夜明けのムジカ

道草家守

文字の大きさ
上 下
37 / 78

独断専行2

しおりを挟む

 そこはすでに阿鼻叫喚だった。
 採掘場の壁のそこかしこが熱で溶け、巻き込まれたらしい採掘夫達が大小様々なやけどを受けて倒れていた。
 通路や機材の裏には探掘屋シーカーや採掘夫がおり、必死に足止めしようと銃を連射している。
 いろんなものが焼け焦げたにおいにムジカは鼻をふさぎつつ見れば、昇降機のある巨大な空間でうずくまっているのは巨大な蛙型をした自律兵器ドールだった。
 熱蛙型、あるいは単に蛙型と呼ばれるそれは、エーテル弾一斉掃射にひるんでいるように身を縮めている。ムジカとは距離があるにもかかわらず獅子型並に大きい体躯は、金属と言うよりはゴムのような湿度を感じさせる外装に覆われていた。
 ぎょろりとしたアイサイトは橙色オレンジ。はぐれだ。

「これでもくらえっ」

 弾薬が切れたのか、ひととき弾幕が緩んだとたん、遮蔽物の影から立ち上がった一人……おそらく採掘夫だろうが、こぶし大のものを投げた。
 投げられたものを見て、ムジカは愕然とした。

「あんたらっ死にたくなかったら伏せろ!」

 背後に避難している採掘夫達に叫びつつ、ムジカ自身が伏せるのと、手投げ弾が蛙型に着弾するのが同時だった。
 爆風が吹きすさび、ムジカはラスの体にかばわれる。

「はは、これで、あ?」
『ァアッッァアアア――……!!!!』

 上がりかけた喜びの声は、蛙型の咆吼と共に吐き出されたもので飲まれた。
 その咆吼が悲鳴のようだとムジカが感じたとたん、あたりが橙の炎に照らされる。

「ぎゃあああああああぁ!!」

 断末魔の叫び声が響く。
 ムジカがのぞき見たのは、赤々と大地が焼ける中でのたうち回る探掘屋シーカーと採掘夫達だった。
 坑内に肉と髪の焼けるいやなにおいが立ちこめる。

「熱蛙は与えられた熱を増幅しさらに熱を生み出します。爆薬での攻撃は表皮の耐熱温度以上でなくてはなりません」

 淡々と説明するラスの言葉通りだった。
 蛙型は第3探掘坑では滅多に見ない、高威力型の自律兵器ドールだ。
 戦闘規模によって白兵、戦術、戦略、殲滅と分けられる中で、戦術規模の戦闘能力を有し一つの街を制圧するだけの能力を有している。
 ラスの言葉を聞きつつムジカは、蛙型が上を気にする様子に嫌な予感がした。 

「まずい、地上に出る気だ。止めないと」

 地上に出るためには急勾配の昇降機のレールを上っていくしかないが、蛙型の脚力ならば十分に上れてしまうだろう。応戦していた探掘屋シーカー達の中には無事な人間もいるが、戦力としては見込めない。蛙型に熱を放射されれば、遺跡内の空調機能が作動していたとしても酸素が薄くなり生存が難しくなる。
 ムジカはすぐさま背負っていた荷物を下ろし必要な物の準備を始めた。足止めが精いっぱいだが、自分が生き残るためにできる限りのことをすべきだ。
 エーテル銃に専用の弾丸を装填していれば、平坦な声が響いた。

「命令と判断、熱蛙を停止させます」

 銀の流れが走って行くのをムジカは唖然と見送った。

「ラスっ!?」

 ムジカが止める間もなく、ラスはホール内に転がる採掘用の機材の間を跳躍して、彼我の距離を疾駆する。
 その手に構えられているのは、ムジカが買い与えた自動小銃である。
 ラスは空中に身を躍らせたとたん、腰だめに構えたそれを複数回発砲した。
 気づいた蛙型がラスを振り返るのと同時に着弾する。

『――……っ!』

 蛙型は悲鳴のような音がこぼして身をよじった。
 その片目が射貫かれ、煙を帯びていたからだ。
 もとより精密射撃には適していないはずの自動小銃で、あれほどの小さな的を狙えるその腕にムジカは目を剥く。だが、それでは足りない。

 痛みに身をよじるような動作をしていた蛙型は、ふいにその口腔を開いた。
 勢いよく飛び出してくるのは鞭型の打撃武器だ。

 生物を摸されている自律兵器ドールは、その生態も動きも元にされた生物に似通っている。
 だが自律兵器の一撃は、人間を挽肉にするにはあまりある威力だ。
 飛び出してきた鞭に対しラスは回避行動をとるが、小銃が奪われ砕かれた。
 さらに蛙型は、強靱な後ろ脚で跳躍し飛び込んでくる。
 機材をなぎ倒す蛙型に青ざめたムジカだったが、ラスは危なげなく回避し蛙型から離れていた。
 転がっていたのを拾ったらしい、採掘用の柄の長いハンマーが握られている。
 いらだたしげに首を横に振った蛙型がラスの姿を探す中、彼は後脚に力を込めようとしていた蛙型の頭にハンマーを振り下ろした。

