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2巻
2-2
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今、赤毛の青年には、普通の人間でも見てわかるほど瘴泥の気配がへばりついていた。
漁師達が騒然となっている間にも、青年は体をふらつかせる。
倒れかける彼を、漁師達の間をすり抜けかけつけた私が支えた。
といってもずるずると倒れ伏す体を、地面に寝かせるだけだけど。
突然現れた子供の私に、漁師達は驚いて立ち尽くす。
青ざめた顔のジョルジュも、私を見上げて目を見開いていた。
まあ突然、見知らぬ銀髪美少女なんかが現れたら驚くよね。
でも時間がないから全部あとね。
「君、は」
「しゃべらないで。一番苦しいのは?」
端的に訊ねれば、彼は反射的に胸を押さえる。肺か、なるほど。
ジョルジュの頭を自分の膝に乗せた私は、手を彼の胸に滑らせた。
ええと、確か正規の神官が使う文言は。
「〝清浄を正常に。澄み渡りし浄化の光をこの者に〟」
私の手からあふれた浄化の光は、柔らかくジョルジュの胸に吸い込まれていく。
彼を侵していた瘴泥が徐々に薄れ、青ざめていた肌色が元に戻った時には、周囲からどよめきが起きた。
面食らったように体を起き上がらせるジョルジュに、私はにっこり笑って見せる。
「うん、もう大丈夫だね」
「あ、ありがとう。君は」
「ただの通りすがり。どうして瘴泥なんかに冒されていたの?」
本当は目立つ事はしたくなかったんだけど、神官がいないんなら放っておくのはまずい。
泥のような血を吐くのはかなり末期、瘴泥に体内を侵食されきる寸前だ。いつ到着するかわからない神官を待っていたら、確実に手遅れになるレベルだった。
不可抗力なんだから、むっすり顔はやめてくれないかね、お兄ちゃん。
そう心の中で思いつつ、私は漁師達をかき分けてやって来たライゼンを見上げた。
彼は一瞬で状況を把握すると、未だ硬直するジョルジュに軽く頭を下げる。
「妹が失礼した。だが無事でなによりだ」
「ええと、兄妹か?」
「ああ、似てないとよく言われる」
え、ちょっとライゼン、割と淡々と話すほうだと思ってたけど、いつもより非友好的では?
私はちょっと首をかしげたが、今はジョルジュが優先である。
だが話を進める前に、貫禄のある髭もじゃの漁師さんが聞いてきた。
「なあお嬢ちゃん、今、浄化をしてくれたんだよな。本当に、ジョルジュは大丈夫なのか」
「うん、体の中の瘴泥は浄化したよ。でも内臓が傷ついているだろうから、お医者さんには行ったほうが良い。私にできるのは浄化だけだから」
「そいつはすげえなお嬢ちゃん!」
「神官でも浄化は一晩以上かかる時もあるってのに! ありがとうなあ!」
おそるおそる言ったのだが、漁師のおっさん達は胴間声を響かせて喜んだ。
おうふ、それって普通のお子様だったら怖がって泣き出すやーつ。
私アラフォーだから大丈夫だけども。だが良かった、あんまりにも浄化が速すぎて不審がられないか心配だったんだ。
とはいえ、かなりの勢いでおっさん達が迫ってくるのは驚くよ。
そのまま大きな手が私の頭に伸ばされかけた時、ひょいとライゼンに抱え上げられた。両脇に手を入れられて足がぷらーんとなる。
いや、いいけど。ねえ、ねえ。
「妹を手荒に扱わないでほしい」
「ああいや、うん悪かったよ兄ちゃん。そんな怖い顔で見るなって」
真顔で迫るライゼンにおっさん達はたじたじになっていた。
まあ私も、もみくちゃにされるのは困るから助かったけど、そこまでやらんでも良かったのに。
ぷらーんとされ続けるのもアレなので、ライゼンの腕を叩いて見上げると、彼はため息をつきながらも下ろしてくれた。まったくもう。
私達がそんなやりとりをしている間に、おっさん達は冷静になったようだ。複雑な顔でジョルジュを見やる。
「治療院は行け。だがこれ以上勝手に船を出したら、さすがに漁業組合から抜けてもらうぞ」
「おやっさんっ」
ぶっきらぼうに言い放ったおっさん達が去っていった後、ジョルジュは悔しそうに地面を叩いた。
「くっそう! 聞く耳持ってくれたっていいだろう! 俺が証明してやるって言ってんのに!」
いや、後ろ髪を引かれてるよおっさん達。
あー心配なんだなーでも立場上どうしようもねえんだな、っていうのを背中で語ってるよ。
あのおっさん達、わりといい上司だと思う。
まあいいや。こうして取り残されてくれたのなら、こっちとしては好都合だし。
ジョルジュはひとしきり悔しがった後ではっとすると、気まずそうにこちらを向いた。
精悍な面立ちが快活な印象を与える青年だ。
「助けてもらったのに妙な事になっちまってすまねえな。神官様かい? ちっさいのにすげえな」
ちっさいは余計だ。と思わなくはなかったが、私はアラフォーなのでにこにこ笑って見せた。
「ううん気にしないで。ところでお兄さんいくつか話を聞きたいんだけども」
「君は命の恩人だから何でも話すぞ! そうだ夕飯はまだか、まだだよな。うまい飯屋があるんだそこに行こうっ」
「いや待ってその前に治療院だから!」
病み上がりにもかかわらず勢い勇んで歩いていこうとする彼を、私は全力で止めたのだった。
☆ ☆ ☆
と言うわけでジョルジュを治療院にぶち込み、適切な治療をしてもらったあと飯屋に入った。
「ありがとうな、ここは俺がおごるから好きなだけ食ってくれー! あ、俺とこの兄ちゃんにビールくれ!」
快活に笑うジョルジュは、当然のごとく酒を頼むが、ライゼンは眉を顰める。
「ジョルジュ、医者から酒は暫く禁じられていただろう」
「飲ませてくれよライゼン。涙なしには語れねえんだっ」
いやでも内臓をやられてるんだからアルコールは控えなきゃ。
お互いに自己紹介をして、ライゼンと自分がほぼ同年代だと知った途端、ジョルジュは一気に打ち解けた風になっていた。
彼は見た目通り海の男そのまんま、といった雰囲気の快活な青年だ。
小麦色に日焼けした肌に、潮でちょっとぱさついた赤い髪をしている。
さらにライゼンよりも一回りくらい横幅が大きく体格がいい。なんでも普段はリトルクラーケン漁をしているんだって。へー!
