上 下
85 / 147
アルバード王立高等学院~新たな出会い~

ピンチとチャンスは紙一重

しおりを挟む
「来たか。取り敢えずそっちに座ってくれ」

そう言ってマルファ先生は眼で椅子を示する。

「今朝セルファ・グレイシスから決闘の申し込みがあった。何か心当たりは?」

セルファ・グレイシス。たしかクローズもとおい小太り君の取り巻きだった気がする。虐めの現場にいたもんな…

「ありますよ、心当たり。てゆうか、彼決闘の意味が分かっている上で申し込んでいるんですか?」

決闘とは家紋の名誉をかけて行うもので成人同士の決闘では死ぬまで行う場合もあるぐらいだ。

「…さあ?だがここは学院。死を決すような戦いは認められない。武力ではなく学力で勝負してもらう。」

…もちろん知っている。まさかもう校則の知識が役に立つとは思わなかった。

「それでは僕がかなり不利になるかと。3年も歳が離れているのに学力で勝負とはさすがに…」


「もちろんお前には拒否権がある。不利だと思うのならば拒否すればいい。」

確かにそうだが、拒否権を使えばこちらに非が無かったとしてもハルシャ家の名を傷つけてしまうだろう。

たしか内容は教師がくじ引きをして決めるはずだ。

「内容はなんですか?」

「内容の前にルールを説明しておく。基本的には3回勝負をして2回勝った方の勝ちとなることを覚えていればいい。1回目は国史2回目は召喚術理論学、3回目は魔方陣理論学だ。どれも基礎レベルから卒業試験レベルの問題を幅広くだすつもりでいる。」

なるほど。じゃあ満点を取ることはほぼない、か。

相手は3年もここで学んでいる。容易に勝てる相手ではないだろう。

しかも召喚術理論学は危ないため学院の中でのみ教えることが許されている学問だ。まぁたまに独学で学ぶやつもいるが…

ともかく僕はまだ召喚術理論学というものを学んだことがない。本も売られていないためノータッチのままこの学院に来た。

そしてまだ授業を1回も受けていない。つまりは0点を取る可能性がすごく高い。

だが、召喚術理論学で落としたとしても国史と魔方陣理論学で相手の得点よりも上になれば僕の勝ち。

国史は大体覚えているし魔方陣理論学とは前世で言うところの数学だ。
数学は僕の数少ない特技と言っても過言ではない。
高校までの範囲しか知らないがそこまでで事足りるだろう。

つまりは相手が国史と魔方陣理論学で満点を取らなければ勝利は確定的である。

そして、このテストで満点を取るのは難しいときた。

つまりは僕の勝ちだ。

「その決闘、受けましょう。」


「いいんだな?それじゃあ午後6時に10番教室へ来い。1秒でも遅れれば棄権と見なす。」


「分かりました。」

そう言って僕は部屋から出た。





午後6時まで後7時間。その間に僕がすることは決まっている。

「今日の午後6時にアクアマリン寮の謎の転入生カイ・ハルシャとタンザナイト寮の秀才セルファ・グレイシスが決闘をするらしいよ!!どちらかが勝つかかけてみませんか?
最小で1000リビアからかけれます!
“1”は3:0でグレイシス卿の勝ち、“2”は2:1でグレイシス卿の勝ち、“3”は1:2でハルシャ卿の勝ち、“4”は0:3でハルシャ卿勝ちという感じになっていまーす!!あっ、そこのカッコいいお兄さんどうですか?」

「おっ、俺のこと?」


「もちろんです!」


「どうしようか…。たしかハルシャ卿よりもグレイシス卿の方が3つも歳上だしな…。それじゃあ“1”に20万リビアかけるよ」


「あっ、じゃあ俺も俺も!!俺はコイツよりもケチじゃないからな、50万リビアだ!」

さすが貴族。桁が違う。いい鴨だ

「ありがとうございます!」

と言い、人のよい笑みを浮かべる。ちなみに今の僕は子爵程度が着そうな服を着ており顔は仮面で隠れているため誰だかはわからないだろう。それに声もいつもと違い明るい感じに変えているのでそうそう気づかない…はずだ。てか気づかないでくれ

