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一章

くそ……故障か

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 人類世界では、変ったことが起きたり出来たりすると『ああ、それは神様のお陰だね』で、済ませてきた。
 そんな訳でユークは、ゴブリンから奪った"加護”を便利に使っていた。
 
 トゥルス国の兵や騎士を、手当たり次第に測る。
 フル装備でも100前後、武器が無いと一桁の者も多い。
 最も高い戦闘力は、騎士団の副団長で『228』。

 ただし、ユークが魔王城で見掛けた魔物にも、四桁のヤツにはいなかった。
 侵入者を全て食った魔王は54万だったが……ちなみにマデブ王は1だった。

「どうぞ。こちらへ」
 戦闘力55から72の兵士4人に連れられて、着いた先は豪華な寝室。
 敵意はなく警戒する必要もなかったが、中では衝撃が待っていた。
 ババアが一人と、半裸の美女美女美女の群れ。

「ひひひ。好きな娘を選んでくだしゃれ。何なら2人でも3人でも」
 歯が半分無いやり手ババアが、いやらしく笑う。

 ババアが自信満々なのも当然、この街からかき集めた、一流の娼婦がそこに並んでいた。
『ごくり』と、女達から目を離せずにユークがつばを飲む。
 もうミグは放っておいていいかなぁーと思わせるほどのダイナマイトばかり。

『こんな好機は二度と、いや当分は来ない!』とユークは確信した。
 右から左へじっくりと選んでいると、右目の数字が急激に上がり始めた。
 数秒かけ300も400も通り超え、『545』で止まる。

「ちょ、ちょっと! この娘!」
 美女をかき分けて反応元を探すと、周りとは見るからに毛色の違う女の子がぽつり。

 衣装も髪も飾り立てた美女群の中に、耳が見えるくらい短く刈り込んだ髪と、平凡な寝巻きと化粧っ気ない素朴な顔立ち。
 美形だが、むしろ精悍な印象が先にくる。

 何故ここに混ざってると言いたいが、ユークが何度確認しても『545』だった。
 右目をこすりながら上から下までじっくり眺めるユークの姿は、さぞかし奇異だったのだろう。

「こりゃまた、変わった趣味をお持ちじゃね……」
 やり手ババアでさえ呆れてしまう。

 その様子を見ていた女たちも、『趣味わるー』『せっかく来たのに』『あんな地味子が良いとか』などなど、好き勝手に罵りながら出ていく。

 一方でユークも、今更違うとも言えずに、人生で最初のチャンスを逃した事を心から後悔していた。

「さてと……」
 最後にババアが商品説明を始めた。
 一枚の紙切れに目を通すと、驚きの声をあげる。

「ほぅ! 意外とお目が高いのう。その子はこの国の騎士家の娘じゃ。『臆病卿』の娘とあるぞ。なになに、選ばれた場合はそなたに進呈するとある」

 『545』の娘が驚きを浮かべてババアを見ても、気にする事なく続きを読み上げる。

「トゥルス国との主従関係を譲るとな。娘、今日からその者がお前の主じゃ。ひひひ」
 それだけ告げると、ババアも出ていった。

 原色の壁掛けと敷布の寝室に、二人で残される。
 どうしたものかと悩むユークに対して、娘は覚悟を決めた。

 白い上着のボタンを外し、ゆっくりと脱ぎ落とす。
 背丈はユークより少し低いが、筋肉量なら同じくらいかもしれない。
 見るからに鍛え上げられた体と、不釣り合いなほど豊かな胸。

『彫刻みたいだった』とはユークの感想だが、そこでやっと言葉が出た。

「待て、待って! そういうつもりじゃないんだ。まず、服、服を着てくれ。泣きながら脱ぐ女の子を、どうこう出来るはずないだろ」

 そこまで聞いて、『545』の娘――ラクレアという名だが――は、ようやく脱ぐ手を止めた。

「あの……では、どういうつもりで私を?」
 ラクレアは、初めて口を開いた。
 目の前の男に選ばれたゆえに放逐、いや払い下げられた身としては、聞かずにはいられなかった。

「えーっと、なんと言うか、君の強さに反応したと言うか、戦力になりそうだとか」
 変な言い訳だなとユーク自身でさえ思ったが、効果は絶大だった。

 先程まで泣きはらしていた顔に喜色が灯る。
 嬉しさの余りに両手を掲げたせいで、スカートがすべり落ちた。

『危ない子だな。関わらないようにしよう』
 ユークは、必死でスカートをずり上げる姿から顔をそむけて、そう結論付ける。

 一つの問題が片付いたところで、やっとミグの事に気が回る。
 あの様子では放って置くわけにはいかない。
 本気で抵抗すればミグが一瞬で勝つが、それをさせぬ雰囲気にユークでも気付いていた。

「俺、連れを助けに行くから。君は好きにして良いよ、じゃあね」
 それだけ言って部屋を飛び出す。

「あっ! 待って下さい、ご主じ……へぶっ!」
 スカートに足を取られたラクレアが派手に転んだ。

『あまり……正確ではないかもな。それか壊れたのか』
 後ろでもがく少女を見ないようにしながら、ユークは新しい能力への信頼度を下げた。
 それから、魔王城から共に生き延びた仲間を助ける為に走るのだった。
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