そんな彼にビールジョッキは、恐ろしいほどよく似合っていたけれども。
止める間もなく、ジョルジュは勢い良くジョッキを呷る。
おー良い飲みっぷりだ。これはいける口か。
しかし、正面に向き直ったジョルジュは素晴らしいまでに真っ赤になっていた。
「あのなー俺はーただぁ。あのひとーのーごかいをーはらしたいだけなんだー」
がっと隣にいたライゼンの肩に腕を回し、完全に酔っ払いの体で大声で話し始めた。
酒よっわいなおい⁉
ライゼンが微妙に迷惑そうにしているが、ジョルジュはまったく見ていない。
とろんとした目をすわらせている彼に驚く私だったが、これは好都合だ。
早速貝のパエリヤっぽいのをもぐもぐしながら、問いかけた。
「ねージョルジュ、あの人って誰の事」
「あのひとはなー鱗がきらきらひかって、しぬほどきれーなんだぁ。薄い赤と紫がな、こーまざってわかめみたいになってな、ヒレが日の光に透けるとわかめみたいでそりゃあもうつるつるしてるんだぞお」
ジョルジュよ、支離滅裂だしめちゃくちゃわかめ推すな? まあいい、美人の表現なんて人それぞれなわけだし置いておこう。
だが、断片的でもヒレや鱗という単語が出てきた事から、ジョルジュの言う「あの人」が人魚なのは確定だ。
「俺が漁をしているーときにぃー助けてくれてなー。でも急にくるなーなんて言ってよー。そしたら、魚が獲れなくなっちまうし、みんなは人魚のせいだーって言いやがるしー!」
苛立ちをぶつけるように、またぐいっとビールを呷ったジョルジュは、だんっとジョッキをテーブルに置く。
「だから! あの人に会うために! 海に潜ったんだ! これからも会えるまで潜るぞぉ! どんだけ濁ってても、あの人は綺麗だからぜったいみつかるぅ!」
「海に潜ったって、今日も?」
私が確認すると、ジョルジュはとろんとした目をこちらに向けた。
「あ、あー? 俺を助けてくれたーえーっと」
「祈里だよ」
「そうそうイノリちゃん! そうだぞぉ最近はーすげえ視界が悪くてさー。鱗の影も、見つけられないうちに、気が遠くなってなー。やべえと思ったら船の上にいてなー。なんとか船を操って帰ってきたんだー」
「もしかしてさ。船底腐食してない?」
一つの可能性が浮上してきて、問いかけてみると、ジョルジュは鈍いながらも反応する。
「え、あーなんでしってるんだ」
「あんたがいつどこで瘴泥に冒されたかわかったって事」
「まさか海か」
驚くライゼンに、私は頷いてみせる。
水の中に広がった瘴泥のなにがやっかいかって、よほど探知能力に優れている神官でもない限りそこに瘴泥がある事がわからないのだ。
だからジョルジュも気づかず潜り続けて、あそこまで瘴泥に冒された。
本当に私が居合わせて良かったな⁉
「あー海が、なんだってー?」
「こっちの話。ねえ……」
「あのひとはほんとうに綺麗なんだよ……」
「聞いてねえし」
もうべろんべろんになっているジョルジュは、同じ事を何度もくり返す。
「あの人は海を守ってるんだよ。そうとしか思えねえ。だってそうじゃなきゃ広い海があんのに、ここにとどまってくれるわけがねえだろ。あのひとは、誰一人、傷つけてねえんだ。それをおやっさん達は領主と事を構えたくないって無視しやがる! すんげえ綺麗で、綺麗で……ぐう」
ジョルジュは最後まで言い終わる前に、ぐーぐー寝始めた。ライゼンを抱えたまま。
私ははあとため息をつく。
「お疲れライゼン」
「いや、大した事はない。……それより、ますます状況がわからなくなったな」
やっと腕を外したライゼンが肩を回しつつ、やれやれと言った調子で続けた。
「人魚が特定の海域に入らせないよう、船を壊して追い返しているが、その意図に気づかず領主が討伐隊を組んでいたという事だろうか」
「とはいえ、人魚族が追い返していたのは海が瘴泥で汚染されていたからで、人魚は誰も殺していなかった。まあ船を壊すのも悪質だけどさ。問題は領主が瘴泥に気づいているかいないか」
「そういえば、ジョルジュが倒れた時に、漁師達は神官が領主のもとに集められていると言っていたな。気づいている可能性はある」
「けどさ、瘴泥汚染について街の人には説明していないよね。それでも、人魚族を悪としている」
まあ領主なんて千差万別だから、いい加減にした可能性もなきにしもあらずなんだけど。
こうやって色々見えてくると、一概に人魚を悪者扱いにはできないんじゃないかと思うんですよ。
「どうする祈里」
ライゼンの問いに、私はそろりと目を泳がせる。けど、神妙な面持ちで言った。
「うむ。当事者達に聞いてみるのが一番かなって」
「は」
これは最後の手段にしたかったんだけど、確実ではあるんだ。よっぽどの事じゃない限り、応じてくれると思うしさ。
「とりあえず、すべては明日の早朝って事で」
「ああ、それは了解したが」
目を丸くするライゼンは納得したように頷いたが、ちらっと隣を見る。
「彼をどうしたらいいだろう」
「家を知らないね……」
道ばたに放り出すには忍びないし。
「とりあえず、ご飯食べながら考えようか。ジョッキちょうだい」
「飲むほう優先してないか……。ならそっちのパエリヤをくれ」
「あいよー」
ライゼンと私はぐーすか寝込むジョルジュを横目に、頼んだご飯をせっせとかき込んだのだった。
閑話 一方その頃宰相殿は。その一
グランツ国、王城。
宰相の執務室で、グランツ国の宰相セルヴァは書類の山に埋もれていた。
埋もれているだけで、溺れているわけではない。この国の勇者王、祈里が有給休暇という名の出奔をして早一ヶ月半。通常業務と並行して「石城迷宮」で起きた瘴泥汚染の事後処理を進め、役人やその筋から上がってきた報告を精査し、仕事を割り振る。
そういった実務はセルヴァの得意とするところだ。慎重に事を運ぶために、他の者からはゴーレムの歩みのようだと評されもするが、他の幹部達のフットワークが軽すぎるのである。
その最たる者だった祈里がいないために、奇しくも平和な日々が過ぎていた。
できればこのまま平穏に過ぎていってくれれば良いと願っている。だが、そうもいかない事をセルヴァは思い知っていた。
ノックの後に、比較的若い補佐官が緊張した面持ちで入ってくる。
「お、お仕事中申し訳ありません。ご来客です」
「おや、次の約束までまだ時間はあるはずですが」
「経済大臣のシアンテアレア様が、応接間にてお待ちです」
もはや泣きそうな形相の補佐官に、セルヴァは無言で立ち上がった。
彼が応接間の扉を開けると、淡い色の髪を緩く結った甘い顔立ちの青年が、優雅にティーカップを傾けていた。耳環で飾られた彼の耳は、人族よりも長く尖っている。
「新人を言いくるめて強引に約束を取り付けるのやめていただけますか」
「君が空いている時間なのは把握していたよ。だが正規の手続きを取っていたら、その貴重な時間が死んでしまう。セルヴァ、君だって若いんだから柔軟にしないとね」
セルヴァが半眼で皮肉を言っても、青年、シアンテはどこ吹く風で甘く笑むだけだ。
彼はこの国の経済産業を担う、妖精族のシアンテアレアだった。
妖精族……俗にエルフと呼ばれる彼らはひどく排他的で閉鎖的だが、どこにでも変わり者はいるもので。彼、シアンテは他種族と交わる事をむしろ楽しみ、商売で稼ぎ経済を回す事に生きがいを感じている奇特なエルフであった。
この柔和で甘い顔立ちで、三十代であるセルヴァの十倍生きているのだから侮ってはいけない。
柔らかい物腰に油断した相手からえげつない利権を引き出す様を、セルヴァは何度も見てきた。
「あなたから見れば、この城にいる者は全員若いでしょうけどね。女官を片っ端から口説くのはどうかと思いますよ」
「かわいければ、愛でなければ失礼じゃないか。僕は引きこもりの老害どもとは違うんだよ」
同胞に対してさらりと毒を吐いたシアンテは、ぱちんと指を鳴らした。
セルヴァは、それだけでこの空間内に防音魔法が敷かれた事を感じる。仕草一つで使えるほど魔法に長けているのが妖精族とはいえ、自分の感覚が麻痺しそうだ。
「さあ、次の約束まで時間がないのだろう、この資料に目を通してサインをおくれ」
慣れた今となってはいやに嘘くさそうな笑みで、シアンテが書類を差し出してきた。
相手の思考能力に合わせて説明する情報の密度を変える彼にとって、これが最上級の信頼に当たるのは知っている。それでも、説明すらないのは面倒くさがりすぎではないだろうか。
しかしセルヴァはその書類の一ページ目の文言が目に入った事で、いやそれ以前にシアンテが訪問してきた時点で大方の用件は察してしまっていた。
「なんでもう石城迷宮の改造工事費の試算と、訓練場整備にかかる資金の試算がまとめられてるんですか。この厚みからすると魔力結晶の人工精製の試験まで入っているでしょう」
「カルモ・キエト氏からの技術の聞き取りについては、まだ終わってないけどね。ナキくんがすぐ話を脱線させてしまうからまとめ切れてないんだよ。彼女は面白いのだけど、仮にも魔法研究塔の長なのだから、もう少し落ち着いてほしいものだね」
「ナキに関しては同感ですが、それにしたって、事を急いてはなにが起こるか。もっと慎重に」
セルヴァは苦言を呈したが、シアンテは涼しい顔で言う。
「駄目だよセルヴァ。せっかくイノリがよこしてくれた楽しい案件だ。商機は迅速に掴まなければならないよ」
「……あの地で、魔力結晶が手に入るのはすでに他国に広まっています。人工精製についても、他国に漏れるのは時間の問題ですから、この国の発展のために一刻も早く確保すべきではあります」
「そう、よくわかってるじゃないか」
シアンテの言葉に、セルヴァは深ーく息をついた。自分の頭の固さは自覚している。
石城迷宮の主であるカルモ・キエトの保護と支援は最優先事項だ。彼の持つ技術と知識は、グランツ国にとってかけがえのない財産となる。横やりを入れられる前に、防備を固めたほうが良いのも本当だった。
わかっていても、自分はきっちりと正規の手順を踏まなければ動けない。それをこうして身軽に踏み込んでいくシアンテや祈里を見ていると羨ましく感じる事もある。が、それが無い物ねだりなのもわかっていた。
だからセルヴァはシアンテの嘘くさい笑みと向き合った。
「サインは資料と試算を精査した後にしましょう。では調べた事、一から十まで話してください」
「おや、君はいつからそんなに交渉下手になったのかな」
「すでに報酬は支払っているでしょう? ……まあですが、代わりにカルモ・キエトおよび石城迷宮の交渉権を差し上げます。出てくるだろう特許についてはいつも通りに。イノリの意向に沿う形であれば任せますが、インサイダーにならないように気をつけてくださいよ」
「もちろんだよ。商売は公平に、しかし競争相手を出し抜いて、が基本だからね」
矛盾した事を堂々と言いのけたシアンテは、もうひとつ資料を持ち出した。
カルモと石城迷宮の件だけならば、シアンテは腹心に任せるだろう。そうしなかったのは、他人に任せられない理由があったからだ。
彼はゆっくりと言った。
「イノリの聞き取った情報をもとにざっと調査しただけだが、メッソ・トライゾが勇者教に出入りしていた形跡はない。けれど、トライゾに接触していた者が勇者教関係者だったよ。石城迷宮に生じた瘴魔を回収しようとしていたけど、トライゾが馬鹿すぎて諦めたみたいだ。流通経路を洗っているけど、教団にたどり着きそうだよ」
「トライゾは明らかに害悪ですが、良い餌役をしてくれました。ようやく尻尾を掴めそうです」
セルヴァが気になっていたのは、祈里の手紙に書いてあった、メッソ・トライゾの「瘴魔を増やそうとしていた」という行動についてだ。
手紙の文面からして祈里自身は大して気にとめていないようだが、セルヴァやシアンテ、一部の仲間達にとって、その内容は心当たりがあるものだった。
セルヴァは眼鏡を直しつつ、自分もまた資料を取り出す。
それはとある地方で活動する、新興宗教の調査報告書だ。
「『勇者教』なんて、面倒なものを作ってくれやがったものです」
「セルヴァ、言葉が荒くなっているよ。いつでも感情は制御しなければ」
指摘されて、セルヴァは心を鎮める。
どうにもやりにくさを感じるシアンテだが、交渉の場では歴戦の強者であり、腹芸に関してはセルヴァの師だ。一枚上手なのは仕方がない。
シアンテは、セルヴァの様子など気にした風もなく添えられていた菓子をつまみつつ話を続けた。
「介入の名目は立つけど、イノリの行方が気になるねえ」
「シアンテさん、あのマスク仮面の行方は追えそうですか」
「さすがに二十代の黒髪の青年というだけでは雲を掴むような話でね。ただ、メッソからの話しか聞いていないのなら、イノリが勇者教にたどり着く事はないんじゃないかな」
「いえこうなったからには、彼女は必ず来ます」
言い切るセルヴァに、シアンテは面食らったように瞬く。しかしセルヴァはそれに気づかない。
「本人が何と言おうとイノリは根っからの勇者なんですよ。困っている人がいれば助けるし、瘴魔は自分の領分だと勝手に調べ出しますよ。ええ勝手に!」
それはセルヴァにとって確信に近い。
王となってからも、瘴泥や瘴魔に関する騒動には、なぜわかったというほど彼女は鼻が利くのだ。ひょいと姿を消したかと思えばあっさりと瘴泥の発生地を浄化したり、いつの間にかただの人の手には余る瘴魔を討伐してきたりと枚挙にいとまがない。まるで瘴魔と引き合うようにだ。
一時は祈里が休暇を楽しんでいる、とセルヴァはほっとしていたが、石城迷宮の瘴魔が勇者教につながっているとわかった今、楽観視はできなかった。
「叶うならイノリの好きな地酒で釣ってでも、進行方向を変えさせたいところですが」
「セルヴァ、さすがにそれは無理じゃないかな……?」
セルヴァが半ば本気で口にした事に、引きつった声で応じたシアンテは、思案げに耳に指を当てた。妖精族によく見られる仕草だ。
「詳しく調べるには、僕の持つ情報網だけでは足りないね……システィはどうしているのかな」
「あの教団に接触しています。あれは彼女にしかできない事ですから」
「それは……イノリ探索に加われなくて、彼女ものすごく悔しがったんじゃないかな」
「血涙流さんばかりの連絡が届きましたよ」
苦笑を浮かべるシアンテに、セルヴァは肩をすくめてみせるしかない。
グランツ国の諜報を一手に仕切る才女システィ・エデは、主である祈里のためならば文字通り命を投げ出す忠誠心を持っている。常ならば祈里が失踪した場合、頼まれずとも居場所を特定する彼女だったが、今回はさらに重要な別件にかかり切りになっていた。
それが祈里のためになると信じて。
「何でも、教団に動きがあったようで、そう遠くないうちに根本へたどり着けそうだと言っていました。イノリがたどり着く前に片付けられると信じたいところですが」
「だがね、瘴魔が関わってくるのであれば、浄化役は必要だよ。イノリに助力を求めないとなると、どうするかい」
シアンテの問いに、セルヴァは今朝、自宅で妻のアルメリアと話した事を思い出して自然と苦い顔になる。
「……アルメリアに行かせます」
その渋い声音に、シアンテはおかしげに笑う。
「ふふふ、その様子だと、彼女に押し切られたね。相変わらず聖女には勝てないみたいだ」
「仕方ないでしょう『これにイノリを関わらせるわけにはまいりませんでしょう?』なんて言われたら、頷くしかありません」
「……君達夫婦は本当に、イノリの事になると過保護になるね?」
言葉こそからかうものだったが、シアンテの表情はほろ苦い。
それはこの数年、元勇者一行の仲間達の間では密やかに共有されている思いだったせいだ。
だから、セルヴァは低く言う。
「過保護と言うよりは、こちらに呼び出した側として当然の義務です。彼女は、一番大切なものを切り捨てて、この世界を救いました。そんな彼女に返せるものを私達は持ち合わせていない。だからせめて彼女が役職に縛られぬように立ち回るんです」
「そうだね。彼女をもう、勇者の役割に縛りつけるわけにはいかない。じゃあよろしく頼むよ、セルヴァ。僕は後方支援に回ろう。資金と物資ならば費用対効果が充分望めるうちは提供するよ」
ぬけぬけと言ったシアンテは、さっと懐の懐中時計を確認すると席を立つ。
確かにちょうど、セルヴァの次の予定の時間だ。
しかし、彼には珍しくふ、となにかを思い出したように振り返った。
「前にイノリが言っていたけど、彼女はあの子と旅がしたかったらしいね。もし、もう一度会えるのだったら、今のイノリでも、あの子と旅に出たいと思ってくれるのかな」
「っ……」
「すまない、らしくない感傷だったね」
シアンテが苦笑しながら書類を置いて去っていくのを、セルヴァは見送る。
彼の言うあの子は、グランツの事だとすぐにわかった。
アルメリアに抱きしめられてぼろぼろに泣き崩れる彼女と、当たり前のように王としての責務を果たす彼女が、セルヴァの脳裏をよぎっていく。
これは二度と、祈里の抱えている傷をえぐらないための行動だ。
だが、それは同時に「もしかしたら」の可能性を摘み取ってもいる。
「本当にこれでいいのか、なんてわかりませんけど」
この世界の人間の不祥事をぬぐうのは、同じ世界の人間の役割だと思う。彼女に知らせなかったのはそれが理由だ。
ただ、同時にどこかで消えていきそうな彼女を引き止めたくて、王という役割を押しつけた。それも後悔していない。
だが――……
「もし、があるのなら」
彼女が、次になにかを選ぶのなら。自分達は全力で応援するだろう。
「……とりあえず、仕事をしましょう。イノリの行動には私だって迷惑を被っているのですから。遠慮なんていらないんです。ほっといたって勝手にするんですから」
セルヴァは、受け取った資料をざっとまとめると、次の予定に向かったのだった。