そう思いながら僕は商売を続けるのだった。




















午後6時

「それではセルファ・グレイシス対カイ・ハルシャの決闘を始める。用意はいいな?制限時間は15分だ。よーい始め!」


国史

問1 シェナード王国最初の国王の名前を答えよ

問2 現存する4つの公爵家の当主の名前及び特徴を
     答えよ
           ・
           ・
           ・

問10 ハールーン帝国と結んだ4回目の条約の名前
   と場所、内容を答えよ。

※1問10点で部分点は無しとする


問8から異常に難しくなっている。特に最後の問題は卒業試験ですらも訊かれないようなマニアックな問題だ。
だが、僕はハールーン帝国生まれである。お飾りではあったが歴史書なら家にたくさん置いてあった。
そのためシェナード王国の国史は同学年には負けないレベルかもしれないが、ハールーン帝国が関わっていれば“完璧”といっても過言ではないくらいのレベルだと自負している。

「終わりだ。ペンを置け。採点する。」

そう言って数分ほど採点の時間がとられた。

「セルファ・グレイシス80点、カイ・ハルシャ100点。よって一回目の勝者はカイ・ハルシャとなる。」


「そっ、そんな!何かの間違いで「私語は慎め。それでは召喚術理論学のテストを始める。」」


「っ…」

グレイシス卿は焦ったような顔をした。そらそうだろう。僕に負けるなんてはなから思ってなかったんだから…















「セルファ・グレイシス70点、カイ・ハルシャ20点。よって2回目の勝者はセルファ・グレイシスとなる。それでは魔方陣理論学のテストを始める。」

てかよく2問も取れたと思うよ、ほんと…

次は数学か。楽しまないとな


問1 21×45を求めよ

問2  中心(5.6)を通り半径16の円を数式で表せ

           ・
           ・
           ・

問10 図の面積を答えよ

ちなみに問10の図は裏面にあった。ここでは略式させてもらう。

まあ最後のもただの微分積分なので理系の高校生なら余裕だろう。

頭で全て暗算して時間のほとんどを暇をして過ごす。隣から殺気が送られてくるが気にしないことにした。




「セルファ・グレイシス80点、カイ・ハルシャ100点。よってこの決闘はカイ・ハルシャの勝利とする。また、校則37条より決闘を申し込みかつ負けたセルファ・グレイシスに毎月10万リビアをカイ・ハルシャへ支払うことを命じる。また、支払いが滞るような場合は即刻退学処分とし退学後3年以内に100万リビアを払わなければ奴隷落ちとする。」


厳しすぎると思った人もいるのではないだろうか?

しかし、そんなこともない。決闘を申し込むのにそれ相応のリスクがなければ決闘だらけになって能力の偏った生徒が集中攻撃されることになるだろう。

(学院限定だが)決闘を申し込まれた者が負けても家紋に傷がついたり謝罪を強要されるぐらいで、その上平民から決闘の申し込みは出来ないため、借金まみれになるというような残酷なことはめったに起きない。

まあともかく、僕にとって重要なことはこれから毎月お金が入ってくることとギャンブル事業が思った通り儲かったということのみである。

話したこともほとんどない人間の今後などどうでもいい。

そう思って薄ら笑いを浮かべながら頭では忙しなく算盤をはじいた。






「ねぇ、ノエルはハルシャ卿を仲間に引き入れる気なの?」

シドがそう言うとノエルは曖昧な笑みを浮かべた。

「まだ決めていないよ。ただ、敵に回してはいけない部類なのは確かだね。」

そう言って紅茶を上品に飲む。

「それじゃあなんで味方にしようと即決しないの?」


「彼はどのような人柄なのか、どのような能力があるのか、そういうことがあまりよくわからないからですよ。」

セシルが優しく問いに答える。

「無意識なのか意識的なのか、彼は能力を隠している。今日の決闘の結果でわかるだろう?」


「んじゃあアイツは文武どちらも出来る天才ってことか?」

バリバリとクッキーを食べながら聞くカールにノエルは少し苦笑する。

「確かに頭の回転が速い分戦闘も人より上手かもしれないが、私は専門家ではないからハルシャ卿の実力ははっきりとはわからない。カールはどう思ったんだい?」


「俺か?うーん…筋肉のつき方的に力はあまり無さそうだったのが印象的だな。ただ、速さと体力が異常だな。流石はハルシャ家って思ったな。」


「ねぇねぇ、ハルシャ卿ってどのくらい賢いと思う?」


「さぁ?なんせ1ヶ月程幻の家庭教師カーティスが教えた程の人材である、ということぐらいしか情報がない。特定の分野が天才的に出来るのか、はたまたどの科目でも出来るのか…。時間はたっぷりあるからこれから探っていけばいいさ。」


