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第二十二話
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「現役大学生すげぇ、さすが」
「それほどでもないよ」
こちらの世界では子供の頃お世話になっていたらしい近所のお兄ちゃん、佐藤巧ことたくちゃんの家に押し掛けた亮太は、あれほど悩んでいた現国の宿題がみるみる片付いていく様に舌を巻いた。
賢そうだと思っていたけど本当にそうなんだな。
巧の横顔をじっと見つめると、
「ん? 」
柔和な笑顔と主に返され思わず視線をそらす。
巧は初めて出会った時と変わらず勉強中も始終穏やかで優しく教えてくれる。
「じゃあ、あとこれで最後だね。・・・読解問題か」
のんびりとしたテンポと深みのある声で教科書をぱらぱらとめくった。
見た目はハウンド系美青年だが性質はゴールデンレトリバーだな。
同時に、「佐藤巧」は見たままの人だな、と亮太は思った。
部屋に入った瞬間から人柄はなんとなくわかった。物は多いがきちんと片付けられた清潔な部屋。あたたかみが感じられるのは、本棚やベッドサイドテーブルなどに置かれた、おそらく子供の時に両親から贈られた木のおもちゃだったり、旅行先で集めたのか土産でもらったのか様々な外国の置物だったり、良い思い出を感じられる物が多く飾られているからだろう。まだ大学生だから、昔親に買い与えられたであろうなんとなく古臭いデザインの家具を使っているだけで、社会人になり自力で稼げるようになればシンプルでしかしあたたかみのある木目調の家具でそろえ、カーテンやラグなどの部屋のトーンは深いグリーンかブラウン色でそろえ、落ち着いた雰囲気の部屋に住んでいるのだろうと容易に想像できた。
最後の問題の解答を巧からのヒントを元になんとかノートに書き終えると、巧は
「はい。頑張ったご褒美」と机の引き出しから菓子の入った袋を取り出し、その中から一つ選ぶと袋をむいて丸く大きなトリュフらしいチョコをつまみあげた。くれるのかと右手を差し出すと、手首をつかまれ軽く引き寄せられる。
「え」
思わず巧の顔を凝視すると、彼はチョコを高く摘まみ上げたままにっこり笑顔で
「はい、あーん」
とのたまった。
「え、あーんて」
「亮太くん、好きだったよね、これ。はい」
ってどっちが!? チョコか、『あーん』か?
「いや、あの、」
「美味しいよ、これ」
巧の満面の笑顔に断り切れず、おそるおそる口を開くと巧はそっとチョコを亮太の下唇にのせる。瞬時に口を閉じ、かむと中で広がる濃厚な味に思わず
「うまっ」と声を上げれば、そんな亮太を見つめながら巧は自分の親指と人差し指についたチョコをゆっくりとなめとり
「うん、美味しい」と笑いかける。
亮太はみるみる顔面に血が昇るのが分かった。
うわ恥ずかしい!どういうリアクションしたらいいんだよこれ!!
「もう1個欲しい? 」
「えっ・・・、あ、うん、だけど、ふ、ふつうに」
巧は亮太の様子に噴き出しながら、わかった、と包装されたままのチョコを一つ手渡した。慌てて食べている彼を眺め、少しして
「__何かあった?」
と静かに優しく尋ねる。
「え」
「宿題聞きに来るなんて珍しいから」
「え」
珍しいのか!?こっちの俺がどうしてたかなんんて知らねぇし。うわあまりにも不自然じゃないか、もうこの手使えないのか?会いたかったからと言って反応見るのも・・・、あざといな。大体自分そんなキャラじゃないし。
「いや、別に、なにも、」
「何か前からよそよそしいんだよなあ」
「や、ほんと、大丈夫なんで」
大丈夫か?と大丈夫だから、の問答を何度か繰り返し、慌てて
「ありがと、じゃあこれで、」と暇を告げた亮太に少し不満顔の巧は
「分かったけど・・・、」
と言って部屋から退出しようと立ち上がった亮太の頭を、右手でぽんと包み優しく何度も撫でる。
「ちょ、子供じゃないって」
照れ笑いしながら逃げようとする亮太の前髪を巧はきれいな長い指ですき、髪の間から見上げた亮太の瞳を真正面から捉えた。
