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アルバード王立高等学院~新たな出会い~

特別試験1日目①~セシルの特技~

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なんやかんやで特別試験の日がやってきた。

今回の特別試験の舞台は“イバラの森”。

イバラの森とは茂みの中に結構な確率でトゲのある植物が生えているため名付けられた。

真ん中に大きな湖があり陸水関係なく低級の魔物が多く存在する。

冒険者で言えば大体E~Dランクのレベルに値する。

普通の森と大きく違うのは結界が張られているという所だろう。ドーム状になっていて雨や空気はもちろん通す。ちなみに学院にもここよりも強い結界が張られており働いている大人と生徒を除き誰も通ることが出来ないようになっているので、王宮よりも安全な場所と言えよう。


「いいですか、皆さん。グループごとに手を繋いでください。離してしまうと失格になるのでぜっったいに離さないでくださいね!」

何をしているのか説明しよう。

全員が一緒に同じところからスタートするわけにはいかないため、グループごとに別々の場所へ移動しスタートすることになっているのだ。
そしてそれをするには大きな魔方陣を使った範囲集団転移する必要がある。

範囲集団転移とは魔方陣の下にいるものを結界の中のみではあるがランダムに転移させる術である。

どんな場所でも一瞬で移動可能な転移魔法は莫大な魔力を使うため個人で使用することはほぼ不可能だ。

しかし、範囲を狭めて魔方陣を使えば魔力の消費は半減、いや上手い人であれば9割以上下がることもある。

また、魔方陣であればいろんな人の魔力を借りることができる。普通、自分と波長の合う魔力や長く共にいたことにより波長を合わすことができる者の魔力しか借りれない。つまり僕がいいたことはとっても効率的であるということだ。

ちなみにハールーン帝国が行なった勇者召喚なんかもこれに当てはまるだろう。無論別世界の者を呼び出すにはそれ相応の魔力が必要だろうが…

「それじゃあいきますよ?3、2、1、0!」

0と言われた瞬間に周りの景色があっという間に変わる。

「すごいね!これ!!」

隣にいるシドさんが大はしゃぎしているが早急にやめてもらいたい、不用意に魔物が集まる。

「シド、少し静かにしてくれ。それじゃあ皆、することは覚えているね?」

前半はともかく後半もシドさんに向けて言っているように思えたのでシドさんの方を見ると思い切り頭を横に振っていた。

仕方ない、手助けするか…

「ああ、もちろん。ブライアン卿が召喚獣による探知をし見つけた魔物を僕らが狩る、でしょ?」


「その通り。てことでセシル、頼んだ。」


「任せてください。」

そう言ってブライアン卿はナイフで指を切り手のひらに何かを書いてそれを地面に押し付けた

「我が召喚に応えよ、スイレン!」

そう言った瞬間水色の大きな鳥が1羽出てきた。

「スイレン、よく来ましたね。早速なのですが分裂していただけますか?」

その声に応じるようにスイレンは小さいな鳥十数羽に分裂する。

「ありがとうございます。それでは別々の方向に飛んでください。もちろんサポートは私に任せてくれて構いません。」

ブライアン卿がそう言うと全ての鳥が大空に舞う。   

「少々お待ちください。」


「どれくらいかかりそうだ?」


「そうですね、およそ10分ってとこでしょうか」

この広い森を10分で網羅する気か?どんなけ速いんだ。

と思いつつ大人しく待つことにした。














10分後

「およそ把握出来ました。これを見てください。」

と言って地図を差し出してきた


         待機場所


   ①      ②      ③      


         湖湖湖
   ④     湖湖湖     ⑤


   ⑥      ⑦      ⑧


「今我々は④にいます。④にいるのは奇跡的に我々だけで1番過密状態なのは⑧で5グループいます。魔力的にボスは湖付近にいるでしょう。」

湖付近ということは水棲生物か??それなら少々厄介だな…

「そうか。それじゃあ魔物が1番蔓延っているのはどこのエリアか分かるかい?」


「そう、ですね…1番多いのは③で次に多いのが⑥ですかね…すみません、これ以上は限界です。」


「いや、もう大丈夫だ解除しても構わない。」

召喚術は思ったより魔力を使う。そのため効率は悪い。だが、使いどころ次第では非常に役に立つ。

「じゃあまずは⑥に今日の拠点を作らないとね。…大丈夫、セシル?おぶろうか?」


「さすがにそれは男としての矜持に関わるので遠慮しておきます。ただの魔力切れですから。」


「それならいいけど…」


本人がいいと言っている手前何も言えないので取り敢えず⑥を目指して歩く。

「ここら辺でどうだろうか?」


「いいんじゃないか?セシルも少しは魔力が回復したのか?」


「ええ、お陰さまで。それでは私はここでハルシャ卿とお留守番ということでいいんですか?」


「ああ、すまないねハルシャ卿。ある程度魔物を12時頃に戻ってくるから昼食後戦闘に参加して欲しい。」


「いや、問題ない。もとからそういう話だったからね。」

僕はそう言って3人を見送った。




「それじゃあブライアン卿、ここら辺が今日の野宿場所になるだろうからこの近くで薪や食べ物を探したいんだけど鑑定は使える?」

キノコなんかは毒があったりするから危険なんだよね…でも魔物を狩りに行くわけにはいかないし…

「残念ながら使えません。ハルシャ卿は使えるのですか?」


「うん、一応ね。」

と僕が言うとブライアン卿は少し困った顔をした。

「…反応的に知らないのだと思いますが鑑定は裕福な家庭で育った者が得ることのできるスキルです。しかし、この国では侯爵家ぐらい裕福でなければ貴族であろうとそのスキルを得ることはできないんです。そのため鑑定スキルの有無を人に聞くのは避けた方がよろしいかと思います。私は気にしないのですが他の方はどうか分かりませんので。」

ああ、なるほど…

「そうなんだ…教えてくれてありがとう。後出しになってしまうけどさっきの発言は失礼だった。申し訳ない。」

全面的に僕が悪いのですぐに謝る

「いっ、いえ、謝らなくても結構ですよ?知らなかったのですし仕方ありませんよ。」


「いや、そんなことはないよ。よく、知らないことは罪ではないとは言うが、僕は無知であることこそ最悪な罪であると思っている。」

ソクラテスの名言である『無知の知』。これは自分が何も知らないのだということを知るという意味だ。しかし、それはとても難しい。前世の僕は自分は何でも知っていると思って生きてきた。

死ぬ直前ですら無知で愚かなのは世間一般の人間でその中に自分がいるということを考えもしなかった。

そんな昔の自分が嫌いで仕方なかった。

いろいろなことをもっと知っていればあんな選択はしなかっただろうな…

そう思ってもどうしようもないことであるし過去は変えれないのだ。

そして僕が何かを言おうとしたその時妙な気配を感じた。

「そのような考え方をする人を初めて見ました。よければ「しっ!魔物がいる」っ」

“索敵”によれば敵は恐らくホーンラビット3体。いつもならば余裕だがブライアン卿は戦闘の類いが一切できない。イリアスの方が100倍ましってぐらいには運動音痴だ。
庇いながらできるか?アイツらはすばしっこいからな…まあ…行けるか

「ブライアン卿、そこから10歩下がって欲しい。」

僕がそう言うとブライアン卿は素直に10歩下がってくれた。

「安心して、ただのホーンラビットだから。ただ、絶対そこから動かないでね」

そう言って草むらに向かってナイフを投げる。食事中だったのだろう、あまり動いていなかったので簡単に首に刺さった。

横たわったウサギの側にいた2匹が僕らに気付き威嚇する、と思いきや突進してきた。

角を剣で受け止める。そして剣を持っていない左手でナイフを握り首を切る。

その間にもう一匹のウサギは逃げたようだ。命の危機に陥った者の逃げ足の速さは想像を超える。もう姿が見えない。

「もういいよ。…やっぱり誰かが一緒に残ることにして正解だった。」


「そうですね。私1人では今頃死んでいました。ありがとうございます。」


「全然問題ないよ。同じグループだから助け合うのは当たり前だ。それじゃあ昼食のメインメニューが決まったことだしこれを解体しようか。やったことはある?」


「ええ、何度か。一応これでもハルシャ卿より二歳年上なんですよ?サバイバルをする特別試験はこれまで何度か経験済みです。」


「それは心強い。それじゃあそのウサギは頼んだよ。僕はこっちをするから。」

そう言ってお互い解体作業をする。

「…うん?これは……ハルシャ卿、これを見てもらえます?」

そう言われたので振り替えるとブライアン卿が何かを持っていた。近付いて見てみると星の絵柄が書いてあるコインだった。

「それ、例のコインだよね?」


「ええ。まさかこんなところにあるとは…」

ウサギの腹の中にはさすがに見つけづらくないか?いや、ウサギが勝手に食べた説が濃厚か…

「ブライアン卿は召喚術以外に得意な術はある?」


「そうですね、草魔法は人よりも上手くできますがあれは戦闘向きではありませんからね…」

ブライアン卿はそう苦笑いする。

「殿下ってどんな人?」

独り言のように呟やかれたその言葉は二人の間を通り抜けた。

言うつもりはなかった。言い訳のように思えるかもしれないが気がつけば声に出していたのだ。

ブライアン卿の顔をそっと見ると眼を丸くしていた。

「ノエル、ですか…。そういえばそのようなことはあまり考えたことがありませんでしたね。彼は、何というか一言で言うととても面白い人、ですかね。私たちをただの駒でなく1人の人として見てくれる。自身でさえ短所だと思う所すらも好きだと言ってくれる。たかが2年の付き合いですが何度も彼に助けられました。…無理にとは言いませんがハルシャ卿も少し歩み寄ってはいかがですか?きっと彼は貴方に違う景色を見せてくれるでしょう。」


「どうしてそんな確信のないことを自信に満ち溢れたような顔で言えるの?」


「それは彼が私の友人であり仲間であり、忠誠を誓った主君でありますから。」

そう言ってにこりと微笑むブライアン卿の瞳はこれまで見たこともないほど透き通っていた。

なぜだか分からないが彼らの関係をほんの少しだけ羨ましいと思ってしまった。

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