「それもそうだね!後で勉強教えてもらおっかな…」


「そういえばシド、あなた国史のテストで10点を取ったと聞きましたが本当なのですか?」


「うん?そうだよ。やっぱりアタシ国史は苦手なんだよね~」


「いやっ、この前の魔法理論の小テストも生物学の小テストも同じような点数じゃなかった?」


「ノエルぅーそれは言わない約束でーす」


「そんなんで1ヶ月後にある試験までどうすんだよ」


「アンタも言えた成績じゃないくせにー!セシ「さすがに私も庇えませんよ。」ちぇっ」


「ハルシャ卿に教えてーって泣きつけば教えてくれるんじゃないか?結構優しそうだし」

とカールが言うとノエルとシドが頭おかしいんじゃないの、という目つきでカールを見た。

「「はっ?」」


「何言ってるの?ハルシャ卿にそんなこと言えば『ふーんそうなんだ。シドさんの成績なんて僕に何の関係もないし、僕とシドさんってそこまでの関係じゃないでしょ?』って言われるのが関の山よ!」


「確かにそれは言いそうだね。彼、友達と知り合いをはっきり別けるタイプみたいだからこちらから距離を詰めても倍の距離を空けてくるだろうね。」

実際シドは名前呼びを拒否されていたし…と思うが喉で止めておく。これを言ったらシドは急激に機嫌が悪くなるのだっとノエルは思いシドに取り敢えずにこりと微笑んでおく。


「???…てことだからハルシャ卿は却下。」


「それじゃあアイリスはどう?彼女はとても賢いよ。」


「そうですね、フローレス壌が適任かと。万が一ハルシャ卿が承諾してくれたとしても婚約関係のない女性と男性が1対1というのは少々問題ですから。」


「セシルはほんと細かいよね。まっ、そこがいいとこなんだけど!」


「ありがとうございます。貴女の大胆な性格も僕にとっては羨ましい限りですけどね。」


「…セシルがシドみたいになっても私は嫌だけどね。皆このままが1番いい。私はみんなの欠点ですら気に入っている。」


「嬉しいこと言うじゃない!アタシもノエルの蛇みたいな所、好きだよ」


「…蛇?それは褒められているのやら」


「いや、貶されてるだろ…」


「ねぇみんな!カードゲームしようよ!!」

その一言で皆動き出す。

彼らの秘密のお茶会は深夜まで続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

まる
ファンタジー
 樋口康平はそこそこどこにでもいるごく平凡な人間を自負する高校生。  春休みのある日のこと、いつものように母親の経営する喫茶店・ピープルの店番をしていると勇者を名乗る少女が現れた。  手足と胴に鎧を纏い、腰に剣を差した銀髪の美少女セミリア・クルイードは魔王に敗れ、再び魔王に挑むべく仲間を捜しに異世界からやって来たと告げる。  やけに気合の入ったコスプレイヤーが訪れたものだと驚く康平だが、涙ながらに力を貸してくれと懇願するセミリアを突き放すことが出来ずに渋々仲間捜しに協力することに。  結果現れた、ノリと音楽命の現役女子大生西原春乃、自称ニートで自称オタクで自称魔女っ娘なんとかというアニメのファンクラブを作ったと言っても過言ではない人物らしい引き籠もりの高瀬寛太の二人に何故か自分と幼馴染みの草食系女子月野みのりを加えた到底魔王など倒せそうにない四人は勇者一行として異世界に旅立つことになるのだった。  そんな特別な力を持っているわけでもないながらも勇者一行として異世界で魔王を倒し、時には異国の王を救い、いつしか多くの英傑から必要とされ、幾度となく戦争を終わらせるべく人知れず奔走し、気付けば何人もの伴侶に囲まれ、のちに救世主と呼ばれることになる一人の少年の物語。  敢えて王道? を突き進んでみるべし。  スキルもチートも冒険者も追放も奴隷も獣人もアイテムボックスもフェンリルも必要ない!  ……といいなぁ、なんて気持ちで始めた挑戦です。笑 第一幕【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】 第二幕【~五大王国合同サミット~】 第三幕【~ただ一人の反逆者~】 第四幕【~連合軍vs連合軍~】 第五幕【~破滅の三大魔獣神~】

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

処理中です...