「なにかあったら何でも言って。力になりたい」
「それほどでもないよ」
こちらの世界では子供の頃お世話になっていたらしい近所のお兄ちゃん、佐藤巧ことたくちゃんの家に押し掛けた亮太は、あれほど悩んでいた現国の宿題がみるみる片付いていく様に舌を巻いた。
賢そうだと思っていたけど本当にそうなんだな。
巧の横顔をじっと見つめると、
「ん? 」
柔和な笑顔と主に返され思わず視線をそらす。
巧は初めて出会った時と変わらず勉強中も始終穏やかで優しく教えてくれる。
「じゃあ、あとこれで最後だね。・・・読解問題か」
のんびりとしたテンポと深みのある声で教科書をぱらぱらとめくった。
見た目はハウンド系美青年だが性質はゴールデンレトリバーだな。
同時に、「佐藤巧」は見たままの人だな、と亮太は思った。
部屋に入った瞬間から人柄はなんとなくわかった。物は多いがきちんと片付けられた清潔な部屋。あたたかみが感じられるのは、本棚やベッドサイドテーブルなどに置かれた、おそらく子供の時に両親から贈られた木のおもちゃだったり、旅行先で集めたのか土産でもらったのか様々な外国の置物だったり、良い思い出を感じられる物が多く飾られているからだろう。まだ大学生だから、昔親に買い与えられたであろうなんとなく古臭いデザインの家具を使っているだけで、社会人になり自力で稼げるようになればシンプルでしかしあたたかみのある木目調の家具でそろえ、カーテンやラグなどの部屋のトーンは深いグリーンかブラウン色でそろえ、落ち着いた雰囲気の部屋に住んでいるのだろうと容易に想像できた。
最後の問題の解答を巧からのヒントを元になんとかノートに書き終えると、巧は
「はい。頑張ったご褒美」と机の引き出しから菓子の入った袋を取り出し、その中から一つ選ぶと袋をむいて丸く大きなトリュフらしいチョコをつまみあげた。くれるのかと右手を差し出すと、手首をつかまれ軽く引き寄せられる。
「え」
思わず巧の顔を凝視すると、彼はチョコを高く摘まみ上げたままにっこり笑顔で
「はい、あーん」
とのたまった。
「え、あーんて」
「亮太くん、好きだったよね、これ。はい」
ってどっちが!? チョコか、『あーん』か?
「いや、あの、」
「美味しいよ、これ」
巧の満面の笑顔に断り切れず、おそるおそる口を開くと巧はそっとチョコを亮太の下唇にのせる。瞬時に口を閉じ、かむと中で広がる濃厚な味に思わず
「うまっ」と声を上げれば、そんな亮太を見つめながら巧は自分の親指と人差し指についたチョコをゆっくりとなめとり
「うん、美味しい」と笑いかける。
亮太はみるみる顔面に血が昇るのが分かった。
うわ恥ずかしい!どういうリアクションしたらいいんだよこれ!!
「もう1個欲しい? 」
「えっ・・・、あ、うん、だけど、ふ、ふつうに」
巧は亮太の様子に噴き出しながら、わかった、と包装されたままのチョコを一つ手渡した。慌てて食べている彼を眺め、少しして
「__何かあった?」
と静かに優しく尋ねる。
「え」
「宿題聞きに来るなんて珍しいから」
「え」
珍しいのか!?こっちの俺がどうしてたかなんんて知らねぇし。うわあまりにも不自然じゃないか、もうこの手使えないのか?会いたかったからと言って反応見るのも・・・、あざといな。大体自分そんなキャラじゃないし。
「いや、別に、なにも、」
「何か前からよそよそしいんだよなあ」
「や、ほんと、大丈夫なんで」
大丈夫か?と大丈夫だから、の問答を何度か繰り返し、慌てて
「ありがと、じゃあこれで、」と暇を告げた亮太に少し不満顔の巧は
「分かったけど・・・、」
と言って部屋から退出しようと立ち上がった亮太の頭を、右手でぽんと包み優しく何度も撫でる。
「ちょ、子供じゃないって」
照れ笑いしながら逃げようとする亮太の前髪を巧はきれいな長い指ですき、髪の間から見上げた亮太の瞳を真正面から捉えた。
「なにかあったら何でも言って。力になりたい」
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