漁師達が騒然となっている間にも、青年は体をふらつかせる。
倒れかける彼を、漁師達の間をすり抜けかけつけた私が支えた。
といってもずるずると倒れ伏す体を、地面に寝かせるだけだけど。
突然現れた子供の私に、漁師達は驚いて立ち尽くす。
青ざめた顔のジョルジュも、私を見上げて目を見開いていた。
まあ突然、見知らぬ銀髪美少女なんかが現れたら驚くよね。
でも時間がないから全部あとね。
「君、は」
「しゃべらないで。一番苦しいのは?」
端的に訊ねれば、彼は反射的に胸を押さえる。肺か、なるほど。
ジョルジュの頭を自分の膝に乗せた私は、手を彼の胸に滑らせた。
ええと、確か正規の神官が使う文言は。
「〝清浄を正常に。澄み渡りし浄化の光をこの者に〟」
私の手からあふれた浄化の光は、柔らかくジョルジュの胸に吸い込まれていく。
彼を侵していた瘴泥が徐々に薄れ、青ざめていた肌色が元に戻った時には、周囲からどよめきが起きた。
面食らったように体を起き上がらせるジョルジュに、私はにっこり笑って見せる。
「うん、もう大丈夫だね」
「あ、ありがとう。君は」
「ただの通りすがり。どうして瘴泥なんかに冒されていたの?」
本当は目立つ事はしたくなかったんだけど、神官がいないんなら放っておくのはまずい。
泥のような血を吐くのはかなり末期、瘴泥に体内を侵食されきる寸前だ。いつ到着するかわからない神官を待っていたら、確実に手遅れになるレベルだった。
不可抗力なんだから、むっすり顔はやめてくれないかね、お兄ちゃん。
そう心の中で思いつつ、私は漁師達をかき分けてやって来たライゼンを見上げた。
彼は一瞬で状況を把握すると、未だ硬直するジョルジュに軽く頭を下げる。
「妹が失礼した。だが無事でなによりだ」
「ええと、兄妹か?」
「ああ、似てないとよく言われる」
え、ちょっとライゼン、割と淡々と話すほうだと思ってたけど、いつもより非友好的では?
私はちょっと首をかしげたが、今はジョルジュが優先である。
だが話を進める前に、貫禄のある髭もじゃの漁師さんが聞いてきた。
「なあお嬢ちゃん、今、浄化をしてくれたんだよな。本当に、ジョルジュは大丈夫なのか」
「うん、体の中の瘴泥は浄化したよ。でも内臓が傷ついているだろうから、お医者さんには行ったほうが良い。私にできるのは浄化だけだから」
「そいつはすげえなお嬢ちゃん!」
「神官でも浄化は一晩以上かかる時もあるってのに! ありがとうなあ!」
おそるおそる言ったのだが、漁師のおっさん達は胴間声を響かせて喜んだ。
おうふ、それって普通のお子様だったら怖がって泣き出すやーつ。
私アラフォーだから大丈夫だけども。だが良かった、あんまりにも浄化が速すぎて不審がられないか心配だったんだ。
とはいえ、かなりの勢いでおっさん達が迫ってくるのは驚くよ。
そのまま大きな手が私の頭に伸ばされかけた時、ひょいとライゼンに抱え上げられた。両脇に手を入れられて足がぷらーんとなる。
いや、いいけど。ねえ、ねえ。
「妹を手荒に扱わないでほしい」
「ああいや、うん悪かったよ兄ちゃん。そんな怖い顔で見るなって」
真顔で迫るライゼンにおっさん達はたじたじになっていた。
まあ私も、もみくちゃにされるのは困るから助かったけど、そこまでやらんでも良かったのに。
ぷらーんとされ続けるのもアレなので、ライゼンの腕を叩いて見上げると、彼はため息をつきながらも下ろしてくれた。まったくもう。
私達がそんなやりとりをしている間に、おっさん達は冷静になったようだ。複雑な顔でジョルジュを見やる。
「治療院は行け。だがこれ以上勝手に船を出したら、さすがに漁業組合から抜けてもらうぞ」
「おやっさんっ」
ぶっきらぼうに言い放ったおっさん達が去っていった後、ジョルジュは悔しそうに地面を叩いた。
「くっそう! 聞く耳持ってくれたっていいだろう! 俺が証明してやるって言ってんのに!」
いや、後ろ髪を引かれてるよおっさん達。
あー心配なんだなーでも立場上どうしようもねえんだな、っていうのを背中で語ってるよ。
あのおっさん達、わりといい上司だと思う。
まあいいや。こうして取り残されてくれたのなら、こっちとしては好都合だし。
ジョルジュはひとしきり悔しがった後ではっとすると、気まずそうにこちらを向いた。
精悍な面立ちが快活な印象を与える青年だ。
「助けてもらったのに妙な事になっちまってすまねえな。神官様かい? ちっさいのにすげえな」
ちっさいは余計だ。と思わなくはなかったが、私はアラフォーなのでにこにこ笑って見せた。
「ううん気にしないで。ところでお兄さんいくつか話を聞きたいんだけども」
「君は命の恩人だから何でも話すぞ! そうだ夕飯はまだか、まだだよな。うまい飯屋があるんだそこに行こうっ」
「いや待ってその前に治療院だから!」
病み上がりにもかかわらず勢い勇んで歩いていこうとする彼を、私は全力で止めたのだった。
☆ ☆ ☆
と言うわけでジョルジュを治療院にぶち込み、適切な治療をしてもらったあと飯屋に入った。
「ありがとうな、ここは俺がおごるから好きなだけ食ってくれー! あ、俺とこの兄ちゃんにビールくれ!」
快活に笑うジョルジュは、当然のごとく酒を頼むが、ライゼンは眉を顰める。
「ジョルジュ、医者から酒は暫く禁じられていただろう」
「飲ませてくれよライゼン。涙なしには語れねえんだっ」
いやでも内臓をやられてるんだからアルコールは控えなきゃ。
お互いに自己紹介をして、ライゼンと自分がほぼ同年代だと知った途端、ジョルジュは一気に打ち解けた風になっていた。
彼は見た目通り海の男そのまんま、といった雰囲気の快活な青年だ。
小麦色に日焼けした肌に、潮でちょっとぱさついた赤い髪をしている。
さらにライゼンよりも一回りくらい横幅が大きく体格がいい。なんでも普段はリトルクラーケン漁をしているんだって。へー!
