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一章 兵器化編
第24話 プリズムベアー
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【時間切れです、マスター♪】
言い終わるが早いか、プリズムベアーが走って川を渡ってくる。
暗闇の中で容赦なく突き進んでくる発光体……。怖い! 怖すぎるぞ!
「ほんとだー。こっちに向かってきてんな~。うん、それは分かるんだけどさーー。……なぜ俺を狙う!? エサならいっぱいあんじゃん! 体の周りにうざいぐらい飛んでるじゃんっ! んであいつ、腹めっちゃ光ってるじゃん! たらふく食ってんじゃんっ!」
【あー、恐らく興奮してるんでしょうね。だってあれですよ、ご飯食べたら体が光りだしたんですよ。ヘタなホラー番組より怖いですって。それでずっと光ってたらイライラもしますって。】
「じゃあ何か? あいつは訳が分からない事になってムカついたから俺を襲ってきてるのか? 俺を何だと思ってんだ!」
【さあ……。ストレスボールくらいに見てるんじゃないですか?】
「……は? 俺のことをストレスボールだと? 舐め腐ってんな。──いいだろう。俺の実力を見せつけて、訳もわからず自分を攻撃するぐらい困惑させてやるぜ!
熊っ!覚悟ぉー!!」
俺は硬質化&ソードをクリエイトし、突き進んでくる熊に向かって突っ込んでいった。
【やったぜ。】
「ん? 今なんか言った?」
【ヤツの弱点は腹です! 華麗にぶっ倒して、格の違いを見せつけてやりましょう! ……と言いました。】
「そんなに語数多くなかったよね!?」
【そんなことより、ほら! 前見てください前! もうそこまで迫ってますよ!】
「ずっと前見てるんだけどな。それにしても、改めて近くで見ると……やっぱデカイな。」
勢い良く突っ込んだのは良いものの、凄いデカイ。三メートルはあるんじゃないだろうか。
あと凄い眩しい。ずっと見てたら目が悪くなりそう。
「じゃあいくぜ! 先手必勝ぉ!」
言うと同時に俺はクロックを発動させる。瞬間、流れる時間から解き放たれたように全ての動きがスロウになる。
俺はダッシュの勢いをそのまま利用し、突きを放とうとした。
だがそれよりも早く、プリズムベアーがその剛腕を降り下ろす。
「ここでサイドステップを決めていくぅ!」
俺は突きを中断させ、横っ飛びすることで初撃を回避する。
……すると、プリズムベアーの爪が漂っていたハコバクに直撃した。
(ま、まずい! 早く目を瞑っ……)
ハコバクは両者の目の前で絶命し、爆弾の如く発光する。
『グルアアアァァッ!』
「ギャアアアァァッ!」
海音とプリズムベアーは仲良く川底をのたうち回る。
転がる度に水飛沫が上がっているぞ! なんて激しい戦いなんだ!
……ひとしきり転がった後、ようやく視力が回復してきた。
俺は浅瀬に寝転んだままプリズムベアーを見やる。
どうやらまだ目が眩んでいるようで、デタラメに腕を振り回している。
そして──
『カッッ!!』
再び光の爆弾が炸裂した。
俺の目、終了のお知らせ。
「あ“あ“あ“あ“あ“っ! 目がっ! 目が焼けるように痛いっ! このクソヤロウが! ぜってーぶっ殺してやる!」
俺は目が眩んだまま立ち上がり──、そのまま水の中に帰還した。
【……どうしました? なぜ寝転び直すのです?】
「ララよ……。この勝負、俺の負けかもしれん。……俺はここから動くことができない。」
【そ、そんな……! プリズムベアーは呪術の類いなど扱えないハズ……。いったい何故!?】
「……俺は今、猛烈にびしょ濡れだよな? のたうち回ったせいで。」
【は、はい。】
「こんな状態で水から上がれば、俺はどうなっちまうと思う?」
【い、一体何が起こるというので……?】
「──肌寒くて死ぬ。」
【おう、さっさと起きろやこの腐れマスター。】
「酷い言い草!」
【いやだって、戦闘中に寒いから寝転ぶとか思考回路どうなってんですか。それに今日寒くないです。】
「あー、それはホラ。見て見て。プリズムベアー、まだ視力戻ってないじゃん。焦ること無いって。」
【今のうちに攻撃を仕掛けようとは思わないのですか!】
「お前天才か!?」
【多分誰でも思いつきますよ。】
ザバアァ! 海音は立ち上がった!
「さっきはよくもやってくれたなこのクソ熊が!」
俺は、まだ視力が戻らずに頭をブンブン振っているヤツに向かって突撃する。
『ザシュッ!』
横凪ぎ一閃。
海音のソードはプリズムベアーを背中から切り裂き、ダメージを与える。
「よっしゃ! ざまあ見やがれ!」
【あの……腹が弱点……】
「攻撃通ったし問題ないだろ?」
【まあそうですね。正直、あの堅い毛皮を貫通するとは思いませんでした。】
「なんだ、思ったより余裕そうだな。クロックのお陰で攻撃もしっかり見切れるし。焦って損した気分」
【……かも知れませんが、マスター。あれ見てください、あれ。】
「だからあれってなん…だ……よ……?」
言いながらも、あれって言えばプリズムベアーしかないので注意深く見る。
目に入ったのは、プリズムベアーの右腕が淡く発光している光景。こうして見ている間にも輝きを増していて、色は発光爆弾の黄色とは違う白色だ。
視力はもう回復しているようで、眼圧で押し殺さんばかりにこちらを睨みつけている。
「ラララララさん!? 何あれ!? なんか変な光が!」
【また焦って損しますよ……取り乱し過ぎです。漫才でもやってるんですか? ──とはいえ、確かにあの光は危険ですね。恐らく魔法を発動してきますよ。】
「魔法!? 魔物って魔法とか使えるもんなのかよ。少なくともタマは使えないんですけど。」
【上級の魔物になると、『固有魔法』という特殊な魔法を扱う個体がいます。そしてプリズムベアーの固有魔法は《空爪撃》。これは、爪から衝撃波を出して虚空を切り裂き相手を切り刻む……、いわゆるソニックブームや鎌鼬かまいたちのような技です。】
「なにそれ格好いい。……でもまあ、その手の攻撃って来ると分かってたらかわすの簡単そうだよな。」
【そうかも知れませんが、威力は高いですよ。昔、世界最強の檻おりを破壊して脱走した程度には。あの時は凄い被害が出ましたねぇ……、風の爪でギルドや家屋が真っ二つに】
「ヤメロ! お前はもう喋るな……。いちいち言うことが物騒なんだよ! 俺を怖がらせる趣味でもあるのか?」
【いやでもマスターが話しかけて】
「それはごめん! 謝るから今はちょっと黙ってて!」
俺はララを黙らせ、プリズムベアーを見やる。
右腕に纏った光は最高潮に達し、粒状の光の粒子が渦巻いていた。ララの言うとおり、あれを喰らったらひとたまりもないだろう。敵の魔法など見たことは無いが、本能が警鐘を鳴らしている。
ヤバい、と。
『グルアアァッ!』
プリズムベアーが咆哮を上げた。
そして空爪撃を放ってくる──のではなく、こっちに向かって突進してきた。
「なっ!?」
海音は混乱する。
魔法の発動タイミングを今か今かと伺っていたら、全く予想外の行動をしてきたのだ。
右腕に魔力充填の完了した必殺技をひっさげて、確実に当てるために。相手を翻弄するために。
プリズムベアーとの距離があと数メートルまで迫った所で、ようやく海音は我にかえった。
目の前に広がる物は、遠くで必撃を放ってくるはずの敵が眼前まで迫っている光景。
急いでソードを前に降り下ろし、一直線に走ってくるプリズムベアーを一網打尽にしようとする。
動揺しながらも見事な剣筋を見せた海音のソードは、ブレーキなど間に合わぬ速度で大熊に迫った。
海音は幻視する。
眼前の大熊が、切り裂かれて絶叫を上げる様を。
…………が。
プリズムベアーは、間合いに入る寸前で──
──跳んだ。
海音は絶句する。
熊が、飛び掛かって来るのではなく、跳んだのだ。海音の後ろに向かって、頭上スレスレを通過する軌道での大跳躍。
「……は?」
その行為は、明らかに計算されたフェイント。
海音は熊は跳ばないものだと勝手に思っていた。跳んだとしても、前方に向かって跳ぶ、突進の延長のような跳躍だと。
海音は、とんでもない勘違いをしていた。
そう、目の前の熊はただの大熊ではなく、戦闘馴れした歴戦の戦士なのだ。
魔力をエサにしてここまでの体躯を手に入れたということは、発光爆弾によって引き寄せられた更なる強者を退けて来た証。
生き残る為に『戦略』を産み出した化け物だということを、今、理解した。
そしてプリズムベアーは海音の頭上を通りすぎ──ることはなかった。
突然だが、スポーツ等でフェイントを掛けるには何が重要かご存知だろうか。
技術力、重心移動、タイミング、思考の掌握。色んな要因があり、どれもこれも必要な要素だ。
だがこれら全てが、ある要因が無ければ意味を成さない。
スピードだ。
想像してほしい。
例えばサッカーで、相手が一対一で攻めてきているとする。その時、相手が駆け足で来ていたら、自分にとって驚異だろうか?
答えは否。
もし相手がタイミングを見計らってきても、こちらを騙そうとしたとしても、速さが無ければ意味がない。
なぜなら、ズラされた後、騙された後、果ては抜かれた後でも『後出し』で対応できるからだ。
フェイントに引っ掛かっても、掛けられた後から。
出遅れても、後ろから。
いくらでも対応が効く。
故に、驚異たりえない。
……そして、時短脳によって敵の動きがスローに見えている海音にとって、プリズムベアーはまさにそれだった。
相手はこの未開の地で生き抜き、様々な技術を手に入れた、正真正銘の化け物だ。
しかし、海音に対して驚異にならない。彼は後出しし放題なのだから。
最上級クラスの魔物の動きが遅いと感じる。
前にケルベロスの事を反則級と言ったが、今となっては海音も充分に反則級だった。
「おらああぁああっ!!」
海音は虚空に跳躍したプリズムベアーを、持ち直したソードで切り上げた。
即席の剣閃は、見事プリズムベアーの腹をザックリと切り裂く。
あり得ない反応速度で。逃げ場の無い空中で。自らの弱点を突かれた大熊は、声にならない絶叫を上げながら血飛沫を上げた。
そして──
「……はー、危なかった。驚かすなよ……バッタかコイツは。」
──勢いのまま地面に墜落し、生き絶えた。
言い終わるが早いか、プリズムベアーが走って川を渡ってくる。
暗闇の中で容赦なく突き進んでくる発光体……。怖い! 怖すぎるぞ!
「ほんとだー。こっちに向かってきてんな~。うん、それは分かるんだけどさーー。……なぜ俺を狙う!? エサならいっぱいあんじゃん! 体の周りにうざいぐらい飛んでるじゃんっ! んであいつ、腹めっちゃ光ってるじゃん! たらふく食ってんじゃんっ!」
【あー、恐らく興奮してるんでしょうね。だってあれですよ、ご飯食べたら体が光りだしたんですよ。ヘタなホラー番組より怖いですって。それでずっと光ってたらイライラもしますって。】
「じゃあ何か? あいつは訳が分からない事になってムカついたから俺を襲ってきてるのか? 俺を何だと思ってんだ!」
【さあ……。ストレスボールくらいに見てるんじゃないですか?】
「……は? 俺のことをストレスボールだと? 舐め腐ってんな。──いいだろう。俺の実力を見せつけて、訳もわからず自分を攻撃するぐらい困惑させてやるぜ!
熊っ!覚悟ぉー!!」
俺は硬質化&ソードをクリエイトし、突き進んでくる熊に向かって突っ込んでいった。
【やったぜ。】
「ん? 今なんか言った?」
【ヤツの弱点は腹です! 華麗にぶっ倒して、格の違いを見せつけてやりましょう! ……と言いました。】
「そんなに語数多くなかったよね!?」
【そんなことより、ほら! 前見てください前! もうそこまで迫ってますよ!】
「ずっと前見てるんだけどな。それにしても、改めて近くで見ると……やっぱデカイな。」
勢い良く突っ込んだのは良いものの、凄いデカイ。三メートルはあるんじゃないだろうか。
あと凄い眩しい。ずっと見てたら目が悪くなりそう。
「じゃあいくぜ! 先手必勝ぉ!」
言うと同時に俺はクロックを発動させる。瞬間、流れる時間から解き放たれたように全ての動きがスロウになる。
俺はダッシュの勢いをそのまま利用し、突きを放とうとした。
だがそれよりも早く、プリズムベアーがその剛腕を降り下ろす。
「ここでサイドステップを決めていくぅ!」
俺は突きを中断させ、横っ飛びすることで初撃を回避する。
……すると、プリズムベアーの爪が漂っていたハコバクに直撃した。
(ま、まずい! 早く目を瞑っ……)
ハコバクは両者の目の前で絶命し、爆弾の如く発光する。
『グルアアアァァッ!』
「ギャアアアァァッ!」
海音とプリズムベアーは仲良く川底をのたうち回る。
転がる度に水飛沫が上がっているぞ! なんて激しい戦いなんだ!
