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二章

全寮制の乙女の園

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 見学に入ったミグとラクレアに、ご丁寧にも専門の案内係が付く。
 神聖隊に入団希望のご令嬢と護衛、そう勘違いされていた。

「こちらをご覧下さい。隊員は全て個室。日々の厳しい訓練を癒せるように、テーバイ特産の海鳥の羽毛を使った寝具をご用意してます」
 風呂こそ大浴場だが、お手洗いは各部屋に備わっていると案内係は力説する。

 もうミグには察しが付いていた。
 有名な騎士団や修道院にありがちなのだが、貴族や金持ちの子弟を預かり、一定の教育を施しながら泊を付ける。

 その女子版がここでは起きていた。
 もちろん、預けた親から多額の寄付金が入るので、待遇も一般の者とは格段に差がつく。

「神聖隊の皆さまは、何をしてらっしゃるの? 是非とも拝見したいわ」
 誤解を解く必要もないので、勘違いさせたまま進めることにする。

「それでは中庭に参りましょう。丁度、5日後にある収穫祭の行進訓練をしています」
 案内係は先に立って歩き、ミグとラクレアも付いてゆく。

「どうやら、望み薄ね」
 ミグはこっそりとラクレアにささやいた。

「しかしまあ、中には変わり者が居るかも知れません」
 ラクレアは、自分のことを棚にあげた。

「どうぞ。存分に御覧ください」
 広い中庭を見渡せるバルコニーへと案内された。
 ほぼ全隊が見渡せる好位置で、二人の眼下では300名の隊員が三つに分かれて列を作っていた。

 一歩後ろに立っていたラクレアが、ミグの耳元へ語りかける。
「意外と訓練されてますね。歩調も隊列にも乱れがありません」

 手には旗、腰には長い布を巻いて、上半身だけの鎧は薄手で金箔で仕立てである。
 装飾の付いた兜には羽が飾られ、顔はよく見える造り。
 そして隊員は全て若い女性たち。

 この隊列が中央の指揮官の周りを、くるくると行進している。
 なかなかに壮観な眺めだったが、実戦的な迫力を感じることもない。

「なるほどねえ……そりゃ見世物にもなるわね」
 ミグが納得したところに、案内係が営業をかける。

「如何ですか、素晴らしいでしょう! もちろん訓練や規律は厳しゅうございます。入隊中は男性と話すことさえ許されません」

 そこでちらりとラクレアを見やる。
 今のところを、よくよく父親に伝えておいて下さい、余計な虫がお嬢様に付くことはありません。
 その意味合いの視線。

「ですが、隊員同士の絆は深く。それはもう姉妹のように仲睦まじく、除隊した後も社交界で関係が続き……」

 いい加減にミグもうんざりして来たところで、宿舎の外で鐘が打ち鳴らされた。
 時刻を告げる鐘の音ではなく、鐘楼から鐘楼へ次々と伝わってテーバイを飲み込む。

 この音は、ミグとラクレアには経験があった。
 緊急事態、町に迫る危険を知らせる合図。

「ありがとう、考えておくわ。ごきげんよう!」
 それだけ言うと、二人は宿舎の外へと走り出した。
 勢いよく出てきた二人を、ユークが待っていた。

「何処で?」
「海から。かなり大きい」

 三人は高台の端にかじり付いて、じっと海を見下ろす。
 湾内の船が、また一隻沈んだ。
 何本もの触手が突き上げ、船を捕らえて海中に引きずり込んでいた。

「どう? 見えた?」
「遠すぎる、計測できない」
 既に二人にも、敵の戦闘力が見えることは話していた。

「どうするの?」
 ミグの質問にユークが聞き返す。
「神聖隊とやらはどうだった?」

「全然ね、もし出てくれば返り討ちよ」
「よし。じゃあ行こう」

 その決定に、ラクレアもミグも頷く。
 三人と一頭は、海に向かって丘を降り始めた。
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