16 / 88
二章
全寮制の乙女の園
しおりを挟む見学に入ったミグとラクレアに、ご丁寧にも専門の案内係が付く。
神聖隊に入団希望のご令嬢と護衛、そう勘違いされていた。
「こちらをご覧下さい。隊員は全て個室。日々の厳しい訓練を癒せるように、テーバイ特産の海鳥の羽毛を使った寝具をご用意してます」
風呂こそ大浴場だが、お手洗いは各部屋に備わっていると案内係は力説する。
もうミグには察しが付いていた。
有名な騎士団や修道院にありがちなのだが、貴族や金持ちの子弟を預かり、一定の教育を施しながら泊を付ける。
その女子版がここでは起きていた。
もちろん、預けた親から多額の寄付金が入るので、待遇も一般の者とは格段に差がつく。
「神聖隊の皆さまは、何をしてらっしゃるの? 是非とも拝見したいわ」
誤解を解く必要もないので、勘違いさせたまま進めることにする。
「それでは中庭に参りましょう。丁度、5日後にある収穫祭の行進訓練をしています」
案内係は先に立って歩き、ミグとラクレアも付いてゆく。
「どうやら、望み薄ね」
ミグはこっそりとラクレアにささやいた。
「しかしまあ、中には変わり者が居るかも知れません」
ラクレアは、自分のことを棚にあげた。
「どうぞ。存分に御覧ください」
広い中庭を見渡せるバルコニーへと案内された。
ほぼ全隊が見渡せる好位置で、二人の眼下では300名の隊員が三つに分かれて列を作っていた。
一歩後ろに立っていたラクレアが、ミグの耳元へ語りかける。
「意外と訓練されてますね。歩調も隊列にも乱れがありません」
手には旗、腰には長い布を巻いて、上半身だけの鎧は薄手で金箔で仕立てである。
装飾の付いた兜には羽が飾られ、顔はよく見える造り。
そして隊員は全て若い女性たち。
この隊列が中央の指揮官の周りを、くるくると行進している。
なかなかに壮観な眺めだったが、実戦的な迫力を感じることもない。
「なるほどねえ……そりゃ見世物にもなるわね」
ミグが納得したところに、案内係が営業をかける。
「如何ですか、素晴らしいでしょう! もちろん訓練や規律は厳しゅうございます。入隊中は男性と話すことさえ許されません」
そこでちらりとラクレアを見やる。
今のところを、よくよく父親に伝えておいて下さい、余計な虫がお嬢様に付くことはありません。
その意味合いの視線。
「ですが、隊員同士の絆は深く。それはもう姉妹のように仲睦まじく、除隊した後も社交界で関係が続き……」
いい加減にミグもうんざりして来たところで、宿舎の外で鐘が打ち鳴らされた。
時刻を告げる鐘の音ではなく、鐘楼から鐘楼へ次々と伝わってテーバイを飲み込む。
この音は、ミグとラクレアには経験があった。
緊急事態、町に迫る危険を知らせる合図。
「ありがとう、考えておくわ。ごきげんよう!」
それだけ言うと、二人は宿舎の外へと走り出した。
勢いよく出てきた二人を、ユークが待っていた。
「何処で?」
「海から。かなり大きい」
三人は高台の端にかじり付いて、じっと海を見下ろす。
湾内の船が、また一隻沈んだ。
何本もの触手が突き上げ、船を捕らえて海中に引きずり込んでいた。
「どう? 見えた?」
「遠すぎる、計測できない」
既に二人にも、敵の戦闘力が見えることは話していた。
「どうするの?」
ミグの質問にユークが聞き返す。
「神聖隊とやらはどうだった?」
「全然ね、もし出てくれば返り討ちよ」
「よし。じゃあ行こう」
その決定に、ラクレアもミグも頷く。
三人と一頭は、海に向かって丘を降り始めた。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜
ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。
沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。
異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。
新たな人生は、人生ではなく神生!?
チートな能力で愛が満ち溢れた生活!
新たな神生は素敵な物語の始まり。
小説家になろう。にも掲載しております。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる