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二章
冒険者ギルド
しおりを挟む冒険者ギルドとは、正確には人材派遣組合のことである。
個々の冒険者やパーティが、直接依頼を探すことも出来るが、大手の依頼は大手の組織に持ち込まれる。
それが世の常だ。
テーバイ元老院からの依頼も、当然この地方に根を張る人材派遣ギルドに発注された。
そこが仲介料を取ってから、登録している冒険者へ報酬を提示するのだが、それでも今回の条件は破格だった。
日時は明日
内容はクラーケンの退治
前私で金貨1枚と銀貨12枚
成功報酬として、クラーケンと戦った全員に金貨3枚と銀貨36枚
参加条件も制限人数もなし
半端な数字はギルドが先に抜いたせいだが、これだけ美味しいクエストは滅多にない。
ギルドの一階にある広間では、既に十人ほどの冒険者が前祝いの酒を傾けている。
ユーク達がやって来たのはそんな時だった。
酔った冒険者が、早速ミグとラクレアに絡み始める。
「おお、ピチピチギャルじゃん!」
「マブい姉ちゃんじゃねえか、こっちで飲もうや」
「ハクいスケだな。そんなガキよりこっちに来いよ!」
冒険者になろうってのは、大概が田舎の腕自慢なので、何処でも威勢だけは良い。
ミグとラクレアは完全に無視したが、ユークはざっと戦闘力を測ってから言い返した。
「うっせーな。お前らじゃタコの餌がせいぜいだから、さっさと田舎に帰れ」
それぞれの数値が数十程度だったのでユークは強気だった。
「ああん? んだコラ!」
「おう、やっちまうぞコラ!」
分かりやすい売り言葉に買い言葉。
小競り合いが始まろうとしたとこで、止める者が二人居た。
「あんた何やってんのよ。下らない事してないで用事を済ますわよ」
ミグがユークの耳を掴んで引き離す。
「やーめろ、お前ら」
もう一人は、一番奥に居た冒険者らのリーダーらしき男。
その男の言葉には、酔った連中も素直に従う。
このリーダー格だけは雰囲気があった。
実際、ユークも150近い数字を読み取っていた。
男はディオンと名乗り、ユークに尋ねた。
「昨日、あれと戦ったのは君らか?」
あれとはもちろんクラーケンのこと。
「そうだ」と、ユークも答える。
ディオンは破顔して両手を広げる。
「若い3人組だったと聞いてね。ここへ来たということは、明日も参戦してくれるのかな?」
「さっきまでは、そのつもりだったわ」
ユークの耳を引っ張ったままでミグが答えた。
「それはそれは。先程は仲間が無作法をした、申し訳ない。機嫌を直していただけませんか、お嬢さま」
芝居じみた動きで、ディオンが頭を下げる。
「ま、考えてあげるわ」
そこでようやくユークの耳を解放する。
それを合図に、冒険者たちは引き上げていく。
受け付けに向かう途中、ユークの後ろで二人がディオンの印象を語っていた。
「なんだか舞台役者みたいでしたねえ」
「そうね、なかなかのイケメンだったわね」
「あ、ミグさまもそう思いました?」
ディオンは三十がらみで、よく日に焼けて無精髭の似合う、悪く言っても渋いと評価の付く容貌だった。
ユークはこの会話に混ざらず、さっさとギルドのカウンターに自分の冒険者証を出す。
これがあれば、何処でも仕事を紹介して貰える。
各地のギルドは魔法を使って情報を共有しているので、これまでの経歴も分かるし依頼を踏み倒すと直ぐに手配がかかる。
ユークとミグは以前から登録していて、ラクレアもこの旅に出た直後に取った。
一応、冒険者にはランクもある。
ただし、事務的に定めた1級から10級という味気のないものだが。
ミグが7級ユークは8級、もう素人ではないと言ったレベルなのだが、窓口の職員は二人の経歴を確認して驚きの声をあげた。
「これは凄い、魔王城からの生還者ですね。いやー助かります。実のところ、この辺りでは実戦の経験者も少なくて……」
それもそのはず。
腕に覚えがあれば、今は大陸の東方へ行くはずだから。
「明日のクラーケン退治に参加していただけますか? ここだけの話なんですが、急に各地に魔物が現れて人数が揃いそうにもないんです」
窓口のお姉さんは、心底困った顔で頼んできた。
ユークが測定した限り、実力があるのはディオンただ一人。
もしあの冒険者たちが3倍に増えても、魔王城の時のように全滅するのは間違いない。
三人は互いに視線を合わせて確認し合った。
「その依頼、受けます」
ユーク達はクラーケンと再戦することに決めた。
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