5 / 78
『人型』自律兵器1
しおりを挟む
あっけなく、歯車とバネをまき散らしながら、少女の形をしたものは床に転がる。
無造作に使用人型の下半身の車輪を前肢の一撃でなぎ倒したのは、硬質な緑の金属で形を成した獅子だった。頭部から尾てい骨で揺れる尾まで、錬成された金属で構築されたそれをムジカは知っていた。
獅子型の頭部に収まる眼球型の視覚センサは緑色。にもかかわらず、ムジカに無機質な敵意を向けている。
つまり、ムジカが歌う前に指揮者が登録されている機体だった。
当たり前だ、たとえ橙色だろうとこいつにムジカの声は届かない。
即座に身を翻したムジカは、無駄だとわかっていても恐怖を紛らわせるために叫んだ。
「自律兵器まで現れるなんざ、ツイてないなんてもんじゃないだろ!?」
それは黄金期の大戦を制した、戦うためだけに作られた奇械、自律兵器だった。
作り物の体でありながら自立思考を有し破壊に特化したそれは、たった一機で街を一つ壊滅させると評判だ。
各国では発掘競争が巻き起こっているらしいし公認探掘隊の目的もそれらしいが、今のムジカには関係ない。
自律兵器にはムジカの声は届かない。当たり前だ、奇械への干渉もごく一時的なものなのだ。
そもそもムジカ自身にも、自分がなぜ奇械へ干渉できるかわかっていない。
奇械よりも高度に保護術式が編み込まれている自律兵器なのだから、干渉できないのも当然と言えた。
だからこそ見つかったら最後、逃げ切れないことも知っていた。
逃げ出しながらも覚悟していたムジカだが、自律兵器はすぐに追ってこない。
高圧洗浄機の噴射される音。
振り返ったムジカは目をむいた。
「使用人型!?」
立ちふさがっていたのは、ムジカが一時的に指揮者登録をした使用人型の奇械だった。獅子型に比べれば頼りない少女の姿をまねた奇械は、しかし一歩も引かず高圧洗浄機を構えていた。
確かに、奇械には基礎概念として指揮者となった人間を最優先で守るようすり込まれている。奇械にとっては当然の行動だ。
「っ……!」
雑務用の奇械と自律兵器では性能に天と地ほども差がある。
だが、好機だ。
こみ上げてくる衝動をムジカは足に込め全速力でその場を離れた。すぐ先にあった分岐をめちゃくちゃに曲がりながら、自動拳銃を取り出す。
感傷に浸っている場合じゃない。
生きろ、生きろ、走れ!!
いくらもせず、通路に金属が切り裂かれる耳障りな音が響き、ムジカは奥歯をかみしめた。時間は稼げた、それでも圧倒的に足りない。
いつの間にか、自生するエーテル結晶が少ない区域に入っていたが気にする余裕もなかった。
ムジカは暗い中を飛ぶように走りながら思考する。
「獅子型はなんだったか。思い出せ、主要武器は水銀。射程範囲は最大20ヤード。触れたものをばらばらに切り裂く流動金属! ちくしょう、人間相手に使っていい装備じゃねえぞっ」
思考が声に漏れてしまうのは、恐怖を紛らわすためだと自覚していた。
機械仕掛けの四肢が躍動する音が聞こえてくる。自律兵器は総じて耳がいい。どうせ無言でいたって足音をたどって追いかけてこられる。
振り返る暇はない。しかしすでに分岐はなく、隠れる場所も見つからない。
焦燥に身を焦がしながらも、通路の先に冴えた光を見いだしたムジカは、全力でそこへ飛び込んだ。
無造作に使用人型の下半身の車輪を前肢の一撃でなぎ倒したのは、硬質な緑の金属で形を成した獅子だった。頭部から尾てい骨で揺れる尾まで、錬成された金属で構築されたそれをムジカは知っていた。
獅子型の頭部に収まる眼球型の視覚センサは緑色。にもかかわらず、ムジカに無機質な敵意を向けている。
つまり、ムジカが歌う前に指揮者が登録されている機体だった。
当たり前だ、たとえ橙色だろうとこいつにムジカの声は届かない。
即座に身を翻したムジカは、無駄だとわかっていても恐怖を紛らわせるために叫んだ。
「自律兵器まで現れるなんざ、ツイてないなんてもんじゃないだろ!?」
それは黄金期の大戦を制した、戦うためだけに作られた奇械、自律兵器だった。
作り物の体でありながら自立思考を有し破壊に特化したそれは、たった一機で街を一つ壊滅させると評判だ。
各国では発掘競争が巻き起こっているらしいし公認探掘隊の目的もそれらしいが、今のムジカには関係ない。
自律兵器にはムジカの声は届かない。当たり前だ、奇械への干渉もごく一時的なものなのだ。
そもそもムジカ自身にも、自分がなぜ奇械へ干渉できるかわかっていない。
奇械よりも高度に保護術式が編み込まれている自律兵器なのだから、干渉できないのも当然と言えた。
だからこそ見つかったら最後、逃げ切れないことも知っていた。
逃げ出しながらも覚悟していたムジカだが、自律兵器はすぐに追ってこない。
高圧洗浄機の噴射される音。
振り返ったムジカは目をむいた。
「使用人型!?」
立ちふさがっていたのは、ムジカが一時的に指揮者登録をした使用人型の奇械だった。獅子型に比べれば頼りない少女の姿をまねた奇械は、しかし一歩も引かず高圧洗浄機を構えていた。
確かに、奇械には基礎概念として指揮者となった人間を最優先で守るようすり込まれている。奇械にとっては当然の行動だ。
「っ……!」
雑務用の奇械と自律兵器では性能に天と地ほども差がある。
だが、好機だ。
こみ上げてくる衝動をムジカは足に込め全速力でその場を離れた。すぐ先にあった分岐をめちゃくちゃに曲がりながら、自動拳銃を取り出す。
感傷に浸っている場合じゃない。
生きろ、生きろ、走れ!!
いくらもせず、通路に金属が切り裂かれる耳障りな音が響き、ムジカは奥歯をかみしめた。時間は稼げた、それでも圧倒的に足りない。
いつの間にか、自生するエーテル結晶が少ない区域に入っていたが気にする余裕もなかった。
ムジカは暗い中を飛ぶように走りながら思考する。
「獅子型はなんだったか。思い出せ、主要武器は水銀。射程範囲は最大20ヤード。触れたものをばらばらに切り裂く流動金属! ちくしょう、人間相手に使っていい装備じゃねえぞっ」
思考が声に漏れてしまうのは、恐怖を紛らわすためだと自覚していた。
機械仕掛けの四肢が躍動する音が聞こえてくる。自律兵器は総じて耳がいい。どうせ無言でいたって足音をたどって追いかけてこられる。
振り返る暇はない。しかしすでに分岐はなく、隠れる場所も見つからない。
焦燥に身を焦がしながらも、通路の先に冴えた光を見いだしたムジカは、全力でそこへ飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ゾンビのプロ セイヴィングロード
石井アドリー
SF
東京で営業職に三年勤め、youtuberとしても活動していた『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。
その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。
梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。
信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。
「俺はゾンビのプロだ」
自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はロックミュージックを流し、アクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。
知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。
その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。
数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。
ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる