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鼻血と豚足
しおりを挟む「あの…もう止まりましたので、押さえなくて大丈夫です」
顔が自然と赤くなってしまうのは、全裸の男性に正面から鼻頭を強く圧迫されているせい。
居ても堪らず顔を反らそうとするが、首の後ろをがっしりと捕まえられて身動きが取れなかった。
男性はというと、ひどい顔の私を真面目な顔して正面から見据えるものだから、恥ずかしさで穴があったら入りたい状態の私は、ただただ必至にこの時間が終わることを祈って目を瞑るしか無い。
(早く…早く止まって、私の鼻血!!!)
そうなのである。
先程、私の視界が反転した理由は、この男に足首を掴まれて、バランスを崩してしまい顔面からフローリングの固い床に派手に倒れこんでしまったからであった。
打ち付けた場所が悪かったらしい。
激痛に耐えられずに顔を覆った私の手に、滑りとした生温かい感触が触れた。それが血であると気付くか、気付かないかのうちに、私はこの事故の犯人に覆い被さられていたのだった。
「その、私こそすみません。急なことに焦ってしまって、失礼なことを…」
私は焦ったのだ。男の人に覆い被さられるなんてことは、この24年の人生で初めてのことで、どうしたらいいのかわからない。
咄嗟に取った行動が
「あぁ、強烈でしたね。貴女の平手打ち」
私の血で汚れた頬を、男の人は私の鼻を抑えているのとは別の手でさすったかと思うと、赤くなった指をそのまま口に含んだ。
「!!」
汚いから止めてください!と私が言う前に、ニヤリと口角を上げた男性に、全身に鳥肌が立ち言葉は自然に出なくなった。
絶句、と言う言葉がこれほどまでに身近に感じたことはない。
「急に黙りましたね。貴重な睡眠時間を削って手当をしてあげてるんです。お礼くらい言ったらどうですか」
ニヤニヤしながら告げるその男は、例え全裸の変態であっても、サラリとした清潔そうな黒髪、切れ長の目に吸い込まれそうな蒼い瞳、少し彫りが深い顔は芸能人と言っても過言でないほど整っているのだ。
嫌でも目に入る身体も、しっかり鍛えてそうな程よい筋肉がついていた。
きっと女性にはおモテになることだろう。
部屋の中で、全裸、しかも人の血を舐めてニヤける変態と知らない女性限定だが。
「それにしても、貴女、あられもない格好してますね?誘ってますか?」
「は!?元はと言えば、あんたが服を外なんかに脱ぎ散らかして、扉全開にして部屋の中でぶっ倒れてたのが悪いんでしょ!!何か事故とかあったのかと思って、心配するでしょう?!」
思わず男性の手を振り払って、立ち上がった。
仕事上がりのままだった私のワインレッドの色をしたドレスは、裾を踏んで倒れた衝撃で細い肩紐が千切れていたのだが、それがスルリと床に落ちてしまい、ペチコート一枚になる。
「ほら、誘ってる」
薄い下着姿になった素肌にヒヤリとした外気が、
彼の視線が身体中を撫で回すのが、
一気に艶めいた男性の声が、
私の身体の中にゾクリとした感覚を呼び起こす。
これは、知ったらいけないモノだ。
私は本能の警告に従った。脱げたドレスを胸元に掻き集め、玄関に落ちていた自分のカバンを引っ掴むと無言で、部屋を飛び出した。
自分のハイヒールを、その部屋に忘れているとも考えずに…
私は裸足で駆け出したのだ。
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