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探掘街の少年1
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その小柄な少年を見つけた時、ムジカは通り過ぎることも考えたが、残念なことに立ち去る前に少年が気がついた。少年は驚きに目を見開いて駆け寄ってくる。
首から下げる立ち売り箱を揺らさず、すいすいと探掘屋たちをよけていく姿はいつ見ても感心するが。
「師匠っ無事だったのか!」
「ムジカさんだろ、ファリン」
「いででっ!」
ぐりぐりとこめかみに指をねじ込んでやれば、ファリンは大げさに痛がった。
何度もつぎあてのされた薄汚れた服、そして土ぼこりにまみれた顔は孤児の証だ。乳歯が抜けたのか、前歯が一本欠けている。確か9歳の少年だったはずだが、体格としては小柄なムジカとほぼ変わらない。
彼、ファリンは探掘坑前を渡り歩くサンドウィッチ売りの少年だった。
「誰があんたの師匠になった。というか、お前の仕事場はもっと手前のはずだろ。まさか」
ムジカが表情を険しくすれば、ファリンは慌てて首を横に振った。
「ち、ちがうって、おいらだって年齢が足りたら探掘屋になるからその情報収集に……」
「同じことだろうが」
この少年は探掘屋稼業にやたらと興味を示し、年が近いせいかムジカを師匠と呼んでことあるごとに絡んでくるのだ。
特大のため息をつけば、ファリンはふてくされたように唇をとがらせた。
「ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃねえか、ケチ」
「ばっか、お前みたいなやつが来ちゃ行けねえ場所なんだよ、ここは。おとなしく本業で稼いでろ。ハムサンド二つ頼む」
「……はいよ」
ムジカが色をつけた金額のコインを投げれば、慣れた手つきでファリンは受け取る。そして首から提げている立ち売り箱から、紙に包まれたハムサンドを差し出した。
彼の本業だ。ハムには比較的混ぜ物が少なく、スライスされたチーズまで入っているためなかなか腹持ちがいい。
「最近は重作業型の部品が高値で取引されてる。エーテル結晶も売値が上昇中。なんか需要があるらしいね」
さらに、色をつければ遺物の買い取り相場まで教えてくれるため、探掘屋達の間では両方の面で重宝されていた。
「どっかの金持ちがまたコレクションを発掘させようとしてんのか……?」
「おいらは見聞きしたことをそんまんま話してるだけだよ」
「そこは信頼してるさ。それとありがとな。あたしが遭難しかけたのスリアンに知らせてくれたんだろ」
「へへ、師匠の窮地だもんよ。感謝のしるしに俺を探掘へ」
「それはだめだ」
ムジカに礼を言われ、照れ臭そうに鼻の下を指でこすっていたファリンだが、即座に両断されて不満そうな顔をする。
「こうやって見てるとさ、探掘屋のほうが手っ取り早くかせげるじゃないか。師匠みたいにドカーンとかせいで、兄弟たちを楽させたいんだよ!」
この街では働かないものは子供だろうと生きてはいけない。エーテル症や不衛生な環境での生活、過重労働などで人がばたばた死ぬ。親が死に、ファリンのような境遇の子供たちが路地裏で身を寄せ合って暮らしていることも珍しくなかった。
そんな彼らの夢のように見られているのが、皮肉なことに両親達を死に追いやった探掘屋だ。一度の探掘で1年以上暮らせる稼ぎが手に入ることは、たまらなく魅力的に映るらしい。
庇護者のいないファリンが必死になる気持ちもよくわかるが、ムジカは彼を連れて行く気は毛頭なかった。探掘の現実を知っているだけになおさら。
利発でまっとうな稼ぎのあるファリンには、そのまま仕事を続けていて欲しかった。
「あたしがあんたに教えられることは何もない」
「なんだよ師匠! おいらだって男だし、もう12って言っても通じるくらい大きくなった! 覚悟もあるぞ! ってその後ろの美人誰」
このまま押し切って立ち去ろうと思っていたムジカだったが、ファリンがムジカの後ろに控えていたラスに気づいてしまった。
首から下げる立ち売り箱を揺らさず、すいすいと探掘屋たちをよけていく姿はいつ見ても感心するが。
「師匠っ無事だったのか!」
「ムジカさんだろ、ファリン」
「いででっ!」
ぐりぐりとこめかみに指をねじ込んでやれば、ファリンは大げさに痛がった。
何度もつぎあてのされた薄汚れた服、そして土ぼこりにまみれた顔は孤児の証だ。乳歯が抜けたのか、前歯が一本欠けている。確か9歳の少年だったはずだが、体格としては小柄なムジカとほぼ変わらない。
彼、ファリンは探掘坑前を渡り歩くサンドウィッチ売りの少年だった。
「誰があんたの師匠になった。というか、お前の仕事場はもっと手前のはずだろ。まさか」
ムジカが表情を険しくすれば、ファリンは慌てて首を横に振った。
「ち、ちがうって、おいらだって年齢が足りたら探掘屋になるからその情報収集に……」
「同じことだろうが」
この少年は探掘屋稼業にやたらと興味を示し、年が近いせいかムジカを師匠と呼んでことあるごとに絡んでくるのだ。
特大のため息をつけば、ファリンはふてくされたように唇をとがらせた。
「ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃねえか、ケチ」
「ばっか、お前みたいなやつが来ちゃ行けねえ場所なんだよ、ここは。おとなしく本業で稼いでろ。ハムサンド二つ頼む」
「……はいよ」
ムジカが色をつけた金額のコインを投げれば、慣れた手つきでファリンは受け取る。そして首から提げている立ち売り箱から、紙に包まれたハムサンドを差し出した。
彼の本業だ。ハムには比較的混ぜ物が少なく、スライスされたチーズまで入っているためなかなか腹持ちがいい。
「最近は重作業型の部品が高値で取引されてる。エーテル結晶も売値が上昇中。なんか需要があるらしいね」
さらに、色をつければ遺物の買い取り相場まで教えてくれるため、探掘屋達の間では両方の面で重宝されていた。
「どっかの金持ちがまたコレクションを発掘させようとしてんのか……?」
「おいらは見聞きしたことをそんまんま話してるだけだよ」
「そこは信頼してるさ。それとありがとな。あたしが遭難しかけたのスリアンに知らせてくれたんだろ」
「へへ、師匠の窮地だもんよ。感謝のしるしに俺を探掘へ」
「それはだめだ」
ムジカに礼を言われ、照れ臭そうに鼻の下を指でこすっていたファリンだが、即座に両断されて不満そうな顔をする。
「こうやって見てるとさ、探掘屋のほうが手っ取り早くかせげるじゃないか。師匠みたいにドカーンとかせいで、兄弟たちを楽させたいんだよ!」
この街では働かないものは子供だろうと生きてはいけない。エーテル症や不衛生な環境での生活、過重労働などで人がばたばた死ぬ。親が死に、ファリンのような境遇の子供たちが路地裏で身を寄せ合って暮らしていることも珍しくなかった。
そんな彼らの夢のように見られているのが、皮肉なことに両親達を死に追いやった探掘屋だ。一度の探掘で1年以上暮らせる稼ぎが手に入ることは、たまらなく魅力的に映るらしい。
庇護者のいないファリンが必死になる気持ちもよくわかるが、ムジカは彼を連れて行く気は毛頭なかった。探掘の現実を知っているだけになおさら。
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「あたしがあんたに教えられることは何もない」
「なんだよ師匠! おいらだって男だし、もう12って言っても通じるくらい大きくなった! 覚悟もあるぞ! ってその後ろの美人誰」
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