夜明けのムジカ

道草家守

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奇械探掘3

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 解体を終えて、野営の準備をしていた地点に戻ってきたムジカは、遅い昼食の準備を始めた。

「これからどうしますか」
「収穫は十分すぎるからな。飯食べたら地上に戻る」

 本来なら2、3日粘るつもりだったが、目標金額に達したため居る理由がなくなってしまった。これ以上狩っても遺物の持ち運びができないし、収集物が多すぎれば怪しまれる元になる。
 ただゆっくりできるため、少し食事を豪華にしようと荷物から簡易コンロを取り出したムジカは、熱を入れるためつまみを回す。
 エーテルと反応させることでコイルが熱せられる仕組みなのだが、コンロから熱は発せられない。

「あー。中古で安かったけど、このせいか」
「ムジカ、水を沸騰させるのなら俺が」
 ラスの言葉が耳に入らなかったムジカは、簡易コンロへ口ずさんだ。

『熱く激しい 炎の子
 可愛い乾きの 気まぐれ屋
 隠れず遊んで くれないか
 君は煌めく 炎の子』

 韻を踏んだ軽やかな歌に呼応するようにエーテルが揺らめいたかと思うと、コイルから熱が立ち上り始める。
 満足したムジカは、ラスを見て首をかしげる。ポットを持ち上げていた彼は表情は変わらないのだがどことなく違和感のようなものを覚えた。
 あえて言うのであれば、少しうらやましそうな。 

「どうした、ラス。ポットなんてもって」
「いえ、歌うのだな、と」
「これも一つの奇械アンティークだからな。調子が悪いときはこれが一番だ。便利なものは使わなきゃ……て、おい、そのポット中身沸騰してるか!?」

 ラスによって敷布に置かれたポットにティーパックを放り込みつつ、ムジカが驚いていれば彼が答えた。
「はい、乾の性質を利用すれば良いだけですので。コンロよりも早いです」
「助かったけど……」

 その言葉はいつも通り淡々としていたが、ムジカはなんとなく引っかかるものを覚えた。
 が、その引っかかりはよくわかないまま、ムジカはコンロの上に置いた網の上で、先ほど買ったサンドイッチをあぶった。
 簡単ではあるが、これだけでもずいぶん違う。

「よっしゃ、ラス、パンのチーズが溶け始めたら教えてくれ」
「了解しました」

 荷物を軽くするために保存食もいくつか食べてしまうことにしたムジカは、紅茶をアルミカップに注ぎつつ、オレンジも取り出した。
 ナイフで切り分けつつふと思い出して、じっとコンロにかけられたサンドイッチを監視するラスに話しかけた。

「そういやラス、なんで翼が2枚だけなんだ。あのときは違っただろう」

 先ほどの戦闘行動の時に、ラスの背にあった翼は1対だけだった。
 しかし、あの整備室にいたときには翼はもっと多かったはずだ。
 引っかかっていた違和を思い出し少々すっきりしていると、ラスは戸惑うように紫の瞳をこちらへ向けた。

「俺には戦闘行動に関して機能制限がかけられています。そのため先ほどは通常行動のまま非常出力にて対応していました」
「あれで機能制限がされてるのか!?」

 言ってからムジカはスリアンに渡された自律兵器ドールおよび指揮者ディレットマスターマニュアルを思い出した。妙に整然とした仕様書のような内容で目が滑り、流し読みしかしていないが、記憶の隅に引っかかっている知識を引っ張り出す。

 自律兵器はエーテル結晶からの供給が一定の数値を超えた場合、機体の劣化が促進される。機能制限は普段大量のエネルギーを消費しないように自律兵器ドールにかけられている安全装置だ。
 ただ、常に戦闘行為を行うにはエネルギーが足りないため、音声入力によって制限を外す、と書いてあったはず。

「はい、機能制限を外した場合、4翼まで運用可能と記録されています」
「4翼……?」

 それもまた記憶にある光景と一致せず、ムジカは困惑したが、それよりも気になるのはその機能制限の外し方である。

「ムジカは指揮歌リードフレーズを歌いますか」

 ラスに訊ねられたムジカは、反射的に体をこわばらせた。
 流し読みでも見つけていた、独特の譜面。
 自律兵器ドールのコマンド入力には指揮歌を歌う。
 由来はわかっていないが、自律兵器ドールの維持系統に関わるエーテルの制御、干渉には音声が一番効果的なため、そのようにされたと言われている。一部の高度な自律兵器ドールにはエネルギーの補給まで指揮歌が必要とされるらしい。

「お前は十全に機能を発揮したいと思うか」

 ムジカが明言を避けて問いかければ、ラスは淡々と答えた。

「ムジカの補助に必要であれば。しかしながら、ムジカの『人間のふりをする』と言う命令には不要だと考えます」
「そうか」
「ムジカ、チーズが溶けてきたと進言します」
「おう、やればできるじゃねえか……ってこれ焦げてる!!」

 話がそれたことに安堵し。
 そして溶けるにこだわるあまり、表面が黒に近く焦げてしまったサンドイッチに驚き、その話は終わったのだった。

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