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錬金街3
しおりを挟む「あちらにあるものが、錬金具ですか」
ラスが見ている区画は、錬金術師たちが作った錬成具の店が軒を連ねていた。
どこかいかがわしく、そこかしこから蒸気が吹き上がり、薬のような鼻につんとくるものや、何かの金属を熱しているにおいが立ちこめている。
呼び売りをしている人間の数も少なく、だが客の問いかけには熱心に答えている様子がで見られた。
そしてその店先に並んでいるのは、知識のないものにはどう使ったら良いかわからない様々な道具だ。さらに動かない奇械やその部品も商品として並んでいた。錬金具は奇械とも近しいため、こうして隣り合った場所で売られていることも珍しくない。
客は先ほどの日用品を扱う界隈とは違い、探掘屋らしき荒々しげな男や、どこかなまめかしさを感じる女性など堅気らしからぬ空気をまとっている。生活に必要な錬金具はあちら側でも売っているため、専門街に来る人間はある程度後ろ暗い人間が集まりやすいことは否めなかった。
ムジカは密かに気合いを入れつつ、店の一つに目星をつけて入る。
若い娘であるムジカと目深に帽子をかぶったラスが近づいてくると、店主はいぶかしげな顔をしたものの、特に声をかけてこない。
探掘は十代の少年でもやる仕事だ。そもそも錬金具を扱う人間たちにはものを買ってくれる人間に何も言わない。ともかく話しかけられないのは助かった、とムジカは物色していく。
「閃光弾は投げてみないとわからないからな……」
「うちのは全部、腕が確かな錬金術師から仕入れてるよ」
独り言を拾ったらしい店主の言葉を無視したムジカが目の前の閃光弾を見比べていれば、傍らにたたずんでいたラスが口を開いた。
「ムジカ、その錬金具は98パーセントの確率で錬金陣が不発に終わります」
「は?」
ムジカが弾かれたように見上げれば、ラスは淡々と錬金具を指さしながら続けていく。
「そちらは内蔵されているエーテル結晶不足で、錬金陣から想定される威力の30パーセント程度の威力しかありません」
「うちの商品にけちをつけるとはいい度胸じゃないか、営業妨害だぞ!」
さすがに黙っていられなかったらしい店主が立ち上がってつかみかかってこようとしたが、ラスはその手を逆にとって締め上げる。
「敵対行為と判断します。ムジカ排除の許可を」
「排除されるのはてめえだポンコツ! 争いごとを自分から起こしてどうする!?」
ムジカががんっと腰のあたりを殴れば、ラスは錬金具屋の店主を放したが小首をかしげた。
「俺はムジカの『良質な錬金具を購入する』という行為を補助できませんでしたか」
「できなくはなかったが言い方、やり方ってもんがある。こんな風に真っ向からやるのは最悪だ!」
「申し訳ありませんでした、学習します」
無表情に言うラスに、反省の色が見えるのかよくわからなかったムジカは頭痛を覚えた。
行動力と思考能力があるだけ、赤ん坊よりたちが悪い気がする。
「おい、ガキどもこの落とし前どうつけてくれるんだ!」
ラスに拘束を解かれた店主が、今度はムジカにかみついてくる。
わめく声をムジカは無視して、ちらりと銀髪の青年人形を見上げた。
「なあ、ラス、さっき言ったことは本当だな」
「はい」
「やはり女は馬鹿ばかりだな! 家を出るとろくなことがない!」
それだけ確認したムジカは、ポケットから閃光弾一個分のコインを取り出すと、店主へと弾いた。
店主がコインを手玉にとっている間に、ラスが指摘した閃光弾を手に取ったムジカは安全装置となるレバーを押し込む。
この雑踏の中で安全装置を外したムジカに店主が目をむく中、ムジカはその閃光弾を無造作に転がした。
足を止めてことの成り行きを見ていた野次馬たちはとっさに顔をかばったが、強烈な光はいつまでも来ない。
呆然とする店主にムジカは内心の動揺を押さえ込み、にやりと口角を上げて見せた。
「なあおっさん、この閃光弾ちゃんと使えるんだったよな。驚かせたわびにその金はいらねえよ。じゃあな」
そこまで言い切ったムジカは、ラスの手をつかんで雑踏の中へと消えた。
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