夜明けのムジカ

道草家守

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地下研究所1

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 遭遇しかけた探掘隊を避けてたどり着いた場所は、幸いなことに、ムジカが見つけたときと何ら変わらなかった。
 偽装していた部分を外せば、そこにあいているのは細い通気口だ。上下へ向けて伸びているため、もしかしたら廃棄用のダストシュートだったのかも知れない。エーテル結晶が自生しているのか奥には緑の光が見えるが、先の見えない暗い虚無をたたえていた。
 大の大人が荷物を背負って通ることはまず無理である。細いムジカだからこそ、通路として使えるようなものだ。ラスの翼も使えないが、問題ない。

「もともと、翼は目立つから使いたくなかったしな」

 ムジカは背嚢からロープを下ろすと、よじれがないか素早く確実に確かめた。これをせずに弱くなったロープが切れて落ちたら元も子もない。
 素早く柱の一つにまき付け自分の体と金具で結びつけた。
 暗視ゴーグルで目を覆うと、念のため浄化マスクも身につけたムジカは同じように準備をしていたラスを振り返った。

「降り方は前に教えたとおりだ、できるな」
「はい」

 準備を終えたムジカはためらいなく、ロープで体を支えると内部に身を躍らせた。
 暗視ゴーグルも黄金期の遺物であり、真昼のように……とはいかないが、だいたいの輪郭や熱源などを探知してくれる。
 普段ならエーテルライトでもいいのだが、光がどこからこぼれるか分からないため今回はこちらを選択した。
 何度かロープを回収して降りてゆけば、風量調整用のファンでふさがれていた。代わりのように大量の配管が張り巡らされた点検用らしい細い通路を見つける。
 自分の方向感覚を信じたムジカは、反動をつけて飛び移り潜り込んだ。
 進んだ距離を歩幅で絶えずはかり、脳内でマッピングしていくのも忘れない。
 普段だったらそれで終わりだったのだが、後ろからついてくるラスへと小声で問いかけた。

「あたしの中では北西に100ヤードくらい進んだところだけど」
「誤差は1ヤードです、マッピングも順調に進めています。二階層ほど下に降りています」
「うし、人間の気配を見つけたら教えてくれ」

 しばらく進んだところでエーテル結晶ではない光源を見つけたムジカは、後ろについてきているラスを振り返る。

「エーテル反応も、生体反応もありません」

 光源のもとは、通気口として空けられているらしい嵌め殺しの格子だった。
 ムジカがのぞき込めば通路が見えた。
 エーテル結晶が生えてる様子はない。
 掃除はそれなりに行き届いており、少なくとも掃除用の奇械アンティークが通っていることは分かる。
 そして何より重要な指標を見つけた。

「ラス、ここ設備生きてるな」
「はい。エーテル結晶ではなく、施設内の照明が修繕されて使用されているようです」

 遺跡内でエーテル結晶が生えない場所では、300年の劣化のため使用不可能になっている。だが、この通路はエーテル結晶が自生していないにも関わらず、照明は真昼のように保たれていた。
 最近になって修繕されたのだろう。遺跡内を徘徊する設備管理型メンテナンスタイプに資材を用意すれば自動的に修繕を行うため、その資材を誰かが用意した証である。
 持ち込んだのが公認探掘隊であることは明白だった。

「行けるだけここを通っていこう」

 歩きかけたムジカだったが、ラスに体を入れ替えられる。
 程なく前方の分岐から歩いてきたのは、ムジカの腰ほどしかない小型の奇械アンティークだった。キャタピラに複数のアームをつけたような外見は、おそらく点検用の奇械アンティークだろう。
 一瞬緊張したムジカだったが、ラスが瞬く間に肉薄して無力化した。
 以前と同じように、片翼からエーテル端子を伸ばして情報を読み取っていく。 

「見取り図を手に入れました。11時の方角に大きな空間があります。そちらが現在活発に整備を指示されている領域のようです」
「こののまま行けるか」
「はい」

 ムジカが夕方からの侵入を選んだのは一刻も早く証拠をつかみたかったのもあるが、人間の出入りが少なくなるだろう時間にたどり着くためだった。
 比較的スムーズに進むことができているため、エーテル計を見ればまだ深夜には遠い時間帯だった。

「もしかしたら、まだ働いている人間がいるかもな」

 ムジカの予想は正しかった。
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