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覚悟1
しおりを挟む翌日ムジカは朝一番でラスをつれて、スリアンの下を訪ねた。
「もしかして鉄腕ヴァルとやりあったのかい。よく無事だったな!?」
ムジカが邪魔にならない程度に昨夜のことを語れば、スリアンは感嘆の声を漏らした。
スリアンは上半身をさらしたラスに、コードで様々な機器とつないで様々な作業をする手を止めはしなかったが、それでも動揺している風だ。
ムジカも彼女に知っているような口調に驚く。
「鉄腕ってあの護衛のこと知ってるのか」
「ああ、自律兵器を圧倒できる両手足が奇械の野郎なんて鉄腕ヴァルしかいないだろう。イルジオの元軍人でまだ生身の手足だった頃から奇械壊しで有名だったやつだよ」
軍人と言われて、ムジカは妙に納得したがスリエンの話は続く。
「けど数年前に合成獣型を討伐したときに手足がだめになったもんで、移植手術をしたらしい。ただの義肢じゃなくて自律兵器だってことで、奇械技師の間では有名なんだよ」
「自律兵器の手足!?」
スリアンの説明にムジカは心底驚いた。
金さえ用意できれば、現在の技術でも欠損した手足を義肢で補うことはできる。だが、現在出回っているものは日常生活に支障がない程度に動くだけで、激しい運動に耐えられるものではないのだ。
しかしムジカをさらいラスを圧倒した男の手足は、ただの人間はおろか並の自律兵器以上の性能を誇っていた。
その謎の答えが自律兵器の腕なのだろう。
「いやでも、自律兵器の移植までしたのに、よくイルジオ帝国が手放したな」
「噂では移植をした研究者と一緒に姿を消したらしい。法的には円満退職だったから、引き留められずに行方不明だったんだが。まさかバーシェにいるとはなあ」
それがアルーフだったか、とムジカは得心した。
「詳しい性能は分からねえが、たぶん本人に指揮者の適性があったんだろうな。自律兵器は指揮歌には逆らえねえ。制御ができれば奇械は生身の人間に勝てるものじゃねえからな」
しみじみ言うスリアンに、大量のコードにつながれたラスが反応した。
「あの人間の攻撃パターンおよび性能は把握しました。次は制圧します」
「お前、一方的にやられたのが悔しいのか」
ラスの言葉に少々力が入っている気がして、ムジカが思わず問い返す。
するとコードを揺らしながら、ラスの紫の瞳がこちらを向いた。
「悔しいという感情は分かりませんが、あのときは動力不足により通常パフォーマンスを発揮できませんでした」
「それ戦場では負け犬の遠吠えって言うんだ。あと動くな手元が狂う」
妙に辛辣なスリアンの言葉に、ラスが沈黙した。
ムジカは乾いた笑いを漏らしつつ、彼がそう主張するのもあながち根拠があってのことかもしれないと、改めて彼の体を眺めた。
コードが露出していたはずの腹は、すでになめらかな質感に戻っている。
ムジカがうとうとしながらも歌ったおかげか、翌朝にはその状態になっていて驚いたものだ。あまりにも驚きすぎて、昨夜出し損ねたという夕食メニューを並べていたラスのシャツをひんむいたほど。
乙女としてやり過ぎだったかも知れないと若干反省している。
ともかく彼が自律兵器として最高位の性能を有していたのなら、十全に発揮できないまま一方的に手玉にとられたことは遺恨があるのだろう。それだけあちらの方が百戦錬磨だった、というのもあるだろうが。
しかしながら、どれだけ重大な損傷だったか説明しようにも傷がなくなっていただけに、信じてもらえないかと戦々恐々としていたのだが、スリアンはしげしげと修繕部分を観察して言ったものだ。
「ここだけ、妙に新しくなってるな。自分の体を一時的にエーテルに戻して再構成したのはわかる。だがあくまで応急処置だ。質量が足りなくなっているだろ」
「肯定です。乾質スキンと地型硫黄、塩、風型水銀の提供を要請します」
「元素資材の在庫、あったかな」
そうしてスリアンが出してきた元素資材を。ラスは片翼から伸ばしたエーテルの端子で取り込む。そんな彼にスリアンはもう一つ投げつけた。
「ほれ、飲め。汎用性の高いエーテル液体タイプだ。特別に自律兵器用の高パフォーマンスモデルを出してやる」
見覚えがあるパッケージングされた液体型のエーテル燃料に、ムジカは口を挟んだ。
「ラスの補給法はそういうのじゃないらしい」
「はあ? 結晶ならともかく液化させたのならほぼすべての奇械が吸収できるはずだ」
スリアンのあきれた声にムジカがラスを見れば、銀髪の青年人形はふいと顔をそらした。
「急速に充填される感覚がノイズになるときがあるから、拒否する奇械もあるらしいからな。ここら辺は機体に差が出るけど」
「……おい、ラス?」
ムジカが声を低めて呼びかければ、少しの間の後ラスはしぶしぶといった雰囲気で液化エーテル燃料のパッケージを手に取った。
「緊急補給が必要になると、想定していなかったので」
ムジカがラスの頭をはたいたのも、無理ないと思うのだった。
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