 金属とは違う、重たい打撃音が響く。

 様子をうかがっていた採掘夫や探掘屋シーカーたちが一様に驚愕するのがムジカにはわかる。
 そう、何せ彼は自律兵器に一撃を与えるという無謀なことをしているのだ。
 自律兵器は種類にもよるが、人間が及ばない早さと膂力、反応速度を持っている。
 蛙型が上層へと気をとられていたとはいえ驚異的なことである。

 ようやく驚きから覚めたムジカは、ラスが人間の範疇で倒そうとしていることを理解して青ざめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる  地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。 理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。 彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。 そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。 そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。 さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。 司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。 その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。 そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。 そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。 その宿命に誠は耐えられるか? SFお仕事ギャグロマン小説。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井
SF
魔法という概念が、一般的に使われるようになって何年が経過したのだろうか。 まず、魔法という概念が発見されたのは、西暦2199年の十二月一日の事だった。たまたま、古よりの魔術の本を解読していたヤン・ウィルソンが、ふと本に書いてある本に載っている魔法をつぶやいてみたところ、何と目の前の自分の机が燃え始めのだ。 慌てて火を消すうちにウィルソンは近くに載っていた火消しの魔法を唱えると、その炎は消化器を吹きかけられた時のように消したんだのだ。 ウィルソンはすぐに魔法の事を学会に発表し、魔法は現実のものだという事を発表したのだった。 ただに魔法の解読が進められ、様々な魔法を人は体に秘めている事が発見された。 その後の論文では、人は誰しも必ず空を飛ぶ魔法は使え、あとはその人個人の魔法を使えるのだと。 だが、稀に三つも四つも使える特異な魔法を使える人も出るらしい。 魔法を人の体から取り出す魔法検出器(マジック・ディセイター)が開発され、その後は誰しも魔法を使えるようになった。 だが、いつの世にも悪人は出る。例え法律が完全に施行された後でも……。 西暦2332年の日本共和国。 その首都のビッグ・トーキョーの一角に存在する白籠市。 この街は今や、修羅の混じる『魑魅魍魎の都市』と化していた。 その理由は世界有数の警備会社トマホーク・コープと東海林会の癒着が原因であった。 警察や他の行政組織とも手を組んでおり、街の人々は不安と恐怖に苛まれ、暮らしていた。 そんな彼らの不安を拭い去るべく、彼らに立ち向かったのは4人の勇気ある警官たちであった。 彼らはかつてこの白籠市が一つのヤクザ組織に支配されていた時に街を救った警官たちであり、その彼らの活躍を街の人々は忘れてはいなかった。 ここに始まるのは新たな『魔法刑事たち』の『物語』

Another Dystopia

PIERO
SF
2034年、次世代型AI「ニューマン」の誕生によって人類のあらゆる職業が略奪され、人類はニューマンとそれを開発した人間に戦争を仕掛けた。そして10年後、人類はニューマンに敗北し、ニューマンの開発者の一人、弁田聡はこの結果に嘆いた。 この未来を変えるべく、彼はタイムリープマシンを開発しこの絶望的な未来を変えるため過去へ向かう。 その道のりの先は希望か絶望か。 毎月15日と月末に話を上げる予定です。 ストックが切れたら多分投稿が遅くなります。 小説家になろうでも投稿しています。よろしければURLを参考にどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n0396gs/

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

キスメット

くにざゎゆぅ
SF
~ノーコン超能力者と陰陽師とジェノサイド少年でバトルやラブを!~ 不思議な力を宿すロザリオの出どころを探るために、海外赴任の両親と別れて日本に残ったヒロイン。叔母の監視下とはいえ、念願の独り暮らしをすることに。 そして転入した高校で、怪しげな行動を起こす三人組に気づく。その中のひとり、男子生徒の胸もとには、自分のものとそっくりなロザリオが。これはお近づきになって探るしかないよね?! ヒーローは拳銃所持の陰陽師!?  ヒロインはノーコン超能力者の天然女子高生!  ライバルは一撃必殺のジェノサイド少年!!  ラブありバトルあり、学校や異世界を巻きこむ異能力系SFファンタジー。 舞台は日本…なのに、途中で異世界に行っちゃいます(行き来します) 学園コメディ…と思いきや、超能力×陰陽術×エージェントまで加わってのバトルアクション! そしてヒロインは超鈍感…でも、恋愛はできるのです!! キスメットは、運命という意味。彼らの辿る運命を見守ってくださいませ☆ ※暴力描写・恋愛描写は物語上必要な量を盛り込みです。閉鎖したブログサイトから連載作品をひっそり引っ越ししてきました。他サイトで一部連載。 ※ジャンルはローファンタジーですが、個人的にはSF(スペキュレイティブ・フィクション)なのです。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

処理中です...