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二章

山賊はおやつ

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 道なりに旅をする場合は、朝に出発して次の宿場町を目指す。
 自然とキャラバンを組む形になって、安全性も高い。

 深夜に旅立ったユーク達は、適当な場所を見つけては野宿して、単独での旅になっていた。

 ユークもミグも野宿は慣れていて、街育ちのラクレアも文句は言わない。
 焚き火で出来た炭を地面に埋めて、そこに毛布を敷くと暖かい寝床が出来る。
 それがラクレアのお気に入りになった。

 ユークはミグから借りっぱなしの王家の剣――カウカソス――を初めて手にした玩具のように気に入っていた。
 無邪気に剣を振るう少年に、ミグが前から聞きたかった事を尋ねた。

「ねえ、あんた何時から剣を習ってるの?」
 本当は『下手くそねえ……剣が泣くわ』と言いたかったが、彼女なりに面子を立ててあげたつもりだった。

「こっちに来てからだから、使い始めて1年くらいかな……」
 ユークは正直に白状した。
『どーりで。へっぴり腰で見てらんないわ』と言うところを、寛大な王女は別の台詞に言い換えた。

「よく今まで生きてこれたわねぇ……」
 ユークは十分に傷ついた。

「故郷では、弓を使うことが多かったから……」
「じゃあなんで弓矢を使ってなかったの?」
「矢が高いんだよね……狩りの時みたいに回収出来ないんだよ、魔物相手だと」

 へこんだユークが悲しそうに答え、ついでに『カウカソス』を大事にそうに抱える。

 その様子が面白かったのか、ミグはくすりと笑った。
『大丈夫よ、剣を返せなんて言わないから』と、心の中で軽くつぶやく。
 せめて言葉にすれば、目の前の少年も安心するだろうに、そこまで優しくするつもりはなかった。

「なら、私と訓練しませんか?」
 ラクレアが笑顔で会話に混ざる。

 彼女は、ユークの技量を見ても失望したりしなかった。
 強力な騎士も一蹴する魔王の城から生きて帰るには、ただ剣が上手いだけでは不可能だとラクレアは信じていた。

 焚き火の不安定な灯りの中で、ユークとラクレアが向かい合う。
 ユークから仕掛け、数合打ちあった。

「あ、待って! 待って下さい!」
 急にラクレアが止める、剣筋は受けれても彼女の剣が持たない。

「うわ、刃が欠けてる……。凄い剣ですね、私のではとても受けきれません」
 それからは、木の棒を使ってラクレアが基礎を教える形になった。

 神と対面した人間が神の言葉を喋るように、魔王に出会った人間は対抗する手段を探す。

 従って懐に入るか、抗って戦い続けるか。
 超常の存在に出会った人が選べる道は、そう多くない。
 折れずに諦めなかったことで、ユークの限界は広がり、成長は加速していた。

 もし魔王が自ら暴れれば、ヒトの中にも優れた戦士が急速に増える。
 そのほとんどが喰われる事になるにしてもだ。
 今、魔王に会って生きているヒトは全世界にただ二人しかいない。


 ユーク達は五日ほど南に進み、10人程の男だらけの集団とすれ違う。
 それはもう、あからさまに人相が悪い。
 最初から目を付けていて、行く手を遮って広がった。

 銀髪をたなびかせながら偉そうに馬に乗るミグと、その手綱を引く二人の従者。
 何処からどう見ても、魔物から逃げ出した令嬢とその付き人。
 トゥルスに魔王城が侵攻したと知りやって来た人狩り連中にとって、この上ない獲物だった。

「おい、キラキラの髪だ。こりゃ、すごい上玉だぞ」
「これも女だぁ。こっちは胸もでかい」
「どっちも顔も良いし身切れもない。高値で売れるぞ!」
「小僧、お前はガレー船の漕ぎ手だな。黒髪の男に需要はねえ」

 人狩りどもは、好き勝手にユーク達を品評し始める。
 それでも、ユークは一応尋ねた。

「なんだ、お前ら?」
「へへへ……大人しくしな。安全なとこへ連れていってやるからよ」

 揃い合わせて、男たちは一斉に武器を取り出す。
 既にユークの右目は、男たちの鑑定を済ませていた。

 戦闘力で20から40程度の小物ばかり。
 神剣を手にしたユークなら十分に勝てるし、ラクレアの敵ではない。
 
 抵抗するとみて、ユークの正面の男が槍を突き出したが、簡単にそれを避けると槍を引くに合わせて飛び込み、男の肘から下を斬り落とした。

「ぎゃああああ!」
 叫ぶ男の姿が人狩り達を本気にさせた。
「ガキに三人、そっちの盾の女に三人、あとの三人で馬を捕まえろ!」

 親分らしき男が指示を出す。
 だが命令を出し終わった瞬間、親分の顔の中心で何かが弾けた。

 先程以上の絶叫が響きわたる。
 両手で顔を押さえ、のたうち回る親分に馬の上からミグが声をかけた。

「わたしね、訳あってあんたらみたいなのが嫌いなの」
 彼女の右手の上には、白熱する球体が輝いていた。

 かつて国を落ち延びる際、13歳だったミグは人買いの連中に捕まったことがある。
 王族の純潔を付加価値にオークションにかけられたミグと違い、付き従っていた侍女や宮女たちは、即座にひどい目にあった。
 それでも、アレクシスが助けに来た後、彼女達はミグだけでも無事だったことを泣いて喜んでくれた。

 今のミグの誇りは、生まれでなく彼女や彼らの忠誠の上に在る。
 先に死ぬことはあっても、家臣や国民より先に諦めること許されない。

 血統によって受け継がれた、人類でも最高峰の”加護”が彼女にはある。
 かつて眠らない竜を倒した祖先から受け継いだ加護<< 金羊毛ゴールデンフリース>>
 黄金色のソーマ――個人の持つ魔力――が、毛皮の様にミグを包む。
 
「出来るだけ苦しんで死んでちょうだい」
 国を失った王女が冷たく宣告した。
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