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非日常3
しおりを挟むとりあえず家にあったパンと出がらしの紅茶で腹を満たしたムジカは、着替えさせたラスをつれて外に出た。
街の中は快晴でもどこか薄暗い。
今が10月に入り冬に向かっている時期であるからと言うのもあるが、工場でエーテル動力が昼夜を問わず使われて空気が汚染されているせいだ。
レンガや漆喰でできた建物が、子供が無造作に積み上げた積み木のように折り重なって街を成していた。
高い建物と建物の間を縫うように石畳の道路が曲がりくねるように通り、真っ昼間から酒場が開き、露天売りの声が響いている。
歩道には、中流から下流にかけてのくすんだドレスを着た女が歩き、子供がいっぱしの呼び売りの声をあげていた。その横を運搬用の奇械と共に、大きな荷物を運ぶ男が通りすぎる。
街路には鉄馬車が排ガスと蒸気を噴き出しながら走り、路地の暗がりには酔いつぶれているのか死んでいるのかわからない者が倒れ込んでいた。
ともあれ、慣れた道だ。
人を縫うように足早に歩くムジカへ、ラスの声が響く。
「ムジカ、ここはどこでしょうか」
「わかんないのか。奇械なのに」
「俺に残っている記録は約300年前のもので一部が破損しています。質問はムジカが明日にしろといいました」
そういえば疲れ果てた頭でしゃべるのもおっくうだったから、そんなことを言った気もする。
「遺跡都市国家バーシェ。今はそう呼ばれてる」
仕方なく、ムジカはぞんざいに答えた。
遺物の発掘と奇械にまつわる様々な事柄で、この都市は回っている。
利便性のために遺跡の上へと移住し始め、小高い山に囲まれた盆地だったために守りやすく、しかし平地が少なかったために、建築物は上へ上へと伸びていった。
山を越えたむこうの大地は、居住不可能レベルのエーテル濃度で汚染されており、人々は、無事な大地に身を寄せ合って生活している。と、ムジカはわずかに通ったロースクールで学んだ。
ラスはムジカが事前にした「むやみに顔をあげるな」という指令を忠実に守り、ひしゃげた帽子と、即席のスカーフで美貌を隠している。それでもあたりを伺うようにしているのが感じられた。
ムジカはふと、この人形にはどう映っているのだろうかと考えた。
街には遺跡を利用した浄化設備があるため上下水道は整っているはずだが、それでも片付けられないゴミや汚物が道路に転がり、風向き次第で饐えたにおいを運んでくる。
くすんだ蒸気と排ガスの汚れた空気は年中曇りのような天気だし、盆地に建物が密集しているせいで、街の中では日の出も日の入りも見えないほどだ。
それでも地下のエーテルで汚染されてないとも限らない、よどんだ空気よりは何倍もましだとムジカは思っている。だが上流階級では浄化マスクをつけないと外に出られない人間もいると聞く。
そこまで考えたところで奇械が感傷的なことを考えるわけもないと思い直し、さっさと歩くことにした。
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