夜明けのムジカ

道草家守

文字の大きさ
上 下
51 / 78

碩学研究者2

しおりを挟む
「ふうん、奇械アンティークに関してはさすがによく知っているようだね」
「それで、あたしはこんなお上品なことに縁がない野蛮人でしてね。用がないんならとっとと野に返してはくれやしませんかね? ミスタ、グレンヴィル?」

 ドレスの中で足を組んでまたひとつ、焼き菓子を放り込んだムジカだが、身を乗り出してきたアルーフが言った。

「そうだね、では2つめの質問の答えだ。僕は君に会いたかった。あの蛙型を倒した君に」

 先ほども言われたがその表現に違和を持ったムジカは、爛々と淡い瞳を熱っぽく輝かせるアルーフに訂正した。

「あの蛙型を倒したのは、あたしの仲間とだぞ」
「だって、あれは君の所有物だろう?」

 あまりにあっさりと言われて、ムジカは一瞬理解が及ばなかった。
 アルーフは手指を組み合わせて、ほほえんでいるような曖昧な表情を崩さないまま、続けた。

「さて、3つ目の答えだ。僕は君を解放してやりたいと思っている。僕にはその技術がある。だからね、君と取引をしたいんだ」
「……何を言っているかさっぱりわからねえ」

 声だけは平静をたもったムジカだったが、心の内は動揺に荒れ狂っていた。
 この男は、ラスが自律兵器ドールだと少なくとも奇械アンティークであると疑っている。
 しかもあかしたとおり、政府公認探掘隊という公的な人間だ。
 どこからかぎつけたのか見当もつかないが、想定する限り最悪の相手だった。
 ムジカにできることは一つだけだ、何が何でも認めない。

「ああそんなに警戒しないでくれ。スポンサーには逆らえない身だけれど、これはあくまで僕個人の趣味なんだ」
「趣味? ずいぶん悪趣味なもんだな」

 じっと目で人が殺せるのならとうにしているだろうまなざしでにらむムジカに、アルーフは大げさにぶるりほと体を震わせる。
 しかし圧倒的に余裕を持っていた。

「怖いなあ。ふむ。まあ君の不安も無理はない。凡人にもわかるよう少々かみ砕いて話をしようか。君が指揮者ディレット登録をした機体の話だ。どれだけ魅力的で危険なのか。これは業界でも一部の人間しか知らない話だよ。光栄に思うといい」

 ムジカが異論を唱える間もなく、アルーフは悠然と語り始めた。




「僕の研究対象は奇械アンティーク……さらに言えば自律兵器ドール特有の高度な判断能力の要因についてでね。パーツからエーテル機関、さらには管制頭脳まですべて1から作り上げることを目標としているんだ。さて、解体する君たちにはわかるだろうが、奇械アンティークのパーツはほとんどが無機物でできている。そこにあの高度な自律判断を盛り込む余地はないんだよ」

 ムジカは、疑問にすら思ったことないことを語られて面食らった。
 奇械アンティークの判断能力を疑ったことなどない。なぜならそういうものだからだ。

「これは奇械アンティークをくみ上げてみるとよくわかるんだがね。ただパーツを複製しただけではあらかじめ設定した動作を繰り返すものにしかならない。物理法則を利用して水をくむだけだったり、おいてあるお茶をとるだけだったり。そもそも音声入力がナンセンスの塊なんだ。今の技術ではどうやったって言語を理解する知能を作り上げることは不可能なんだよ」
「それが遺物の特徴だろ? 今の技術では再現できない技術体系だから高値がつくんだ」
「僕は解き明かした上で言っているんだよ。奇械アンティークを構成するパーツのどの部分にもそれだけの判断ができる思考回路はない。君たち探掘屋シーカーがありがたがるエーテル機関でもね。すべての根幹は管制頭脳、その中にあるエーテル結晶なんだ」

 明らかに馬鹿にした様子のアルーフにむっとしたムジカだったが、その言葉に興味を惹かれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅

シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。 探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。 その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。 エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。 この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。 -- プロモーション用の動画を作成しました。 オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

コンビニバイト店員ですが、実は特殊公安警察やってます(『僕らの目に見えている世界のこと』より改題)

岡智 みみか
SF
自分たちの信じていた世界が変わる。日常が、常識が変わる。世界が今までと全く違って見えるようになる。もしかしたらそれを、人は『革命』と呼ぶのかもしれない。警視庁サイバー攻撃特別捜査対応専門機動部隊、新入隊員磯部重人の新人教育が始まる。SFだってファンタジーだ!!

戦国姫 (せんごくき)

メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈ 不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。 虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。 鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。 虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。 旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。 天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

処理中です...