……ひとしきり転がった後、ようやく視力が回復してきた。
俺は浅瀬に寝転んだままプリズムベアーを見やる。
どうやらまだ目が眩んでいるようで、デタラメに腕を振り回している。
そして──
『カッッ!!』
再び光の爆弾が炸裂した。
俺の目、終了のお知らせ。
「あ“あ“あ“あ“あ“っ! 目がっ! 目が焼けるように痛いっ! このクソヤロウが! ぜってーぶっ殺してやる!」
俺は目が眩んだまま立ち上がり──、そのまま水の中に帰還した。
【……どうしました? なぜ寝転び直すのです?】
「ララよ……。この勝負、俺の負けかもしれん。……俺はここから動くことができない。」
【そ、そんな……! プリズムベアーは呪術の類いなど扱えないハズ……。いったい何故!?】
「……俺は今、猛烈にびしょ濡れだよな? のたうち回ったせいで。」
【は、はい。】
「こんな状態で水から上がれば、俺はどうなっちまうと思う?」
【い、一体何が起こるというので……?】
「──肌寒くて死ぬ。」
【おう、さっさと起きろやこの腐れマスター。】
「酷い言い草!」
【いやだって、戦闘中に寒いから寝転ぶとか思考回路どうなってんですか。それに今日寒くないです。】
「あー、それはホラ。見て見て。プリズムベアー、まだ視力戻ってないじゃん。焦ること無いって。」
【今のうちに攻撃を仕掛けようとは思わないのですか!】
「お前天才か!?」
【多分誰でも思いつきますよ。】
ザバアァ! 海音は立ち上がった!
「さっきはよくもやってくれたなこのクソ熊が!」
俺は、まだ視力が戻らずに頭をブンブン振っているヤツに向かって突撃する。
『ザシュッ!』
横凪ぎ一閃。
海音のソードはプリズムベアーを背中から切り裂き、ダメージを与える。
「よっしゃ! ざまあ見やがれ!」
【あの……腹が弱点……】
「攻撃通ったし問題ないだろ?」
【まあそうですね。正直、あの堅い毛皮を貫通するとは思いませんでした。】
「なんだ、思ったより余裕そうだな。クロックのお陰で攻撃もしっかり見切れるし。焦って損した気分」
【……かも知れませんが、マスター。あれ見てください、あれ。】
「だからあれってなん…だ……よ……?」
言いながらも、あれって言えばプリズムベアーしかないので注意深く見る。
目に入ったのは、プリズムベアーの右腕が淡く発光している光景。こうして見ている間にも輝きを増していて、色は発光爆弾の黄色とは違う白色だ。
視力はもう回復しているようで、眼圧で押し殺さんばかりにこちらを睨みつけている。
「ラララララさん!? 何あれ!? なんか変な光が!」
【また焦って損しますよ……取り乱し過ぎです。漫才でもやってるんですか? ──とはいえ、確かにあの光は危険ですね。恐らく魔法を発動してきますよ。】
「魔法!? 魔物って魔法とか使えるもんなのかよ。少なくともタマは使えないんですけど。」
【上級の魔物になると、『固有魔法』という特殊な魔法を扱う個体がいます。そしてプリズムベアーの固有魔法は《空爪撃》。これは、爪から衝撃波を出して虚空を切り裂き相手を切り刻む……、いわゆるソニックブームや鎌鼬かまいたちのような技です。】
「なにそれ格好いい。……でもまあ、その手の攻撃って来ると分かってたらかわすの簡単そうだよな。」
【そうかも知れませんが、威力は高いですよ。昔、世界最強の檻おりを破壊して脱走した程度には。あの時は凄い被害が出ましたねぇ……、風の爪でギルドや家屋が真っ二つに】
「ヤメロ! お前はもう喋るな……。いちいち言うことが物騒なんだよ! 俺を怖がらせる趣味でもあるのか?」
【いやでもマスターが話しかけて】
「それはごめん! 謝るから今はちょっと黙ってて!」
俺はララを黙らせ、プリズムベアーを見やる。
