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プリンと豚足
しおりを挟むいつも通りの朝の筈だった。
目をゆっくりと開けると、目の前には端正な顔立ちがあってギョッとする。
「おはよう。なかなか起きないから心配したぞ」
正面から抱きすくめられて、昨日出来事をリアルに思い出す。
そうだ、昨日、月ヶ瀬先生と…
あれだけ掻いた汗も、言うのも憚られる血や体液も、綺麗に清められて私は清潔なシーツに横たえられていた。
そしていつの間にか、いつも着ているパジャマに着替えさせられていた。
月ヶ瀬がやったんだろうか…それはそれで、恥ずかしすぎる。
「あの…すいません…綺麗にしてくれたんですね…?」
「あぁ。かなり無理させたからな。罪滅ぼしだ」
「…私、初めてだったんですよ…?無理です、あんなに激しくされたら…」
「すまない。途中で処女だったのは気付いたんだが…お前が壊してくれとか言うから、流石に理性がブチ切れた。次はお前が蕩けそうになるほど甘く抱いてやるから許せ」
「次、ですか」
「あぁ、次だ。俺たちは相思相愛で恋人同士になったのだからな。当然次もある」
私の真っ赤になった顔を確認してニヤリと口角を上げて笑う月ヶ瀬は、悪役がとても似合いそうな邪悪な笑顔をしていた。
「ところで、朝食にしたいんだが…お前んちの冷蔵庫に豚足しか詰まっていないのは俺に対しての嫌がらせか?」
ナースに私が詰めた豚足達を処理しろと詰め寄られた事を思い出しているのだろう。
邪悪そうな笑顔は、より一層邪悪さを醸し出して私を責める。
お願いですから、もうそのことは忘れてやって下さい。
豚足には罪はないのです。
それが口から出かかって慌ててやめた。
「いいえ?給料日前なので、他の食材を買う余裕なくて…あ、お米は炊けばありますよ。キャバが出来れば日銭が稼げて2、3日は食費に困らないんですが、それがあんなことになっちゃって…いえ、自分が全部悪いんですけどね」
冷や汗をかきながらも訂正して、お米を炊こうと布団から出て立ち上がろうとするが、足に全く力が入らなくて愕然とする。
そして、あらぬ所が痛い。
痛すぎて、涙が出そうになった。
「無理するな。何かコンビニで買ってくる。欲しいものはあるか」
「じゃあ、プリン…」
子供の頃、私が熱を出すとお父さんがいつもオロオロしながらもプリンを買って来てくれたのを思い出して、少し笑ってしまう。
「先生、お父さんみたい」
「俺をあの超絶親バカと一緒にするな。それに、お父さんはあんな事、お前にしないだろう?」
「うん、しない。しないけど、先生見てたら懐かしくなってしまいました。部屋に私以外の人が居てくれるのが、何だか嬉しくて」
「あまり可愛い事言ってくれるな。また抱きたくなる」
「えぇ?!ま、また?」
「今抱いたら、今度こそ本当に壊してしまいそうだ。だからこれ以上煽るな」
月ヶ瀬は優しくキスを贈ると、身支度を始めて部屋から出て行った。
そう言えば、今日は私は当直後の休みだったが、月ヶ瀬は出勤日だったはず。
時計を見ると、午前6時を過ぎていた。
あともう少しだけ寝て、月ヶ瀬先生と一緒に朝ご飯を食べよう。
そして、出勤時間になったら、彼を見送らなきゃ。
そんな普通の日常が、私には堪らなく幸せなものだった。
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