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記憶喪失2
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機体情報は、基本的な自己紹介に当たる。
それが欠落していると言うことは。
「何もわからないのか。ここにいた理由も? 自分が稼働前だったのか再起動後なのかも?」
「休眠状態に移行した記録がありますので、稼働歴があったと類推しますが、管制頭脳の記録領域に大きな欠落を確認しています。具体的な休眠時間および休眠状態が解除される以前の情報を開示することができません」
「まさかの記憶喪失……」
ムジカは途方にくれて頭を抱えた。
最短距離で青年人形の仕様を把握する方法がなくなった。あとは会話や機体のパーツから一つ一つ類推するしかない。要するに面倒くさい。
「お前、個体名称も覚えてないのか」
「該当する単語は『ラストナンバー』、とだけ」
よどみのなかった青年人形の回答に、わずかに乱れが生じたことも、自分の衝撃を飲み込むことで手一杯だったムジカは気にすることができなかった。
「ですが、敵性機体の情報は多数残存。竜型規模までの撃墜手段を確立しておりますので、戦闘用機体であったと類推します」
「安心要素一切ねえ!」
それは「守護すべし」というより「殺すべし」という方が基礎概念として正しいのではないか。
ムジカははじめ彼が「黄金期の遺産」ではないかと考えていた。
この遺跡でまことしやかに噂されるお宝だ。
曰く当時激戦区だったこの地域のどこかに巨竜型が眠っている。
曰く一生取りつくせないエーテル結晶の貯蔵がある。
曰く奇械の父である、ヴィルヘルム・ホーエンが隠した特別な奇械があるなど、玉石混合だ。
探掘屋だった父はムジカを放ってのめりこんだ挙句、道半ばで死んでいった。
この青年人形も獅子型を無力化する鮮やかな手際から、戦闘用の自律兵器なのは間違いない。人型の自律兵器なんて聞いたこともなかったが、お宝としては申し分のない希少価値だろう。
が、竜型と言えば、ムジカも知識でしか知らない広範囲型殲滅自律兵器である。出会ったらあきらめろレベルの自律兵器に、撃墜手段などあり得るはずがないにもかかわらず、さらっとのたまう青年人形にムジカは顔を引きつらせた。
ほとんど情報を与えられていないということは、それだけ手間を惜しまれたとも考えられる。特攻用としても使われていた機体なのかもしれない。
つまり、どう考えても訳あり機体。
主人登録をしたことは、生きるために非常措置だったから後悔はしていないが、予想以上に面倒なものを拾ったのではないか。
ムジカのおののきなど意に介さず、青年人形は淡々と続けた。
「歌姫は最優先事項に設定されています。また最上位指令権を委託されており、強制停止、再稼働の権限も有しております」
最上位指令権というのは、自律兵器を含む奇械の管制頭脳に必ず組み込まれているプログラムだ。簡単に言えば登録された指揮者に絶対服従する、というものである。
あらかじめ設定された文言での命令も可能になる、いわば安全装置の役割だ。
そのあたりは指揮者と変わらずムジカは安心したため、基本的なスペックを聞くために続けた。
「じゃあその、歌姫、だっけか。登録解除法も先に教えといてくれ」
「解除法はありません」
「……は?」
解除法がない?
それが欠落していると言うことは。
「何もわからないのか。ここにいた理由も? 自分が稼働前だったのか再起動後なのかも?」
「休眠状態に移行した記録がありますので、稼働歴があったと類推しますが、管制頭脳の記録領域に大きな欠落を確認しています。具体的な休眠時間および休眠状態が解除される以前の情報を開示することができません」
「まさかの記憶喪失……」
ムジカは途方にくれて頭を抱えた。
最短距離で青年人形の仕様を把握する方法がなくなった。あとは会話や機体のパーツから一つ一つ類推するしかない。要するに面倒くさい。
「お前、個体名称も覚えてないのか」
「該当する単語は『ラストナンバー』、とだけ」
よどみのなかった青年人形の回答に、わずかに乱れが生じたことも、自分の衝撃を飲み込むことで手一杯だったムジカは気にすることができなかった。
「ですが、敵性機体の情報は多数残存。竜型規模までの撃墜手段を確立しておりますので、戦闘用機体であったと類推します」
「安心要素一切ねえ!」
それは「守護すべし」というより「殺すべし」という方が基礎概念として正しいのではないか。
ムジカははじめ彼が「黄金期の遺産」ではないかと考えていた。
この遺跡でまことしやかに噂されるお宝だ。
曰く当時激戦区だったこの地域のどこかに巨竜型が眠っている。
曰く一生取りつくせないエーテル結晶の貯蔵がある。
曰く奇械の父である、ヴィルヘルム・ホーエンが隠した特別な奇械があるなど、玉石混合だ。
探掘屋だった父はムジカを放ってのめりこんだ挙句、道半ばで死んでいった。
この青年人形も獅子型を無力化する鮮やかな手際から、戦闘用の自律兵器なのは間違いない。人型の自律兵器なんて聞いたこともなかったが、お宝としては申し分のない希少価値だろう。
が、竜型と言えば、ムジカも知識でしか知らない広範囲型殲滅自律兵器である。出会ったらあきらめろレベルの自律兵器に、撃墜手段などあり得るはずがないにもかかわらず、さらっとのたまう青年人形にムジカは顔を引きつらせた。
ほとんど情報を与えられていないということは、それだけ手間を惜しまれたとも考えられる。特攻用としても使われていた機体なのかもしれない。
つまり、どう考えても訳あり機体。
主人登録をしたことは、生きるために非常措置だったから後悔はしていないが、予想以上に面倒なものを拾ったのではないか。
ムジカのおののきなど意に介さず、青年人形は淡々と続けた。
「歌姫は最優先事項に設定されています。また最上位指令権を委託されており、強制停止、再稼働の権限も有しております」
最上位指令権というのは、自律兵器を含む奇械の管制頭脳に必ず組み込まれているプログラムだ。簡単に言えば登録された指揮者に絶対服従する、というものである。
あらかじめ設定された文言での命令も可能になる、いわば安全装置の役割だ。
そのあたりは指揮者と変わらずムジカは安心したため、基本的なスペックを聞くために続けた。
「じゃあその、歌姫、だっけか。登録解除法も先に教えといてくれ」
「解除法はありません」
「……は?」
解除法がない?
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