上 下
129 / 145
アルバード王立高等学院~迫りくる悪の手~

愛に勝るものは無し

しおりを挟む
ここはどこだろう…あたたかい...ぼくは取り返しのつかないことをしてしまった気がする...もうどうでもいい、はやく消えてしまいたい

そう思いながら重い瞼を開けると目の前に女の人の顔があった。

驚いて離れようと身体を動かすと、よくわからないが地面に落ちておもいっきし叩きつけられた。

「大丈夫?痛くはない?」

そう言って女の人は立ち上がって僕に手を差しのべた。

どうやら状況を見るに、女の人は僕に膝枕をしていたようだった。

じっと女の人の顔を見るとなぜだが少し懐かしく感じた。

黒い髪に緑色の瞳をした20台の女の人。

…もしかして

「母さん?」

僕がそう言うと嬉しそうに女の人が笑った。

「ええそうよ。ところでどうしてカイはここにいるの?ここに来るにはまだ早いわよ。」

「えっと…、その、、」

なんて話したらいいのか全くわからない。前世も今世も親との関わりはほとんどなかった。

僕が下を向いてうつむいていると顔を手で包み込まれた。

「大丈夫、落ち着いて。…ここはね、生と死の狭間なの。魂が身体から離脱した人が来る場所で、生きることも死ぬこともあなたが決めることが出来るのよ。あなたが本当に生きたいと思えるのなら私があなたのいるべき場所まで送ってあげる。」


「…わからないんです。自分がどうしたいのか...何が正解なのか…。僕の身体は何者かに乗っ取られていて、もし僕が戻って理性を半分取り戻しても乗っ取られ続けたら余計ややこしくなるでしょう?皆僕を傷つけるのを躊躇うはずだ。」

僕がそう言うと女の人は優しく微笑んだ。

「…大切な人が自分のせいで傷つくのが怖いのね。でもね、カイ。あれはあなたのせいではないし、そのことをあなたのお祖父様も友達も陛下も民衆も皆わかっていると思うわ。」

そんなのわかってる、わかってるんだ。だけど、、

「それでも怖いんです。皆から非難されるのが。」


「それでも前も向いて進んでいくべきじゃないかしら。幸いにもまだ誰も死んでいないわ。知らないかもしれないけれど、ハルシャ家の者やカイの周りにいる人達は神の血を代々受け継いできた者達が多いの。神殿が近くにあれば邪なる者は手をだせない。」


「神の血を受け継ぐ者?」


「ええ。黒か白の髪を持つ者は神の血を受け継でいるという証拠なの。町でもほとんど見かけていないでしょう?漆黒や純粋な白色は神の干渉を受けやすいけど、逆に灰色や銀色の髪をもつ人は神の干渉がわずかながらにしかないの。」

とゆうことはフローレス嬢も?

「じゃあ、赤色の瞳はなんなんですか?一瞬自分の瞳が片方だけ赤色になったような気がするんですが…」


「赤色の瞳は人ならざるものを示すの。黒に近い赤であればそれは“邪”なるもので、深紅であればその人は天使と同等以上の神に近い存在ということを示しているの。」

これならコウとイリアスはいったい…いや、そんなことよりも...

「どうして…」


「どうして知ってるかって?神様に教えてもらったのよ。あなたに伝えてほしいって言われたわ。」


「……」


「…私は死ぬ前にあなたに加護を与えた。カイを人ならざる者が乗っ取ったことでようやく発現しようとしているのに、魂がないから発動しようにもできないの。お願い、もう少しだけ生きてくれる?」

女の人の瞳は不安気に揺れていた。僕がNoと言えば今すぐにも泣き出してしまいそうなぐらいには...

「…信用してもいいんですか?」


「ええ、もちろんよ。」


「わかり、、ました。……僕にもう1度だけやり直す機会をください。ようやく…前を向けたんです。ここで終わってはおもしろくない」


「よく言ったわ、、ありがとう。…カイ、これだけは忘れないで。私はあなたがどんな人間でも愛してる。心の底から愛してるわ。生きてるだけでいいの。生きているだけで偉いのよ。ほんの短い間だったけどあなたに会えて嬉しかったわ。」

そう言って涙を流す母さんを見つめながら僕の視界はだんだんとぼやけていって終いには見えなくなった。

「…いい夢を」

そんな優しい声が聞こえた気がした



その頃

「グァッッ…」

「?!どうかされましたか?…血が!」

「いい!問題ない。少しさがってろ。誰にも言うんじゃないぞ。」

そう言ってライは伯爵を下がらせた。

腕の痛みにも負けないほどのひどい頭痛がした。魂を無理やり引き裂かれているような感じだ。

「なんだこれは…」

アイツに何か起こっているのか?

とライは口から流れた血を拭いながら考えた。

「魂繋がってるとこういう痛みも感じるのか…使い勝手悪いな...かといって魂をどうこうできるわけじゃないしな」

それに、昔感じた嫌な気配も感じる。

…まあいっか…どうせ万物神がどうにかすんだろ…アイツへの執着半端ないもんな…

そう思ってライは血で濡れた服を脱いだ。


???視点

「ああ、なるほど…彼を守っている神は万物神でしたか…。失敗したとはいえ、なかなか悪くない収穫ですね。想定外だったのはハルシャ家の当主が思った以上に有能だったということだけでしょうか…。まっ、どちらにせよ学院内で事を起こすには警戒されていて難しいでしょうし2年ほど待ちましょうか。…あの方が喜んでくれるといいのですが...」

そう言って???は広場にある時計台から軽々と飛び下りたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...