そんな彼にビールジョッキは、恐ろしいほどよく似合っていたけれども。
止める間もなく、ジョルジュは勢い良くジョッキを呷る。
おー良い飲みっぷりだ。これはいける口か。
しかし、正面に向き直ったジョルジュは素晴らしいまでに真っ赤になっていた。
「あのなー俺はーただぁ。あのひとーのーごかいをーはらしたいだけなんだー」
がっと隣にいたライゼンの肩に腕を回し、完全に酔っ払いの体で大声で話し始めた。
酒よっわいなおい⁉
ライゼンが微妙に迷惑そうにしているが、ジョルジュはまったく見ていない。
とろんとした目をすわらせている彼に驚く私だったが、これは好都合だ。
早速貝のパエリヤっぽいのをもぐもぐしながら、問いかけた。
「ねージョルジュ、あの人って誰の事」
「あのひとはなー鱗がきらきらひかって、しぬほどきれーなんだぁ。薄い赤と紫がな、こーまざってわかめみたいになってな、ヒレが日の光に透けるとわかめみたいでそりゃあもうつるつるしてるんだぞお」
ジョルジュよ、支離滅裂だしめちゃくちゃわかめ推すな? まあいい、美人の表現なんて人それぞれなわけだし置いておこう。
だが、断片的でもヒレや鱗という単語が出てきた事から、ジョルジュの言う「あの人」が人魚なのは確定だ。
「俺が漁をしているーときにぃー助けてくれてなー。でも急にくるなーなんて言ってよー。そしたら、魚が獲れなくなっちまうし、みんなは人魚のせいだーって言いやがるしー!」
苛立ちをぶつけるように、またぐいっとビールを呷ったジョルジュは、だんっとジョッキをテーブルに置く。
「だから! あの人に会うために! 海に潜ったんだ! これからも会えるまで潜るぞぉ! どんだけ濁ってても、あの人は綺麗だからぜったいみつかるぅ!」
「海に潜ったって、今日も?」
私が確認すると、ジョルジュはとろんとした目をこちらに向けた。
「あ、あー? 俺を助けてくれたーえーっと」
「祈里だよ」
「そうそうイノリちゃん! そうだぞぉ最近はーすげえ視界が悪くてさー。鱗の影も、見つけられないうちに、気が遠くなってなー。やべえと思ったら船の上にいてなー。なんとか船を操って帰ってきたんだー」
「もしかしてさ。船底腐食してない?」
一つの可能性が浮上してきて、問いかけてみると、ジョルジュは鈍いながらも反応する。
「え、あーなんでしってるんだ」
「あんたがいつどこで瘴泥に冒されたかわかったって事」
「まさか海か」
驚くライゼンに、私は頷いてみせる。
水の中に広がった瘴泥のなにがやっかいかって、よほど探知能力に優れている神官でもない限りそこに瘴泥がある事がわからないのだ。
だからジョルジュも気づかず潜り続けて、あそこまで瘴泥に冒された。
本当に私が居合わせて良かったな⁉
「あー海が、なんだってー?」
「こっちの話。ねえ……」
「あのひとはほんとうに綺麗なんだよ……」
「聞いてねえし」
もうべろんべろんになっているジョルジュは、同じ事を何度もくり返す。
「あの人は海を守ってるんだよ。そうとしか思えねえ。だってそうじゃなきゃ広い海があんのに、ここにとどまってくれるわけがねえだろ。あのひとは、誰一人、傷つけてねえんだ。それをおやっさん達は領主と事を構えたくないって無視しやがる! すんげえ綺麗で、綺麗で……ぐう」
ジョルジュは最後まで言い終わる前に、ぐーぐー寝始めた。ライゼンを抱えたまま。
私ははあとため息をつく。
「お疲れライゼン」
「いや、大した事はない。……それより、ますます状況がわからなくなったな」
やっと腕を外したライゼンが肩を回しつつ、やれやれと言った調子で続けた。
「人魚が特定の海域に入らせないよう、船を壊して追い返しているが、その意図に気づかず領主が討伐隊を組んでいたという事だろうか」
「とはいえ、人魚族が追い返していたのは海が瘴泥で汚染されていたからで、人魚は誰も殺していなかった。まあ船を壊すのも悪質だけどさ。問題は領主が瘴泥に気づいているかいないか」
「そういえば、ジョルジュが倒れた時に、漁師達は神官が領主のもとに集められていると言っていたな。気づいている可能性はある」
「けどさ、瘴泥汚染について街の人には説明していないよね。それでも、人魚族を悪としている」
まあ領主なんて千差万別だから、いい加減にした可能性もなきにしもあらずなんだけど。
こうやって色々見えてくると、一概に人魚を悪者扱いにはできないんじゃないかと思うんですよ。
「どうする祈里」
ライゼンの問いに、私はそろりと目を泳がせる。けど、神妙な面持ちで言った。
「うむ。当事者達に聞いてみるのが一番かなって」
「は」
これは最後の手段にしたかったんだけど、確実ではあるんだ。よっぽどの事じゃない限り、応じてくれると思うしさ。
「とりあえず、すべては明日の早朝って事で」
「ああ、それは了解したが」
目を丸くするライゼンは納得したように頷いたが、ちらっと隣を見る。
「彼をどうしたらいいだろう」
「家を知らないね……」
道ばたに放り出すには忍びないし。
「とりあえず、ご飯食べながら考えようか。ジョッキちょうだい」
「飲むほう優先してないか……。ならそっちのパエリヤをくれ」
「あいよー」
ライゼンと私はぐーすか寝込むジョルジュを横目に、頼んだご飯をせっせとかき込んだのだった。
閑話 一方その頃宰相殿は。その一
グランツ国、王城。
宰相の執務室で、グランツ国の宰相セルヴァは書類の山に埋もれていた。
埋もれているだけで、溺れているわけではない。この国の勇者王、祈里が有給休暇という名の出奔をして早一ヶ月半。通常業務と並行して「石城迷宮」で起きた瘴泥汚染の事後処理を進め、役人やその筋から上がってきた報告を精査し、仕事を割り振る。
そういった実務はセルヴァの得意とするところだ。慎重に事を運ぶために、他の者からはゴーレムの歩みのようだと評されもするが、他の幹部達のフットワークが軽すぎるのである。
その最たる者だった祈里がいないために、奇しくも平和な日々が過ぎていた。
できればこのまま平穏に過ぎていってくれれば良いと願っている。だが、そうもいかない事をセルヴァは思い知っていた。
ノックの後に、比較的若い補佐官が緊張した面持ちで入ってくる。
「お、お仕事中申し訳ありません。ご来客です」
「おや、次の約束までまだ時間はあるはずですが」
「経済大臣のシアンテアレア様が、応接間にてお待ちです」
もはや泣きそうな形相の補佐官に、セルヴァは無言で立ち上がった。
彼が応接間の扉を開けると、淡い色の髪を緩く結った甘い顔立ちの青年が、優雅にティーカップを傾けていた。耳環で飾られた彼の耳は、人族よりも長く尖っている。
「新人を言いくるめて強引に約束を取り付けるのやめていただけますか」
「君が空いている時間なのは把握していたよ。だが正規の手続きを取っていたら、その貴重な時間が死んでしまう。セルヴァ、君だって若いんだから柔軟にしないとね」
セルヴァが半眼で皮肉を言っても、青年、シアンテはどこ吹く風で甘く笑むだけだ。
彼はこの国の経済産業を担う、妖精族のシアンテアレアだった。
妖精族……俗にエルフと呼ばれる彼らはひどく排他的で閉鎖的だが、どこにでも変わり者はいるもので。彼、シアンテは他種族と交わる事をむしろ楽しみ、商売で稼ぎ経済を回す事に生きがいを感じている奇特なエルフであった。
この柔和で甘い顔立ちで、三十代であるセルヴァの十倍生きているのだから侮ってはいけない。
柔らかい物腰に油断した相手からえげつない利権を引き出す様を、セルヴァは何度も見てきた。
「あなたから見れば、この城にいる者は全員若いでしょうけどね。女官を片っ端から口説くのはどうかと思いますよ」
「かわいければ、愛でなければ失礼じゃないか。僕は引きこもりの老害どもとは違うんだよ」
同胞に対してさらりと毒を吐いたシアンテは、ぱちんと指を鳴らした。
セルヴァは、それだけでこの空間内に防音魔法が敷かれた事を感じる。仕草一つで使えるほど魔法に長けているのが妖精族とはいえ、自分の感覚が麻痺しそうだ。
「さあ、次の約束まで時間がないのだろう、この資料に目を通してサインをおくれ」
慣れた今となってはいやに嘘くさそうな笑みで、シアンテが書類を差し出してきた。
相手の思考能力に合わせて説明する情報の密度を変える彼にとって、これが最上級の信頼に当たるのは知っている。それでも、説明すらないのは面倒くさがりすぎではないだろうか。
しかしセルヴァはその書類の一ページ目の文言が目に入った事で、いやそれ以前にシアンテが訪問してきた時点で大方の用件は察してしまっていた。
「なんでもう石城迷宮の改造工事費の試算と、訓練場整備にかかる資金の試算がまとめられてるんですか。この厚みからすると魔力結晶の人工精製の試験まで入っているでしょう」
「カルモ・キエト氏からの技術の聞き取りについては、まだ終わってないけどね。ナキくんがすぐ話を脱線させてしまうからまとめ切れてないんだよ。彼女は面白いのだけど、仮にも魔法研究塔の長なのだから、もう少し落ち着いてほしいものだね」
「ナキに関しては同感ですが、それにしたって、事を急いてはなにが起こるか。もっと慎重に」
セルヴァは苦言を呈したが、シアンテは涼しい顔で言う。
「駄目だよセルヴァ。せっかくイノリがよこしてくれた楽しい案件だ。商機は迅速に掴まなければならないよ」
「……あの地で、魔力結晶が手に入るのはすでに他国に広まっています。人工精製についても、他国に漏れるのは時間の問題ですから、この国の発展のために一刻も早く確保すべきではあります」
「そう、よくわかってるじゃないか」
シアンテの言葉に、セルヴァは深ーく息をついた。自分の頭の固さは自覚している。
石城迷宮の主であるカルモ・キエトの保護と支援は最優先事項だ。彼の持つ技術と知識は、グランツ国にとってかけがえのない財産となる。横やりを入れられる前に、防備を固めたほうが良いのも本当だった。
わかっていても、自分はきっちりと正規の手順を踏まなければ動けない。それをこうして身軽に踏み込んでいくシアンテや祈里を見ていると羨ましく感じる事もある。が、それが無い物ねだりなのもわかっていた。
だからセルヴァはシアンテの嘘くさい笑みと向き合った。
「サインは資料と試算を精査した後にしましょう。では調べた事、一から十まで話してください」
「おや、君はいつからそんなに交渉下手になったのかな」
「すでに報酬は支払っているでしょう? ……まあですが、代わりにカルモ・キエトおよび石城迷宮の交渉権を差し上げます。出てくるだろう特許についてはいつも通りに。イノリの意向に沿う形であれば任せますが、インサイダーにならないように気をつけてくださいよ」
「もちろんだよ。商売は公平に、しかし競争相手を出し抜いて、が基本だからね」
矛盾した事を堂々と言いのけたシアンテは、もうひとつ資料を持ち出した。
カルモと石城迷宮の件だけならば、シアンテは腹心に任せるだろう。そうしなかったのは、他人に任せられない理由があったからだ。
彼はゆっくりと言った。
「イノリの聞き取った情報をもとにざっと調査しただけだが、メッソ・トライゾが勇者教に出入りしていた形跡はない。けれど、トライゾに接触していた者が勇者教関係者だったよ。石城迷宮に生じた瘴魔を回収しようとしていたけど、トライゾが馬鹿すぎて諦めたみたいだ。流通経路を洗っているけど、教団にたどり着きそうだよ」
「トライゾは明らかに害悪ですが、良い餌役をしてくれました。ようやく尻尾を掴めそうです」
セルヴァが気になっていたのは、祈里の手紙に書いてあった、メッソ・トライゾの「瘴魔を増やそうとしていた」という行動についてだ。
手紙の文面からして祈里自身は大して気にとめていないようだが、セルヴァやシアンテ、一部の仲間達にとって、その内容は心当たりがあるものだった。
セルヴァは眼鏡を直しつつ、自分もまた資料を取り出す。
それはとある地方で活動する、新興宗教の調査報告書だ。
