夜明けのムジカ

道草家守

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探掘潜行2

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「誰かがついてきているとか、話を聞いているってことはないな」
「はい。俺の検知領域には生体反応もエーテル反応も検知されていません」
「わかった。そのまま警戒を続けてくれ」

 ラスの太鼓判に安心したムジカは、歩きながら話を続けた。

「実は、第5の連中はそんなに探掘隊を煙たがってなかったんだ。なにせほとんど遭遇しなかったからな。特にいやがっていたのは第4を根城にしている探掘屋シーカーだ。自分の狩り場に我が物顔で荒らされて怒らねえ方がおかしい」

 ムジカも第4から流れてきた探掘屋シーカーから噂だけは聞いていたが、半ば人ごとだった。ちらほらと探掘隊の横柄な姿を見て不快だと思うことはあれど、それだけだったのだ。
 あの日、遺跡内で問答無用で攻撃されるまでは。

「でさ、あれからちょっと思い返してみたんだけど、どう考えてもあいつらは過剰反応だと思うわけ。だって顔を合わせたとたん、エーテル弾でどかんっだぞ。おかしいにもほどがある。まるで何が何でもその先に行かせたくなかったみたいにさ」

 そして、ムジカが未踏破と思われるルートを発見したのは比較的浅い階層であり、第4探掘坑に近い位置だった。
 あの時は探掘隊も偶然、同じ場所を見つけていたのだと思っていたが、前提条件が加わった今では見方が変わってくる。

「あいつらの目的は探掘じゃなくて、何かを守ることじゃないかと思ったわけ。たとえば探掘隊が秘匿している施設への入り口、とか」

 そうすれば探掘隊の遺跡内にいるとは思えないほどの軽装備だったことや、探掘に慣れていない挙動にも説明がつく。なによりエーテル銃の扱いに恐ろしく慣れていたことにも。
 はじめから、答えが手元にあったようなものだったのだ。

「理解しました。では探掘隊を拉致して案内させますか。相手が人間であれば可能です」
「お前、そういうところ過激だよな」
「最短ルートを考えています」
「いいや、できるだけ避ける。要は、ウォースターさんを納得させられるだけの情報があればいいんだ。なるべく相手に気取られたくない」

 ムジカは自分ができることとできないことを知っている。
 いくら腹立たしくとも個人で組織を相手にするのは無理だ。まず相手に気づかれないうちに証拠を握る。
 だから、とムジカはラスに念を押した。

「人を殺すのは禁止だ」
「なぜでしょうか」
「面倒くさいからだ。あたしは、他人の命を奪うってのは他人の人生まで背負うことだと思ってる。見ず知らずの人間の人生なんてそんな面倒くさいもの背負いたくない」

 別に人を殺すのが悪いとは思わない。人殺しは重罪だが、この遺跡内では死体はエーテルに還っていく。
 ムジカだって生き残るために時には人を傷つけることもある。だが、それはすべて何かのためだった。いたずらに殺すのは獣だと思うのだ。

「……ただ滅多にないだろうけど、お前が壊れるかも知れないと思ったらこの約束は忘れろ。お前の命は守れ」
「ムジカが危険なときにも、殺傷して良いでしょうか」

 すこし言葉を詰めたムジカだったが、うなずいた後、慎重に言葉を選びながら言った。

「そんときはあたしも背負う。あたしが受け入れるべきことだ。ただ必要か必要じゃないかは自分で考えろ。自律兵器ドールだったとしても、忘れちゃいけないと思う」
「了解しました。生命活動に支障が出ない程度の外傷にとどめます」
「おう、それだったらいい。まずはあたしが見つけたルートがそのまま使えるか確かめてみよう」

 ムジカは地図を広げて、指し示す。基本的な内部構造は探掘屋シーカーの間で地図が出回っているが、自分が独自に開拓した場所や奇械アンティークの待ち伏せポイントなどは秘匿する傾向にあった。
 それらはすべて飯の種であり、彼らの生命線だからだ。
 正直、情報共有をした方が探索は進むのではと思うこともあるが、ムジカもいくつか一般の地図に書き込まれていない通路や、金になる遺物の保管場所を持っていた。

「ここがあたしが見つけたルート。つながっているかはともかく、第4探掘坑の下層部へほうへ伸びているのが確かだ。そこに親父が放置していた空白部分がある。ルートにさえ入り込めば探掘隊は居ないはずだ」
「なぜでしょう」
「行けばわかる」
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