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探掘坑2
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だが、そのような機微をラスがくみ取れるわけもなく、彼は平坦な声音で語るだけだ。
「ムジカの役に立つことが俺の使命です」
「頼むから余計な面倒ごとを起こさないでくれよ。前に言った注意事項は覚えているな」
「なるべく人間に擬態する。そのために人間は傷つけない、争いごとは起こさない、目立たない」
「そこに、遺跡内ではあたしの指示に従う。わからないことがあったら何でもあたしに聞く、を追加だ」
「了解しました。わからないことがあったらムジカに聞きます」
質問にはうんざりしていたが、必要なのは確かだ。今回のような事態が起きないようにするためには、不本意だがムジカが目を光らせることが一番だった。
「んで、貸本屋で読んだからには何かわかったんだろ?」
「はい。ムジカの今までの言動と反応から推察し、ムジカにかかわる知識を中心に収集しました」
「ふうん、たとえば」
何気なく聞いてみれば、ラスはムジカの食べているものを見た。
「ムジカ、食事が偏っています。人間は炭水化物、ビタミン、ミネラルなどを適切にとらねばなりません。緑黄色野菜の摂取を提案します」
「あーめんどいんだよ。高いし、今日は豆食ってるだろ」
「朝食が紅茶一杯だけですので、夕食がこのままですと栄養不足による様々な疾患が発生すると予測されます」
耳が痛い話に、ムジカはふいと顔をそむけてベイクドビーンズをフォークで突っついた。
バーシェには平地がほぼないため、食料品に関しては飛行船での輸入に頼っている。上層階には遺跡由来の野菜栽培設備があるらしいが、そこで栽培されるものはすべて上流階級で消費されるため意味がない。ゆえに下層民の食卓に上るのは、生きたまま運べる肉類や、日持ちのする根菜類や果物が大半だ。
とはいえムジカは借金を抱えてはいるものの、それほど困窮しているわけでもないので、野菜を食べられないこともない。
しかし街頭で売っているサラダ類は、利益率を上げたり見た目をよくしたりするために何が使われているかわからないのだ。
だから野菜を安全に食べるには自分で調理しなければいけない。だが室内にエーテル結晶で動くキッチンがあっても、自分で食材を買って料理するより街頭で売っている焼き肉や、混ぜ物の少ないパンを買った方が楽だった。
「お前が料理できればいいんだけどな」
「俺は自律兵器です。料理に関する情報は入力されていません」
「言うと思った」
ラスに残っている記録情報はすべて戦闘面に特化していることは理解していたから、初めから期待していない。とはいえムジカとて食べたくないわけではなく、探掘中の昼食はほとんど行動食で済ませるので、夜くらいは温かいスープが欲しいとは思う。
「ですが、家政読本にて料理法を入手しましたので、台所の使用と材料の調達を許可していただければ作成可能です」
「へえ。そりゃいいな。ちなみになんて本だ?」
「バートン夫人の家政読本です」
「やめろ、めちゃくちゃやめろ」
ムジカは顔を引きつらせて止めた。
ベストセラーとなっている家政読本は、中上流階級の奥様向けに作られているため、その中に入っているのはもてなし用のレシピだろう。そんなものを作られたら金銭が持たない。
「うちにそんな贅沢な料理を作らせる余裕はねえから。庶民的で気軽な飯じゃなきゃだめだ」
「気軽な飯。それは普段に食べるような食事という意味ですか」
「その通り。ほらこの話はおしまい! 明日は早いんだからな。お前にもめいっぱい働いてもらうぞ」
「はい」
従順にうなずくラスを見つつ、ムジカはパンのひとかけらを口に放り込んだのだった。
「ムジカの役に立つことが俺の使命です」
「頼むから余計な面倒ごとを起こさないでくれよ。前に言った注意事項は覚えているな」
「なるべく人間に擬態する。そのために人間は傷つけない、争いごとは起こさない、目立たない」
「そこに、遺跡内ではあたしの指示に従う。わからないことがあったら何でもあたしに聞く、を追加だ」
「了解しました。わからないことがあったらムジカに聞きます」
質問にはうんざりしていたが、必要なのは確かだ。今回のような事態が起きないようにするためには、不本意だがムジカが目を光らせることが一番だった。
「んで、貸本屋で読んだからには何かわかったんだろ?」
「はい。ムジカの今までの言動と反応から推察し、ムジカにかかわる知識を中心に収集しました」
「ふうん、たとえば」
何気なく聞いてみれば、ラスはムジカの食べているものを見た。
「ムジカ、食事が偏っています。人間は炭水化物、ビタミン、ミネラルなどを適切にとらねばなりません。緑黄色野菜の摂取を提案します」
「あーめんどいんだよ。高いし、今日は豆食ってるだろ」
「朝食が紅茶一杯だけですので、夕食がこのままですと栄養不足による様々な疾患が発生すると予測されます」
耳が痛い話に、ムジカはふいと顔をそむけてベイクドビーンズをフォークで突っついた。
バーシェには平地がほぼないため、食料品に関しては飛行船での輸入に頼っている。上層階には遺跡由来の野菜栽培設備があるらしいが、そこで栽培されるものはすべて上流階級で消費されるため意味がない。ゆえに下層民の食卓に上るのは、生きたまま運べる肉類や、日持ちのする根菜類や果物が大半だ。
とはいえムジカは借金を抱えてはいるものの、それほど困窮しているわけでもないので、野菜を食べられないこともない。
しかし街頭で売っているサラダ類は、利益率を上げたり見た目をよくしたりするために何が使われているかわからないのだ。
だから野菜を安全に食べるには自分で調理しなければいけない。だが室内にエーテル結晶で動くキッチンがあっても、自分で食材を買って料理するより街頭で売っている焼き肉や、混ぜ物の少ないパンを買った方が楽だった。
「お前が料理できればいいんだけどな」
「俺は自律兵器です。料理に関する情報は入力されていません」
「言うと思った」
ラスに残っている記録情報はすべて戦闘面に特化していることは理解していたから、初めから期待していない。とはいえムジカとて食べたくないわけではなく、探掘中の昼食はほとんど行動食で済ませるので、夜くらいは温かいスープが欲しいとは思う。
「ですが、家政読本にて料理法を入手しましたので、台所の使用と材料の調達を許可していただければ作成可能です」
「へえ。そりゃいいな。ちなみになんて本だ?」
「バートン夫人の家政読本です」
「やめろ、めちゃくちゃやめろ」
ムジカは顔を引きつらせて止めた。
ベストセラーとなっている家政読本は、中上流階級の奥様向けに作られているため、その中に入っているのはもてなし用のレシピだろう。そんなものを作られたら金銭が持たない。
「うちにそんな贅沢な料理を作らせる余裕はねえから。庶民的で気軽な飯じゃなきゃだめだ」
「気軽な飯。それは普段に食べるような食事という意味ですか」
「その通り。ほらこの話はおしまい! 明日は早いんだからな。お前にもめいっぱい働いてもらうぞ」
「はい」
従順にうなずくラスを見つつ、ムジカはパンのひとかけらを口に放り込んだのだった。
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