だ」
船乗りでない十数名――ユーク達――に、目をとめてからの提案。
軍船で乗り付けるということは、半ば強制だったが。
「どうするね?」
それでも船長はユークに聞いた。
「ここで下りるよ。ドワーフのとこに行くにしても、道中魔物だらけだとね」
結論を出したのが少年で、指揮官は驚きを浮かべたが、直ぐに引っ込めて『助かる。感謝する』と礼を述べた。
ガレー船に引かれて入港した帆船に、直ぐに役人がやってきて積荷を安値で買い叩く。
ここまで世話になったのに、最後で申し訳ないなとユークが落ちこむ。
「なあに、有事なら仕方ない。 無料で出せと言われても、差し出すのが交易人さ」
船長はユークに気にするなと慰め、付け加えた。
「それにだ。食い物や物資を買うには金が要る。つまり、この国は在庫一掃で売れるもんは売りたいのよ。しこたま買い叩くさ」
それからユーク達は、船長と船員と船に別れを告げた。
秋も終わる頃にテーバイを立ったが、この国はまだ暖かい。
冬は人にとっても魔物にとっても活動の鈍る季節だが、この大陸では戦いの臭いが立ち込めていた。
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