右腕に纏った光は最高潮に達し、粒状の光の粒子が渦巻いていた。ララの言うとおり、あれを喰らったらひとたまりもないだろう。敵の魔法など見たことは無いが、本能が警鐘を鳴らしている。
ヤバい、と。
『グルアアァッ!』
プリズムベアーが咆哮を上げた。
そして空爪撃を放ってくる──のではなく、こっちに向かって突進してきた。
「なっ!?」
海音は混乱する。
魔法の発動タイミングを今か今かと伺っていたら、全く予想外の行動をしてきたのだ。
右腕に魔力充填の完了した必殺技をひっさげて、確実に当てるために。相手を翻弄するために。
プリズムベアーとの距離があと数メートルまで迫った所で、ようやく海音は我にかえった。
目の前に広がる物は、遠くで必撃を放ってくるはずの敵が眼前まで迫っている光景。
急いでソードを前に降り下ろし、一直線に走ってくるプリズムベアーを一網打尽にしようとする。
動揺しながらも見事な剣筋を見せた海音のソードは、ブレーキなど間に合わぬ速度で大熊に迫った。
海音は幻視する。
眼前の大熊が、切り裂かれて絶叫を上げる様を。
…………が。
プリズムベアーは、間合いに入る寸前で──
──跳んだ。
海音は絶句する。
熊が、飛び掛かって来るのではなく、跳んだのだ。海音の後ろに向かって、頭上スレスレを通過する軌道での大跳躍。
「……は?」
その行為は、明らかに計算されたフェイント。
海音は熊は跳ばないものだと勝手に思っていた。跳んだとしても、前方に向かって跳ぶ、突進の延長のような跳躍だと。
海音は、とんでもない勘違いをしていた。
そう、目の前の熊はただの大熊ではなく、戦闘馴れした歴戦の戦士なのだ。
魔力をエサにしてここまでの体躯を手に入れたということは、発光爆弾によって引き寄せられた更なる強者を退けて来た証。
生き残る為に『戦略』を産み出した化け物だということを、今、理解した。
そしてプリズムベアーは海音の頭上を通りすぎ──ることはなかった。
突然だが、スポーツ等でフェイントを掛けるには何が重要かご存知だろうか。
技術力、重心移動、タイミング、思考の掌握。色んな要因があり、どれもこれも必要な要素だ。
だがこれら全てが、ある要因が無ければ意味を成さない。
スピードだ。
想像してほしい。
例えばサッカーで、相手が一対一で攻めてきているとする。その時、相手が駆け足で来ていたら、自分にとって驚異だろうか?
答えは否。
もし相手がタイミングを見計らってきても、こちらを騙そうとしたとしても、速さが無ければ意味がない。
なぜなら、ズラされた後、騙された後、果ては抜かれた後でも『後出し』で対応できるからだ。
フェイントに引っ掛かっても、掛けられた後から。
出遅れても、後ろから。
いくらでも対応が効く。
故に、驚異たりえない。
……そして、時短脳によって敵の動きがスローに見えている海音にとって、プリズムベアーはまさにそれだった。
相手はこの未開の地で生き抜き、様々な技術を手に入れた、正真正銘の化け物だ。
しかし、海音に対して驚異にならない。彼は後出しし放題なのだから。
最上級クラスの魔物の動きが遅いと感じる。
前にケルベロスの事を反則級と言ったが、今となっては海音も充分に反則級だった。
「おらああぁああっ!!」
海音は虚空に跳躍したプリズムベアーを、持ち直したソードで切り上げた。
即席の剣閃は、見事プリズムベアーの腹をザックリと切り裂く。
あり得ない反応速度で。逃げ場の無い空中で。自らの弱点を突かれた大熊は、声にならない絶叫を上げながら血飛沫を上げた。
そして──
「……はー、危なかった。驚かすなよ……バッタかコイツは。」
──勢いのまま地面に墜落し、生き絶えた。
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