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非日常1
しおりを挟むほのかな明るさを顔に感じて、ムジカは起き上がろうとした。が、節々の痛みでベッドに舞い戻る。
なじんだ硬いベッドの感触で、ムジカは自宅に帰って来られたことを思い出した。寝室でこれだけ明るいとなると、朝と言うより昼前だろう。
今度はゆっくり身を起こせば、体から乾いた泥が落ちて顔をしかめる。
遺跡から自宅へ戻ってきて疲れ果てていたムジカは、着替える気力もなくコルセットだけ外してベッドに飛び込んだのだ。案の定、体中がごわごわとしていて気分が悪かった。
「体、洗いたい……」
体を拭くための水差しとボウルは同じ部屋にある。
使い終わったら新しい水を入れておくことを習慣にしているためすっきりすることはできた。できれば湯を沸かして風呂に入りたいが、今日はやることが山積みだ、準備している時間はなかった。
いや、連続した探掘の後は丸一日休みにすると決めていたはず。なぜ忙しいと思ったのか。
「おはようございます、ムジカ。それは指令ですか」
アルトとテノールの中間。おおよそ感情の含まれていないその声音にぎょっとしてそちらを見る。
ベッドに飛び込む前と何ら変わりない場所に、銀髪に紫の瞳の美しい青年人形が座り込んでいた。
まだ、寝ぼけていたらしい。
「あー……」
自ら面倒ごとを背負い込んだ昨日の騒動を思いだし、ムジカは金茶の髪をかきあげて天を仰いだのだった。
ムジカたちが地上へと戻れたのは、使用人型から地図を取り出してからおよそ半日後のことだった。
使用人型が記録していた遺跡内の地図では上層までの道のりはつながっていたようだが、崩落で通行不可となっている部分も多々あり、何度も回り道を余儀なくされたからだ。
だけでなく何度も崩落に巻き込まれ、命からがらの脱出だったのである。
両手では足りないほどの崩落から逃げてきたために、あの整備室への道は完全に閉ざされてしまった。エーテル機関だけは死守していたものの、日を改めて整備室の部品や機材を持ち出そうとしていただけに惜しい。
様々な犠牲を払いつつたどり着いた出口は、古い探索穴だった。
昇降機なども設置されておらず、さびた階段だけが取り付けられているそこは盗掘用の出入り口だったのだろう。それほど知らない街ではなかったことも助かった。
宵闇に薄もやが漂う盗掘街を足早に抜け、目立つラスを隠しつつ、もはや気力だけで自宅にたどり着いた頃にはすでに深夜。
「とりあえず、あたしが起きるまでそこの椅子でたい、き……」
眠気をこらえながらラスに命じてベッドに飛び込んだのを最後に、ムジカの記憶は途切れていたのだが。
この青年人形は、それを忠実に守っていたのだろう。
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