夜明けのムジカ

道草家守

文字の大きさ
上 下
31 / 78

奇械探掘2

しおりを挟む
「同胞、の定義がわかりません。奇械アンティーク同士では味方、中立、敵性で判断しますが、これらの機体は自分にとっては中立であり、ムジカの大切な『飯の種』です」
「お前がそういう言い回しを使うと妙な気分だな。どこで拾ってきたんだ」
「現在使われている言い回しの学習のため、探掘坑周辺にいた人間の会話を傍受しました」
「めちゃくちゃ器用なことしてたんだな……?」

 ラスが急に世俗的な単語を使い始めた理由を知ったムジカは顔を引きつらせつつも、空いている工具を渡した。

「一番注意しなきゃいけねえのは、高く売れるエーテル機関と、管制頭脳だ。特に管制頭脳は先にエーテル供給を断ち切っとかないとショートするからそこは触るな。お前はとりあえずそっちのコードを外していけ」
「了解しました、ムジカ。現在のエーテル濃度は中度です」
「わかった」

 工具をもたせて的確に指示さえ出せば、ラスは良い働き手だった。
 エーテル濃度が中度であればまだ問題ないレベルだが、そんなときの眠気は良くない。引きずられてしまわないようしゃべるのが一番いい。
 音に敏感な奇械アンティークだが人間の声に反応して寄ってくることはないため、気晴らしに独り言をしゃべる探掘屋シーカーは多かった。

 だから解体作業を進めながら、ラスの手際を眺めていたムジカは、彼に話しかけていた。

「お前、ずいぶんはしゃいでるな」

 ラスはコードを巻き取る手を止めて、紫の瞳でムジカを見た。

「はしゃいでいる、というのはどの行動を指していますか」
「遺跡に入ってから、あたしが省略した作業がわかるか。エーテル濃度の計測に、奇械アンティークの探索、がれきの除去、マッピング。奇械アンティークの制圧はあたしが言うまでもなかったし。生き生きしてるな、お前」
「俺は人のように生命活動をしていないため、その形容は不適切だと判断します。ですが俺の機能が発揮できる環境でしたので、行動判断がスムーズだったと考察します」
「いや、それが生き生きしてるってやつだと思うんだけど」

 ムジカが半眼で見やっても、ラスは全く理解した様子はない。
 ただそういう風に見える、というのは人間らしく見えるということでもあるのでなかなか悪くない。これほどラスが探掘作業に向いているとは思わず、そこは不本意ながら認めざるを得なかった。

「この調子で洗濯とか料理とかできたらいいんだけどな」
「ムジカは、俺を戦闘のみに従事させないのですか」
「は、なんで?」

 虚を突かれてムジカ顔を上げれば、案の定紫の瞳からは感情は読み取れない。が、質問する以上気になっているのは確かのようだ。

「はしゃいでいる、というのが個体に向いた作業に従事している状態を指しているのであれば、俺は戦闘と索敵に適性があります。それのみに従事させるのが効率的なのではありませんか」
「はしゃいでいるってのはそういうことじゃないんだけど。まあそうだなあ、有り体に言うんならもったいない」
「もったいない」

 困惑といった様子のラスに、ムジカは工具で自分の肩を叩きながら言った。

「だってお前、ときどきぶっ飛ぶけどそれ以外もできるじゃねえか。どうせ四六時中一緒にいるんだから、苦手でもいろいろできた方があたしが楽できるだろ」

 まだつきあいは短いがラスの高性能さはそれなりに実感している。
 だからスリアンの「眠らせておくのはもったいない」というのが不本意なが悔しいが納得してしまったムジカなのだった。

「俺を必要以上に連れ歩きたくないのでしたら、必要な場面でのみ連れ出してくだされば問題ないのでは」
自律兵器ドールだから、使用人型が任されるような仕事は覚えたくないか?」

 少々意地悪に問い返せば、ラスは沈黙する。

「なら、所有者登録したやつを間違えたな。あたしは便利なものならどんどん使う。使えなくても使い方を考える。あたしを選んだのが運の尽きだ。せいぜい最大限利用してやるよ」
「……了解しました、ムジカ。戦闘面以外でも役に立てるよう学習します」

 わずかな沈黙の後そう答えたラスに、ムジカは鼻を鳴らして解体作業に戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

呆然自失のアンドロイドドール

ショー・ケン
SF
そのアンドロイドは、いかにも人間らしくなく、~人形みたいね~といわれることもあった、それは記憶を取り戻せなかったから。 ある人間の記憶を持つアンドロイドが人間らしさを取り戻そうともがくものがたり。

トライアルズアンドエラーズ

中谷干
SF
「シンギュラリティ」という言葉が陳腐になるほどにはAIが進化した、遠からぬ未来。 特別な頭脳を持つ少女ナオは、アンドロイド破壊事件の調査をきっかけに、様々な人の願いや試行に巻き込まれていく。 未来社会で起こる多様な事件に、彼女はどう対峙し、何に挑み、どこへ向かうのか―― ※少々残酷なシーンがありますので苦手な方はご注意ください。 ※この小説は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、novelup、novel days、nola novelで同時公開されています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...