「『勇者教』なんて、面倒なものを作ってくれやがったものです」
「セルヴァ、言葉が荒くなっているよ。いつでも感情は制御しなければ」
指摘されて、セルヴァは心を鎮める。
どうにもやりにくさを感じるシアンテだが、交渉の場では歴戦の強者であり、腹芸に関してはセルヴァの師だ。一枚上手なのは仕方がない。
シアンテは、セルヴァの様子など気にした風もなく添えられていた菓子をつまみつつ話を続けた。
「介入の名目は立つけど、イノリの行方が気になるねえ」
「シアンテさん、あのマスク仮面の行方は追えそうですか」
「さすがに二十代の黒髪の青年というだけでは雲を掴むような話でね。ただ、メッソからの話しか聞いていないのなら、イノリが勇者教にたどり着く事はないんじゃないかな」
「いえこうなったからには、彼女は必ず来ます」
言い切るセルヴァに、シアンテは面食らったように瞬く。しかしセルヴァはそれに気づかない。
「本人が何と言おうとイノリは根っからの勇者なんですよ。困っている人がいれば助けるし、瘴魔は自分の領分だと勝手に調べ出しますよ。ええ勝手に!」
それはセルヴァにとって確信に近い。
王となってからも、瘴泥や瘴魔に関する騒動には、なぜわかったというほど彼女は鼻が利くのだ。ひょいと姿を消したかと思えばあっさりと瘴泥の発生地を浄化したり、いつの間にかただの人の手には余る瘴魔を討伐してきたりと枚挙にいとまがない。まるで瘴魔と引き合うようにだ。
一時は祈里が休暇を楽しんでいる、とセルヴァはほっとしていたが、石城迷宮の瘴魔が勇者教につながっているとわかった今、楽観視はできなかった。
「叶うならイノリの好きな地酒で釣ってでも、進行方向を変えさせたいところですが」
「セルヴァ、さすがにそれは無理じゃないかな……?」
セルヴァが半ば本気で口にした事に、引きつった声で応じたシアンテは、思案げに耳に指を当てた。妖精族によく見られる仕草だ。
「詳しく調べるには、僕の持つ情報網だけでは足りないね……システィはどうしているのかな」
「あの教団に接触しています。あれは彼女にしかできない事ですから」
「それは……イノリ探索に加われなくて、彼女ものすごく悔しがったんじゃないかな」
「血涙流さんばかりの連絡が届きましたよ」
苦笑を浮かべるシアンテに、セルヴァは肩をすくめてみせるしかない。
グランツ国の諜報を一手に仕切る才女システィ・エデは、主である祈里のためならば文字通り命を投げ出す忠誠心を持っている。常ならば祈里が失踪した場合、頼まれずとも居場所を特定する彼女だったが、今回はさらに重要な別件にかかり切りになっていた。
それが祈里のためになると信じて。
「何でも、教団に動きがあったようで、そう遠くないうちに根本へたどり着けそうだと言っていました。イノリがたどり着く前に片付けられると信じたいところですが」
「だがね、瘴魔が関わってくるのであれば、浄化役は必要だよ。イノリに助力を求めないとなると、どうするかい」
シアンテの問いに、セルヴァは今朝、自宅で妻のアルメリアと話した事を思い出して自然と苦い顔になる。
「……アルメリアに行かせます」
その渋い声音に、シアンテはおかしげに笑う。
「ふふふ、その様子だと、彼女に押し切られたね。相変わらず聖女には勝てないみたいだ」
「仕方ないでしょう『これにイノリを関わらせるわけにはまいりませんでしょう?』なんて言われたら、頷くしかありません」
「……君達夫婦は本当に、イノリの事になると過保護になるね?」
言葉こそからかうものだったが、シアンテの表情はほろ苦い。
それはこの数年、元勇者一行の仲間達の間では密やかに共有されている思いだったせいだ。
だから、セルヴァは低く言う。
「過保護と言うよりは、こちらに呼び出した側として当然の義務です。彼女は、一番大切なものを切り捨てて、この世界を救いました。そんな彼女に返せるものを私達は持ち合わせていない。だからせめて彼女が役職に縛られぬように立ち回るんです」
「そうだね。彼女をもう、勇者の役割に縛りつけるわけにはいかない。じゃあよろしく頼むよ、セルヴァ。僕は後方支援に回ろう。資金と物資ならば費用対効果が充分望めるうちは提供するよ」
ぬけぬけと言ったシアンテは、さっと懐の懐中時計を確認すると席を立つ。
確かにちょうど、セルヴァの次の予定の時間だ。
しかし、彼には珍しくふ、となにかを思い出したように振り返った。
「前にイノリが言っていたけど、彼女はあの子と旅がしたかったらしいね。もし、もう一度会えるのだったら、今のイノリでも、あの子と旅に出たいと思ってくれるのかな」
「っ……」
「すまない、らしくない感傷だったね」
シアンテが苦笑しながら書類を置いて去っていくのを、セルヴァは見送る。
彼の言うあの子は、グランツの事だとすぐにわかった。
アルメリアに抱きしめられてぼろぼろに泣き崩れる彼女と、当たり前のように王としての責務を果たす彼女が、セルヴァの脳裏をよぎっていく。
これは二度と、祈里の抱えている傷をえぐらないための行動だ。
だが、それは同時に「もしかしたら」の可能性を摘み取ってもいる。
「本当にこれでいいのか、なんてわかりませんけど」
この世界の人間の不祥事をぬぐうのは、同じ世界の人間の役割だと思う。彼女に知らせなかったのはそれが理由だ。
ただ、同時にどこかで消えていきそうな彼女を引き止めたくて、王という役割を押しつけた。それも後悔していない。
だが――……
「もし、があるのなら」
彼女が、次になにかを選ぶのなら。自分達は全力で応援するだろう。
「……とりあえず、仕事をしましょう。イノリの行動には私だって迷惑を被っているのですから。遠慮なんていらないんです。ほっといたって勝手にするんですから」
セルヴァは、受け取った資料をざっとまとめると、次の予定に向かったのだった。
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