夜明けのムジカ

道草家守

文字の大きさ
上 下
21 / 78

錬金街2

しおりを挟む



 市場にはそれぞれ特徴があるものの、そろわないものはない。
 腹ごしらえを終えたムジカは再び市場の中を進み、探掘に必要な道具を買いそろえていった。
 あの荷物は二度と戻ってこないだろう。遺跡内に落ちているものは、見つけた者に権利がある。潜って取りに行くにしても、潜るためにはある程度装備品が必要だった。

 はじめこそ義務感しかなかったが、呼び売りの声や買い物客で賑わう雑踏のなかで品物を見ていれば自然と心は浮き立つものだ。ムジカは必要なものを次々と思い出し、財布の中身と相談して手に入れていく。

「それにしても、お前それだけ持ってて大丈夫なのな」
「重量に関してでしたら問題ありません。1トンまで運搬可能です」

 切らしていた食料まで節操なく買い集めたため、腕や背中に負われた荷物はそれなりの重さになっているはずだ。そのあたりはやはり奇械アンティークらしい。
 ひとまずもう少し買い物をしても大丈夫そうだと思ったムジカは、次の店へと向かった。

錬金具アーティファクト系を全部なくしたのが痛いなあ。在庫も少ないから買っとくか」

 探掘に使うための道具の中には消耗品も多い。
 一つ一つはそうでもないが、消耗品である以上累積すれば手痛い出費になる。

「錬金具、とは何でしょうか」
「お前の時代にはなかったのか? エーテルの節操のない変化を利用して、地水火風の原理を再現できる道具のことだよ。うちにあるコンロとか水道とかにも使われてる」

 錬金具の元となる錬金術は、エーテルの柔軟な性質を利用するための技術体系だ。それは庶民の生活水準でも浸透しており、様々な分野で利用されている。
 ムジカが言う錬金具もその一つだ。たいていは触媒とエーテルの変質を定義する錬金陣がセットで、用途に合わせて使いやすいように設計されていた。
 とはいえムジカも原理はほとんど知らない。使えればいいものなのだ。

「エーテル銃の弾丸はもちろん、大きながれきを崩すための爆薬だったり、浄化マスクのフィルターもそうだし、簡易トイレの浄化……」

 これは言わなくていいことだったと、ムジカが顔を赤らめて口を閉ざせば、ラスは平坦な声音で言った。

「それなら俺が再現できます」
「はあ? 属性が違えば全く違う錬金陣と術式が必要なんだぞ?」
「可能です」
「はあ、そうかい」

 繰り返したラスの言葉に、ムジカは疑わしげなまなざしをむける。
 奇械アンティークはエーテルをより円滑に利用するために研究されたものだ。自律兵器ドールに備えられている兵装はすべてエーテルを利用しているため、錬金術を常に発動するために膨大な錬成演算をし続けなければならない。
 人間では限界のある演算能力を超えられる自律兵器ドールだからこそ、あの強力な兵装を操ることができるのだ。
 とはいえ、それもあらかじめ定められた錬成術式によるものだけである。
 たしかに自律兵器ドールであるラスには、ある程度エーテルを扱える能力があるだろうが、そこまで自由度があるものではなかったはずだ。
 ラスが何か勘違いしているのか認識が違うのかわからないが、ムジカはそれを突き詰めて聞く気にはなれなかった。 

「排泄物の分解も」
「それ以上言ったら、エーテル弾ぶちかますぞ」

 地を這うような声音の迫力に気圧されたのか、ラスが口をつぐんだ。
 ムジカはラスの無遠慮な回答や質問にいい加減疲れてきていたが、スリアンの忠告を思い出していらだちを抑える。

「こいつは赤ん坊、しゃべれるだけで何にも知らないから、教えなきゃいけないんだ。冷静にいこうぜ冷静に」

 だがこんなでかい子供のお守りから始めなければならないとは、やはり貧乏くじだったのではないかと思わなくもない。
 そんなムジカの心境など知らぬげにラスは彼女を見下ろしていたが、不意に顔を上げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

交換日記

奈落
SF
「交換日記」 手渡した時点で僕は「君」になり、君は「僕」になる…

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...